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剣聖の弟子  作者: 二階堂風都
第六章 闘武会
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闘技場へ

 闘武会当日。

 私はフード付きのコートを着せられ、王城のゲート前に立たされていた。

 夏場にこの格好は暑い。

 アカネが憑依していると、熱さにある程度強くはなるが限度がある。


「カティアちゃん大丈夫?」


「フィーナさん。蒸し風呂みたいですよ……姫様達はまだですか?」


「まだみたいね」


 何だってこんなことに。

 今から、姫様とスパイクさんが闘武会の会場である闘技場に移動する。

 その護衛に混じれば正体に気が付かれても手を出されないし混乱も起き辛い、とのことだ。

 それはいい。

 だが、闘武会本戦までなるべく顔を見せるなというのは面倒極まりない。


「んー、確かに大観衆の前でパッと素顔を見せたら盛り上がるだろうけどね」


「これ以上隠す必要あります? ……まあやれと言われればやりますが」


「おっ、意外と乗り気じゃない。何かあったの?」


「まあ、個人的に姫様を応援したくなったといいますか……」


「ほほう、さてはアタシが居ない間に仲良くなったのね。ってアタシは仲間外れか!」


「いや、フィーナさんはここ最近は絵の版元に突撃していたじゃないですか。私の所為じゃないです」


 何でも、大量生産で質が落ちてきた絵の顔料が気に入らないとか何とかで。

 肝心要の赤の発色が悪いとか言っていたっけ。

 その為か何日か城には不在だった。

 不意に、背後のドアが開かれる。


「お二人とも、そろそろっすよ。位置は最後尾で、ライオルさんとルミアさんも同じ位置で移動します」


 普段と違い、かっちりとした軽鎧に身を包んだニールさんが現れた。

 ニールさんの新しい配属先は近衛兵に決まった。

 その時のニールさんは、

 

「いやー、良かったっす近い配置で。……本当に良かったっす、僻地とか他領の補充兵とか国境警備じゃなくって。もし遠方だったらと思うと――」


 と、こんな感じだった。

 実際、外周警備から近衛兵への配置転換なら栄転以外の何ものでもない。

 おめでとう、ニールさん。

 ……ややあってニールさんの前言の通り、多数の足音が聞こえてくる。

 そして、姫様とスパイクさんが正装で現れた。

 姫様は艶のある青いドレスを身にまとっている。

 スパイクさんは貴族服、といったらいいのだろうか。

 胸にフリルがついたよくあるやつだ。

 周りは護衛に多数の兵が囲んでいるが、どうやら徒歩だ。

 邪魔にならないように私達は脇に避ける。


「あれ、馬車……は王都内では使えないんでしたね。かといって輿とかも無しですか?」


「己の足で立って歩け! というのが王家の家訓だそうっす……後は、経費の無駄だから使わないとか何とか」


 うーん、確かに王都の民も偉そうに高い位置から見下ろされるよりは好感を持ちそうだし、いいんじゃないかな。

 アイゼンさんが先頭に立ち、行列がゆっくりと動き出す。

 百人程の規模で、全員武装しているためやや威圧感がある。


「おお、カティア。こっちじゃ」


 ルミアさんの声に振り返ると、ライオルさんと一緒に軽めの武装をして立っていた。

 並ぶと凄い身長差だな、この二人。

 ライオルさんは二メートル近く、ルミアさんは百四十センチ程しかない。

 ルミアさんは七色に輝く宝石が先端に付いた、高級感のある金属杖を持っている。

 ライオルさんはいつものガントレット。


「お前、暑っ苦しい格好だな。何でそんなもん着てるんだ?」


「情報部に言ってくださいよ」


 ライオルさんが私の格好に触れてくるが、私だって早く脱ぎたい。

 行列の最後尾を五人……


(わたしを忘れないでね!)


 もとい、憑依状態のアカネも入れて六人で歩く。

 大きな城門を抜け、跳ね橋を渡るとやがて城下町が見えてくる。


「リリ様!」


「姫様ー!」


 活気に満ち溢れた人々の顔。

 石畳で綺麗に整備された町並みが目の前に広がっている。

 姫様を一目見ようと、沿道には沢山の民衆が詰めかけていた。


「カティア、あまり視線をあちこちに飛ばすとバレるのじゃ。少し落ち着くといい」


 ルミアさんがたしなめるが、きちんと城下町を見るのは初めてだ。

 城の中から見るのとではやはり違う。

 どうしても興味が向いてしまう。


「カティアちゃん、お上りさんだもんね。アタシも最初に来た時は家やら店やらがびっしり建ってて驚いたっけ。後、人の数」


 お上りさんというのは適格な表現だ。

 ラザ領の山奥から出てきたのだから。

 サイラスやキセ以上に、どこまでも町並みが遠くまで広がっている。

 流石は首都といったところだろうか。

 フィーナさんの言う通り、露店や店が通りに沿って所狭しと並んでいる。


「リリ姫様ー!」


 しかし姫様の人気たるや。

 時々スパイクさんを呼ぶ年配の方も居るのだが、若い人達のエネルギーには勝てない。

 民衆の注目を一身に浴びているのはどうやら姫様だ。

 無表情で愛想のない顔で時折手を振っているのだが、振られた男性はだらしない顔を、女性は幸せそうな顔をしている。


「凄いですね、姫様。これなら私が堂々と後ろからついて行っても余り騒がれなかったのでは?」


 刺身についてるつまみたいなもんでしょ。

 と、思っていたら一斉に胡乱な目で見られた。


「……全くお主は。自分の容姿が如何に目立つかきちんと自覚せい」


「戦いの基本は彼我の戦力計算からだろ。自分の能力を見誤ってどうするよ。容姿だって似たようなもんだろ?」


「カティアちゃんないわー。自己分析もだけどアタシの絵の影響力を舐めてるでしょ?」


「あの、すみませんカティアさん。さすがにフォロー出来ないっす」

 

(お兄ちゃん、真っ赤な髪の人、わたしたち以外に居ないよー?)


 まさかの全員から駄目出しを受けた。

 いやでも姫様のこの人気を見たらさあ。

 あと、暑いんですよこの格好。


「ライオル―! 最近負けたってホントかー?」


「うっせえよ! 次は勝つ!」


 そして今度はライオルさんが見知らぬ人から野次られてる。

 称号持ちも有名人だから、割と声を掛けられているな。


「ルミアちゃん、娘になって!」


「ルミアちゃん、妹になって!」


「お主等、儂をいくつだと思うておるんじゃ!? ちゅうか、どうして何年経っても似たような輩ばかり湧いてくるんじゃ!」


 ルミアさんは……うん。

 マスコット扱いかな、これは。

 かわいいからね、仕方ないね。




 闘技場は石造りで楕円形のすり鉢状、前世のスタジアムかそれ以上の大きさがある。

 最大収容人数は八万人、横幅は三百メートルほどあるそうだ。

 白い石材を多く使っており、その壁が長く続く光景は中々に圧巻だ。

 姫様達が先に中に入っていき、私達はお互いが大会中にどこに居るのかを確認しつつ、移動を始めようとしていた。


「ではな、カティア。儂らは主催者席の近くに居るからのう」


「折角だし、退屈しない試合を頼むぜ」


「アタシも居ていいって言われたから同じ場所ね。カティアちゃん、また後でね」


「自分はその付近で警備してるっす。カティアさん、頑張ってください」


 皆、主催者席の近くで固まって見るらしい。

 既に会場は混み合っているため、私以外の面子は席に向かって歩いていく。

 姫様達は専用通路を通って既に主催者席に座っている頃だろう。

 ……選手の待機場所に向かう。

 待機場所は客室の真下にあたる空間にあり、太い柱が何本も建ち、開けた造りになっている。

 石造りで低い位置にあるので非常に涼しい。

 今の私にとってはありがたいことだ。

 既に体を暖め始めている者もいれば、座って精神集中している者もいる。


「出場登録をまだ済ませていない選手の方はお急ぎ下さい! 間も無く締め切りです!」


 大会の運営職員が、大声で呼び掛けている。


(お兄ちゃんはしなくていいんだっけ?)


(うん、情報部がやっといてくれた)


 登録番号も……あった、これだ。

 二つ折りの紙の中には登録番号が書いてある。

 これを元に予選が組まれるらしいんだけど――うわ。


(どうしたの?)


(いや、番号がね)


(? えーと、666番……お兄ちゃん、悪魔さんなの?)


(人間止めた覚えはないんだけど……)

 

 ちょっと不吉なような。

 しかし、確かこの世界では特に意味のない数字だった筈だから気にする事もないか。


「選手登録を締め切ります! 選手の方以外は客席に移動するか退出をお願いします!」


 職員が登録締め切りを告げる。

 ようやく闘武会の予選が始まりそうだ。

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