145話 死霊の森のやまとビルが!
開拓村に武器防具を渡してから少し経ったある日。
『カオさん! 今いいですか?緊急事態なんですけど!』
朝の西門前での弁当販売終えて店に戻り、店番に混ざりつつまったりとしていた時、キックから念話が入った。
いつも小声でボソボソ話すキックにしては珍しくハッキリと大きな口調だった。
『どした! 村に何かあったか?』
キックの慌てた様子に開拓村がモンスターに襲われてるのかと焦った。
『いえ、村じゃなくて、あの、やまとの、職場の、あの、ビル、いえ、ビルじゃないか、職場が』
『職場? 開拓村の農作地か?? 村の畑にイノシシでも出たか?』
『ちがっ、村じゃなくて』
『ちょっと、落ち着け』
『あー、あー、ええと、とりあえずそっちに飛びます』
直後に裏庭でイッヌが鳴いた。
バウン
近くにいたダンに一声かけてリビングへと急いだ。
ちょうど裏口からキックが入ってきた。ジェシカが来客のお茶を用意しにキッチンへ行くのと入れ違いにあっちゃんが出てきた。
「どしたのー? 菊田さん、そんなに汗かいて」
「いや、あ、こんにちは。おじゃま、します」
慌てながらも挨拶をキチンと返すところにキックの人柄が見える。
「緊急事態って何だ? 皆んなを呼ぶか?」
「あ、ええ、そですね。ええ」
そのやりとりを聞いていたジョンとロイが2階や裏庭の洗濯場へと走っていった。
うちの子らってホントに気がきくな。阿吽の呼吸で動いてくれる。
冒険者登録出来る歳になったらパーティ組んで狩りに連れて行ってあげよう。
ジェシカが入れてきたお茶を飲みキックは少し落ち着きを取り戻したようだった。
この時間は店にいるはずの俺がリビングにいるのを見つけたマルクが膝によじ登ってきた。
山さんやヨッシー達もゾロゾロと集まった。
「どしたの?」
「キックが緊急事態って飛んできたから、一応集まってもらったんだけど」
「あの、あの、はぁぁ、ふううう。あの!」
キックは息を整えながら何て切り出すか言いあぐねているようだった。皆んなはキックが話し始めるのを根気強く待った。
「俺、あの、開拓村で皆んなで話して、あ、テレポートスクロール貰ったし、やまとの事務フロアに、何かないか、探しに、あ、俺と新田さんは、鹿野さんとあそこに行ったから。俺、その時ブックしたから」
「んんん〜?」
「ん?」
若干名が理解不能な顔になっていたのでまとめてみた。
「えぇと、つまり、死霊の森のやまとビルの事務フロアに、何かお宝が残ってないか探しに行ったと? 以前に俺とキックとナオリンの3人で机やロッカーを取りにあそこに行った時にブックマークはしてたから、テレスクで飛んでみた、ってとこか?」
「そうです。そうです」
「で、何でそんなに慌ててたんだ? モンスター激湧きしてたか? でも、今、昼間だろ? アンデッドはそんなに湧かないはず…」
「まさか、また、魔物の反乱ですか? ゴブリン?」
ユースケはちょい前に起こったゴブリンの反乱を思い出したようだ。
「あ、ちが、魔物は近くにはいなかった」
「じゃ何でキック、そんなに慌ててるんだぁ?」
ヨッシーの疑問はもっともだ。ここにいる全員もそう思った。
「あの、ふう…」
ゴクリ。
キックが唾を飲む音がハッキリ聞こえた。ど、どうしよう、つられて俺も口の中にツバが溜まってきた。このままだと口からヨダレとして垂れてしまうぞ。
と、そこにキックの口から爆弾発言が。
「事務フロアが、無くなってました」
ブゥッーーーー(ツバ、吹いた)
「え?」「は?」「え」「うそ」「はぁ?」
「無くなって、ました」
「無くなって?」
膝の上にいたマルクの頭にかかったツバを慌てて拭いた。マルクは何故か楽しそうにキャッキャとしていた。あ、こら、ツバ擦らないで、手も拭こうね。
あっちゃん達は目を見開いて無言で口を開けていた。
事務フロア。
元の世界との唯一の接点だった場所。やまと商事の、自分達が働いていた事務フロア。
俺らは、事務フロアごとこの世界に転移した。
それが、無くなった?
「あ、無くなったって言うか、無くもないっていうか」
「「「「「「?」」」」」」
「伸びた? いや、違うな。別の建物になった?」
「すまん、意味がわからん」
「ビルって伸びるものだっけ?」
「建て替え???」
「すみません。うまく、言えなくて。あの、カオさん、一緒に飛んでもらえませんか?」
「あ、ああ、そうだな。見たほうが早いか」
「あ、僕も行きたいです」
「俺も」
「私も」
結局、山さん、ヨッシー、ユースケ、ユイちゃん、俺、キックの6人で行く事になった。
あっちゃんも行きたがったが妊婦さんに万が一の事があっては困るので留守番だ。もちろんマルクもお留守番だ。さっきは俺のツバをかけてゴメンな。
皆んなを連れてエリアテレポートで一息に飛んだ。
やまとビル事務フロアの非常口の壁の前、に、飛んだはずだった。
出発する時に、そこをブックマークしたから。
そこには、俺らが働いていた22階のフロアがポツンと落ちていたはずだった。上の階も下の階もないただの平家のように22階のフロアが地面の上に置かれていたはずだった。
だが、今、俺らの目の前には、ニョキニョキと聳え立つ建物が。
「伸びた?」
「伸びたね?」
「伸びるんだ?」
へぇ、ビルって伸びるんだ?
って、伸びねぇだろ!




