火種
バルフが指笛を吹くと、ガデル族の戦士たちが群れを成して大広間に走り込んでくる。
床に横たわる死屍累々の有様を見るや、驚愕して目を見張る。
「バルフ様!? これは!?」「いったいなにがあったのですか!?」
バルフは『探求者たち』の術師を睨み据えて告げる。
「そこのローブ野郎がやった。俺たちを裏切ったんだ」
「なんと!?」
武具を構える戦士たち。
術師は鼻に皺を寄せた。
「おや、魔導具のトーテムに乗っ取られていない者がこんなにいるとは」
「一つの可能性にすべてを賭けるような馬鹿なこと、長がやるわけにはいかないんでな」
「まあ、よろしいでしょう。ならば我が手で屠ってさしあげるだけのこと」
「行くぞ、お前ら! ローブ野郎を細切れにしろ!!」
バルフの号令と共に、ガデル族の戦士たちが術師に突進した。
術師が杖を振りかざして魔術の炎を放ち、戦士たちが次々と業火に包まれていく。
炎を回避した戦士が飛びかかるが、術師の姿が掻き消え、床に戦士の槍が突き刺さる。瞬時に戦士の背後に術師が現れ、手の平を戦士の背に添えて魔術の氷柱を放つ。
禍々しい詠唱と、猛々しい刃の鳴る音が、大広間を満たしていた。
近接戦闘には不向きな魔法学校の生徒たち――ジャネット、フェリス、アリシアは、大慌てで物陰に退避する。
「完全に仲間割れですわ!?」
「え、えとえと、どかーんってしたらいいんでしょうか!?」
「ガデル族まで吹き飛ばしたら駄目よ!?」
学校で戦闘訓練は受けているし、何度も魔導生物との戦いは経験している。
だが、他の武装集団との共闘、しかも乱戦とあっては、勝手が分からず困惑する他ない。
フェリスたちはガデル族に被害が及ばないよう援護するが、なにも守るモノのない『探求者たち』の術師は縦横無尽、鬼神のごとく戦場を舞い踊り、次から次へとガデル族の戦士を血祭りに上げていく。
たちまち、大広間に立っているのは術師とバルフ、そして少女たちだけとなってしまう。ガデル族の戦士は、うめきながら地に伏している。
「な、なんで、こんなことするんですか……? ガデル族の人たちとはお友達だったんじゃないんですか……?」
フェリスが信じられない思いで震えていると、術師はニタリと笑った。
「そうだ、その通りだよ、小さな魔導師ちゃん。だがね、我々には火種が必要なのだ」
「火種……?」
アリシアが眉を寄せた。
術師は空中に浮き上がるや脚を組み、道化師のように大仰に両手を挙げる。
「ここで謎かけだ。もし今、長を含めてガデル族の部隊が虐殺され、それがナヴィラ族の仕業だという情報が流れたら……どうなる?」
「貴様……まさか!?」
バルフが歯を剥き出しにした。
「え、ど、どうなるんですの……?」
「大変なことになります!」
「ガデル族とナヴィラ族の紛争が激化……それぞれのバックにつくバステナ王国とプロクス王国軍が出てくる……かしら?」
アリシアが推測すると、術師は手を叩く。
「ご名答! 愉しい愉しい、戦争の始まりだ。今回はどれだけの人間が死ぬだろうか……くく……くくくくく……!」
「ぜんっぜん、楽しくありませんわ!」
「そうです! そんなの許さないですっ!!」
バルフ、ジャネット、アリシアが武具を構え直し、フェリスが手の平を突き出す。
「全員で一人をいじめるとは、酷い連中だ……では、お前たちの相手は、彼にしてもらおう」
術師が杖を振り上げると、大広間の中央に瘴気の塊が出現し、中から一人の男が進み出た。
「え…………」
その男の顔に、フェリスが怯む。
それは、バステナ王国軍の装備に身を包んだ魔術師だった。瞳は虚ろ、全身に奇妙な紋様が浮かび上がり、明らかに尋常な様子ではないが。
「おとう……さま……?」
アリシアは呆然とつぶやいた。




