幕間 槍兵と疑惑の真相?
「――で、貰った菓子がこれと」
「美人な上に料理も上手いとか最高ですよね! 嫁に欲しい!」
「ハッ、分を弁えろよ平凡面。お前と釣り合うと思ってんのか?」
「ひでえ!」
先輩に傷付けられた心を癒すべく、僕は頂いた菓子に齧りついた。
優しい甘さが舌の上に広がっていく……。
噛むとホクホクとした食感で食べ応えがあり、舌の上で転がすと滑らかで良い感触。
口の中の水分が奪われるが、そんなことは些細な問題だ。
僕は今叫びたい、切に。
「美味いぞぉぉー! おおぉぉぉ…………ううっ……」
「泣く程か!? いや、美味いけどよ……」
「先輩は分かってない! 彼女が手ずから作った物だからこそ、その価値は何倍にも膨れ上がり僕の心と涙腺を震わせて――」
「あーはいはい。これは蒸かしたクマラを固めたもんか。山育ちって話の割には色々と洒落たもんを知ってるよな」
本当なら彼女から貰ったものなら全て、そう、全て取っておきたいところだが、如何せん食べ物なので仕方ない。
今度の「見守る会」の集会で自慢してやろう。
奴らの歯噛みする顔が目に浮かぶぜ!
「で、先輩。カティアさんに立ってる変な噂って何ですか?」
「ん? あ、ああ。確かにそんな話をしてたな――あぐ」
先輩が残った菓子を口に放り込み、欠片が着いた指先をぺろりと舐める。
行儀悪いなぁ。
僕はその姿を見て、すかさずハンカチを差し出した。
「お、すまん」
こういうところがなぁ……普通は逆でしょ。
いつもハンカチ忘れて来るんだよ、この人は。
「で、あの人に立ってる妙な噂な。ズバリ、実は男であの姿は女装しているって珍妙なもんだ」
「…………は?」
僕の耳がおかしくなったのかな?
今、有り得ない情報を投げつけられた気がしたんだけど。
試しに耳の穴に指を入れてみたけど、何も詰まっちゃいないよ?
「一言いいですか」
「何だ」
「……馬鹿じゃねえの?」
「おい」
「それ、先輩の話じゃないですよね?」
「お前いい加減にしろよ!?」
「だって……」
無理があるっしょ。
一応先輩の手前、頭から否定せずに考えてはみるけどさ。
カティアさんの麗しいお姿を脳裏に浮かべてみる。
……うーん。
やっぱり無理だろ。
特に容姿、あの立派なお胸様を除いたとしても、顔も腰回りも完全に女性そのものだ。
女装していたとして、果たして骨格まで誤魔化せるものかね?
「疑うに足る……とまでは言わねえが、それらしい証言がどうも多くてな。俺としちゃ確かめずにはいられない訳よ」
「出たよ、先輩の噂好き。で、証言って何です?」
こうなると僕も巻き込まれるのは毎度の事だからな……。
下手な反論は止め、早々に諦めることにした。
まあ、カティアさんが男だなんて有り得ないと思うけど。
少し確かめれば直ぐに納得するでしょ。
「明日になったら噂の確認に行くから付き合えよ。非番だろ?」
来た来た、やっぱり。
予想通りだけど、休みが潰れるのは痛いな。
「ま、非番ですけど。休みの日に噂の証言の確認って、完全に暇人の所業ですよ」
「うるせーうるせー。お前が大好きなカティアさんの噂なんだから、黙って一緒に来ればいいんだよ」
「えー……」
という訳で、噂の真相を確かめるべく明日も城に来ることになった。
何が悲しくて非番の日まで職場に来ないといけないんだ……。
「さあ、まずはアカネちゃんだ!」
「お話しってなあに?」
翌日、先輩の言う最初の証言者は精霊のアカネちゃんだった。
城に来て直ぐに、廊下の向こうから走ってきた彼女を先輩が見つけて呼び止めた。
直ぐに何処かに行ってしまう彼女を見つけられたのは幸運だったと言えるだろう。
その見た目はカティアさんの少女時代といった容姿で非常に可愛らしい。
この子が成長したらああなると思うと……滾るね! 色々と!
「おい、ニヤニヤするな! ったく……アカネちゃん、お姉さんたち聞きたいことがあるんだ。何回かアカネちゃんがカティアさんをお兄ちゃんって呼んでたって聞いたんだけど、どうなの? 教えてくれないかな?」
「ぶふっ! せ、先輩止めてその口調。僕の腹筋が――ぶはっ! 笑い過ぎて、ふ、腹筋が割れちゃう!」
「……フンっ!」
「ぐへっ! そこは鳩尾……ぅぐ……」
アカネちゃんは他の大精霊とは性質が違うということで、見た目相応の扱いをするように上からお達しが出ている。
先輩の口調はそれを留意してのものなんだろうが、その結果は僕が腹部にダメージを負ったのみだった。
なんでじゃ。
そんな僕らのやり取りを見たアカネちゃんが小首を傾げて呟く。
「――漫才?」
「違うから……んんっ、ごほん。もういいか口調なんて、面倒くさい。これは個人的な興味でしかねえんだけど、出来たら知りたい。だから俺達に教えてくれねえかな?」
先輩の言葉にアカネちゃんがプイッと顔を背ける。
そしてフーフーと音の出ていない口笛の様なものを吹き始めた。
分かり易く何か隠してるな!
「し、知らないよー。お姉ちゃんはお姉ちゃんダヨ? わたし、お兄ちゃんなんて言ってないヨ?」
「でも使用人とか、近くに居た兵士とか、他にも聞いたっていう人が居るんだけどな。つまり、そいつらが嘘つきなのか?」
先輩が意地の悪い質問の仕方をする。
するとそれにアカネちゃんは頬を膨らませて顔を赤くした。
可愛い。
そして先輩は汚い。
大人としてどうなんだその対応。
「もー! 誰だって言い間違いはあるでしょ! 学校の先生をお母さんって呼んじゃったりとか!」
「僕は庶民だから学校行ってないしなぁ……先輩はどうです?」
「お、おう! お俺も無いなそんな経験! は、ははは!」
おや? 先輩の様子が……。
学校なんて貴族や金持ち、後は魔法の才能がある人間しか行かないものだけど、先輩の実家は金持ちっぽい節があるんだよなぁ。
持ってる小物とか私服とか、僕が見た限りでは高級品が多い。
実際のところはどうなんだろうね? 別に聞く気もないけど。
「と、とにかくわたしもう行くね! じゃあねっ!」
「あっ、ちょっと待っ――」
「おー、壁をすり抜けていく……こうなると僕たちには追えないですね」
「くっ……次だ次!」
「まだ続けるんですか?」
諦めの悪い先輩は、僕を引きずって廊下をずんずんと突き進んでいく。
先輩止めて。
すれ違う同僚や使用人たちの視線が痛いです。
その行き先は……情報部の技術室か、これ?
「つー訳で二人目! 情報部技術課主任のローマンだ!」
「何の御用で? こっちは徹夜続きで眠いんですけど」
目の下に隈を作った陰気な男が頭を掻きながら応対した。
白衣にボサボサの髪、無精髭に痩身と如何にもな風体だ。
だが、僕の方は彼に見覚えがあった。
「あれ? あんた会員番号十三番じゃないですか?」
「そういう貴方は……会員番号八番! こんな所でお会いするとは」
「何? お前ら番号で呼びあってんの?」
見守る会は種族、性別、年齢一切を問わない組織だ。
マナーとして相手の詮索をすることは控えられている。
必要なのはカティアさんに対する「愛」だけだ。
しかし、偶然互いを知ってしまったのなら仕方ないだろう。
僕らは予期せぬ再開にがっしりと握手を交わした。
「同士の来訪とあっては邪険にも出来ませんね。何用ですか?」
「同士って……まあいいや。お前がカティアさんの変装道具を作ったって噂があってな。まどろっこしいのは嫌いだから直接聞きに来た」
「……。例の件は片が着いたので話しても構いませんか。箝口令も出ていないですし……確かに私達がカティアさんの変装道具を作りましたが」
「本当か!?」
え、うそ!? 確かに技術課の持つ変態技術なら男を女に変装させることも可能……なのか!?
信じたくない! 信じないぞ僕は!
嘘だと言ってくれローマン!
「どんなだ!? それは骨格を誤魔化したり本物そっくりの胸を作ったり出来るのか!?」
「は? 胸? 骨格? ……何の話です? ウチで作ったのは、獣人に変装するための道具一式ですが」
「「???」」
あれ、話が噛み合っていない?
えーと……変装道具っていうのは合ってる……よな。
獣人への変装用? それって、もしかして最近まで獣人国に行っていたから……。
「く、詳しく教えてくれ」
「牛系の獣人に化ける為の尻尾と角です。形も質感も本物そっくり、接合部も全く目立たないという逸品ですよ。昨日返却されたんですが、何故牛にしたのかと彼女に酷く詰られましてね……責める様な鋭い視線と声とのハーモニーが妙に心地良く、思わず新しい扉を開きかけて――」
「ストップストップ! つまり何か? お前らが作ったのは女装用の道具じゃなく、使者として獣人国を穏便に通行する為の道具か!?」
先輩が必要な情報を選り分け、誤解していたらしい部分を解きほぐした。
ローマンが頷く。
「はい。他に何があると? 一体何を嗅ぎ回っているのか知りませんが、あれほど見事なバストは作り物では再現出来ませんよ? 仮に女装させるのであれば貧乳という設定にすればいいだけですし」
「ですよねっっ!!!」
「食い気味で言うんじゃねえよ! 全く、この男共は……!」
どうやら情報がどこかで混線したようだ。
技術課なら有り得る、ってところで事実と憶測の話が混ざってしまったんだろうな。
変装道具を作製したのは事実でも、物も用途もまるで違った訳だ。
ともかく、ここも空振りだった。
「はーい、三人目な……カティアさんの部屋を掃除を担当してるメイド……」
「先輩、何やる気失くしてるんですか? 自分で言い出したんだからちゃんと最後までやりましょうよ」
「お前は疑惑が晴れてきて嬉しそうだな……で、どうなん実際?」
先輩の噂仲間だというメイドさんが頬に指を当てる。
妙齢の女性でおっとりした感じの人だ。
頭のカチューシャの手前に獣耳、後ろには尻尾もチラリと見えている。
「見れば分かると思うよぉ。部屋の中が女性らしくないっていうか」
「見ればって……無断で入ったらまずいだろうが」
「今なら、カティアさんはお風呂に入っていると思うからそっと行けばバレないわよぅ。その間にお掃除する予定になってるから一緒に行こ?」
「マジですか!? カティアさんの部屋! うっひょー!」
「良いのか、そんなことして?」
「でも、見たいでしょ?」
「………………ま、黙ってりゃバレないか。よし、行こう。ただしお前、妙な真似したら殺すからな」
「え、ころ――えっ?」
そう言われ、僕は後ろ手に縄できつく縛られた。
妙な真似も何も、こんな状態で何が出来るっていうんだ?
結論。
こんな僕にも、カティアさんの部屋で出来る事がありました。
――それ即ち、深呼吸!
すー、はー、すー、はー、すー、はー。
カティアさんの部屋の空気を肺一杯に吸い込む。
ああ、いい匂いだなあ。
どことなく甘い気がする! 不思議!
僕が香りを堪能していると、先輩が鬼の形相で近付いてきて手を振りかぶった。
すぱーん! という小気味の良い音と一緒に目の前に星が散る。
いってえ!
「手の平の後が顔についてるわ……やりすぎじゃないのぉ?」
「いいんだよこの位。それよりもお前、妙な真似すんなって言っただろうが! 次は口と鼻を塞ぐからな!」
「死ぬわ! ……あ、ごめんなさい今直ぐに止めます」
先輩が通気性の低そうな布をどこからか取り出し、手の上で弄び始めた。
仕方ないので部屋の隅へ行き、おとなしくしておく。
「見てもいいけど触らないようにしてねぇ。掃除する範囲は規則で決まってるし、勝手に動かしたらバレちゃうから」
「了解。んー、確かに物が少ねえな。剣の手入れ道具が一式。それからチェスにトランプ……これはアカネちゃん用か? しかしアクセとか化粧品の類がロクにねえ……せいぜい髪留めと櫛くらいか?」
「前にお化粧とかしないんですかぁ? って聞いたら化粧水なら欠かさずに塗ってます! って誇らしげに返されちゃった。どうも反応に困るわねぇ」
「まさか普段からすっぴんなのか? それであの美貌……俺達の普段の努力って何なんだろうな……」
「深く考えたら負けよぉ?」
先輩たちが男には良く分からない会話をしている。
化粧なんかでそんなに変わるの? と聞きたいところだが、何故だか物凄い非難を浴びる気がしたので黙っておく。
僕って賢い。
「で、これが服の箪笥か?」
「へえ、どれどれ」
「……って、見てんじゃねーよ!」
「あぶっ! あぶなぁっ! 目は駄目ですよ先輩!」
「下着とか入ってたらどうすんだバーカ!」
指が目に刺さる寸前、仰け反った僕はそのままステップを踏んで後ろに下がった。
失明したらどうするんだ!
「スカートが一着も無い……ちょっと親近感を覚える中身だけど、俺よりも酷いなこりゃ。色も地味過ぎる」
「でしょ? 勿体ないわよねぇ。赤い髪がアクセントになるから、地味目でも似合うといえば似合うんだけど」
「こっちの妙に面積のデカい布は……いや、何も言うまい……」
「?」
布? 裁縫でもしているのか? 何だろう。
ただまあ、確かにカティアさんがスカートを履いている所は見た事がないな。
いつも露出が少ない動き易そうな服を着ている。
勿体ないという意見には僕も最大限同意しておく。
おしゃれな格好をしたカティアさんも是非見てみたいものだ。
その後もメイドさんと話をしながら部屋を見たが、女性らしさが薄いというだけで噂の確証に足るようなものは何も無かった。
部屋の掃除に関しては、無断侵入の罪悪感から僕たちも手伝ったので、異常に磨かれた床と窓がカティアさんを出迎えることだろう。
これで許して?
「駄目だ、すっきりしねえな」
「無断で部屋に侵入までしたんですがね。でも、噂なんてこんなものでしょ」
「でもなあ……火の無い所にって言うだろ?」
「大方アカネちゃんのお兄ちゃん呼びから始まって、誰かが面白おかしく想像を膨らませただけなんじゃないですか?」
実は男なら、そこからどうやってあの見た目に? となって技術課の名が挙がる。
で、あそこの部署ならやりかねないといった話になり、それを補強する様に部屋が女らしくないだのの話が加わる。
こんな流れで、情報部が人気取りの為に強い男性を女装させている、なんて荒唐無稽な噂が完成したというのが僕の予想だ。
「……こうなったら最後の手段だぜ」
「うぇ!? 先輩まさか」
「そのまさかよ。もう直接確かめに行くしかないだろ……!」
本当に行くのか……カティアさんが入っている風呂に……!
彼女も利用しているだろう王城の大浴場は、城勤めならば誰でも利用可能だ。
昔はやたら広い空間を王族のみが使用可能だったらしいが、前王のアラン様が「無駄」と一言で断じて開放したため、今の様な使用形態になった。
時間帯によって男女の使用時間が区切られ、仕事を終えた城内の兵はここを使って帰るのが定番の流れである。
ちなみに王族が一緒に使用するのはマズいとのことで、代わりに個室に小さな浴室を作らせて対応したのだとか。
アラン様はこういった効率化を重視した政策を数多くなさっていた。
今、その恩恵に預かっている僕らは非常に感謝している。
「そういや、先輩はカティアさんと入浴時間が被ったりはしていないんですか? 実際に裸を見れば疑いなんて晴れるでしょ?」
「いや、一度も無い……それどころか、誰も入ってるところを見たことが無いって聞いてるぞ。今だって、たぶん昼間だから誰も入ってないだろ? そういう時間を狙って入っているとしたら……」
もしかしたら噂が本当なんじゃないか、と。
隠れて入っている理由は分からないが、そういうところも噂が広まる一因なのかな?
「と、とにかく行ってくる。分かってると思うがお前は来るなよ?」
「当たり前じゃないですか。さっきの部屋も相当アレですけど、そんなんバレたら解雇ですからね僕」
とはいえ、入り口の近くまでは着いていく。
先輩が緊張の面持ちで入り口を見つめる。
そして扉をゆっくりと開くと、中へ慎重な足取りで入っていった。
「――えっ!?」
「あ、ど、ど、どうも。偶然ですねカティアさん! ――って、うわぁ……」
「!?」
うわ、入った瞬間に脱衣所で鉢合わせしてるぅー!
先輩が迂闊にも締め切らなかった扉から、ここまで声が漏れ聞こえて来るぞ!
流石に覗き込むのは自重するが、会話を聞くくらいなら許されるよね?
考えてみたら、部屋にメイドさんと侵入してから結構な時間が経っている。
そろそろ入浴を終えて出てきても不思議は無い状況だったので、こうなるのも道理か。
「あ、あの……どうして体をじっと見て……?」
「嘘だ……幾ら何でも、同じ女としてここまで差がある訳が……」
「あっ、え? 何故近付いて……ひっ! どこを掴んで……!?」
「柔らかい……本物だ、間違いない……ふふ、ふふふふ、そっかぁ……俺は同性として、この差を認めたくなかったから躍起になって噂を追って……」
「ええっと……良く分かりませんが、元気を出して下さい?」
「っ!」
その直後、脱衣所から走り出す足音が聞こえ、数瞬後に扉が勢いよく開かれる。
先輩が腕で顔を覆って飛び出して来た。
僕はぶつからないように扉の脇に慌てて避ける。
「カティアさんの馬鹿野郎ー!」
「先輩!?」
泣いてる!?
慰めの言葉は時に残酷だ。
皮肉にも、カティアさんの一言が先輩の心に止めを刺してしまったらしい。
先輩の全力疾走と共に叫ぶ声が遠ざかり、その姿が廊下の奥に消えていく。
取り残された僕は、つい乱暴に開かれた扉の方を見てしまった。
「あ……」
その時、僕は女神の裸身を拝んだ――ような気がした。
大事な部分はタオルで隠されていたものの、その身体の優美かつ暴力的なラインが目に焼き付いて――。
しかしその一瞬後、大きく黒い翼の様なものが視界に映ったのを最後に、意識が途切れた。
……気が付くと、僕は大浴場がある廊下の壁にもたれかかる様にして座っていた。
開いていた筈の扉は締まり、脱衣所の方からも人の気配はしない。
夢でも見ていたのだろうか?
しかし、立ち上がると何やら上着から紙片が落ちて来る。
二つ折りにされたそれを拾い上げて開くと、そこにはこう書かれていた。
――会員番号八番へ。
今回は事故なので許すが、決して次は無いと思え。
もし同じことをしたら、地の果てまで追いかけて必ず鎌の錆にしてやる。
見守る会のとある会員より。
「こわっ!」
脅迫そのものの内容に恐怖に駆られて周囲を見回したが、誰の影も形も無かった。
誰だよ、これ書いたの!
しかし、これ以上ここに居たら不審に思われるな……頭が少しぼんやりするが、仕方ない。
僕は先輩を追いかけるべく、彼女が走り去った方向にゆっくりと歩き出した。
この日を境にカティアさんの性別詐称疑惑は消滅した。
あの後、僕は必死にカティアさんの半裸姿を思い出そうとしたが、その度に黒い羽がちらついて遂に思い出すことが出来なかった。
そして何故か先輩は鶏肉やら大豆、乳製品をドカ食いして体調を崩した。
何やってんだか……。




