斧と杖
バルフの巨躯が宙を踊り、その豪腕がしなって、斧をフェリスへと叩きつけてくる。
「ダメですわーっ!」
「フェリスっ!!」
ジャネットとアリシアは反射的にフェリスを抱き締めて飛び退く。
だが、凶暴な斧から放たれる爆風がジャネットとアリシアを吹き飛ばし、その柔肌に裂傷を刻む。二人は地面を転がって身を裂かれながらも、必死にフェリスをかばって離さない。
「ア、アリシアさん……ジャネットさん……」
自分を守るために傷ついた二人の姿、白い肌から流れる血を目にし、フェリスは震えた。
「……怪我はない?」
「は、はい……わたしは……」
激痛に顔を歪めながらも気遣ってくれるアリシアに、胸が締めつけられるのを感じる。
バルフが斧を真っ直ぐに少女たちへ向けた。
「これは、真実の女王の裁きだ。女王への反逆者は、世界から殲滅しなければならん」
「ゆるさ……ないです……」
フェリスが小さくつぶやいた。
「はぁ?」
バルフは尊大な眼でフェリスを見下ろす。
「女王さまは、偉いのかもしれないです、けど……こんなひどいことする権利は、ないと思います……アリシアさんのお父さんをさらったり、みんなを傷つけたり……ゆるさないです……」
「冒涜だ! 女王への冒涜だ! バステナの愚民の子供ごときが、女王の意思を批判するなんぞ!」
「知らないです、そんなこと! わたし、許さないですから――――――っ!!」
突撃してくるバルフに、フェリスが両手を突き出した。
その小さな手の平から、巨大な魔力の塊が撃ち出され、バルフの体を吹き飛ばす。
「かはっ……!?」
バルフは宙を木っ端のように飛びながら、鍛え抜かれた肉体で体勢を整え直し、弓の弦を引き絞る。
けれど、その毛むくじゃらの手が矢を放つことはない。
「頑迷なる宮殿よ、いと深き不動の大地よ、その勲を振りかざし、かの者を呑み込みたまえ――コモラ・プルガドール!!」
フェリスの高速詠唱が、地面に鮮紅の魔法陣を描き出し、岩盤が突き出してバルフの体に叩きつける。
「ぐっ……」
バルフは斧を振り下ろして岩盤を打ち砕くが、岩は次から次へと襲いかかり、彼の体を包み込んでいく。ぎゅうぎゅうと圧搾し、押し潰していく。
甲高い金属音と共に、斧がへし折られた。
バルフの口から血が垂れ、その体が地面にくずおれる。
フェリスが手を下ろすと、バルフを覆っていた岩が消えていく。
「はあっ……はあっ……」
フェリスは目に涙を滲ませ、肩で息をしながらバルフに歩み寄った。
「て……めえ……ナニモンだ……」
地に這いつくばったバルフは、信じられない思いでフェリスを見上げる。
すると、フェリスの左右に、二体の召喚獣が姿を現した。地獄の業火レヴィヤタン、妖艶な美女エウリュアレ。
「おやおや、何者かと問いますか……人間風情の哀れな下僕には、まともな目もついていないものと見える」
レヴィヤタンは愉しそうに笑うが、その表情には壮絶な敵意が漂っている。
「女王様、コレは殺してしまいましょう。かような冒涜者、生かす意味はございません」
エウリュアレが、鋭い爪の先をバルフの額へと伸ばす。
バルフは目を見張った。頑強な戦士の肉体が、畏怖に震え出す。
「ま、まさか……その強大な魔導、その召喚獣……お前は……いや、貴女様は……」




