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195話 幸せと不幸せ

 異世界に転移して少しした頃。

 リドルは王都に集められた稀人の中に、自分の妻と同じ勤め先の者の家族が何人かいる事に気がついた。


 それでギルドの掲示板に人探しの貼り紙を貼らせてもらっていたのだ。


 最初は数人だったがあっという間に増えていった。

 ただやまと商事に勤める者の家族は集まるのに、肝心の社員が見つからない、自分の妻が中々見つからなかった。


 これはもしかすると辺境か隣国かも知れないと考え始めていた。


 どこであっても生きていてくれればいい、頼むから生きていてくれと願っていた。

 そんな時にアンデッドの氾濫が起こり、妻の無事を諦める気持ちに傾き始めた時、この国の辺境の街で妻と再会出来たのだ。



 昨夜は喜びのあまりにうっかりしてしまったが、妻と一緒にこの家にいた社員の家族があの貼り紙の中にいるかも知れないと思い、王都のギルドまで飛び、写真を撮ってきたのだ。



「山さん、山川玲子さんって奥さんですよね。石原麻衣子さんと織田エマさんも、ヨッシーとユースケの奥さんだよね。職場参観の時に入館証を申請したぞ、俺」


「そうだ……そうだよ」


「麻衣子さん……王都に」


「エマ、エマ、良かった……あ、子供は? 子供の名前が出ていない、子供は見つからなかったんですか!」



 山さんもヨッシーも顔をクシャクシャにさせて泣き出した。



「あ、いや、わからんけど、お子さん連れてる人もいたと思う。掲示板に貼る紙には家族の代表者の名前だけだから。家族名一覧とかは作ってない……」


「カオ君、王都に! 王都に連れて行って欲しい」


「カオるん、頼む、一生のお願いだ、今すぐ王都に行きたい」


「カオさんお願いします!」


「あ、うん、うん、それは良いけど。リドル君、ここに載ってる人達が住んでいる家とか知ってるのか?」


「いえ、判らないけどギルドで聞けば……」


「カオっち、とりあえずヨッシー達3人連れて王都に飛んできて。蒼ちゃんも一緒に行って案内してあげて。ここに書かれているメンバーにはフレンド登録してある人に私が連絡しておくよ。兎に角行ってきて」


「わかった」



 あっちゃんはリドル君のスマホの画面を自分のスマホで写した。


 俺は山さん、ヨッシー、ユースケ、リドル君を連れてエリアテレポートで王都のギルドまで飛んだ。


 リドル君は山さん達を連れてカウンターへ行き何かを話していた。

山さん達は泣きながら大きく首を縦に振り続けていた。

 チラッと見えた表情は泣いてはいても明るいものだったので、恐らく家族の居場所がわかったのだろう。



 カウンターのギルド員が奥から紙を持ってきて説明していた。ユースケはその紙をスマホで写していた。


 戻ってきたリドル君の話によると、稀人達が集まって住んでいる長屋(のような建物)があるので、これからそこに向かうようだ。



「あ、じゃあそこには俺が付いていくからリドル君はあっちゃんのところに戻ってくれ。ありがとな」


「ありがとう!リドル君」

「ありがとな」

「ありがとうございます」



 皆が口々に、声を振るわせてお礼を言っていた。


 それからユースケがスマホに撮った地図を元に稀人が住んでいるという場所へと出向いた。


 さほど大きくない集会場のような場所にやまと社員の家族達は住んでいた。そう、まるで災害時の避難場所のような感じだった。

 そこに居た人達の中から、少女が飛び出して来た。



「お父さん! おとうさん! うわあああああああん」



 泣きながらヨッシーに抱きついていた。

 それに続いてもうひとり女の子がヨッシーに、男の子が山さんに飛びついていた。



「エマ……エマ、クロエ……どこだ? シャルルは」



 ユースケがその部屋にいた人達に聞き回っていた。

 俺はその長屋の入り口そばに立っていたのだが、誰かが後ろから俺を押し退けた。



「パピ! パピパピー!!!」



 人形かと見まごう女の子がユースケの方へ走っていった。こちらを振り返ったユースケが立ち上がり叫んだ。



「クロエぇぇぇ! エマ! ルル!」



 俺の横をこれまた美しい人形を抱いた外国人の女性が擦り抜けて行った。ユースケは奥さん、お子さんと会う事が出来た。

 山さんとヨッシーはお子さんとは会えたが奥さんが居なかった。

 周りの人の話から、近くの市場へ働きに行っている事がわかった。


 ふたりは市場の場所を聞いて、子供を連れてそちらへと向かった。

 子供を置いて奥さんを迎えに行けばと言ったら、離れたくないと返された。


 そうだよな、今、やっと会えたんだもんな。

 ここで目を離して何か起こってまた会えなくなったら…とか考えるよな。俺、無神経でごめん。



 この部屋にいるのは子供が多いな、それと若干の大人だ。ユースケは周りを囲まれていた。みな自分の父親、母親の安否を尋ねているようだ。


 俺が立ってた場所の近くに、高校生くらいと小学生の女の子がいた。

よく似た顔だったので多分姉妹だろう……が、どこかで見た覚えがある。


 ……あ。安田さんだ。安田さんとそっくり。俺と同じ係にいた安田さんのお嬢さんに違いない。

 俺が見ている事に気がついた高校生の子の方が話しかけてきた。



「あの……、前に、母の職場で案内してくれた方ですよね?」


「ああ、うん、そう。えと安田、美奈ちゃんと莉緒ちゃん、だよね?」


「そうです! あの、あの! 母と一緒ですか? 母の居場所知りませんか?」


「落ち着いて、大丈夫。お母さんは無事だよ。今は別なとこにいるけど連絡をとってるところだから。ええと、お父さんとは別なの?」


「父は仕事に行ってます。今は市場で仕事しているので」



 ああ、そうか。この部屋に子供が多いのは、もしかして大人は働きに行っているのか。数人の大人が子供や幼い子の面倒を見ているのかもしれない。



「ちょっと待ってね、確認してみる」



 俺はあっちゃんに念話を入れた。



『あっちゃん、そっちどう? 開拓村に連絡取れた?』



「あ、きっとフレンドメールか念話だ!」


「そうだね。私もお父さんに念話するね」


「うん、私もしよっとー」



 あ、そうか。そうだよな、王都の稀人もステータス画面が使えるよな。



『カオるん、こっちはちょっと混乱かな。名前が出てない人は家族が不明だし開拓村って言うか、アンデッドのせいで今みんな神殿にいるから、そこにスタンバってもらってる』


『そっか。安田さんも神殿? 今ここに安田さんのお嬢さんがいる』


『お嬢さんも一緒だったんだね。良かったー』


『うん、同じ顔がふたつ。安田さんも入れると3つ』


『……遺伝子って、凄いね』


『凄いな。いや、それはともかくどうするか。こっちはあの名簿全員は揃ってないんだが…』


『え? 行方不明なの?』


『じゃなくて、働きに行ってるらしい』


『アンデッドの氾濫中なのに?』


『ああ、まぁ、王都はデカイしな。こっちのメンバーを揃えてそっちに連れていくより、そっちをこっちに連れてこようか』


『どっちやねん』


『いや、俺も言っててわからんくなった。兎に角、神殿に戻って名簿のメンバーを王都に連れていくわ』


『はーい。じゃあ、メンバーにメールしておく』


『サンキュ』



 あっちゃんはよく気がつく。流石だ。そうして俺はリドル君のスマホに写っていた名前の配偶者と思われるやまと社員達を連れてまた王都へと戻った。


 長谷川さん、押尾さん、青山さん、赤坂さん、佐藤さん、山田さん、加藤さん、安田さんの合計8人だ。


 捜し人の一覧表に載っていた渡辺さんと大山さんとは、メールで連絡は着いているが今神殿へ向かっているそうなので、着き次第迎えに行く。


 それから、三好と春川さんは亡くなっている。ご家族にどう話すかは、山さん達に任せた。

 だって俺は、職場ではただの派遣だったし、この世界でもただの弁当屋だからな。



 その後に渡辺さんらも王都の家族の元へと運んだ。


 今回家族と再会出来て喜んだ人達と、まだ再会出来ていない人達、もう再会する事がない(亡くなった)人達との間で微妙に複雑な空気が流れているのを感じた。


 家族と会えていない人達も、今後再会出来るかも知れないという希望が持てたので前向きにはなれたようだ。


 だが気にしているのは家族と再会した者達の方だ。家族と会えてない人の前で幸せを喜べない、喜び辛いと感じている。

 それをさらに感じとった未再会の方も動きが取りづらくなっているという変な輪に陥ってるそうだ。



 開拓村でもやまと屋でも、お互い忌憚なく話し合いをする事で新しい体制へと移った。





 開拓村では、仲が良かった安田、大塚、大久保の3人だが、安田のみ家族と再会した。

 安田は家族を開拓村に呼び寄せたが、大塚達に気を使っているのを憂慮した大塚と大久保は、開拓村を出て王都へと移住する事にした。



「王都の方が家族を捜しやすいから」


「そうだね。ブックマークしているからいつでも遊びに来れるからね」



 それから、家族を開拓村に呼び寄せた事で村が手狭になったと言う理由で、キックとナオリンが村を出てやまと屋へと越してきた。


 開拓村が波に乗るまでは村に尽くしていたふたりだったが、本心はやまと屋のメンバーに入りたかったそうだ。


 それと、これは後にナオリンがあっちゃんに打ち明けたそうだが、実は西野さんと段々と上手くいかなくなっていたそうだ。



「何かにつけて、『ナオリンはいいよねーステータスに職業があるからー』って言われて、始めの頃は笑って流してたけどさ、ドンドンイライラが溜まっちゃって…」



 それは、キツイな。人間なんて元から不公平に出来てるのに、羨んでも仕方ないだろうに。

 で、キックとナオリンが来るのと入れ違いで、ヨッシーとユースケがやまと屋を退職したのだ。


 この世界に来た当初から一緒に頑張ってきた仲間だったから、少なからずショックだったし寂しい気持ちも大きかった。


 しかし、家族(というか奥さん)の意向で王都に住みたい、と言われて、元々尻に敷かれていたヨッシーと、妻子を大事にしていたユースケは王都行きを決意したそうだ。


 こんな異世界で家族と会えたのだから、家族を優先してくれていい。

 山さん一家やあっちゃん夫婦はこのままやまと屋に居てくれるそうだ。



「カオくん、終身雇用でお願いします」


「うちは旦那もバイトで雇ってもらおうw」



 あっちゃんの出産には山さんの奥さんも居てくれる事になり、心強い限りだ。


 それから、スラムに住んでいた渡辺さんと大山さんは王都で家族と住み、働くそうだ。

 良かった良かった。あの時、土屋達と行動を共にしていたら、家族は悲しい事になっていたと思うと、心からよかったなと思う。



 うちは親のいない子供達も多いし、お母さんが増えるのは良い事だな。パラさん一家やリンさん一家も、やまと屋を手伝ってくれるそうだ。

 パラさんちの結月ちゃん、結愛ちゃん、結奈ちゃん、陽葵ちゃん、リンさんちの珠州ちゃん、凛ちゃん、大雅くんもうちの子供達と直ぐに打ち解けて仲良くなっている。


 パラさんちの陽葵ちゃんはマルクと同じ2歳だそうだ。マルクの方が小さく見える……、よし、もっとカルシウムを摂らせねば!


 フンスと決意を固めていたらリンさんから子供の大きさはそれぞれだよと怒られた。

 あと、イッヌは大人気だ。


 結月ちゃんと珠州ちゃんは10歳なのでギルドへ冒険者登録もしたようだ。

 暫くは、パラさんかリンさん付き添いの下、ギルドの依頼をこなしていくそうだ。


 この家を買った当初はガラ空きだった部屋も今はほとんどが埋まっている。


 街も動き始め、ダンジョンも再開して賑わい始めた。

 俺たちも弁当屋の仕事を再開してそれなりに忙しくなってきている。もちろん月の砂漠でダンジョンにもよく行く。



 俺は王都の店(ナヒョウエ)に置くバナナを採りに26Fには定期的に行く。

 普段はキックやナオリン、山さんを誘って、王都から月サバのメンバーが来ている時は彼らを誘って行く。

 魔石採りはカンさんがよく付き合ってくれるのでありがたい。


 魔石は切らしたら一大事だからな。うんうん。


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