表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣聖の弟子  作者: 二階堂風都
第四章 魔法都市サイラス
46/155

王都へ

「皆さん、一旦こちらへ」


 ミディールさんが木立の奥、やや人目につかない街道脇の場所に私達を誘導したのは、いよいよ王都へ到着する少し前だった。

 街道の往来はそれなりで、もう闘武会目当ての王都への移動は落ち着きつつあるようだ。


「王都の情報は耳に入っていますか?」


 全員が揃い、ミディールさんが問う。

 その辺りはルミアさんが話してくれたな。


「はい、ルミアさんから大凡おおよそは」


「それならば話は早い。今の王都では、既にカティア殿の噂が広まっているのですが」


「何か問題でも?」


いささかそれが情報部の予想を上回ってしまいました。最早制御が効かず……フィーナ殿、絵を見るタイミングで多くの者が最も感動するのはいつです?」


「うん? そんなの初見の時よね、大多数は。後からジワーッと良さが分かるものも勿論あるけどさ。初見のインパクトはやっぱり大事よね」


「よろしい、模範解答ですね。絵から転じて、要は民衆が今、カティア殿を町で見掛けたらどうなるか、ということです」


「偉そうに……それが何なの?」


「今の王都ではカティア殿の「絵」と「噂」が一人歩きした状態です。誰も見たことが無い実物を、一目見たいと思うのが人情でしょう?」


「まあ、確かに」


「初めてカティア殿を見た人は言うでしょう。「キャー、アレ絵の人? 本物じゃない? 見て見て!」「本当か!? 知り合いのアイツにも教えてやろう」「もっと近くで見てみようぜ」「こっち向いて!」と。こんな感じに混乱は必定です」


 !?

 ミディールさん、七色の声してる!

 女の声まで出してたぞ、この人。

 どんな声帯してるんだ?

 もとい、どっからそんな声出てるんだ?


「何、今の女声!? 粗が無くて逆に怖いんだけど!」


 フィーナさんが怯えた。

 無理もないが。

 ニールさんは知っていたのか、何とも言えない顔をしている。


「これは市民の扇動用です。そんな事よりも、王都の町中で騒ぎが起こるのは困るのですよ。闘武会が近く、治安維持の人員は既に手一杯です」


「はあ。でも結局、いつかは顔を見せなければならないのですよね?」


 ずっと何処かに籠っている訳にもいかない。

 そもそもの目的が、剣聖の弟子という立場を使った姫様の支援だった筈だ。


「そこで先程の話に戻るわけです。騒がれても問題ない状況……カティア殿には闘武会で初顔見せをしていただきたい」


「闘武会で?」


「はい。多くの観衆に予め顔を見せておけば、以降は王都の町を歩いてもそれほどの混乱は起きないでしょう。フィーナ殿が言うように、二度目は反応が薄くなる、ということです」


「む……要は警備が厳重で統制しやすい状況下でどんなものか見せると。そうすれば過剰な反応に対する予防になる、という理解で大丈夫ですか?」


「ええ、構いません。初見は慎重に、というのが今の方針ですね。それまでは城に居ていただきます」


 城に……。

 大精霊のことを考えれば好都合だが、随分待遇がいいな。


「話は分かったがどうやって王都に、更には城に入るんだ? カティアに変装でもさせんのか?」


 ライオルさんが腕を組んで話を進めようとする。

 もう飽きてきたな、会話に。

 何となく分かるようになってきたかも。


「民衆は皆さんが思っているよりも目が良いものですよ。簡単な変装では露見する恐れがあります」


「じゃあ、どうするんすか?」


「例のマスクでもカティアに着けさせるか?」


「ふむ、私と間接キスをしても良いと?」


「え?」


「地面とキスさせるわよ、ミディール……」


「冗談です、フィーナ殿。あれは男性用ですし、一つしかありません。カティア殿が着けても違和感が出るでしょうし」


 むう、変装が駄目となると目に付かないようにするしかないか?


「では、どうするんですか? 中が見えない馬車とか?」


「確か馬車は町中や城までの道を通れんぞ。俺の記憶が正しければ王都の入り口までだった筈だ」


 ライオルさん、馬車に乗る機会でもあったのだろうか。

 王都住みでもないのによく知っているな。


「ええ、馬車は使えません。そこに私が派遣された意味があります。王都には、情報部が使う為の地下通路があります」


「地下通路?」


「はい。それを使えば、町中を通らずに王城の傍まで通れます」


 よくお話の中で王族が脱出に使うようなアレか。

 でも、ここでは情報部用なんだな。


「なるほど。だがその通路、俺たちに教えていいもんなのか?」


 尤もな疑問だ。

 秘密の通路ではないのか?


「問題ありません。入り口、出口は不定期且つ頻繁に造り替えますし、中も外部の者が迷わずに通れるようにはなっていません」


「定期的に造り替え? 土魔法で、ですか?」


「ええ、専門職が居ます。王都の真下に複雑な空洞を造っているわけですから、上の建物にもしもがあってはいけない訳です。ミスは許されません」


 王都の地下で崩落に気を使いながら掘って、埋めてを繰り返す仕事か。

 気が遠くなりそう。

 何にせよ、機密漏洩を気にする必要はないと。


「本来なら、私はカティア殿だけを城までお連れすれば問題ないのですが」


「ダメ」


「と、フィーナ殿がおっしゃるのは予想済みですから、全員で来ても構いません。どうされますか?」


「そこ、俺が通れる位に広いか?」


「問題ありません。高さは三メートルほどです」


「なら行くぜ。ここで別行動ってのも据わりが悪いしな」


「自分も行くっす」


「では、行きましょう。入り口は「此処」です」


 言うが早いか、ミディールさんが足元に土魔法を放つ。

 地面が捲り上がり、


「おお、空洞が」


 階段が出現した。

 足元を調べると階段を発見できるロールプレイングゲームみたいだ。




 地下は真っ暗だった。

 ミディールさんが先頭でランタンを持って案内する。

 暗闇で揺れる炎を見ていると、つい彼女を思い出してしまう。

 初めて会ったあの時を。


「出口までは後、五分程です。やや地上に近づきますから、なるべく物音を立てないように願います」


 大精霊にはいつ会えるんだろう?

 ルミアさんの手紙はもう届いているのか?

 スパイク様は直ぐに会って下さるのだろうか?

 ……考えても仕様がないことばかりだ。


「ここが出口です。出て直ぐは眩しいですから、足元に気を付けてください」


 ミディールさんが出口を土魔法で開ける。

 外の光が射し込んでくる。

 確かに眩しい。

 目が慣れるまで少し掛かりそうだ。

 私は最後尾なので、皆よりも遅れて外へ。


「遅いぞミディール。余は待ちくたびれた」


 出口の先に人影が現れた。

 余りよく見えないが、仕立ての良い服を着ているようだ。

 そして日の光が何かに反射して私の顔に当たっている。

 まだ目が慣れない。


「何をなさっておいでですか全く。数時間程度も待てないのですか?」


「余の性分は知っておるだろう。待てぬ」


 え? 何この状況。

 誰だ? 余?


「よお親父さん、久しぶり。穴倉から失敬」


「構わん。礼を欠いているのは余とて同じこと。息災だったか? ライオル」


「あ、スパイク様じゃない。相変わらずフットワーク軽いわね」


「フィーナか、久しいな。それから弟の騎士ニール、だったか」


「は、はい! お初にお目にかかります! こ、この度は拝謁を賜り――」


「よいよい、格式ばった挨拶は聞き飽きておる。そう固くなるな」


 いや、今迄も大物にスッと会えたり予想外の見た目したりしてたけどさ。

 これは無いだろう?


「あの、スパイク様、ですか?」


 おずおずと確認する。


「如何にも。余がガルシア王国第七代国王、スパイク・ガルシア・ジェンキンスである。会いたかったぞ、カティア」


 禿頭とくとうと白い歯がキラリと光った。

 眩しい!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ