201話 番外編ーファルビニアの戦い③
スクロールの作成をゴンザレスに頼み、タウさんに連絡を入れると、既に皆はダンジョンにいるという事だった。
「ゴンザと無事会えたか? カオるんの事だから王都で迷子になってるかと心配したぞw」
「そうだよー、誰かついていってあげれば良かったのにー」
失礼な!待ち合わせはショップゴンザエモンだから大丈夫だ、ブクマしてあるからな。
しかし、ダンジョンにいると聞いたから、てっきり1Fのセーフティゾーンにいるのかと急いでメダルで転移したが誰もいなかった。
まさかのB2にいた。スタガに。
「さて、じゃあ、カオるんも来ましたしデーモンに皮袋貰いに行きますか」
タウさんの一声で皆が1Fへ、階段を降りてボス部屋へと入っていった。
今回は全員がメダル入手という枷は無いのだが、ドロップ数(皮袋の中身)に関係するかも知れないという事で、全員で攻撃をしまくる。
パラさんの真後ろに付いて走り、パラさんがタゲを取った途端にデーモンにヒールを一発、そして全力で後ろに下がった。
スローやサイレントは要らないのかとタウさんに聞いたら、MPが勿体無いので必要ないと言われた。
確かにスローの必要が無いくらい、デーモンは皆にボコられていた。
デーモンに魔法の詠唱の間を与えないくらいのスピードだ。なるほど、サイレントも要らないな。
皆のHPバーを確認する間さえ無いくらいあっという間に外へと弾き出された。
ダンジョンの外だ。
タウさんは足元の皮袋を拾いあげて直ぐに一声あげる。
「皆さん大丈夫ですか? 大丈夫なら1Fへ」
「おう」
「平気だ」
「だいじょぶー」
それぞれが声を上げて消えて行く。
俺も慌てて1Fへ転移した。が、飛んだ先で既に階段へと走っている皆を見つけて俺も慌てて走った。
そうして皮袋を、違った、デーモンをどんどんと倒していった。
このエンドレスボス戦で1番キツかったのは、1FからB1へのランニングだ。おじさんには辛かった。
3時間くらい繰り返しただろうか。
俺がへばっているのを見たタウさんから、休憩の声がかかり皆B2へと飛んだ。
カンさんもかなりへばっていたようで、俺と一緒にカフェのテーブルで待つ。
タウさんは俺らと年齢はそう違わないはずだが、疲れを見せてはいなかった。普段から鍛えているのだろうか?
タウさんが買って来てくれた飲み物とパンを食べて、30分ほど休憩した後にまた3時間、皮袋採取が行われ、その日は終了となった。
俺はヘロヘロでやまと屋に戻り、そこからはブランクスクに魔法を詰める作業を行った。
パラさんやリンさんが起きて付き合うと言ってくれたが、前衛職はキチンと休んで体力を万全にして欲しいと断った。
レモンさんやリドル君、ユイちゃんが付き合ってくれた。
スクロールに詰めるのは『ヒール』『ファイア』の低レベル魔法なので、レモンさんも習得済み魔法だ。
山脈のこちら側に溢れてきたあの時を思い出す。確かゾンビ、グール、スケルトン、スパルトイの4種類だったな。
とりあえずその4種類が大量にいる事を考えて、ファイアとヒールを作成だ。
アンデッドの本拠地であるあちらの国には行ってみないと他にどんなアンデッドがいるのかわからん。他のスクロールはそれからだな。
レモンさんの手伝いもあり、思ったより早くにスクロールは完成した。リドル君とユイちゃんはカカシ作りをしてくれた。
明日、俺たちは遠征に出るが、スクロールとカカシの作成は続けて欲しいとお願いをしておいた。足りなくなったら取りに戻る。
明け方近くまで作業をして寝落ちしたようだ。起こされたのは10時過ぎていた。
用意をしてくれた食事を軽く摂ってから、出かける支度をすませて王都へと移動をした。(移動寸前までマルクが膝から離れなかった。昨日ゴルダが来たので何か感じとったのか)
王都のギルド前には冒険者(稀人も)が沢山集まっていた。
タウさん達を見つけて合流する。近くにゴンザを見かけたので手を振って挨拶をした。
ゴンザは目の下の隈が凄かった、まさかの徹夜か?大丈夫なんだろうか?
ゴンザレスは名前はゴツいが、実際はヒョロりと背の高い外国人だ。いや、見た目が外国人なのだがゴリゴリの日本生まれ日本育ちだ。
パラさんに声をかけてからゴンザのところへ向かった。
「ゴンさん、お疲れさま。昨日は急なお願いをして悪かったな」
「おう、カオさんもお疲れ。スクロールはあっちで使うんだろ? 俺が先に気づいて作っていればよかったんだが」
「こんなに急な出発になるなんて誰も考えてなかったからな」
「いや、ギルドは先を読んで注文を入れるぐらいはしておくべきだったぜ。カカシ作戦が安定しているからって油断しすぎだろ。あ、作ったスクロールはギルドに渡したがよかったか? 一応タウロさんには声をかけた」
「ああ、タウさんが知ってるなら。今回の指揮は誰が取るんだ? 俺、王都の冒険者とかギルドとかよく知らんからなぁ」
「ギルドからはサブマスが参加するらしい。王都ギルドのサブマスターだ。彼が指揮を、その下でお前んとこのタウロさんが参謀を務めるそうだ」
タウさんが今回の遠征の参謀と聞いて驚いたが、その時タウさんに呼ばれてゴンザと別れた。
タウさんの元にはうちの血盟、月の砂漠の面々が集まっていた。
「では、僕は飛びます。すぐにコールクランを発動しますので皆さんスタンバっていてください。では!」
そう言って目の前からタウさんが消えた後、目の前に文字が浮かび上がった。
『血盟主によるコールが発動しています』
ゲームでは『YES/NO』が選択出来たのだが、選択する文字は表示されず、否応なしに引っ張られる感じで転移させられた。
生臭い……。
海の匂いだ!
周りにはコールクランで呼び出された月サバのメンバーがいた。何と、リドル君とレモンさんもだ。
「うわっ! ビックリした! 何だこれ、どこだここ」
「え? え? 私もですか?」
若干パニックになっているふたりにタウさんが冷静に声をかけた。
「すみません。レモンさん、リドル君。どうやらゲームと違って選択不可能のようでしたね」
そうか、この世界での『コールクラン』は、血盟員には選択の余地が無いのか、それでレモンさん達も否応なしに引っ張られたのか。
「おふたりとも、折角ダルガに来たのでブックマークだけしてから帰還してください。それとカオるんも、ここをブックマークして王都のギルドへ戻り、皆を連れてエリアテレポートを始めてください」
俺はこの位置をブックマークしてから王都のギルドへとテレポートした。
俺が戻った時にちょうどギルド職員が討伐参加者へ何かを配っていた。
「前衛の方はこちらに並んでください」
「後衛はこちらです。はい、これをどうぞ」
何だろうと見ると皆、お揃いのイヤリングをしたり、腕輪を嵌めたりしていた。
デーモンのドロップか。
背の高いガッシリとした男が近寄って来た。
「月サバのカオだな。俺はメルシュバダミッドール、ギルドのサブマスターだ」
え、なに???呪文?……それか、スタガのドリンク名か?
「メ…ギマス?」
「……。ダミドでいい。サブマスだ。今回の遠征の指揮を取っている。お前さんの事はムゥナのゴルダからよく聞いている。今回はよろしく頼む」
あ、ゴルダの友達か。よかった。ダミドさんな、うん。覚えた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。えと、タウさんから皆を運ぶように言われたんですが」
「そうか。準備が出来た者からこっちに来てくれ!」
ダミドはアクセサリーを付けていた面々に向かって大きく声を上げた。
俺は、寄って来る冒険者達を10人くらいに纏めてエリアテレポートを繰り返した。
最後のグループとダミドを一緒に、ダルガ国の沿岸の街へと運んだ。
暫くすると、3つのグループに分かれて、それぞれメサ、カルーココ、ラッシルガルへと向かうそうだ。
俺たちは山脈側のラッシルガルへ向かうグループだ。
港街で用意された馬車へと乗り込み、ダルガ国を東北東へと進む。
途中でダルガの冒険者も合流してきた。
タウさんは余ったアクセサリーを彼らに渡していたが、全員には行き渡らなかったようだ。
もっと時間があったら、皮袋を沢山とれたのにと思う。しかし、今回は、『時間』が1番の強敵だ。
遅れれば遅れるほど、アンデッドはラッシルガルを蝕んでいく。
ファルビニアがもう堕とされている以上、ラッシルガルで奴らの侵攻は止めたい。
ダルガを抜けてラッシルガルに入った。
普段なら国境を守る門の通過に時間がかかるらしいが、俺たちは直ぐに通された。
今、ラッシルガルから出る者は多いが、入ってくる者は皆無らしい。
物流さえも滞っていると、門兵から告げられた。中ではラッシルガルの兵達が俺たちの到着を待ち侘びていた。
彼らの案内で、アンデッドの侵入が激しい地区へと案内された。
俺達はこの国でもいくつかのグループに分かれてアンデッドを討伐して行く。
一緒に移動してきた他の冒険者達と分かれて、俺らは月サバの8人と地元の兵士数名、冒険者が数名と一緒にさらに北へと進む。
ちなみにギルドのサブマスの……あれ?名前何だっけ?サマド?マスド?………ギブマス、ええと、彼は!彼は中央のカルーココのグループだ。
ラッシルガルの住宅地を抜けると、北側の草原で兵士がアンデッドと戦っているのが見えた。
「カオるん、皆にエンチャントを。カオるんは後方で待機、MP回復に努めてください。カンさんはカオるんの護衛で。準備が出来た者から突っ込んでください。奴らを蹴散らせ!」
うわあああ、タウさんカッコいいよなぁ。いや、タウさん以外もだけど、アネさんのあの走り方、まさにゲームのナイトみたいだ。
俺は月サバのメンバー以外にもエンチャントをかけてから、マナクリスタルを左手に持ち、メディテーションを唱えた。
MPがMAXになる前に皆が戻ってきた。近場で視認できる範囲のアンデッドは処理したようだ。
今のところ怪我人もおらず、また馬車での移動だ。
御者席のラッシルガルの兵士の案内で、この国に侵入していたアンデッドをどんどんと狩って行く。
ラッシルガルとファルビニアの国境に到着した。
そのまま馬車で国境を越える。
家や畑があるのに、人のいる気配がしない。ただ、異様な匂いはする。地下ダンジョンで嗅いだあの匂いだ。
「酷い匂いだな」
「ええ」
「これは、確実にいますね。皆さん、バフォメットに変身をお願いします。兵士と冒険者の方もこれを」
タウさんが変身スクロールを渡して説明をしていた。
「案山子はここに立てますね」
「一本は馬車の御者席に付けようぜ」
「ねーねー、何でこんなに臭いのにアンデッドがいないの?」
「恐らく隠れているのでしょう。あの辺とか建物の中ですかね」
「タウさん、燃やすの禁止?」
「いえ、今回はそんな事は言っていられないでしょう。団体で来たら即座にファイアスクロールを使ってください」
「あいよー」
「オケー」
「カオるんは攻撃魔法よりも、皆の回復優先で。MP回復を常に頭に入れておいてください」
「うー、わかった。皆のHP回復と自分のMP回復と」
「大丈夫、こちらから聞きますから。では行きますよ? 皆さん」
「はい」「おう」
馬車には御者役の兵士と俺、カンさんの3人。
皆は馬車を囲むように足速に進む。




