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176話 うちの子、天才

 まったりとした弁当屋の毎日が戻ってきた。


 やはり教会からのバイトを増やしたのが良かったようだ。自分もだが、皆んなも自分の時間を取れるようになってきたようだ。



 ヨッシー、ユースケ、ダン、ロムを連れてダンジョンの23、24に何度か足を運んだ。もちろんライカンさんを召喚しておいて、危なくなったら助けてもらう。


 ライカンさんはゴブリンくらいなら瞬殺だった。

 とにかく人型魔物に慣れるため、それと複数に囲まれた時の対処などを経験しておくのが大事だ。(と、ゴルダに勧められた)



 山さん、キック、ナオリンとは25、26、27のオーク、ノールン、オウルベアを相手に食材採りによく行く。


「今日、肉ロード行かない?」「バナナ狩り行こうよ」など、ナオリンは魔物の名前よりドロップで覚えている節がある。


 まぁ、ノールンのドロップのバナナはうちの子供達にも大人気だ。

 ナオリンの話では開拓村でもバナナは大人気だそうだ。


 そして、ナオリンは「メロンメロンメロンメロン」と叫びながらノールンを狩り、とうとう念願のメロンを出す事に成功した。

 人の想いって怖いな……。



 弁当屋は思っていた以上に順調だ。


 この街に食パンっぽいパンは見つからなかったので、丸いパンを切ってサンドイッチを作っている。


 割と柔らかめのパンを使った、ハムサンド、卵(焼いた)サンド、葉野菜を挟んだサラダサンド、チーズサンド。

 みっちりと詰まったベーグルのようなパンに挟んだシンプルバターサンド、ジャムサンド。


 ソフトフランスのように周りが少し硬めのパンを薄くスライスしたパンに挟んだカツサンド、ハンバーグサンド、コロッケサンド、フィッシュサンド、ベーコン葉野菜サンド。


 外でも店内でも販売は2種類。日替わりで7日間のメニューを貼り出している。

 店内のイートインは2種類のサンドイッチの他に、パンとオカズのプレートがある。


 モーニングプレートは、パン(選べる)と卵とベーコン、スープだ。

 ランチプレートは、パン(選べる)に日替わりのおかずだ。日替わりのおかずは、ハンバーグ、フィッシュフライ、カツフライ、唐揚げ、ボイルソーセージ、猪肉のステーキ、肉たっぷりシチュー。


 他に定番として、スティックサラダ、オニオンスープ、蜂蜜たっぷりパンケーキもある。


 西門、南門、ギルド前は弁当にオマケ券を付けている。

 店内のイートインには付けていないが、その代わりスープとお茶のサービスがある。


 店内のテイクアウトにはオマケ券ありだ。

 南門へは、西門販売中にテレポートで俺が往復して販売にいく。南門からダンジョンバス……違った、ダンジョン馬車が6時に出るので、直前に弁当を売って西門に戻る。


 オマケ券だが、以前は5センチ四方の木札に『シールド券』と書いて使っていた。

 が、ギルド職員がシールド魔法を覚え、ダンジョンやギルドでも無料でかけているので俺たちはオマケを変えた。


『や』と書いた2センチ四方の小さな木札にした。


 木札1枚で『シールド』

 木札5枚で『エンチャントアーマー』+『エンチャントウエポン』

 木札10枚で『ブレスドアーマー』+『ブレスドウエポン』


 と言う感じで木札の枚数で選べるようにした。


 注文配達にも木札を付けている。

 先日大工ギルドから相談を受けた。貯まった木札で何か良い魔法をかけて貰えないかと言われた。


 なので『ウエイトライト』をかけた。荷物が軽くなる魔法だ。木札5枚で『シールド』+『ウエイトライト』を増やした。



 今日は弁当屋が休みの日だ。

 俺はマルクを乗せたペルペルを連れて教会の中庭公園に遊びに来ている。もちろん弁当持参だ。


 倉庫女神は相変わらず盛況のようだ。


 俺は倉庫女神より少し奥にある別の女神像の近くの芝の上に転がって寛いでいた。


 弁当も食べ終わり腹がいっぱいで満足だ。ゴロンと横向きになりマルクを見ると、マルクはペルペルと遊んでいる。

 マルクは昨夜折ってやった紙飛行機を飛ばしていた。


 職場から持ってきた俺のデスクの中に入っていた資料で紙飛行機だの鶴だのを折った。(もう使う事もない資料だからな)


 マルクが飛ばした飛行機をペルペルが咥えて取ってきたが、飛行機はグシャっと潰れてしまっていた。

 マルクはそれを丁寧に伸ばしてから紙を切り始めた。どうもペルペルのヨダレで破れた箇所があったようだ。


 半分のさらに半分に千切ってから、飛行機を折り始めた。

 小さくなったが可愛いサイズの飛行機を俺に向かって自慢げに見せる。


 うんうん。うちの子、カワイイなぁ。


 四つの紙片のうち1枚はヨダレでグシャリとしていたが、残り3枚で飛行機を3つ作ってさらに喜んでいる。


 うんうん。うちの子、かしこいなぁ。


 小さな飛行機を飛ばして遊んでいると、一機が女神像にぶつかって落ちた。


 マルクは女神像まで拾いに行ったと思うと、何故か女神像の前で飛行機を持ったままジッと止まっていた。


 どうした?

 俺はヨッコイショっと重たい腰を上げてマルクの元に行った。



「どうした? 飛行機壊れちゃったか?」



 マルクの手元を見ると、そこには紙飛行機ではなく筒状に丸められた……え?何それ。



「何だ? これ……、拾ったのか?」


「ううん、くれた。女神たまがくれたの」


「んん??? 女神さまから貰ったのか?」


「うん! どえにちますかってー!」



 はぁぁ?



「ちょっと見せてくれ?」


「あい」



 マルクの小さい手に握られた筒状の紙、まるでスクロールのような物を受け取る。


 見た目、スクロール。だが、小さい。普段使っていたスクロールの半分くらいの長さだ。


 恐る恐るスクロールを開く。スクロール……だ。サイズはA4の4分の1………A6くらいか?


 小さくても機能するテレポートスクロールだ。

何故わかったかと言うと、開いたと同時に俺のステータス画面のブックマーク一覧も開いたからだ。


 けれどひとつだけ、いつもと違うところがある。


 それは一覧表の中でグレーアウトしているブクマ先がある事だ。恐らくだがグレー文字を指定しても飛べないのだろう。濃い文字とグレー文字……何が違う?


 濃い文字。


自宅中庭、ギルド裏庭、神殿門横、教会裏の木、市場十字路近く、市場串焼き、市場入口、市場椅子、西門、南門外の木、南門中の塀、北門、東門、街の外すぐの草原……


 グレー文字

やまと事務所非常口、死霊の森を出たとこ、開拓村……


 ちなみにゴブリン氾濫の時にブックマークした先や島達の脱走事件で探しまわった時にした登録は、全て削除済みだ。

 今後使うとは思えない、一覧表の中で邪魔だからな。あまりにブックマークが増えすぎたので、他にもいくつか消した。


 濃い字とグレーの字との違い、街の中と外かと思ったが草原も濃いグループだ。


 すると……距離、だろうか?

 ああ、スクロールのサイズが小さい事から飛べる距離も短いのかもしれない。


 これは、ゴルダ案件だな。ゴルダに振ろう。


 ちょっと待ったぁ!俺!大事なとこをスルーしているぞ!


 この、本を持った女神像、魔法の習得は出来たがスクロール作成の条件が不明のままだった!


「材料が足りません」とか出てなかったか?

 マルたん、どうやった!何を差し出した!!


 まさか、この女神…、心の綺麗な者にしか奇跡を与えない……?

 ちゃうやろ!違いますよね?



「マルたんマルたん、女神さまに何かあげたの?」


「うん、あのねー、飛行機! 一緒に遊ぼってあげたー」



 飛行機だと?

 ちょっと意味不明であったが、俺はアイテムボックスから紙を取り出して飛行機を折った。もちろんサイズはA4だ。


 俺は飛行機を左手に持ち、右手で女神像に触れた。



『どのスクロールを作成しますか? テレポート/ブランク/街帰還』



 キィタァァァーーーーーッ!

 テレポートスクロールだけでなく、ブランクスクロールも作れるのか!


 それよりなによりも、街帰還だと?帰還スクロールの事か?


 俺は震える指で『街帰還』を選ぶ。


ポトリ


 くるくると筒状のスクロールが地面に落ちた。拾い上げて開こうと思ったが、慌ててやめた。

 ここで開いて街の入口に飛んでしまったらマルクを置き去りにしてしまう。


 俺は女神像の前にべたりと座り込み、アイテムボックスから出した紙でいくつも飛行機を折り始めた。

 横で見ていたマルクも隣に座り一緒になって折っている。


 10個ほど折り全部持ったまま女神像に何とか触れる。テレポートを選ぶと10個の(スクロール)が俺の手から滑り落ちた。


 おおおお。さらに飛行機を折りブランクスクロールに替えてみた。

 うおおおおおお。女神さまありがとうございます。


 横に座り込んだマルクは飛行機に飽きたのか、鶴を折っていた。

 それも昨日教えたばかりなのに子供の吸収力は凄いな。

 それともマルたんが天才なのか?(親バカ)



 マルクが鶴を持って女神像を触るとスクロールに変わった。


 鶴でもいいんかい!


 いや、飛行機も変と言えば変だが。…………飛行機も鶴も飛ぶ……、飛ぶ系ならオッケーなのか?


 俺も鶴を折って女神像の触るとスクロールの画面が出た。

 A4で折ったので無骨な鶴だったが、鶴の方が女神像に合っている気がする。ほら、千羽鶴とか銅像に飾られてるのをたまに旅番組で見たよな。


 ゴルダに報告に行くが、家に帰ったら皆んなで鶴を折ろう。マルたんを抱き上げて公園の小道を進む。出口まで行ってもう一度倉庫女神にUターンした。



「マルたん、さっきの紙の棒はここにないないしておこうな」


「あい」



 うっかりマルクがスクロールを使うと危ないからな。いやテレポートスクロールならブクマしていないと使えないが、帰還スクロールが混ざってると危ない。


 もう少し解る歳になるまでマルクの倉庫に入れておく。

 ギルド経由で自宅へ戻った。



 夕食後に皆で千羽鶴を折った。


 ユースケが他にも沢山の折り方を知っていて子供らは楽しんでいた。

 ユースケの奥さんがフランス人なので妻の実家に行くと『日本の折り紙』は結構喜ばれるので、色々と折り方を調べたそうだ。




 後日やってきたゴルダに聞かされた。スクロール作成の条件はただの紙(羊皮紙も可)で良いそうだ。ショックより恥ずかしさで崩れ落ちた。


 カオ達が千羽鶴を女神像に供えているのを見た者から、女神像に何かを供えると何かがが貰えるかも知れないと口伝てで広まり、像にお供え物をする者が増えたとか増えないとか。

 貰えたのは運よく紙系を供えた者のみだが。



 しかしこれで4女神のうち3つまで判明した事になる。


・鞄の女神像:倉庫が使える。本人のみ。誰でも可。

・剣と金槌の女神像:武器の修復。壊れた武器持参の冒険者のみ。破損が半分以上を占める場合は不可。商人が試しても使えなかった。

・本の女神像:①魔法習得。魔力によるものなのか、一般人は低ランクの魔法書のみ。他は現在不明。

      ②スクロール作成。紙が必要。テレポート/ブランク/街帰還の3種類から選べる。



 教会中庭の女神像では残すところあとひとつ、花と小瓶の女神像だ。

恐らくポーション作成の女神なのだろうが、ただ花と小瓶を持っていっても『材料が足りません』と出る。


 ギルドでは、回復薬を作る時に使われている薬草を持って行ったらしいが、それでも同じだったらしい。


 いったい何が足りないのか。



 けどまぁ帰還スクロールが作成出来るというのは僥倖だ。ダンジョンでの死者(今のところ出ていないが)や怪我人が減る。

 そうなると、上のフロアへ進んでいく冒険者も増えるだろう。



 ゴルダから紙を融通出来ないかと聞かれた。

 職場から大量に持ってきたコピー用紙があったので、やまと屋会議にかけた。


 コピー用紙は500枚で1包み、それが1箱に5包み入っている。つまり1箱、2500枚か。コピー用紙はA4白だけでも100箱はある。

 とりあえずギルドへ1箱だけ渡す事にした。


 ギルドへ渡す1箱はかなり安価に、そして暇な時は自分達でスクロールを作成して店で売ろうかと会議で決まった。

 ゴルダにもその旨を話した。


 それとこの件はすぐにキック達にも知らせた。開拓村の面々は自分の机の中に紙(資料など)が沢山あるので、すぐ女神像に行くと言っていた。


 あぁ、まぁ余談なんだけど、あの会社、大手の割にペーパーレスが全然進んでいなかったんだよな。おかげで皆自分の引き出しに紙資料が結構あるそうだ。


 失敗したと思ったのは、ダンジョン化する前に資料庫に放置した大量の資料を持って来なかった事だ。

 そのうちそのうちと思っていたらいつの間にかダンジョンなってたからなぁ。


 ゴミの山と思っていたのが宝の山だったとは残念すぎる。くっそう、俺のバカヤロウ。




 ゴルダがスクロールの件を王都へ報告したところ、王都では紙の精製に力を入れる事になったそうだ。

 王都にも女神像はあるらしい。

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