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173話 初月給

 今日はやまと屋の始めての給料日だ。

 本当はもっと前に渡す予定だったが、俺と山さんがギルドに駆り出されていたので、給料日を延期してもらっていた。


 ダンジョンの整備はまだ続いているみたいだが、俺たちは一旦終了となったので、ようやくやまと屋の本業に精を出せる。


 今日は弁当屋は休日で皆にリビングへ集まってもらった。



「ええと、大変遅くなりましたが本日は初の給料を支給いたします」



 子供らはよく意味がわからないようでキョトンとしていた。



「まずは女性からでいいかな?」



 あっちゃんとユイちゃんが頬を染めて嬉しそうな顔になった。



「中松あつ子さん。色々と大変だったと思いますがありがとうございました。お腹の赤ちゃんを大事に、これからもよろしくお願いします」



 そう言って小さな皮袋に入った給料を渡した。

 お札じゃないから封筒に入れて渡せないからな。(入れようと思えば入れられるが封筒が破れた)



「ありがとうございます〜」



 あっちゃんが恭しく頭を下げて受け取った。



「次、大森ゆいさん。いつもありがとう。無理せずこれからも一緒に頑張りましょう」


「はい! ありがとうございます」



 ユイちゃんも嬉しそうに受け取り頭を下げた。



「はい、じゃ、アリサさん」


「あ、あ、はい!」



 アリサが慌てたように俺の前に来てペコリと頭を下げた。



「アリサ、いつもありがとうね。すごく助かってる。これからもよろしくね」


「は、はい! お願いします!」



 渡した皮袋を大事そうに抱えてリビングの隅へと下がった。キール達もリビングの端でアリサを羨ましそうに見ていた。



「キール、ジェシカ、エルダ、こっちにおいでー」



 3人が驚いたように顔を上げてこっちを見たのでおいでおいでと手を振った。

 ひとりずつ渡していく。



「はーい、野郎どもも並んでー」



 山さん、ヨッシー、ユースケ、ダン、ロム、シュロ、タビー、ジョンが一列に並ぶ。



「ええと、僕も貰っていいの? ギルドからこの間貰ったけど…」


「それはそれ、これはこれですよ」


「ありがとう」



 男性陣全員に渡した。

 教会から来るバイトの子にはその都度時給で計算して渡してある。今日は月給扱いの者のみの給料日だ。


 皆がリビングの各々の場所で皮袋の中を確かめていた。俺はお行儀よく座っていたマルクの元へ行き、マルクにも皮袋を渡した。



「はい、マルたん。いつもお利口にお留守番ありがとね」


「あい!」



 マルクの袋の中には昨日焼いて貰ったクッキーが入っている。


 食べすぎないように、小さめのが3枚。

 ちなみにマルクの仕事はイッヌ運動係(遊んでもらってるとも言う)と、セラピー(可愛いさに癒される)だ。


 クッキーを300枚あげても足りないくらいだが、健康に悪いので心を鬼にして3枚にした。マルクは皮袋からクッキーを出して早速齧った。



「うまー! あい」


「ん? くれるの?」



 マルクは手に持っていたクッキーを半分に割り、一方を俺に差し出した。マジ良い子やああああ。



「久しぶりにやまと屋会議しよっか」



 俺がそう告げると、待ったがかかった。



「ちょっと先に教会に行かせて」


「教会の女神に行きたい」


「これ失くさないように女神に預けて来たいです」



 俺と山さんとあっちゃんとマルクの4人以外が教会へと走っていった。たぶん女神像に並んでいるのだろう。

 最近女神像はかなり混雑しているらしいから、暫くは戻って来ない気がするな。


 マルたんと裏庭でイッヌと遊んで待つ事にした。マルタンは残った給料の半分をペルペル達にあげていた。





 皆が教会から戻ってきたのは2時間くらい経ってからだった。


 女性陣が昼食を作ろうとしたが、たまには市場で買ってこようと食べたい物のリクエストを取った。


 アイテムボックスがある俺と山さんが買いに行った。温かい物は温かく食べたいよな。市場は歩いても近い。

 ヨッシーも来てくれたので3人で手分けしてリクエストにある物を入手した。




 食べながら久しぶりにやまと屋会議を行う。



「最近イレギュラーな事があり皆大変だったと思う。今後無理せずやっていくために、思っている事があったら話してほしい」



 子供達にもわかるように話してみた。まず山さんが手をあげた。



「えぇと、今ギルドが開拓中のダンジョンだけど、整備が終わってオープンしたらこの街も人が増えると思うんだ。特に冒険者」


「そうですねぇ」


「俺らも行ってみたい」


「それで、現在作っている弁当数とかも見直した方がいいと思うんだ」


「そうですね」


「今、建築関係のとこにお昼用のお弁当を配達してます」


「建築まだまだ続きそうだね」


「それさぁ、大工ギルドで予約というか先に発注とれないかな」


「お、それナイス! ヨッシー。予め予約弁当と、プラスで当日買う人がいてもいいように多少多めに持って行くとか」


「いいですね。私の中学校が注文パンと当日パンを売ってました。あんな感じかぁ」


「あ、じゃあ、冒険者ギルドと大工ギルドは前日の午後に注文聞きにいきましょう。」


「注文シートとかメニュー表も予め渡しておくと良いですね」



 ユイちゃんが壁際に置いてあったホワイトボードを持ってきて書き始めた。


-------

・お弁当の数を増やす

・冒険者ギルド、大工ギルドに昼食用弁当の配達

  ①注文シート、メニューを渡しておく

  ②前日午後に回収に行く

-------


 ふむふむ、弁当の数を増やすという事は、作る負担が増えるな。


「弁当の下拵えや当日弁当を作るのにもっと人手が必要になるな。今って何人くらいでやってるんだ?」



 ジェシカ達の顔を見る。ジェシカが答える前にあっちゃんが答えた。



「んとねー、下拵えは教会からのバイトの子が3、4人かな。前日に出来る調理はうちらも参加してる」


「んん? ちょっと待って。最近留守にしてた事が多いから誰が何をやってるのか。そこから聞いてもいいか?」



 俺や山さんが定位置に戻った体で説明をしてもらった。



西門販売:カオ、ダン

ギルド前販売:山さん、ヨッシー、ロム、タビー

店内販売:ユースケ、エルダ、ジェシカ、ジョン

家事:あっちゃん、ユイちゃん、アリサ、キール、シュロ

弁当の下拵え、他:教会からバイト数人



 西門とギルド前は8時には販売が終わり、その後は店内の販売や家事手伝いに回っていた。


 皆、臨機応変に動いてくれてはいたが、『家事』担当が『弁当作り』も主体で行っていたので、負担が大きい気がする。


 それにもう少しすると、いや、男の俺にはちょっとわからないが(なかなか聞く勇気もない)あっちゃんも出産近くなったら仕事から外したい。


 出産近くと言うか、安全な出産のためにはどうしたらいいんだ?

 ユイちゃんは未婚だし、男達はちょっと頼りにはならない。以前西門近くの借家にいた時に近くに産婆さんがいたので一度相談した事があった。


 現在は教会のシスター達が相談にのってくれているらしい。今度こっそり聞きに行こう。



「もうちょっと業務……仕事を分けよっか。自分がメインの仕事、サブの仕事って感じで。メイン優先で、手が空けばサブを手伝う。まず単純に分けてみるな」



 ホワイトボードに書いて行く。


------

家事(洗濯、掃除、食事※シーツや大物、共同部分の掃除のみ)

裏庭(草むしり、畑、馬の世話、犬の餌ほか)

弁当販売(西門、ギルド前、店内)

弁当下拵え

弁当作り

-------


「あ、カオさん、大変な作業が漏れてます! お風呂沸かし!」


「おおう、そうだった! これは大作業だ。お風呂沸かしとお風呂掃除な」


「あと、買い物。お弁当用の買い出しは結構な作業です」


「なるほどなるほど。じゃあメインの担当として割り振っていくな。とりあえずだからチェンジありだ」



-------

家事:アリサ、エルダ、

裏庭:ヨッシー、シュロ

弁当販売:ユースケ、ダン、カオ

弁当下拵え:あっちゃん、キール

弁当作り:ユイちゃん、ジェシカ

買い出し:ロム、山さん

風呂当番:全員交代

-------


「最初に名前が出ている人はリーダー、その次がサブリーダーな。山さんと俺はもう暫くは弁当屋に掛かりきりになれないかも知れないのでまぁ補佐的で。ヨッシーとシュロは馬の扱いが上手いので裏庭担当、買い出しは馬車の扱いが上手いロムがリーダー。風呂の時間帯は夕方なので交代制にしよう」


「あ、じゃあ、あの丸くて回る表のやつ、作りますね」


「サンキュー、ユイちゃん」


「お風呂担当は何人ずつにします?」


「今って何人でやってるんだ?」


「掃除は3人、沸かすのもふたりか3人かな」


「じゃあとりあえず、3人でいいか。キツかったらその時変えよう」


「わかりました」


「リーダー、サブリーダー以外は?」


「時間が被らないように組まないと」


「下拵え組は今まで通り教会からのバイトでいいよね?」


「そうだな」


「買い出しと裏庭チームは一緒でもいいかな。馬と馬車が得意なチーム」


「そうだな、俺ら3人でいけそう」


「うん、じゃあ草むしりとかは都度バイト入れてもいいな」


「そうすると残りは、家事、弁当販売、弁当作りですね」


「もう少し従業員を増やすか?」


「バイトじゃなくて?」


「弁当販売、弁当作りは朝が早いからな。家事は通いでもいいが」


「そうしてもらえたらありがたいです。最近店内のお客さんも増えていたから、家事しながらの店番がちょっと慌ただしかったです」


「掃除や洗濯を任せる事が出来れば店番に回れるね」


「弁当販売だけど俺や山さんがいない時は重たい弁当を持っていかないとならないだろ?教会の幼い子供には無理がある。どうする?」


「スラムで探すか。スラムでも大人はダンジョンの道作りに駆り出されてるだろ? そうすると10代半ばくらいか」


「いっそギルドで募集の依頼出してみます?」


「そうだな」


「ただ、住み込みだと部屋をどうするか。2階は埋まってるよな? 3階を使うか?」


「子供だと寮のように相部屋に出来ましたが、大人だとひとり一室かなぁ」


「ああ、そうだなぁ」


「ううむ、これはゴルダ案件か。ゴルダ今忙しいだろうな……」


「とりあえず販売は朝動けるメンバーでフォローしますか」


「あああ! あと、注文販売の注文とりと配達!」


「それもあったかぁ。いや、それこそ、バイトで。大人でも子供でも。」


「ですね…」



 俺も含めて皆考えるのに疲れてきたな(いや俺だけか?)。ホワイトボードを見るとユイちゃんが清書をしていた。


-------

家事:アリサ、エルダ、バイト2名募集

裏庭、買い出し:ヨッシー、ロム、シュロ

弁当販売:ユースケ、ダン、カオ、山さん、(ゴルダ案件)

弁当下拵え:あっちゃん、キール、教会よりバイト

弁当作り:ユイちゃん、ジェシカ、(ゴルダ案件)

注文、配達:バイト2名募集

風呂当番:全員交代(3人ずつ)

※とりあえずフォロー出来る人はフォローにまわる事

-------


 ありがとう、ユイちゃん、凄く判りやすい。



「とりあえず、バイト4名を教会に聞いてみるか、いなそうならこれもゴルダ案件か」


「今、外からの人が増えてますから迂闊に変な人を雇いたくないですね」


「だよなぁ。それな」


「あ、あ、あの!」



 キールが思い切った顔で手を上げた。



「ん? 何だ? キール」


「あの、あの、このお店でいつまで働く事、出来ますか?」



 キールの声は段々と小さくなり顔も俯いていった。皆はキールが言った意味が解らなかった。



「ええと、どういう意味だろう? いつまでってキールが?」


「……はい。わたし、ここでいつまで雇ってもらえるのかって、あの、ここにいつまで……住んで、いいの、いいんですか」



 ああ、そうか。従業員が増えたら足の悪い自分がいらなくなると思ったのか。

 俺はキールの元まで行き、目の高さにしゃがんでキールの頭をそっと撫でた。



「ずっとだよ? キールがいたいだけずっと。キールが弁当屋なんて嫌って言うまでずっとここで一緒に働いて? キールがお嫁に行くまで。お嫁に行ってもここに通いで働いてくれたら嬉しいぞ?」


「うっ、ふぇ、うわああああああああん」



 キールは大粒の涙を零しながら泣きだした。ずっと不安だったのか。自分に手一杯で申し訳なかったな。

 鼻を啜りながらあっちゃんとユイちゃんがキールを抱きしめていた。



「うわあああああん」


 ビックリした。何故だ。マルクが泣き出した。

 え?え?もらい泣き?

 とりあえずマルクを抱っこした。





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