150話 23F(地上2階だけどな)
奥に階段がある?
見かけがオドロオドロしくなった元やまと商事ビル。
大きな石の扉を入ると『22F』の表示があり、通路を進みちょうど真北あたりの壁が畳一畳分くらい奥に凹んでいた。
その壁の前の地面を踏むと壁が左右に開閉されて、中に階段があった。
階段は上に続いていた。
ゴルダが階段を上がっていく。ゴルダに続いて俺も階段を登っていった。階段を登り切った壁に『23F』の文字があった。
俺は慌てて階下に向かって叫んだ。
「おい! 23階があったぞ! 23Fの文字だ!」
「え! 23階ですか!」
「23階もこっちに来たのか!」
「23って何部だっけ? コンサルだっけ?いや総合経理だったか?」
「やまとビルごと来たのか…いや、上だけ?…」
それぞれが叫びながら階段を駆け上がって来た。
ゴゴゴ…
あ、ドアが閉まった!全員が来たから誰も地面を踏んでない。
ちょっ、ヤバっ!慌てて俺は階段を駆け降りた。
閉まったドアの前に着いたらドアはちゃんと中からでも開いた。よかった。
小説の読みすぎか?中に入ったら閉じ込められて、ダンジョンボスを倒すまで出られないとか、小説ではテッパンだったからな。ちょっと、というか、かなりビビった。
「カオくん! ドア…」
「大丈夫だ。ちゃんと開く」
遅れて降りて来た山さんも同じように慌てたようだった。
「いや、ごめん。もしかして23階の人達がいるかも知れないとつい油断した」
そりゃあ慌てるよな?
3ヶ月ほど前に何故かビルの22階のみ、俺たちのフロアのみがこの世界に転移した。
理由はわからないが自分達だけ、と思ってたところにビルの上の階が出現したんだ。
この階に人がいるかもしれない、そう思うのも当たり前だ。
「大丈夫か? 先に進むぞ」
ゴルダに声をかけられて、事情を簡単に説明した。
「残念だが、その可能性は低いと思うぞ」
ゴルダは俺たちの期待をバッサリと切り捨てた。
「え…」
「どしてですか?」
「稀人が現れる時は必ず事前に神託が降りる。今回は王都からも神殿からもそんな報告は来ていない」
「そうなんですか…」
山さんもヨッシーもユースケも他のフロアの社員を期待していたのか、ゴルダの話に落胆していた。
俺は社員ではなかったからな、同期も知り合いもいないしな。
「俺の想像というか妄想なんだけど、死霊の森に落ちた22Fが何らかの力でダンジョン化したんじゃないかな。見た目が変わったのもそのせいかも」
「でもダンジョンだとしたら22階は何も出なかっただろ?」
「ああ、うん、まぁゲームではよくあるって言うか…」
「ああ、入り口の階は魔物がいない安全エリアって事ですね」
キックはゲームをよく知っているようでその手の事に詳しかった。
「だから1階というか22Fは何も出なかったのか」
「すると、ここは何かが出る可能性があるんだな?」
俺たちの会話を横で聞いていたゴルダは何となく理解したようだった。いや、あくまで俺の妄想だけどな。
「まぁ、ここから先は気をつけた方がいいと思う」
22Fは曲がりくねってはいても一本道で入り口まで戻る事が出来た。
が、ここ23Fは、T字、三叉路、交差点など、進むべき道が幾つにも分かれていた。
もちろんマップには23F全域が表示されているわけではない。自分達の周り、少し先までだ。これは気軽に散策とはいかないようだ。
「ゴルダ、一度下に皆んなで戻らないか?」
「どうした? 何か不都合か?」
「帰還スクが使えるか試したい。いざ、という時に使えなかったら笑えない。ダンジョン?の中で俺が持ってたスクロールが使用できるか試したい」
「あ、じゃあ俺らはここで待ってるから、カオるん行って来てよ」
「そうだねぇ、また北の階段まで来るの大変だし」
「いや、ダンジョンは何が起こるかわからん。階段が常に同じ場所にあるとも限らない。全員一緒に行動した方がいい」
俺がビビリなせいか、ひとつひとつ安心しながら進みたい。ゲーム(ダンジョン)未経験な者にどう説明すればわかってもらえるのか。
「22Fへ…全員で、戻った方が…よい。ここはブックマークが出来ない」
ナイスだ、キック。キックはどうやら23Fの階段前をテレポート用にブックマークをしようとしたようだ。
ゲームではありがち、ダンジョン内はブックマックが出来ないケースが多い。だから、何か起こった時は各自が帰還スクで街に戻るしかない。
「やはりそうか。このダンジョンもテレポート用ブックマークはできないのか。なら、なおさら、帰還スクが使えるか試したい」
俺を残して全員階段で22Fに降りてもらった。
俺は23Fで帰還スクを試して急ぎテレポートで街から戻ってきた。
22Fの通路を猛ダッシュ(やはり魔物はいないようだ)、北側の階段にいた皆合流した。
「帰還スクは使えた。23Fに上がって進むが、危ないと思ったら各自自分の判断で街へ帰還してくれ。他の人を助けようとしたり誰かを待とうとはしない事」
「そうだな、今回はこの塔が何なのかを知るだけでいい。ただの建造物なのか、ダンジョンなのか。その後はギルドで高ランクの冒険者により探索予定だ」
そして俺たちはまた23Fへ上がり、例のフォーメーションで通路をゆっくり進んで行った。
「止まれ! 何かいるぞ」
「ホントだ…スライム? 動いてる」
前衛のゴルダとキックが魔物を見つけたようだ。しかも、スライムだと?
スライム。
俺のやってたゲームのスライムはほぼ水たまりみたいなやつだった。倒しても何も落とさないし経験値も貰えない、プレイヤーからは完全無視されていた存在。
かく言う俺もたまに暇つぶしに杖で叩いて遊んでいた。レベル15超えるとスライムは瞬殺だ。ナイトや火エルフは素手でワンパンしてたな。
だが、ファンタジー小説やアニメに出てくるスライムは、丸っとカワイイやつが多いな。話したり役に立ったり、主人公のお供的なのもいたな。
果たして、この世界のスライムはどっちなのか?この位置からは遠くて見えないな。
「スライムはこちらが攻撃しなければ何もせん」
ゴルダからこの世界のスライム情報ゲット。なるほどぉ、そうなんか。
「踏まないように進むぞ」
前衛の後を追い進んで行った。
スライムの横を通る時にチロっと見ると、“水たまり系”の見た目だった。ちょっとガッカリした。
「スライムを攻撃するとどうなるんだ? 酸を飛ばしてきたり魔法を使ってくるのか?」
攻撃しなければ何もしない、というゴルダの言い方が引っかかった。
つまり攻撃すると何かしてくるって事だよな?
「スライムは弱いからよっぽどの事がない限り逃げていく。何も飛ばしてこないが、張り付かれると厄介だ。張り付いてじわじわと獲物を消化する」
「ええ! こええええ」
「踏まないように気ぃつけるぞ」
「そっち系…なんだ」
気をつけないと、それって俺、絶対踏むやつだよな?ヤバい、自分でフラグを立ててしまった。
踏む気しかしない。(いや、何を言ってるんだ、俺。日本語が変だろう)
「スライムは基本放置でいいかもしれんが、他の魔物と戦ってる時に張り付かれると厄介だな」
「ふむ、そうだな。今回は倒しつついくか」
「それがいいと思う。皆んなの訓練にもなるし」
というわけでダンジョン初バトルとなるわけだ。少し進んだところでスライム発見、まずはキックが両手剣でスライムを切った。
キックすごいな、物怖じせず向かっていった。切られたスライムは光の粒となって消えた。
確かに何もドロップしなかった。
その近くにもう1匹いた。今度は山さんだ。
山さんは盾を地面に置いて剣を両手で持ち直し、スライムにソロリソロリと寄っていき、えいっと掛け声と共に切り付けた。
剣が地面に食い込んでしまったがスライムは切れたようで光の粒と消えた。地面に斜めに刺さった剣を抜くのに苦労していた。確かに地面の上のモノを切るのは難しいよな。
「次俺やる! はい! 俺!」
キックや山さんの勇姿を見たヨッシーが名乗りを上げた。キックに後方の警戒を頼んでヨッシーが前に出た。
少し先にちょうど壁に張り付いたスライムを見つけた。ヨッシーは弓だ。地面の敵より壁の方が狙いやすいだろう。
それでもかなり近づいてからスライムに向けて矢を射った。スライムは消えた。
次はユースケだ。ヨッシーとチェンジしたフォーメーションで進んでいく。スライムが地面に3匹いた。
ユースケは少し離れたまま、まず1匹倒した。
「連続で倒していいですか?」
「おう」
ゴルダの返事を聞いて残りの2匹も倒す。
ユースケは元のフォーメーションに戻っていった。あとは俺か。
杖で殴るか、魔法で倒すか…。歩きながら悩んでいたら前衛から声がかかった。
「カオさん、いました」
「お、おう」
俺は前衛のキックやゴルダを追い越して先頭に出る。3メートル先くらいに水たまりのようなスライムがいた。ゆっくり近づいて杖で軽く叩いてみる。
ポコン
シュワっ
おおう、瞬殺出来た。魔法を使うまでもないな。それを見ていたヨッシー達が大騒ぎをした。
「ちょ、杖、ズルくねえか?」
「剣より強い杖って何なんだろう」
「カオさんが凄いのか魔法使いの杖が凄いのか」
「……WIZ…いいな」
その後はフォーメーションのまま進み、各自が自分に近いスライムを倒していった。
壁や天井は後方の弓が、地面にいるモノは前衛の3人が。俺は暇だった。いや、俺には重要な役目があったのだ。
天井にライトを設置する。もちろんホテルライトだ。
道はゴルダに任せていた。時々マップで確認するが、同じ道をグルグル通る事はなかった。
ゴルダにとっても初見のダンジョンのはずなのに道に迷わないとは!ゴルダ恐るべし。(あ、何かのスキル持ちか?)
元から方向音痴でマップがあっても迷う俺はゴルダを羨ましく思った。
23Fのマップはかなり網羅されてきていた。
そして山さんたちが僅かに期待していた23階の社員と出会う事もなかった。そもそも事務室のような部屋も広場もなかった。
それより、外から見た建物よりも中は格段に広かった。まぁ、“ダンジョンあるある”だよな、謎空間。
ゴルダが足を止めた。
「この階はだいだい回ったと思う」
ゴルダもマップ機能を使えるのだろうか?確かに23Fのマップは完成されたようだ。途中で切れている未通過の道はない。
俺たちは現在、23Fの東端のあたりにいる。このまま右沿いに進むと22Fへ降りる階段に戻る事になる。
あ…。
「ゴルダ、その行き止まりっぽい壁のとこ、さっきと同じ模様がマップに出てる」
「あ…ホントだ」
「そうだね」
キックと山さんもマップを確認したようだ。
ゴルダが行き止まりの壁の前に立つと壁が左右に開いた。
ゴゴゴゴ




