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剣聖の弟子  作者: 二階堂風都
第五章 王都ガルシア
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銀の姫巫女

 キョウカさんが去り、今は応接室のような場所で待たされている。

 途中で二人ほどメイドさんが来てお茶を淹れていった。

 座り心地の良い椅子に腰掛け、呼ばれるのを待つ。


「皆さんは、これからどうするのですか?」


 目的地の王都に着いたのだから各々、今後どうするのかは聞いておきたい。

 折角こうして知り合えた訳だし。


「俺は闘武会が終わるまでは王都に居るぜ。ちと退屈だがな」


「あれ、ライオッサンは出場しないの?」


 フィーナさんの疑問はもっともだ。

 戦闘大好きなライオルさんがこういう反応をするという事は、闘武会には出ないということなのだろか?


「称号持ちは出れねえんだよ。ニール、説明」


「自分っすか……えー、闘武会はですね、優勝すると多額の賞金と称号持ちへの挑戦権を得られるっす。もしそれにも勝てたら無条件にSランク兵士に、それと武器に被りが無ければ称号も付与されると」


「へー、そうなんだ。その挑戦権? のせいでライオッサンは出られないのね。ちなみに今迄に挑戦権を使って勝てた人、居るの?」


「いません。ですが、賞金自体が多額なので出場者は多いっす。仰る通り称号持ちは挑戦を受ける側という都合上、出場は不可っすね」


「そうだ。しかし、ほとんどの優勝者はボロボロになるから挑戦権は放棄されることも多い。だから、大抵は称号持ちは来るだけで終わりだ。それでも大会の決まりで最低一人は来なけりゃならんからこの有り様だよ。ったく、毎回無駄足を踏まされる身にもなれってんだ」


 挑戦権が優勝直後にしかないのは、称号持ちが常に王都に居る訳ではないという都合からだろう。

 聞いた限り実質、賞金のオマケと化しているようだが。

 ライオルさんが悪態をついた後、こっちを向いた。


「俺はお前に既に負けているから、挑戦を受ける側ってのはおかしいだろう? だから今回は実質、ルミアへの挑戦権だな。やるのか?」


「でも、私以外が無傷で優勝してライオルさんに挑戦するかもしれませんよ?」


「ハッ」


 鼻で笑われた!?


「へえ、そんななんだ。闘武会って」


「一応、一般常識だと思っていたんだがな。これだから絵馬鹿は」


「何だと戦闘馬鹿。興味なきゃそんなもんよ」


 私も実は知らなかったが、黙っておこう。

 闘武会の名前だけは数年に一度開かれる、国で一番大きな大会という事で知っていたけれど。

 不定期なのは戦争が始まると延期されるからだ。


「そう言えば、称号持ちって全部で何人居るんですか? ライオルさんの言い方からして、今回は御二人しか来ていないのは分かりましたが」


「俺とルミア以外は斧と槌だけだな。どちらもドワーフだ。確か国境警備を担当してるから、今回は来てねえ筈だ」


 現状四人しか居ないのか。

 少ないな。

 それから疑問がもう一つ。


「使用者が多い剣とか槍は居ないのですか?」


「どちらも空席だな。称号ってのはただ一番の使い手ってだけでなく一定以上の強さを持っていないと与えられねえ。特に槍は、ティムの同僚だった奴が死んだ後はずっと空席だ」


 爺さまの同僚……。

 聞いたことが無いな。

 まあ、今は知らなくてもいいか。


「成程、闘武会とライオルさんの予定、それから称号保持者については分かりました。ニールさんは、この後は?」


「自分っすか? 自分は元々、王都の外周警備が仕事だったんすけど」


 ええと、名前から内容を推測すると。


「王都の周りの魔物を減らしたり、街道の安全を確保したり、ですか?」


「そうっす。ですが、カティアさんを迎えに行く任務を受けた時に、その任は解かれているんすよね。また元の職務に戻るのか、他に回されるかは分からないっす」


「そうなんですか」


 とはいえ、王都の騎士だから今回の様なケース以外で遠方に行くことは少ないだろう。

 会おうと思えば会えるはず。

 遠くに行かないのであれば一安心だ。


「取り敢えずは、兵舎に戻って待機っすね」


「分かりました。フィーナさんは?」


「アタシ? 絵は何処でも描けるし、まだまだカティアちゃんの傍に居たいんだけど……迷惑かな?」


 おお……。

 正直に言って、とても嬉しい言葉だ。

 少し泣きそうなくらいに。


「いえ、心強いです。でも良いんですか?」


「いいのいいの。危ないってんなら今更だし、描く絵も居場所も自分で決めるわ。今後もカティアちゃんに人望が集まれば情報部もやりやすいでしょうから、無碍にされることも無いでしょ」


「意外と考えてんな、フィーナ」


 ライオルさんが感心したように頷いた。

 フィーナさんは元々思慮深いのだが、少し感情的になり易いからな。

 ライオルさんとの付き合いはまだ短いから、誤解されても仕方がない。


「意外って何よ。ま、アタシはそんな感じで、今後ともよろしく」


「はい、よろしくおねがいします」


 という訳で、ライオルさんは闘武会が終わるまで。

 ニールさんは配属待ちで、フィーナさんは私と一緒、となるな。

 その時、ドアがコンコンとノックされた。

 音の位置が低いな……ルミアさん?


「ルミアさんですか?」


「おおっ、何故分かったのじゃ?」


 言いつつ、ルミアさんが入ってきた。

 小さいから……って言ったら怒られるかな。


「カティア、スパイクが呼んでおる。一人で来い」


 ! 例の話か?


「あん? ルミア、俺らは?」


 ライオルさんが疑問を投げた。

 ルミアさんは答えを用意していたようで、即答した。

 

「すまぬがもう少し待っていてほしいそうじゃ。カティアとの話が終わったら夕食を共に、と言っておった」


「ス、スパイク様と食事っすか……」


「ニール、今から緊張してたら味が分からなくなるわよ。カティアちゃん、気にせず行ってらっしゃい」


「はい。では、少し話してきますね」


 応接室を後にした。

 ルミアさんの小さな背を追いかける。

 逸る気持ちを抑えられず、ルミアさんに声を掛けた。


「ルミアさん、私だけということは」


「うむ。例の件の話は通しておいた」


「ありがとうございます!」


 良かった。

 後は、大精霊次第か。


「お主のあの話も、ミディールとキョウカを退席させてスパイクとリリの二人には話したが……本当に構わんのかの?」


「必要な人には話して構わないと言ったのは私ですから。ですが、リリ姫様にはどうして?」


「ふむ……会えば分かる、とだけ言っておこう」


 通路で話してはマズいことなのか?

 一体どういう事情があって姫様にまで話したのだろう。

 大きめの扉の前に、黒髪の女性が立っているのが見える。


「ルミア様」


「キョウカ。ドアを開けておくれ」


「……はい」


 キョウカさんがそう言ってドアを開けた。

 僅かに不満そうな顔をしているのは、自分が中に入れないことに対してか、それとも姫様に私という出会ったばかりの部外者が近づくからだろうか。

 今は気にする余裕はないが。

 その部屋は他とは一線を画す豪華さで、王族のプライベートルームであることを窺わせる。

 恐らく、防音もされているだろう。

 ドア前で護衛をしているキョウカさんには中の話は聞こえないという事だ。


「来たか、カティア」


「……」


 中に居たのはスパイクさんと、透明な少女。

 あの肖像画の王妃を一回り幼くした容姿の少女だ。

 ミディールさんの言う通りに瓜二つ、非常に似ている。

 輝く銀の髪に、整った人形のような顔。

 そして、その造形を裏切らない無表情。


「……初め、まして……リリ、ガルシア……です」


 鈴を転がすような声が響いた。

 確かにこれは凄い。

 身近な美人、例えばフィーナさんを活発な「動」の美しさとするなら、この娘は圧倒的な「静」の美しさ。

 陳腐な例えをするなら太陽と月のような性質の違い。

 この娘は、月だ。


「初めまして。カティア・マイヤーズです」


「むう、リリが自分から挨拶をするとは珍しい。どうした?」


「……御爺様……この人……私と、同じ」


「同じか。という事はルミアの話の通り――」


「はい……精霊の気配が、確かに……あります……」


 そういって姫様が片手を前に軽く上げた。

 すると――。


「な……っ!?」


 炎の塊が空中に生み出された。

 それがぐるぐると渦を巻いていく。

 ……やがて、炎で出来た人型が現出した。

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