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剣聖の弟子  作者: 二階堂風都
第三章 鉱山都市キセ
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暗き坑道

 目を覚ますと目の前に形の良い唇が見えた。

 あと、布団の中に自分以外の体温を感じる。

 ぼやけた視界が徐々にクリアになり、今自分が置かれた状況をようやく把握する。


「な、何やってるんですか? フィーナさん?」


 すなわち、フィーナさんが添い寝状態でこちらを凝視中という状態。

 まばたきしていない、若干怖い。


「寝顔観察!」


 答えつつ、ようやくパチパチとまばたきをした。

 朝から元気だなー。

 そして意味は分かるが意図が分からん!


「何故そんなことを……」


「絵の材料集めよ? タイトルは眠り姫、とかでどう?」


「是非止めて下さい」


 寝顔の絵をばら撒かれるとか、どんな羞恥プレイだ……。

 そんなの喜ぶのは、「私は寝顔まで美しいのだ」なんて言えるナルシストだけだ。

 姫とかそんな柄じゃないし。

 あー、朝だから頭が回らない。


 昨日は工房を出た後、店でやたらと時間を掛けたニールさんの武器選びを経て宿に戻ってきた。

 借りるだけの武器なのだが、鍛冶屋ヴァンの武器がよっぽど嬉しかったのだろう。

 現在は早朝だ。

 宿の食堂に降りると、既にニールさんが席についていた。

 食事はまだとっていないようだ。

 待たせてしまったかな?


「おはようございます」


「おはようっす。カティアさん、フィーねえ


「おはよ、ニール。聞いて! カティアちゃんの寝顔かわいかった!」


「!! フィー姉! 絵は!?」


「カティアちゃんが駄目って」


「ちぃっ!」


「……」


 君達ね……。

 またからかわれると困るので、次からはなるべく先に起きようと誓った。

 

 朝食を宿でとった後は、予定通り鉱山へと向かう。

 携行するのはいつもの装備にカンテラと水。

 後は、昨日ナナシさんから受け取った地図をニールさんが持っている。


「ここっすね」


 坑道は、土魔法で塞いだのか硬化した土で埋まっていた。

 入口の上に木の看板で六と書いてある。

 間違いなく、私達が入る六番坑道のようだ。

 坑道どうしはいくつか繋がっている為、ここからワームがあちこちに出現してしまったらしい。

 見張りの兵が二人いたが、こちらの身分を聞いた後に土を魔法でどかしてくれた。

 一緒に来た他の兵が開いた入口の見張りとして増員される。

 情報部経由で来てくれた兵士達である。

 ワームが出てきた場合はこの人達が処理してくれる手筈だ。


「ご武運を」


「ありがとうございます」


 私達が兵士として動く時の進攻・撤退の判断は私に任されている。

 理由は戦っている時に一番余裕がありそうだから、だそうだ。

 フィーナさんとニールさんの二人に推された結果である。

 私はニールさんにお願いしようと思ったのだが、残念ながら指揮経験などはないらしい。

 私がミスした場合、二人にも危険が及ぶのは言うまでもない。

 責任重大だ……。


「では、行きましょう」


「了解っす」


「りょーかい」


 坑道は暫く人が入っていないこともあり、真っ暗だった。

 持ち込んだカンテラを頼りに、入口から見て一つ目の照明の魔法具に魔力を注いだ。

 魔法具には二種類あり、オーラの魔力に反応して自動で適した効果に変換してくれるものが一つ。

 もう一つがそれぞれ決まった種類の魔力しか受け付けないものだ。

 オーラを使えない者はいないので、前者の方が利便性が高い。

 ただし前者の変換機構、例えば実戦での攻撃用魔法具には使えない程度には変換効率が悪い。

 よって後者の特定の魔法しか受け付けない魔法具よりも、性能が低い魔法具になる。

 坑道の照明器具は後者のようで、必然的に魔力を注ぐのは燃料となる火魔法を使える私ということになる。

 照明の容器は密閉されているので坑道内での酸欠の心配はない。

 ちなみにカンテラの方はオーラで動くタイプだ。

 こちらの光は淡めである。

 

「んー、明るいって幸せなことなんだねえ……」


 フィーナさんが呟いた。

 確かに明かりがつくとホッとする。


「このレールに沿って進むと増殖地点のようっす」


 ニールさんの言葉に足元を見ると、確かにレールが走っている。

 恐らく運搬に使うトロッコ用のものだろう。

 坑道の通路は予想よりは広く、幅は三人が通れるくらいで、高さも三メートル程はあるだろうか。

 土魔法で固めた所に、木の柱で補強してある。


「なら、レールを見て進めば迷う心配はなさそうですね」


「そうっすね」


「では、縦列で進みましょう。私が先頭でフィーナさんが二番目、ニールさんが一番後ろで」


「大丈夫? カティアちゃん」


 フィーナさんが心配してくれるが、先頭にも立たずに指示を出すのは気分が悪いのだ。

 多少危険でも私なら問題ない。


「はい。行きましょう」


 狭い坑道内ではこの並びがベストのはず。

 坑道の性質上前後の警戒を重視すれば、横への警戒は薄くても大丈夫だ。

 ニールさんなら後方に何か起きても対応できるだろう。

 私は前方に集中する。

 その後も照明をつけては進みを繰り返す。

 坑道内は不気味なほど静かだ。


「いないですね、ワーム」


 ここまで、一度も戦闘になっていない。


「そうね。こう、入ったらワラワラとたくさん来ると思ってたんだけど」


「帝国の罠の可能性があるって言ってましたし、ワームも操れるのかもしれないっすね」


 ワイバーンのようにか。

 もし少人数、もしくは一人で複数の魔物を操れるのであればかなりの脅威だな。

 それでも行かなければならないのは変わりないが。


「罠の可能性があっても調査するのが仕事ですものね……」


「面倒ね。全部ナナシのせいね!」


 暴論じゃないか。

 まあ、八つ当たりしたくなるフィーナさんの気持ちは分からなくもない。

 坑道内は湿気がこもり、不快な汗で服が肌に張り付いてきた。

 まだ春だと言うのに熱気もあり、かなり居心地が悪い。

 ガスが出ているのか、時折きつい匂いのする場所もある。

 何が言いたいかというと、


「お風呂入りたいわ」


「汗を流したいっす」


「着替えだけでもしたいです」


 こんな感じだ。

 思ったよりも坑道内の環境は過酷だ。

 ここで働いている人は凄いな。

 不快感に耐えながら歩いていると、結局ワームの姿を一度も見ることなく目的地が近付いてきた。


「そろそろ目的地っす……ここからは、物音は立てない方が良いと思うっす」


「了解です」


「わかった」


 どのみちカンテラの明かりでばれるだろうが、ニールさんの言うように発見されるのは少しでも遅い方が良い。

 警戒しつつ進む。

 この先は、天然の空洞が開いている。

 目的地はそこだ。

 ゆっくりと足音を殺しながら入る。

 中は暗いが、一番怪しい場所だ。

 !! 一歩踏み込んだ瞬間、多数の気配を感じた。

 次の瞬間、どんな技を使ったのか空洞にあった照明が一斉に点灯した。

 ――そこで目にしたのは、痩せぎすの白髪の男。

 そして整然と並ぶワーム達の、まさに山と形容する他ない数。

 やはり罠か!


「あはははははは! ようこそ我が領域へ!」


「ニールさん!」


 数が多すぎる!

 一度撤退を――


「逃がさないよ!」


 土魔法の魔力がはじけ、空洞の入口を乱暴に塞ぐ!

 落盤も起きたのか、ガラガラと大きな音が背後からしてくる。


「しまったっす!」


「逃げようとするなんてつれないじゃあないか……こっちは随分と待ったんだ、遊んでいってくれないと困るよ!」


 そう言って痩せぎすの男が哄笑をあげた。

 退路は既にない。

 戦う以外の道は、残されていないようだった。

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