儀式
一方、アリシア、ジャネット、ミランダ隊長の三人も、フェリスとは違う方向へ全力で走っていた。
彼女たちの前方には、やはりロバートの姿。憔悴しきった様子で、谷間の隘路を進んでいる。
「お父様! お父様!?」
アリシアは何度も転びそうになりながらも、懸命にロバートを追いかける。実の娘の呼び声に、なぜかロバートは少しも応えようとしない。
「ちょ、ちょっと!? フェリスがいませんわ! いつの間にかいなくなっていますわ!」
「え!?」
急停止するアリシア。
去っていくロバートと、自分たちが走ってきた方向を見比べ、対処に困る。フェリスを置き去りにするわけにはいかないが、ロバートを見失うわけにもいかない。
「仕方ありません、フェリスは私が捜してきます! お嬢様たちはロバート閣下を追ってください!」
「でも……」
アリシアはためらう。
「大丈夫です! 私が責任を持って見つけますから! 無茶だけはしないでくださいね!」
ミランダ隊長は道を駆け戻っていく。
ジャネットはミランダ隊長と一緒にフェリスを迎えに行きたい衝動に駆られるが、そうもいかない。
アリシアは年の割にしっかりしているとはいえ、孤立させるのは危ない。特に今は、たった一人の家族に取り残されて冷静さを失っているのだ。このライバルの暴走に歯止めをかけられるのは自分しかいない。
ジャネットは己に必死に言い聞かせ、アリシアの隣に踏み留まる。魔術師団の調査部隊隊長なら、魔法学校の生徒よりよほど頼りになるし、必ずフェリスを保護してきてくれるはずだ。
アリシアとジャネットはロバートを追って谷間の奥へ奥へと進み、いつしか洞窟へと入り込んでいた。
照明魔術の灯りを頼りに、洞窟を潜っていく。
やがて、広々とした空洞に出た。
壁際に魔術の炎が赤々と燃えており、地面には大きな魔法陣。
魔法陣の中心に、ロバートがぼんやりと立っている。その瞳に生気はなく、顔は恐ろしいほど青ざめている。
「……お父様? なにをしているの? 帰りましょう……?」
アリシアはおずおずと話しかけた。
だが、ロバートは大仰に両腕をのけぞらせるや、高笑いを響かせる。
「くく……ふふふふふ……。これほど良質な魔力の錬成素材がいくつも自分から来てくれるとは……。我々は良い餌を引き当てたようだ……」
「え、餌……? どういうこと!?」
ロバートに近づこうとするアリシアの手を、ジャネットが急いで掴んだ。
「ダメですわ、アリシア! なにかおかしいですわ!」
「ああ、おかしいとも。しかし、今気付くようでは遅すぎる。なあ、そう思わないか?」
ロバートの体が、どろどろと溶けていく。
魔術師団長の制服も溶け、杖も溶け、入れ替わり、陰気なフードを目深に被ったローブの姿となり。
そこには、ロバートとは似ても似つかない男が立っていた。いや、顔が隠れているから男かどうかも分からない。
「その格好……見覚えがありますわ。わたくしを誘拐した魔術師も、確かそんな服を着ていた……」
ジャネットは後じさる。
「もしかして……『探求者たち』? お父様のふりをして、私たちをおびき寄せたの!?」
アリシアは杖を握り締める。
「さあ……こっちへおいで、二人とも。その新鮮な魔力、最後の一滴に至るまで搾り取ってあげるから……」
『探求者たち』の術師が手招きすると、アリシアとジャネットの足が操られ、魔法陣へと引き寄せられていく。どんなに意思の力で抗おうとしても、不可視の鎖に繋がれているようで抵抗できない。
術師の足元に、ミランダ隊長が倒れているのが見えた。魔法陣から伸びた光の触手が、ミランダ隊長の四肢からちゅうちゅうと魔力を吸っている。彼女の肌は恐ろしい速度でしなびていっている。
ジャネットの足が、魔法陣を踏んだ。
禍々しい光がジャネットの足を這い上がってくる。
「もう……ダメ、ですわ……」
ジャネットはぎゅっと目をつぶった。
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