42話 閑話 部長の憂鬱① 山川部長
-------(山川部長視点)-------
想像以上にとんでもない部署だな
私がこの部署へ異動してひと月もたたないうちに思い浮かんだのがこの一言。
私はやまと商事といういわゆる大手の商社に勤めている。
部長という位置までトントン拍子に出世してきたが、一昨年までいた部署で部下の不祥事の責任をとる事となり左遷となった。
その部下というのは、うちにコネ入社した大きな取引先の社長の息子だった。
会社側としてはその取引先と揉めたくないという理由で、全ての責任を私に押し付けた結果の左遷だった。
そして異動した先がこの部署である。
この部署は、営業支部のバック事務を一手に担う「事務のプロフェッショナル」と聞いていた。
本部でしかも100人というそこそこ大きい部署だ。
本当に左遷先なのか?と疑問に思っていたが、答えが出るまでにそれほど時間はかからなかった。
なぜなら、
栄転に見せかけたまごう事なき左遷だったからだ。
100人のうち正社員は半分ほどで残りはパートさん。
おっと!「パートさん」という呼び方はタブーになったんだっけ。面倒くさい世の中だ。
えー、『契約社員』さんと呼ばないといけないんだったかな?パートさんという呼び方は差別になるそうだ。
企業が大きくなればなるほど世間体というものを気にしなくてはならず、社内で働く者たちは一律平等です、と世の中へのアピールらしい。一律平等なんてあるわけないのだが。
さてそのパー……ゴホン、契約社員さん達だが、驚いた。
部内の半数を占めて、かつ他部からプロフェッショナルと言わしめるとは、どんな凄い人達と思いきや。
まさかの、全然プロフェッショナルじゃない人達?というか働いてないように見える。働いていないよな?
いや、50人以上もいれば仕事の出来る人出来ない人、いろんな人がいるのはわかる。
営業支部でも契約さんは雇っていた。たまにハズレはいたが概ねバリバリ働いてもらっていた。
しかしこの部署はというと…。
例えば、1係。
1係は50名全員が契約さんのみのチームだ。広い一室に契約社員さんのみ50人が働いている。
働いて……働いて?
初めて1係の執務室を訪問した時、そこにはビックリする光景が広がっていた。
手を動かしている人は、スマホをいじっていたり、マニキュアを塗っていたり、はては眉毛を……毛抜きで抜いているのか?
口を動かしている人は、おしゃべりをしているか、モノ(お菓子)を食べているか。
目を動かしている人は、雑誌・週刊誌・文庫本を読んでいる。
休憩時間なのか?……全員が?
最初の2、3回はたまたまそういう時間帯なのかと思った。
別に「一分一秒を惜しんで働け!」とは言わない。合間合間の休憩は仕事の効率を上げる上では必要だ、と思っている。
だが、その後いつ行っても仕事らしき事をしている者が見当たらない。
1係の契約社員達を束ねていると聞いた2係の総合職の女性に話を聞いてみようと思い、2〜3人呼び出して状況を尋ねた。
すると状況の説明よりも愚痴を延々と聞かされた。いや、愚痴というより完全に悪口だな。
1係の契約社員達もヒドイが2係の総合職もそれなりにヒドイな。
これは、3、4、5、6係も見て回ったほうがよいかもしれないと思った。
そうしてわかったことは、本部といえどさすが「左遷先」という事だった。
1〜6の全てのチームを観察したが、酷かった。想像以上に酷かった。
この部署は、営業支部で働けない者の寄せ集めのような部署だった。身体、心、性格のいずれかの病持ち。
持病(身体の病)を患っている者はまだよい。無理せずやってほしい。
が、心の病はなかなかに厳しい。まぁ、自分の世界にこもってもらって結構なので悪化しない事を祈る。
だが、性格が病は…。こればかりは対処のしようがない。生まれ持っての性格を治すのは無理だ。
しかも高齢、ゴホン、失礼、何十年も培ったその性格を修正するのは不可能に近い。
営業支部で周りとやっていけなかった病んだ性格の社員をここに集めたのはわかるが、契約社員までそうなのはどうなんだ。
一度雇ったら世間体を気にしてクビに出来なかった?正社員の妻達も多数おり無下に扱う事が出来ない?なるほど迂闊にクビに出来ないわけだ。
いや、待て。
本来、契約社員は「1年契約」なので更新しなければよいだけなのだ。何故「生涯契約」のような空気が出来上がっているのだ。
とはいえ、一応百人クラスの部署である以上仕事もそれなりにあるはずだ。
いったいそのあたりはどうしているのだろうと思っていたら、5係の係長の石原くんの発言により謎は解けた。
「6係に凄腕のスーパー派遣がいるんですよ。うちに欲しいなー」
スーパー派遣?
ひと昔前に流行ったTVドラマにそんな感じのものがあったな。あれはドラマだが、実際にそんなに出来る派遣なんているのだろうか。
4係の係長の織田くんからも似た意見があがった。
「いや、あの人すごいですよ。揺りかごから墓場まで、どんな仕事でも正確かつ迅速にこなしてますよ。うちの係に来てくれないかなー」
なるほど。
揺りかごも墓場もうちの商社では取り扱っていないが、ようは何でもこなす人間がいるという事か。
それが、唯一の男性の派遣、鹿野くんだった。
それから派遣の鹿野くんを何げに観察して見てみると確かにすごかった。
いつ息をしているのだろうと思う程の勢いで仕事をこなしている。
席に座っている時間も少ないが、座っている時はほとんど電話に出ている。電話に出ながら手元は仕事を続けている。
2係の総合職社員が、自分が取りまとめでいる1係の仕事を彼に押し付けていた。
鹿野くんは当たり前のようにそれを受けてサクサクと片づけていく。
3係からも仕事をわたされていた。4係5係の織田くんや石原くんは彼に何か相談をしているようだ。
もちろん鹿野くん本来のチームである6係の仕事もこなしていた。
毎日それだけの量の仕事を抱えても溜めずにこなして定時で帰っていく。まさにスーパー派遣だな。
さて、事件はある日の午前中に起こった。
いつものように9時に始業のチャイムがなってから1時間もたたない頃。
私達を取り巻く世界が異常事態に巻き込まれた。私を含めて誰も説明出来ない異常事態が発生したのだった。
恐らく全員がいっせいに意識を失い、目を覚ますと職場が訳のわからない樹海に飲み込まれていたのだった。
富士の樹海・・・魔のトライアングル・・・タイムトラベル
いろいろな言葉が頭にうかんだが口にする事は出来ないまま呆然と窓の外を見つめていた。
皆が窓の外を見て固まっていた時、いの一番に動き出したのがスーパー派遣の鹿野くんだった。
鹿野くんの周りから「ステータス!」と口にする者が急速に広まった。
私も同じように口にしてみた。
「ステータス」
すると目の前に半透明の謎画面が映し出された。
なんじゃコリャ!
どうやらその画面によりフレンド登録をする事でメールのやりとりも出来るようだ。
鹿野くん付近からそんな情報が流れてきた。まるでゲームのようだ。
異常現象にボヤッとしてはいられない。
スマホが圏外で使えない今、とりあえず近場の者達との連絡手段が出来たことはありがたい。各チームそれぞれ登録をし合うように指示を出した。
しかし、目の前に半透明の画面とは。
手で触れようとしても全く触れない、3D画面のようだ。もちろん私が3Dメガネをはめているわけではない。
現代日本にはまだそんな技術は広がってはいなかったはず。ここは近未来の地球か?
ざわめく社員達の中、副部長と今後の態勢について話をしていたとき、フロアのざわめきが一瞬で静まった。
何事かと顔を上げて見回すと、フロアの南側、南非常口から変な一団が入って来ていた!
何だ、あいつら………。




