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剣聖の弟子  作者: 二階堂風都
第八章 獣人国再興
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老将と情報部員

 その後の軍事会議は何事もなく終わりを告げた。

 結果として私達はカノープス将軍の部隊に組み込まれることになった。

 穏当な落としどころと言うべきか、取り敢えずは他の二将軍の麾下にされなくて良かった所。

 残りの話は兵力の割り振りや砦攻略時の配置、大枠の攻撃方針などが話し合われた。

 主に話しているのはライオルさんとカノープス将軍で、他の二将軍は時折同意を示す程度のものだ。

 ガルシアからのお客様である私達は完全に聞き役で、ミディールさんが軍事用語に時折小声で解説をしてくれるのが有り難かった。

 もっとも、最後までカストル将軍とポルックス将軍が私達を見る視線は厳しいものだったが。

 会議が終わり、視線から逃げるように廊下に出るとカノープス将軍が呼び止めた。


「少しお時間よろしいですかな? カティア殿、ミディール殿」


 同意した私達を引き連れ、勝手知ったるといった様子で無人の部屋に招かれる。

 城勤めの長さを窺わせる所作だった。

 入ったのは応接室のような部屋で、対面式の椅子と机がワンセット並んでいる。


「どうぞ、お掛け下され」


 促されてミディールさんと二人、並んで座る。

 それを見届けた老将は意外なほど軽やかな動きでスッと対面に腰掛けた。

 容姿は七十か下手をすると八十歳ほどに見えるのだが、普段から余程鍛えているらしい。


「まずはカストルとポルックス、二人の非礼をお許し下され……誠に申し訳ありませぬ」


 こうして爺さまに近い歳の人間に頭を下げられると非常に居心地が悪い。

 私は慌てて手を横に振った。


「いえいえ、私達は気にしていませんから。ですよね、ミディールさん」


「ええ。こちらとしても援軍を出せず、申し訳ありません。不死身の名将、カノープス殿の御力になれないのは残念でなりません」


「何です、不死身の名将って?」


「昔の私の呼び名ですよ、いやお恥ずかしい。若い頃の話ですから貴女様の年齢で御存知ないのは無理からぬことです」


 人に歴史あり、ってことか。

 目の前の老人の穏やかな様子を見ると想像も出来ないが、それは爺さまやスパイクさんにも言えることだ。

 異名が残るだけの功績を残してきたということなのだろう。

 そう考えると、あのリザードマンの二将が心酔している様子なのも納得だ。


「話は変わりまして……御二人には一個中隊をお任せしたいと考えております」


 中隊……私に出来るだろうか?

 私達の処遇に関してはライオルさんからカノープス将軍に一任された。

 ミディールさんは何とも思っていないようだったが、私はライオルさんの直属でないことに一抹の不安を覚えた。

 しかし、それを見たライオルさんから一言。


「お前なら、何処に居ても何をしていても大丈夫だ。信用してる」


 だそうだ。

 その台詞に私の背中が痒くなったのは言うまでもない。

 ミディールさんが将軍の言葉に返答する。


「妥当でしょうね。それ以上の規模は……カティア殿の指揮官としての能力に係わらず、今回は不適当でしょう」


「どういうことです? 確かに私には部隊指揮の経験がありませんが」


 能力に不安があるという理由ではないらしい。

 だったら何故だ?

 疑問を解消できないでいると、カノープス将軍が首を横に振った。


「そうではないのです。あの二人、カストルとポルックスをご覧になられたでしょう? 我が国では、貴女がお考えになっている以上に人族に嫌悪の情を抱いている者が多いのです」


「あ……」


 正式に獣人国の客将になった以上、もうガルシアの代表として姿を偽ることは許されない。

 そして、人族に風当たりが強いという獣人国の現状。

 確かにこれは大きな逆風だ。 


「つまり、その感情から部隊が機能しない可能性があると……中隊までがリスクを負える限界ということですね」


 老将が微笑んだ。

 ミディールさんに向かって嬉しそうに話す。


「彼女は年齢に見合わない思慮の深さですな……これだけの洞察力がおありなら、安心して兵を預けられます」


「我が国が誇る称号持ちの一角ですから。凡庸な者がなれるほど甘くはありませんとも」


 そして二人で私を持ち上げてくる。

 私の答えは正解だったらしいが、そんなに私の背中を痒くして楽しいか?


(お兄ちゃん)


(何、アカネ?)


(いい加減に慣れて)


(無茶言わないで!)


 前世で自分が他人に褒められた経験なんて、小学生辺りまでしか記憶にない。

 精々が健康優良児で表彰された時くらいのものだ。

 そんな調子なので耐性は皆無である。

 挙動不審になった私を放って二人の会話は続く。


「まあ、それはともかく。中隊規模ということであれば私に一つ策があります」


「ほう?」


 ミディールさんの不敵な発言にカノープス将軍が食いつく。

 そして二人が私に聞こえないように話を始める。

 またこのパターン……。


(ねえアカネ、私のリアクションってそんなに面白い?)


(うーん、面白いかは分かんないけど、素直な反応するから楽しいよね!)


(あ、そうですか……)


 その二つに違いはあるのか?

 そしてニールさんが居ないと私がいじられるんだな、というのを今更ながらに認識した。

 今から彼だけでも獣人国に呼べないだろうか……?

 話が終わったのか、カノープス将軍が軽く頷く。

 それから私の顔をじっと見た。


「フム……確かに造形的には……申し分ありませんな。面白い、好きにやってみて下さい」


「ありがとうございます」


 私の同意なしに何かが成立した。

 一体、今度は何をやらされるんだ?

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