贄
バルフがフェリスたち少女を先導し、いったん採取場の建物から離れる。探求者たちに姿を見られないよう、召喚獣の二体は消えていた。
大きな岩陰に隠された地下通路を抜けて、バルフは裏口からフェリスたちを採取場に招き入れる。中に控えていたガデル族の部隊は、フェリスたちを見て怪訝そうな顔をする。
「バルフ様……その子供たちは?」
「我らの賓客だ」
「バステナの民に見えますが……」
「いいから、従え。これより、フェリス様の命令は俺の命令にも優先するものと考えろ」
「は、はぁ……」
戦士たちはきょとんとするが、長であるバルフに逆らうわけにはいかない。不思議に思いながらもフェリスたちの周囲を固め、手厚く守護する。ここまで対応が激変すると、フェリスも落ち着かない。
「ロバートさん、どこに捕まってるんでしょう……」
バルフはうやうやしく答える。
「探求者たちが掻き集めた贄を集めているのは、儀式の間です。フェリス様が探している奴がいるかは分かりませんが……」
「贄……? なんのために集めているのかしら?」
アリシアが首をひねった。
「魔力を抽出するため、だそうです。門を開くには膨大な魔力がいるとか、それが女王様に到達する唯一の手段だとか」
バルフの説明に、ジャネットが目を見張る。
「女王って、フェリスのことですわよね……? 探求者たちの目的はフェリスのところに来ることなんですの!?」
「ふええええ!? き、来てほしくないですーっ!」
フェリスは跳び上がった。
やがて一行は、大きな広間へと出た。
魔法学校の講堂の何倍もある、吹き抜けの空間。円形の床に巨大な魔法陣が描かれ、魔術の炎が揺らめいている。
円の外縁には牢が並び、何百という人間、獣、魔物、不定形の異形の数々が封じ込められ、足や手を柵に縛り付けられていた。
牢の床からは血の色の線が伸び、囚人の魔力を魔法陣へと吸い上げている。
アリシアは呆然と立ち尽くした。
「これは……犠牲魔術……。お父様はどこに!?」
「俺たちも捜します。みんな、バステナの魔術師団長を見つけろ!」
バルフが命じ、ガデル族の戦士たちが駆け出したとき。
「おやおや……裏切りとは……。まぁ、遅いか早いかの違いかな?」
陰鬱な声が響き、ガデル族の戦士たちの肉体に奇妙な紋様が浮き出した。
戦士たちは獣の姿に変貌しながら苦悶のうなり声を漏らし、自らの体を引き裂き、やがて倒れ込む。
「な、なんだ!?」
驚くバルフの前に、ローブの魔術師が舞い降りた。
探求者たち。アリシアやジャネットを魔法陣に誘って呑み込もうとした、悪辣な術師。
バルフは術師を睨み据える。
「てめえが……やったのか……」
「いかにも。あなたたちに与えた魔導具、あれはトーテムの加護を与えるだけではなく、あなたたちを我らの奴隷にする術式も組み込まれているのです。いずれ殺そうとは思っていましたが、まぁ、これも定めというものでしょう」
「俺たちは同盟者じゃなかったのか」
「くく……ふふふふ……もちろん、同盟者ですとも。ですから、最後まで我々の役に立ってくださいな!」
術師は両手に握った杖を振り上げた。




