認識
「み、皆さん? なにしてるんですか?」
ロバートを追いかけて洞窟に迷い込んだフェリスは、目の前の光景に困惑した。
魔法陣の中央には、怪しげな魔術師。
ミランダ隊長が倒れていて、アリシアとジャネットが魔法陣に吸い寄せられている。
魔術師はフェリスを見て、にたりと気持ちの悪い笑みを浮かべた。
「もう一つ、素材が届いたか。さあ、こっちへ来い」
手招きされるが、フェリスは首を振る。
「ヤです! なんか怖いです!」
その場に足を踏ん張ったまま、動こうとしない。
「……む? なぜだ? 幻惑魔術が効かなかったか? ならば、強度を上げてもう一度……来い!」
魔術師の杖から、文字列が明確な形と色を持った帯となって放たれた。
暗示の結晶、命令の力がフェリスに叩きつけられるが、即座に文字列は弾き返される。
「我々の術が……効かない……? そんな馬鹿な……相手はただの子供だというのに……」
当惑する魔術師。
「さ、さすがフェリスですわ」
冷や汗を浮かべながらも頼もしく感じるジャネット。
「気をつけて。さっきのお父様は幻よ。騙されないで」
アリシアは魔法陣の呪縛から抜け出そうとするが、一歩も動くことができない。
魔術師は肩をすくめた。
「まあいい。面倒だ、すべて呑み込んで吸い尽くしてやろう!」
杖で魔法陣を突くと、地面が激動を始めた。
中央が陥没し、そこへ吸い込まれるようにして魔法陣が収束していく。
魔法陣に絡め取られているアリシアとジャネット、ミランダも、凄まじい速度で呑まれていく。
悲鳴を上げるアリシアとジャネット。
「連れてっちゃダメですううううううっ!!」
フェリスは思わず地面の魔法陣を掴もうとした。
その手が触れた途端、魔法陣が大爆発を起こす。
吹き飛ばされる少女たち、壁に叩きつけられる魔術師。
粉塵がもうもうと吹き上げる中、魔術師は呆然と目を見開く。
「な、なんだ、今のは!? 我らの魔法陣を無効化した!?」
「逃げましょうっ!」
「そうはさせん!」
魔術師の杖から、暗黒の吹雪が襲いかかる。
フェリスは手を突き出し、現れた障壁で吹雪を弾き返す。
魔術師は高速詠唱で紅蓮の炎を生み出し、業火が吹き寄せてくるが、その業火もフェリスの障壁で弾かれる。
「今のうちです!」
「ジャネット、ミランダさんを一緒に運んで!」
「重いですわー!!」
「す、すみません……」
少女たちはお互いに手を貸し合いながら駆け出す。
薄暗い洞窟を走り、死に物狂いで外へと飛び出す。
安全なところまで撤退すると、物陰に座り込んで息を整えた。
「フェリス……ありがとうございます。また助けられてしまいました」
深々と頭を下げるミランダ隊長。
「い、いえっ! なんか間に合ってよかったです!」
「やっぱりフェリスはすごいですわ! ね、アリシア?」
「え、ええ……」
アリシアはうなずくが、その表情は冴えない。
知られてしまった。フェリスの存在と能力を。しかも、恐らくは最も知られてはいけない組織に。
そう考えると、素直に喜べない。自分たちの命が救われたのと引き換えに、今度はフェリスが狙われるのではないかと思ってしまうのだ。
そして、アリシアの予想は当たっていた。
少女たちの逃げ去った後、洞窟の奥底に秘められた魔法陣の部屋では。
「なるほど……そうか……。我らの目的をことごとく妨げてきたのは、あの娘……。黒雨の魔女を懐柔したのは、あの娘……。これは……面白いモノを見つけたぞ……くく……くくくくくくくく!!」
『探求者たち』の術師が、愉しくてたまらないといったふうに笑っていた。




