175話 必要な魔法
ダンジョンが解禁となり少し経った頃にゴルダから相談を受けた。
こちらから相談をする事はあってもゴルダからの相談は珍しい。出来れば人の目がない部屋でと言われたのでうちの三階へ連れて行った。
三階はキック達がたまに泊まるのに使っている客間の他、バカデカイ主人部屋や未使用の部屋がある。
バカデカイ主人部屋の応接セットの椅子を勧めた。
職場の応接室より持ってきたヤツだ。部屋の広さに比べるとちょっとショボク見えなくもない。
部屋自体に家具も置いていないのでガランとしているのも原因かも知れないがな。
座るや否やゴルダは話し始めた。
「帰還スクロールの件だ。もしギルドに卸せるとしたらどのくらい用意出来る?」
帰還スクロールかぁ。
もともと手持ちも倉庫にも大して入ってなかったんだよなぁ。お試しだの開拓村だのダンジョンだので結構使った。残りわずかだ。
「今はまだダンジョンで30Fの安全域まで辿り着く冒険者はいない。が、そこから上に行く者達には帰還スクロールを持たせたい」
うぅむ。気持ちはわかる。テレポート魔法や指輪のある俺だってダンジョンは帰還スクロール必須だかんな。
あ、今はメダルがあるから22Fに戻れるけど、まぁ普通は必須だよな。
「うん、それはわかる。けどほぼ在庫がなぁ。無くはないが、渡せる程は無い」
「他に何か代る物はないか?」
うううむぅ。テレポートスクロールはそこそこある。だが、ダンジョンでブックマークは出来なかった。
テレポートの魔法やスクロールが使えないわけではない。
ブックマークが出来ない、つまり、場所の指定が出来ないのでランダムテレポートになってしまうのだ。
これは、魔法もスクロールも指輪もダンジョン内で試してみた結果だ。となると、テレポートスクロールを渡しても、最悪もっと窮地に陥る事になりかねん。
他に使えそうなスクロールと言えば、ブランクスクロールだ。決して多くはないが1500枚あった。
だが俺は、ブランクスクロールを帰還スクロールにする方法を知らない。ゲームでは、ブランクスクロールはWIZが魔法を込めるスクロールだった。
自分のMP節約のために、ライトやヒール、ファイアボールなどを作成していたな。
「帰還」という魔法が無いため、ブランクスクに込められないのだ。
ブランクスクロールの話を聞いたゴルダはゆっくりと瞬きをした後に何かを考えているようだった。
「………ふむ。 女神像はどうだ? 本を持った女神だ」
ああ、それは俺も考えた。教会中庭の女神像のひとつ、本を持った女神。
あの女神は触れると問いかけをふたつしてくれる。ひとつは「魔法」、もうひとつは「スクロール」だ。
今ゴルダが考えたように俺も考えたさ。ブランクスクロールを手に持って女神に触れた。しかし「材料が足りません」と言われた。
「いや、試した、けどさ、材料が足りませんと言われた。材料が何かわからん。具体的に何が足りないか言ってほしいよ。一応ペンとかも持ってみたんだがダメだった」
「そうか」
「すまん」
「いや、こちらが無理を言っている。カオに世話になっているのはこちらだ。悪かったな」
ゴルダは帰還スクロールの件が解決するまで40Fボス解禁は保留にするそうだ。王都にも相談すると言っていた。うん、あっちにも稀人いるんだよな?
山ほど帰還スク持ってるプレイヤーとか、他のゲームで帰還スクが作れるやつがいるかもしれん。
「それと、お前に話しておこうと思う。これが本題だ」
え…何だろ、難しい話はちょっと。
ゴルダの顔はいつもより怖い、そしてその顔を下にさげた。
「この家の警備で派遣している冒険者、アレらはうちの、ギルドの間者だ。お前らを騙す形になった。スマン」
さらに深く頭を下げた。
「え…? 何で謝るんだ? 別に何も問題ないよな?」
ゴルダの事だから俺らを守っていたんだろ?
「お前らを騙していた事には変わりないからな」
「3人とも?」
「いや、夜間だけだ。昼のバズッドは本当に怪我で退いていた冒険者だ」
「なるほど、夜間か。道理で抜けても次がすぐ決まるわけだ」
「ああ、元から短期で交代を組んでいる。稀人を守るのがヤツらの仕事だ。だが、ここで得た情報も貰っている。お前ら稀人がこの街に現れた当初は失望した。しかし、お前とお前の周りは違っていた。おかしな言い方だが稀人らしい稀人と言うのか」
ん?そもそも「稀人」がよくわからん。稀にどっかから来る人…だろうか?
「お前ら、特にお前は聞けば何でも正直に話す。それは、騙す意味がない。騙しているこちらが苦しくなる」
そ、それは申し訳ない。謝った方がいいかな?
「ええと、俺たちは気にしない。ギルドにもゴルダにも物凄く世話になってる事は皆理解している。俺たちが突然来たこの世界で何とか楽しくやっていけるのも、ゴルダやこの街の人達のフォローがあったからだ。こっちこそ頭を下げたい。謝るじゃなくてお礼を言いたい」
「では、俺も。この街、この国を代表して稀人にお前らに礼を言う。ありがとう」
「あ……やめて、やっぱりやめて。何かこれで最後の付き合いみたいじゃん。まさかそうなの? 俺たち捨てられるの?」
「いや、まさか。これからもよろしく頼む」
「よかったぁ。こちらこそこれからもよろしくお願いします」
あ、ついでにちょっと聞いておこう。
「あのさ、ちょっとこっちも相談がある。皮装備や武器ほど在庫が無かったから放置してたんだけどさ、魔法書、ギルドで使わないか?」
とは言え持ってるのは俺がゲームで入手した魔法書だ。ゲームではWIZしか覚えられなかったからこの世界でどうなのかはわからん。忙しくて自分らも試してなかったからな。
「本の女神の魔法取得、俺は習得済みなので断られたんだけど、ギルドで使えそうな人いる? 魔法職の人」
「む、魔法職か…」
「あ、まずはゴルダ、試して見ないか?」
この世界には生活魔法がある、つまり全く魔力がないわけではない。
俺のゲームは魔力があるのはWIZだけだったからな。エルフは精霊魔法と言うまた違った魔法だったし、ナイト(騎士)に至っては全く魔力が無かったからな。血盟内のナイトに、ブランクスクにライトを込めた物をよく渡していた。
俺はアイテムボックス内の魔法書を確認した。
シールド 52冊
ライト 128冊
ファイアボール 45冊
渡せそうなのはこの辺か。
ゴルダと教会の中庭に来た。ゴルダに魔法書「ライト」を手渡して女神に触れてもらった。
ゴルダの手にあった魔法書が眩しく光ったと思ったら消えていた。……成功、したのか?
ゴルダが少し遠慮がちに手を上に上げた。
「ライト」
ゴルダの頭上に光の球が現れた。今は昼前なのでちょっと分かりづらいがライト魔法だ。
もう一冊、シールドを渡した。本が光り消えたので習得したんだな。ゴルダはクルリと俺の方に向かい手を前に出した。
「シールド」
俺の身体の周りがふわりと光った。ステータスを開くと上部に盾のアイコンが出ていた。
「うん。シールドかかってるぞ」
「おう」
ゴルダの口角がほんの少しプルプルしている、笑いを堪えているような?判りづらいが嬉しいのか?
最後にファイアボールの魔法書を渡した。ゴルダは女神に触れたが、ゴルダの手元の本は消えなかった。
「これは無理のようだ」
うん?魔力の関係だろうか?ゴルダから魔法書を返された。代わりにシールドとライトの魔法書を10冊ずつ渡した。
魔法書の価格は王都に問い合わせ後に支払うと言われた。
シールドとライトをギルド職員が覚えられれば、ダンジョンの管理もしやすくなるだろう。
ギルドがシールドを使う事でうちの弁当が売れなくなる事をゴルダは心配した。
「大丈夫だ。うちの弁当は味で勝負だ! てかさ、オマケはシールド以外を付けるから平気だよ」
そう。弁当のオマケを別の魔法にしよう。今までどおりシールド券を付ける、シールドが必要ない人は券を貯めて他のエンチャントと交換出来る。先日話し合った5枚貯めて、10枚貯めてのアレだな。
ゴルダはギルドへ帰って行った。俺は家へ戻り、リビングにいたうちの者に声かける。
「やまと屋会議を開きたいんだけど、皆んな手が空くかなぁ。あ、バイトの子はそのままで。無理なら夕飯の後でもいいか」
「なぁに? 念話で聞いてみようか?」
『おーい、今、やまと屋会議開ける〜?』
『おう、大丈夫だぞ。裏庭班』
『リビングでいいですか?』
『うちらお弁当班AB共だいじょーぶー』
『おう、スマンな。バイト以外は集まってくれ。近くの子供らも一緒に来てもらいたい』
いつものメンバーがリビングに集まった。
「どうしたんだい? カオくん。ゴルダさんの案件?」
「みんな、仕事中悪いな。ゴルダと言うかそれ関係で皆んなと決めた方が良い件があって集まってもらった」
リビングにバラバラと座った皆んなの視線が俺に集中する。
「ええと、何から話すか……。さっきゴルダと教会の女神に行った。ゴルダがシールド魔法とライト魔法を習得した」
「え? じゃあダンジョン関係のシールド弁当はやめるって事ですか?」
「いや、ゴルダさんはダンジョンよりもギルドに詰めてるからそれはないんじゃない?」
「いや、魔法書も渡したので今後のダンジョンにおけるシールド魔法はギルド員がかけるはずだ」
「弁当は今まで通りダンジョン馬車の乗客に売る。ただし、オマケはシールドではない。ほら、この間話した俺がいない間に貯めたシールド券を別の魔法と交換出来るやつ、あれにしようかと思う。シールド券5枚でエンチャント系、10枚でブレスド系だ」
「あ、じゃあ券を作りますね」
「大工ギルドで木切れを貰ってくる!」
「貼り紙も作ります」
「交換券もっと小さくした方がいいんじゃない?」
「そうだね、10枚は結構嵩張るね」
「うん、いいんじゃない? みんなさっそく動いてもらおう」
「あ、待ってくれ。もうひとつ話がある」
「ん?」
「え?」
「ギルドへ渡した魔法書だが、シールド、ライトがそれぞれ10冊だ。まだ残っている。それで、この機会に皆んなも覚えないか? ゴルダで試したがそのふたつは女神で覚えられた。ファイアボールはダメだったんだが」
「ええ!」
「おおおお! やったぜ!」
「ホントですか? 僕らも魔法を使える?」
「ホントかい? カオくん!」
「落ち着いて! 静かに」
「あ、すまない」
「ごめん」
「すみません」
「ええと数に限りがあるので全員とはいかない。そこでまず、シールド魔法。これはまずうちを守ってくれてる警備のバズッドさん、ガイ、ワイズの3人。それと女性代表であっちゃんとユイちゃん。男性代表は山さん、ヨッシー、ユースケの3人。覚えた人は毎日、他のメンバーにシールドをかけてあげる事」
名前を呼ばれなかった子供達は少しガッカリした表情になった。
「それからライト魔法、これは数があるので、警備3人、山さん、ヨッシー、ユースケ、ダン、ロム、シュロ、タビー、ジョン。あっちゃん、ユイちゃん、アリサ、エルダ、キール、ジェシカ。最近来たばかりの5人はちょっと様子見だな」
「うわああ」
「やったぜ」
「嬉しい」
歓喜の声が上がった。
「自分の部屋だけでなく、この家の共同部分や、廊下、中庭、トイレなどにも皆んなで手分けして毎日明かりをかけてくれ」
普段は俺が明かりをかけて周っていた。俺がいない時は、街でも使われているランプを使用していた。
俺の防災グッズのLEDライトもあったが電池の消耗を気にして街でランプを購入してきたそうだ。
皆がそれぞれやってくれれば俺はだいぶ楽になる。
「はぁ〜い!」
「トイレ行く時明るいと怖くないね」
寝ていた夜間警備のガイとワイズを起こして、今の話を説明、留守番してもらった。
皆とバズッドさんを連れて教会の女神まで行ってきた。
魔法を覚えた後の皆の頬の紅潮具合といったらもう、高熱でも出てるのでは?という程だった。
全員で家に戻った後、今度はガイとワイズを連れて女神像へ。
ふたりも子供らと同じくらい顔を紅潮させていた。
その日のやまと屋は、日が暮れたというのに、神々しい光で溢れていた。
「眩しい! ちょ、つけるなら自分の部屋でやりなさい!」
「お風呂あっかる〜い」
「だねだね、夕方だんだん暗くなってくる時に入ってたもんね」
「トイレ! 凄い! スライムが見える」
「あれだね……明るいと意外と掃除が行き届いてなかったのがバレたね」
「ですね。明日から頑張ります!」
「こらあ! もう寝なさい!」
「ちょっと、ガイ、何で店内明かりつけてるんだよ、とっくに店は閉まってるのに」
「あ、ははは、すまん。いや、明るい方が賊が入りづらいだろう」
数日後、竜の慟哭の3人が訪ねてきた。
彼らは弁当のお得意さんでもあるが、外で採れた物をよく持って来てくれる。
その時は猪が獲れたと猪肉の塊りを持って来てくれた。
そうだ!と、彼らにもシールドとライトを一冊ずつ渡した。パーティの誰かが覚えていれば便利だろう。
物凄い勢いで頭を下げていた。ただ、無茶はしないようにと言っておいた。
もちろん開拓村にも渡した。キックとナオリンには各一冊ずつ。
それ以外に2冊ずつ、開拓村で誰が使うかはあちらの自由だ。




