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剣聖の弟子  作者: 二階堂風都
第十一章 開戦
142/155

双槌のドワーフ

 まずは様子を見る。

 相手の得物は金属製の長さ二メートルはあるだろう巨大な金属製のハンマー。

 重量はかなりの物だろうに、二人共、小さな体で平然と持ち上げている。

 それだけオーラが充実しているということか。

 二人の立ち昇るオーラからは相応の力強さが感じられる。


「リン!」

「おうさ!」


 同時に仕掛けてくるかと思いきや、えーと、呼び掛けに応じた方だから……リンさんか。

 リンさんが大振りの一撃を見舞ってくる。

 地面が抉れて石床と土砂が跳ね上がるが、隙を付いて懐に入る。

 単体ならどうとでも――


「なっ、こいつ!」

「任せろ!」

「!」


 先に仕掛けたリンさんの頭上から、鉄塊が身の毛がよだつような威力で迫る。

 間一髪、カウンターを引っ込めて薙ぎ払いの一撃をバックステップで回避する。

 振り抜いた後に発生した風圧が頬を叩く。


「良い目をしてるじゃんか! ――あれっ、何処だ?」

「ベルっ! 後ろ!」


 更に死角に入り込んでの短剣での一撃は、初撃を放ったリンさんの武器の柄で受け止められた。

 成程……確かに一人ずつだとAランクだ。

 しかしこの高度な連携で、二人揃うと国内最高峰の戦力に化ける訳だ。

 例えば攻撃。

 一つ一つが大振りで隙が大きいハンマーによるものだが、


「でぇいっ! こら、ちくしょー! よけんなっ!」

「もういっちょ! 当ったんねー!」


 こうして波状攻撃で隙を消してくる。

 振り方も互いに無軌道なようでいて決してぶつからないし、二人の息の合い具合をありありと見せつけている。

 背が低いので、足元をすくう様な横薙ぎが特に脅威だ。

 非情に躱し難く既に何度も大きく跳躍させられている。

 当たらなくともかなりのプレッシャーだ。

 そして防御。


「って、はやっ! デカい癖にっ! その身長、少し寄越せよっ!」

「そんなこと言ってる場合じゃねー! 右右、ガード!」


 彼女等は戦闘中だというのに非常に騒がしい。

 だが、ただ騒がしい訳でも無く声を出し合う事で互いに注意を促している。

 何気に見ている方向も双方の死角で、どれだけ一緒に戦ってくればこれだけの連携が取れるのか……素直に称揚したい気持ちが湧いて来る。

 防御においても体の小ささが生かされており、間合いを潰しても、剣で急所に攻撃するには低く斬り込まなければならない。

 更に蹴りなどにも慣れているらしく、体術でも有効打を繰り出すことが出来ていない。

 これはライオルさんと戦った経験の為か。

 それでも私自身が好調であれば、あと一歩深く踏み込んだ攻撃や反撃カウンターが可能なのだが……それにしたって、ギリギリの領域にはなるだろう。

 正直言って、強敵だ。

 ここまではどちらも決定打が無く、拮抗状態が続いている。

 更に打ち合う事、数合。


「タンマー! 待った待った! はぁ、はぁ」

「お前に聞いておくことがあるんだった! ぜぇ、ぜぇ」

「……。何でしょう?」


 突然、中断を求める声が。

 息を整える為の時間稼ぎが見え見えだったが、一応乗ってみる。

 今の所、身体の不調は無いがオーラの出力が安定しない。

 組み直した新しいエンジンの様に、悪い箇所が無いのに上手く吹き上がらない感じがする。

 慣らしが足りないというか……何か切っ掛けが欲しい所だ。


「これって、二対一なんだけど、ふぅ、お前は、それで良いのか?」

「だんちょが、二人で行けって、げほっ、言うから、二人で来たけど」

「今更ですね!? ええと……ライオルさん?」

「当然、俺とやった時には二人同時だぞ。だから俺に勝ってるお前が一人ずつなんてのは、そりゃおかしいわな」

「だそうです」


 それを聞いた二人が、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になる。

 次いで、こそこそと相談を始めた。

 戦いの最中だというのに堂々と対戦相手わたしに背を向けてしゃがみ込む。

 ……これ、斬りかかってもいいかな?


(もぎせんの意味がなくなっちゃうよ!)

(だよね……待つしかないのか……)


 折角温まった体が冷えてしまう。

 早くしてくれ……。


「やばくね? ライオルに勝ってるってさ」

「でもでも、こいつにウチらが勝てばライオルにも勝ったことにならん?」

「おお! リン、頭いいな!」

「だろ! チャンスだよ! イケルって、二人なら!」


 くるりと反転しつつ立ち上がる。

 そして堂々と胸を張ると、二人はこう言い放った。


「「二人同時でお願いします!」」

「は、はあ……まあ、お構いなく。こちらも――」


 ランディーニが炎を巻き上げる。

 兎に角、全力を出さない事には何も分からない。

 私の意志を感じ取ったアカネが、僅かなタイムラグすらなく魔力を変換して放つ。

 何時の間にかオーラと魔法の精度が逆になってしまっているな……。

 うん、魔法剣は問題なし。


(出番だー! ふぁいあー!)

「中身は二人ですから」


 まだオーラによる魔力の補填には至っていない。

 少ない魔力でも、アカネが威力を増大して補ってくれている。

 何処までが自分の魔力で、何処からが無意識に体から補っていたオーラなのか……それを知るのも、今回の重要な課題である。

 大精霊(主にミストラルさん)の協力で自己鍛錬の時には違いを判別出来るようになったが、実戦となるとまた別の話である。


「おおーっ! 剣が燃えてる!」

「かっけー! いいなー!」

「……」


 この二人、何かズレてるな……。

 多分、オーラと魔法を同時に出してるのがおかしいと気付いていないんじゃなかろうか。

 魔法剣を見て、少年の様に目をキラキラさせている。

 しかしそこで、長い試合の中断にしびれを切らしたライオルさんが声を上げた。


「おーい、何時いつまで駄弁だべってんだ。さっさと再開しろい」

「あっ、そうだ。ウチらもアレやろうぜ! 前に練習したじゃん?」

「おっ、アレかぁ! んじゃ、見とけよー! 行くぞ! ルミア様ー!」

「これ、儂が居る意味あるんかの……? 散々好き勝手しおってからに……まあよい。試合再開じゃ!」


 ルミアさんの宣言で試合再開。

 再び片方が先に突っ込み、ハンマーを振り回してくる。

 何やら策があるようだが――? これじゃ、さっきまでと同じでは……?

 縦に振られた武器が既に穴だらけの練兵場の床を砕き、大量の土砂が巻き上がる。

 続いて来るだろう二撃目に身構えると……来ない?

 土砂の向こうに、片手を掲げて集中する姿がちらりと見えた。

 次の瞬間――


「ッ!」


 巻き上がった土砂がつぶての様にこちらに向かってくる!

 しかも、殺意を持ったかの様に先端を尖らせながら。

 これは――土魔法!


「はっはー! 見たか!」

「ウチらも魔法は使えるもんね!」


 躱しきれないと悟った私は、顔面を覆いながらオーラを全開にした。

 こちらはアカネと違い、僅かなラグを挟んで体が覆われる。

 オーラの耐魔力により、身体に触れた端から只の土くれになって落ちていく。

 ああ……髪が土まみれに……。


「あれっ!? 全然威力足りてないじゃん、リン!」

「しょうがないじゃん! 中級魔法じゃこんなもんだって!」


 貴重な情報どうも。

 コンビネーションと仕掛けるタイミングは完璧だったが、前衛タイプの魔法ならそれ位が関の山か。

 私は環境に許されただけで、両方を鍛えるというのはそう容易たやすい事ではない。


「もう一回もう一回! 今度はプランBで!」

「お、やっとく? やっちゃう? やろう!」


 四度目となる突進。

 随分と攻め手が多彩なようだけど、今度はどんな手で来る?

 まずは片側が突撃。

 ここまでは同じ。

 私もこれまでと同じ様に間合いを取る為に足を後ろに踏み出し――ずぼっ。

 ずぼ?


(お兄ちゃん、穴! 落とし穴だよ!)


 足一本がしっかりと埋まる、古典的且つ効果的な罠。

 体勢が完全に崩れ、巨大なハンマーが目の前に迫る。


「もらったぁ!」

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