表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

198/222

198話 番外編ー神託があった日

 異世界に転移して10年が過ぎたある日、稀人達は夢を見た。


 白い部屋で白い何者かに告げられた。



『このままここで過ごすか、それとも……』





 カオは夢を見たと思った。そしていつものごとく深くは考えなかった。

 だが同じ家に住む者達も同じ夢を見たとわかった時、少し予感がした、何かが変わる予感。





-------



「眩しくてほぼ見えなかったけど、あの光った神さまがうちらをこの世界に連れてきたのかな」



 あっちゃんの言葉に10年前を思い浮かべる。


 俺は知らなかったが地球に隕石が衝突する危機から俺らを救い、この世界に転移させた神さまなんだろう、と思う。


 だが、何故、今になって道を選ばせる?


 まぁ、どの道俺は『ここに残る』一択だからな。




 リビングにあっちゃん夫婦、パラさん夫婦がいた。

 裏口から山さんとリンさんが入ってきた。アリサ達はもう弁当の仕込みで忙しそうに動いている。


 いつもの朝の光景だ。




「気になるからズバッと聞く」



 口火を切ったのはリドル君だった。



「残るか地球か、みんなどっちを選ぶ?」


「うちら家族は残る。目覚めて直ぐに蒼ちゃんと確認しあった」



 あっちゃんがそう答えた後に続いたのは山さんだ。



「僕らも残るよ。妻とも目が覚めて直ぐに話した。子供もいるしこの世界に馴染んでいる。地球に残った親や親戚や知人は気になるけど、僕は今の、自分の家族を大事にしたい」


「そうだな。うちも同じ考えだ。今ここにいる家族と生きる。それが答えだ」



 パラさんの隣にいた奥さん頷いていた。



「うちも一緒。今更だよね。旦那も同じ考え」




 やまと屋の皆は同じ道を選ぶようだ。


 今はもう別の道を歩いている王都のヨッシーやナオリンに態々連絡をとるつもりはない。開拓村へも連絡はしない。


 山さんも、皆の家族が見つかりそれぞれがそれぞれの場所で新しい未来を進み始めてから、ようやく完全に「部長」という服を脱ぐ事が出来たようだ。




「おはようございます〜、あ、やっぱりみんな集まってた」



 レモンさんとキックがリビングへと入って来た。


 ふたりは山さん達と並びの家に住み、バイトとして弁当屋を手伝ってくれていた。

 正社員(?)にならないのは、バイトの方が自由がきくからだそうだ。



「おはよう、レモンちゃん、キック」


「おはよ、レモンさん、キック」



 ふたりはどうするのだろう?ふたりには子供がいない。今はまだふたりの生活を楽しんでいる。俺は恐る恐る聞いてみた。



「キック…はどうするん? 神さまが差し出した道……」


「ああ、こっちに、ね?」


「はい。こちらに残ります。元の世界よりずっと、この世界の方が生きやすいですから。あ、魔物とか居て怖い反面もありますが、なんて言うか、自由?」


「うん。その、周りとか、常識とか、そう言うのに合わせないでいいって、すごく、生きやすい。皆と同じにしなくていい、皆と同じ事が出来なくていい、この世界に来て、はみ出る恐怖に怯えない、やっとゆっくり息が出来る。だから、日本の家族には申し訳ないけど俺達はこっちで生きていきたいんだ」


「はい」



 レモンさんがキックにニッコリと微笑んでいた。


 そっか…、知らなかった。キックはあっちでずっとそんなだったのか。

 ふたりの話を皆が無言で聞いていた時、タウさんがテレポートでやって来た。




「朝早くからすみません、クラン会議を開いていいですか」



 タウさんとカンさんは山脈の向こう側、南端の沿岸の国ダルガに行っていたはずだ。

 家族を探していたはずだが、今朝の夢で家族の行方がわかったのかもしれない。



「おはようございます」


「おはよー、お邪魔しまーす」


「はよっすー」


「おはようございます」



 カンさん、アネさん、ミレさん、ゆうご君と次々とテレポートでやってきた。

 カンさんはタウさんと一緒でダルガ国からの帰国、アネさん達は王都のアジトからだ。



 タウさんとカンさんの鬼気迫った表情に、こちらからは誰も質問が出来なかった。



「今朝の夢で大体の想像がついていると思いますが、僕は血盟を抜けます。それで次の血盟主をパラさんに引き継ぎたいと思っています」



 え?血盟を抜ける?


 全く想像はついてないないぞ?


 そう思い、皆を見渡すが、取り乱す者は誰もいなかった。え?え?皆、タウさんがやめるって解ったのか?今朝の夢で?



「わかった。引き受ける」



パラさんが静かに答えた。



「すみません、ありがとうございます」



 タウさんが頭を下げた。パラさんは少し寂しそうであったが微笑んでいた。



「すみません、僕も。血盟を脱退させていただきます」



 え……、カンさん…も?



「悪ぃな、俺も抜けとく」


「私もー」


「僕も」



 は?ミレさんも?アネさんもゆうご君も?


 何でだ?俺たち、別に仲違いとかしてないよな?三日前も楽しく地下ダンジョンに行ったばかりだ。



「タウさんタウさん、ちゃんと理由話してあげないとカオるんがパニックになってるよw」



 リンさんが俺の気持ちを代弁してくれた。そりゃあパニックにもなるだろ?急に抜けるって…。



「ああ、そうですね、すみません。カオるんの事だからきっと神からの問いかけに『わかった、残る』で済ませたのでしょうね」



 その通りだ、それ以外に答えようがないだろう。



「カオるーん、せっかく神さまと会う機会あったのに、何も聞かなかったの?」


「え、聞くって何を?……特に聞く事はなかったから」


「アハハ、やっぱりねー。まぁ、そこがカオるんの良いとこだけどね」


「いやぁ、愚かなとこでもあるけどな」



 悪かったな。本当に別に何も思いつかなかったんだから仕方ないだろう?と言うか、皆は神さまに何か質問をしたのか?


 あ、タウさんとカンさんは家族の行方か!


 しかし、家族の行方を聞いたのと血盟を抜けるのはどう関係するんだ?それにアネさん達も一緒に抜けるのは何でだ…。



「カオるん、神さまに残るか戻るか聞かれた時、疑問に思わんかったん? 地球に隕石衝突したんじゃないのかって」



 確かに…、いや、俺、残る一択だから考えもしなかった。



「俺は聞いた」

「私も聞いたよ」

「私も聞いたー」

「僕も」



 キックやレモンちゃんも首を縦に振っている。

 それ…、聞かんとアカンやつだったんか。



「……き、聞い、た?ような?……」


「はい、ダウトー! 嘘はアカン」


「地球に戻る道があるという事は戻れる地球がある、と言う事ですかと聞きました」


ゆうご君がとつとつと話した。



「ある、と。…………神々の想像を超えた人々の行動により地球は完全には失われなかったと、そんな意味の言葉に聞こえました」



 ゆうご君の言葉を今度はタウさんが引き取って話し始めた。



「詳しくは教えてもらえませんでしたが、地球は残っている。人類は激減したけれどまだ生き残っている人々がいる、その未来でよいのなら戻せると」


「未来で、戻せる?」


「ええ、戻る道を選んだ者は、隕石衝突の前に戻る事になると。つまり僕らがこの世界に転移した時間です」



 そ……れは、未来ではなく過去に戻すって事か。『未来』というのは、以前とは違う未来を辿る地球、って事だろうか?




「僕は神に聞いた。この10年、翔太を捜し続けたが見つからなかった。この世界に翔太はいるのか、と。神は、『居ない』と答えた。15歳以上の成人は親と繋げてはいないと。翔太は地球に居たんだ」


「ええ、僕も同じ質問をしました。会いたくば、その道を選べと。ただ未来は平穏ではないようですね。隕石衝突での地球滅亡はなくなってもそれなりの被害で人類はかなり減るのでしょう。その後を生きていくのは厳しいと。それでも僕は、妻や娘と会いたい。もしかしたら会った直後に死ぬ事になるかも知れない。けれどそれでもいいんです」


「僕もだ。この世界でもいつかは死ぬ。人間はいつかは死ぬものだ。だから最後は翔太と居たい」


「俺も、地球に未練がある」


「私も……」


「僕もです」



 ああ、だから、ミレさん達はここで家族を作らなかったのか。


 もし戻れる時が来るとしたら、と考えていたのかも知れない。そうか…。



「血盟主は引き受けた。王都のアジトはどうする?ミレ達も日本に帰還するなら誰も住まなくなるな」


「パラさん、王都には住まないのか?」


「俺はこの街が気に入っている。女房も子供もだ。カオるん、裏に空いてる家あったよな?そこを売ってくれ」


「そうですね、血盟主の条件は本人所有のアジトがある事ですからね。

まずは、血盟主の引き継ぎをして、パラさんが新アジトへの変更を済ませたら王都のアジトは売りましょう」



 話がどんどんと進んでいく。


 この世界で偶然会えた仲間が、あまりに心地よくて、俺はずっと続いて行くと思っていた。

 それぞれに新しい家族が出来てもいつでも連絡がつき、会う事が出来るとタカをくくっていた。



「あの……地球に戻っても連絡は取れないの……か?」


「でしょうね。この世界に来た時を思い出してください。ステータスのフレンド欄、クラン欄は空白になっていたでしょう? 恐らく地球に戻ると消えて無くなるでしょうね」


「ステータスも無くなるねー」


「普通の人間かぁ」


「年齢も戻ると言ってました。19かぁ」



 何故か、涙が溢れ落ちた。

 皆が死ぬために戻るように見えた。



「バカだなぁ、カオるん、何泣いてるんですか」


「そうだぞ、俺たちは地球でも生き残るからな」


「そうです、カオさん、僕は翔太と会うために帰るんです。会ったら絶対に生き残りますよ!」


「そうです、僕らは自分の未来のために戻るんです。僕らは大丈夫」


「もう、カオるんの事はこっちに任せて。あと10日でしょ、やり残しがないように! あ、最後に一緒にダンジョン行こうよ」



 ズルいぞ、俺を引き合いに出しているがみんなだって泣いてるじゃないか。





 俺はその晩、ベッドに入った後ずっと祈りつづけた。


 俺たちを救ってくれた神さまだ、地球に残した子供に会いたがる者に戻る道を用意してくれた神様だ。


 絶対絶対、俺たちを好きで俺たちを救いたいに違いない。



 神さま神さま神さま、お願いします。


 地球に戻る者にこちらのステータスをそのまま持って行けるようにしてください!お願いします!

 アイテムボックスも、その中に入ってる物も、持って戻れるようにしてください!お願いします!お願いします!お願いします!



 お願いします。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ