魔女の祭り
国境地帯の騒動が落ち着いてから、数日が経ち。
魔法学校に帰ったフェリスたちは、いつも通りの平和な日々を過ごしていた。
朝のホームルーム前の教室で、フェリスは机に腕を乗せてうつらうつらとする。部族同士が血で血を洗う争いをしていた世界と、優しいクラスメイトばかりの教室は、まるで別世界のようだ。
そんなフェリスを眺めてジャネットが笑みを漏らす。
「あら、フェリスったらおねむですのね」
「ふぁい……なんか、ねむねむです……」
フェリスは小っちゃな手の甲でぐしぐしとまぶたを擦る。もうすぐ授業が始まるから目を覚まさなきゃダメだと思うのだけれど、睡魔が強すぎて勝ち目がない。
「まあ、かなり大変な旅だったものね。きちんとしたベッドはなかったし、あちこち歩き回らないといけなかったし」
だが、フェリスのお陰でロバートは無事に帰還し、全面戦争は未然に食い止められた。いくら感謝してもし足りないと思うアリシアである。
「みんなおっはよー! ホームルームを始めまーす!」
元気に騒ぐ生徒たちよりもっと元気な勢いで、ロッテ先生が教室に入ってきた。生徒たちは口々にロッテ先生に挨拶しながら、自分の席に飛び去っていく。
ロッテ先生は教壇に跳び乗ると、教卓に手を突いて高らかに告げた。
「さーて、みんなもお待ちかね! そろそろヴァルプルギスの夜だね! 今年のヴァルプルギスの夜は、四十四年に一度の大ヴァルプルギス! 世界中の名だたる魔女たちが賓客として来るから、気合い入れていくよ!」
「う゛ぁるぷるぎす……?」
フェリスはきょとんと首を傾げた。
アリシアが教える。
「魔法学校のお祭りよ。その日は生徒が出店をやったり、演劇やマジックショーをしたり、勉強の成果を発表したりするの。魔法学校の卒業生や家族が大勢遊びに来るし、王家からも視察にいらっしゃるのよ」
ジャネットが胸の前で両手を握り締め、夢中になってまくし立てる。
「しかも大ヴァルプルギスということは、閃光の魔女スレイア様も、轟風の魔女ダラム様も、沈黙の魔女アーシク様もいらっしゃるのですわ! 伝説をこの目で見るチャンス! きっとお近づきになればあの方々の秘術を教えてもらうことだって!」
「……ジャネットって、結構有名人が好きよね」
アリシアから生暖かい目で見られ、ジャネットははっと我に返る。
「あっ、も、もちろん、一番お近づきになりたいのはフェリスですわ! フェリスこそ世界最高の魔女ですわ!! 魔女じゃなくてもお近づきになりたいですわーっ!」
「ふえ!? あ、ありがとうございますーっ!?」
突進してくるジャネットにびっくりして、フェリスは机の下に隠れる。なにがなんだかよく分からないがちょっと怖かった。そしてジャネットはあんまり我に返っていなかった。
ロッテ先生が笑いながら手を叩く。
「はいはーい、暴走はそこまで! うちのクラスでも出し物をやるから、なにをしたいか考えておいてね。友達同士で話し合ったり、票集めしておくのもアリ! せっかくの大ヴァルプルギスなんだから、悔いの無い夜にしないとねっ!」
その言葉に、生徒たちがざわつく。
フェリスも目をきらきらさせ、期待に胸を高鳴らせる。
「出し物って、なんでもしていいんでしょうか!? なにしましょー!?」
「フェリスの可愛さが引き立つ衣装がいいですわ! ラインツリッヒ御用達の職人に作らせますわ!」
「衣装の前になにをするかを決めないといけないと思うわ……」
少女たちは色めき立つが。
「そうそう。フェリスちゃんとアリシアちゃんとジャネットちゃんは、はしゃいでる場合じゃないからねー? まずはテストが待ってるんだよー?」
「てすと……?」
フェリスは警戒してもっと机の奥深くに隠れた。




