197話 人は新しい未来を生きる
あれから月日が流れた。
やまと屋は相変わらずの盛況だ。
この世界に転移して、もう10年経ったのか。
あんなに小さくガリガリだったマルクも、今は12歳、溌剌とした子供に育った。
6歳くらいまでは(何故か)俺の事を「かーたん」と呼んでんいた。
その後は「父さん」と呼ぶようになった。ギルドに登録をして街中や外の草原の依頼を頑張っている。時々せがまれてダンジョンの浅い階に連れて行っている。
ダンはもう二十歳か。冒険者ランクがBまで上がり、時々は他の街へも行っているようだ。いつもパラさんに鍛えてもらっていたからなぁ、Aに上がるのもすぐだろう。
アリサは今は18歳、2年前にロムと結婚して子供がひとりいる。お父さんは寂しいよ。でも孫ちゃんは可愛い。アリサ一家はもちろんやまと屋に住んで、今も働いてくれている。
あっちゃんとリドルくん夫婦は今もうちに居てくれる。
やまと屋は最早あっちゃんが回しているようなもの、弁当屋の女将さんだな。
あっちゃんがこの世界に来た時に妊娠していた子は、あの後無事に出産を終えた。
あの時のリドル君の半狂乱ぶりは、今も語り継がれているくらい凄かった。
「ちょっと! 蒼ちゃん! そんなに騒がれたら出そうなモノも引っ込むからやめて!!!」
俺は緊急時の要員として部屋の前に待機していたのだが、出産って大変だな、とつくづく思った。
あっちゃん夫婦は最初は男の子、その次も男の子、そして女の子の双子と子供を設けて、現在は2男2女の6人家族だ。
あっちゃんは出産や子育ての合間に冒険者ランクも上げて、夫婦でダンジョンにも行っている、やまと屋も仕切ってもらっているのにアクティブな夫婦だなぁ。ありがたいやら感心するやら。
ユイちゃんは8年前に結婚をした。相手はギルドの職員だった。いつも弁当屋に通ううちにユイちゃんに一目惚れをして猛アタックをかけたそうだ。
実はかなり以前、多分10年前頃にユイちゃんに家族の事を聞いた事がある。そう、隕石の話を聞いた後だな。
「もう、地球に戻れないな。ユイちゃんは捜したい家族とかいるのか?王都や他の街に探しに行くなら付き合うぞ?」
ユイちゃんは大人しく、自分から誰かに強請る事はしない性格なので、こちらから振ってみたのだ。
「ふふ。大丈夫です。私、父は子供の頃亡くなってたし、母は私が就職するまでは一緒にいてくれました。就職が決まったら母は好きな人がいるからその人と暮らすと出ていったんですが。あ、大丈夫です。あの、子供の頃に捨てずに私が大人になるまで育ててくれたから感謝しています。それに学生時代もやまと商事に入ってからもお付き合いした人はいないですし……。何か、暗くてつまらないんですって」
そんな事を言って儚げに微笑んでいたユイちゃんも、今は3児の母だ。あのギルド職員には「うちの娘を絶対泣かせるなよ!」と脅してある。うん、幸せにしてほしい。幸せになってほしい。
山さん一家にも子供が増えた。夫婦の子供もひとり増えたが、教会から養子を2人迎えたそうだ。
今はやまと屋の裏側に建つ家を購入して一家で住んでいる。
実はうちの店の裏側も引越しがあり空き家が8軒出た。ゴルダから「今後のために買い取っておけ」と言われたので、お金もあるし、そうだなぁと皆に相談をしたら、山さん一家とリンさん一家から自分で購入したいと申し出があった。
その頃は地下ダンジョンでの金貨や宝石取りで皆も貯金があったし、ふたりとも即金で購入をしていた。
残り6軒はとりあえず俺が買い、もし今後誰かが住む場合はその時には売ろうと思う。
ナオリンは王都の騎士と結婚をして、今は王都に住んでいる。
そういえば、やまと屋で結婚をしていないのは、俺だけか。
キックはなんと、レモンさんと結婚をした。キックはあまり喋らない男だし、レモンさんはちょっと天然と言うのかひとりで不思議を楽しんでいるタイプだ。
どちらも恋愛に前向きな性格でないのだが、気がつくとふたりは自然に近くにいて、話さなくても楽しそうに笑い合っているのを見かけた。皆はヤキモキとしていたが、特にアネさんが背中を押しに行こうとするのをタウさんが止めていた。
「ああいうタイプは背中を押されると逆に離れてしまうんですよ。そっと見守りましょう」
皆がギリギリと歯軋りをしながら見守った結果、ようやく結婚を打ち明けられた時は、アネさんとリンさんがレモンさんをギュウギュウと抱きしめて喜んでいた。
ところで、そう言うアネさんも独身のままだ。アネさんはハッキリとした美人で明るいし楽しい。アネさんに憧れている冒険者は大勢いる。
何人も申し込んでいるようだが、アネさんは笑って躱している。日本に、大事な人でもいたのだろうか?
ミレさんとゆうご君もまだ独身だ。月サバではアネさん、ミレさん、ゆうご君の3人が未婚のままだ。
ミレさんはかなり遊んでいるようだが、結婚はしない。バツイチと聞いていたからな。
「結婚は一度でいいや〜。懲りた懲りた」と言っていた。
そう言うものか。俺は一度もしていないし懲りてもいないのだが、この世界での家族がいるからな。マルクとアリサとダンだ。
アリサは嫁に出したが、まだダンも嫁さんを貰っていないし、マルクも成人していないからな。
「セボンに買い物に行ってくるけど、何か欲しい人いるー?」
あっちゃんがリビングにいた俺達に話しかけた。
「おかぁさん、僕、ポテト食べたい」
「マッツは行かないよ。セボンだけ」
「えー、ポテト食べたぃぃ」
「ダメ。ワガママ言う子には買ってこないよ。カオるん、何か飲む?」
「うぅむ、ミルクコーヒー系があったら欲しい」
「わかったー」
「圭、カルピスにしなよ。お母さん、僕はコーラ買ってきて」
10年前に生まれたあっちゃんの息子の淳くん、そして泣きべそ顔なのは弟の圭くんだ。
「梨花と実華はフルーツ牛乳ね」
「うん」
「フルーツにゅーぎゅ」
惜しいwちょっと違うぞ。今のはあっちゃんとこの双子ちゃんだ。
ここが異世界とか、もう気にならない、毎日が当たり前に過ぎていく。
死霊の森のB2も未だに消えずに存在している。ただし、B2に入れるのは稀人だけだった。
10年前のあの日の翌日、ゴルダに話した。ゴルダを連れて月サバのメンバーでデーモンに再アタックした。
倒した後に金貨や宝石、アクセサリーの入った袋はあったが、ゴルダのメダルに『B2』の表示は現れなかった。
B2は初回特典なのでは?という意見もあり、今度は山さんを連れていった。山さんのメダルには『B2』の表示があった。
それで「恐らく稀人のみ」なのではという事に収まった。
B2が初回のみの特典でない事はわかったが、俺たちは、いつか消えるモノかも知れないという危惧も消えず、皆いつも大量に買い込んでいる。
結局10年経ってもまだ消えていないが。
タウさんとカンさんは、今は沿岸の国に行っている。
10年経つがまだ家族とは出会えてない。
この大陸で見つからなければ、他の大陸への遠征も考えているそうだ。
俺はこの世界で平穏な毎日を過ごせているが、彼らにはまだ平穏は訪れていない。
そんなある日、夢を見た。
眩しい光に溢れ、目が開けられない空間に俺はいた。
その光の中、光以上に眩しい誰かが話しかけてきた。
『右を選ぶのか、左へ進むのか、決めるのはお前たち自身だ』
そうか、そうだな。選ぶのは俺。
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「何だ? 変な夢見たな……」
「おはよう、カオるん。ねぇねぇ夢に神さま出てきた?」
「カオるん、今朝の夢って神さまだよね?」
「俺の夢にも出てきたぞ」
「おはよう、皆、いるかい? 今朝の夢なんだけど……」
「朝からお邪魔します、ねぇ、変な夢見たよね? 王都からアネ達呼ぶ?」
「タウさん達に連絡とった。あっちも見たって」
「稀人全員の夢に神さまが出てきたのか」
やはりただの夢ではなかったのか。
でも今更神さまが出てきてもなぁ……。
「そんなに慌てなくても。道はふたつあっても俺らが選ぶ道は決まっているじゃないか」
「この世界でこのまま暮らす……」
「そうだな。もう家族がいる。この世界で」
「そうね」
「そうだね」
「うん」
神さまは今になって道をふたつ差し出してきた。
『この世界でこのまま暮らすか』
もうひとつは、
『元の世界に戻るか』
神はいつでも本人に選ばせる、その道をどちらに行くのか。
完




