144話 閑話 アレコレその後②
【注意】
ザマァ系を好まない方はこの回を飛ばしてください。
あまり気持ちの良い話ではないです。
この作品でこれが最後のザマァになります。
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-------6人の奴隷《その後》-------
市場で盗みを働き、奴隷商に売られた6人。
土屋、中倉、上野、田畑が50代後半、北本、上尾は40代半ば。
日本では、4〜50代の働く女性は実年齢より若く見えたし、結婚しないおひとり様もさして気にされない世の中になっていた。
まぁ若く見えるというより、その歳でも親離れ出来ない幼さとも言えたかもしれない。
だが、こっちの世界では15歳が成人だ。それ以前、早い子供は10歳くらいから働き出す。
昔の日本でもそうだったかもしれないが、この世界では農家の家の子供は5歳くらいでもう手伝い始める。
当然、結婚出産も早い。10代で出産、30代で孫がいるのが普通であったりする。
そんな世界で、いくら稀人と言えど4〜50代。
奴隷商は頭を悩ませた。
女奴隷だが若くもなければ美しさもない。そっち関係の店には売れない。とすればもう下働きや力仕事しか残っていない。
売りに出す前にある程度仕込もうとしたが、これがまた使えない。驚くほど使えない。
礼儀作法も出来ず、教えた仕事も要領を得ずまともに動けない。他の奴隷仲間からも「グズ」「ノロマ」と罵られ叩かれたりしている。
初めのうちはよく泣いた。泣くたびにムチをくれていたら泣かなくなった。しかしここまで使えないと奴隷としての売り先に困った。
「こんなにクズな奴隷は久々だな…」
奴隷商は途方に暮れた。
「もう、あれしかないか」
どうにも使い物にならない6人を見ながら、奴隷商は気がすすまないのか深いため息をついた。
闇市で売りに出す。
たいした金額にならないが、このまま食費がかかり続けるよりはよい。
売れない奴隷や死にかけた奴隷の行き着く先、囮奴隷、餌奴隷。危険な場所を通る者達が二束三文で買う。使い道は、魔物の餌。
6人ともなんとか売れた。
首と手を縄で縛られ引きずられて行く様を見送りながらふと思う。
もう少し本人にやる気さえあれば、たとえ奴隷でも長生き出来たのにな。いや、あの歳まで生きたのだから十分長生きか。
奴隷闇市はこの街には無いので闇市がある1番近い街までの往復でかかった金と売れた金でトントンだ。
儲けが無い上に手間ばかりかかった。後で……に文句を言わんことには気が済まんな。
やれやれ、と奴隷商の主人は店に戻るのだった。
-------鉱山行きの9人《その後》-------
度重なるギルドの依頼失敗で鉱山行きになった9人。
小川、中野、1係の契約社員7名。
1係の7人はいつも思っていた。1係で働く50人の中で40代の自分達世代が一番だと。
60代のお婆ちゃんらは定年退職した元社員の妻、50代のオバさん達は団塊世代の威張ってるだけが取り柄のおっさん社員の妻。
30代は若さを誇ってるようだけど所詮は下っ端社員の妻で、しかもすぐ辞める。(辞めるのは自分達が仕事を押し付けていたせいであるとはこれっぽちも思っていない)
だから、この職場で自分達40代が一番だ。何しろ、やまと商事でも働き盛りの夫を持つ妻なのだから。
6係の女性社員である小川と中野は常に思っていた。50代独身だが、自分は本部で働いているバリキャリだと。
事務のような雑用は仕事のできない下っ端がやればいい、と。
そもそもこの部署は「事務統括本部」と言う名の、事務の総本山なのだが、彼女らは30年間それに気がつかず、事務は雑用と信じきっていた。
では、職場で何をしていたのか?何もしてこなかったのだ。
9人で行動を共にしていたが、心の底では自分以外を蔑んでいる個人主義の集まりだった。
そのくせひとりで行動出来ないので結局つるんでいたのだが。
夫自慢の妻達は独身の小川らを“結婚出来ない女”と蔑み、小川と中野は1係を“夫にぶら下がる寄生虫”と蔑んでいる。
そしてなぜか全員が自分だけは“デキル女”と勘違いしていた。
ギルドで仕事を受けた。
『荷運び』はレンガを荷台に積んで建築現場へ運びそこで下ろす、を繰り返すだけだった。
子供でもひとりで引ける小さな台車を彼女らは9人で引く。というか2〜3人で引き、あとはゾロゾロと付いて歩く。
レンガを下ろすのも2〜3個触っては飽きてしまい誰かが休むと皆座って休んでしまい作業は進まなかった。
依頼書に記載された金額「銅貨5枚」は1日につきひとり分の金額と都合よく勘違いをしていた。
ゆっくりと何日もかければ、9人が毎日5銅貨ずつ貰えると思っていた。
初日に小川が代表でギルドへ報告に行った。
9人分の45銅貨を貰えると思ったが5銅貨しか貰えなかった。小川は5銅貨を自分だけ貰った事をみんなに黙っていた。
最終日に他の人の分(残り)をくれるのだと思い、皆んなにもそう報告した。
ギルドは初日に小川が来た時点で仕事が終了したと思い5銅貨を渡したが、5日後に現場監督からクレームが入った。
「レンガ運びに何日かけてるんだ!まだ届かないぞ!」
慌てて彼女らから話を聞き、お互いに勘違いがあったとしたが、渡した5銅貨はもう使ってしまったという。
現場監督から他の者にしてくれと言われ、小川達の受けた依頼は失敗と判断された。
ギルドに叱られたが“自分は悪くない”と常に思っている9人だ。
次に『店の清掃』と『スラム近くの下水の掃除』という依頼を受けた。
それ以外で出来そうな仕事が無かったからだ。荷運びもあったが重い作業はイヤという意見にまとまり、掃除ならラクそうと、掃除関係をふたつ受けた。
店の方が2名募集、下水が5名募集だ。
9人いるが仕事の依頼は2名と5名。
「下水って何か汚なそう」
「私、店の方にするわ」
「私も店にする」
「私も店」
全員が店の清掃を選び揉めた。
「うちら6係が2名だから店にするね」
「そうだね。1係は7人いるから下水掃除はそっちで決めれば?」
「何それ、結婚出来なくてマンションにひとりで住んでるって自慢してたじゃない。トイレ掃除とか得意なんじゃない? 独身者が下水掃除行けば?」
「私は実家だから母と同居だし掃除は母がしてくれてるから無理」
「信じられない。その歳で親と同居で掃除した事ないの?」
「なら下水掃除で練習すればぁ?」
ギルドの外で揉めていたら職員が出てきて怒られた。しかたなくジャンケンで決めた。
店の清掃というラッキーな方を掴めたのは小川と中野だった。さっそくふたりは店に向かった。
仕事は道具屋の店内の掃除だった。狭い店の中に数々の謎の道具が雑多に置かれていた。
掃除を始めたふたりだったがさっそくやらかした。
何かわからない器具の埃を拭こうと持ち上げた小川に床を掃いていた中野の尻がぶつかった。小川は持っていた器具を勢いよく他の道具の上へと手放した。
ガッシャーーン ガラガラ ガシャン
当然壊れた。
「おいおいおいおい、何してるんだ!」
壊れた道具を見て店主の顔は真っ青になった。
「あぁ、すみませーん。もう中野が押すからぁ」
「邪魔なとこに突っ立ってる方が悪いんじゃん?」
ふたりは即ギルドへ戻された。多額の借金と共に。
その頃の7人。下水掃除の現場まで来たが、渡された掃除道具を押し付けあっていた。
「くっさああい、無理。私には無理」
「汚な! 何これ、下水ってこのトンネル?」
「ムリムリムリ、やめようよお」
「でもさ、これ以外仕事無かったじゃん」
「じゃあアンタがやりなよ」
「ナニソレ!」
「ここ掃除するの絶対ムリだから」
「……ねぇ、これだったら村のがよくない?」
「街で仕事しようと思ったけど碌な仕事無いじゃん」
「開拓村…行く?」
「バックれよう」
1係の7人は掃除道具を放り出してその場から離れた。
開拓村への道がわからなかったのでギルドの近くをうろついているところを職員に確保された。奥の部屋には小川と中野もいた。
開拓村へ戻るので行き方を教えてほしいと話をすると、依頼失敗、依頼放棄などにより”鉱山送り“になると説明された。
今までは失敗してもどこか緩く許されていたのに、今回ギルドの職員から厳しい処遇を受けた。
「ここから一番近い鉱山まで3日だ。今からすぐ出発する」
9人一緒かと聞かれたので何人かがうなづいた。すると小川達がした大きな借金を鉱山で働き9人で返すよう言われた。
「9人だとだいたい5年ほどか」
「え、じゃあ私達7人と小川達は別で!」
「そうなるとお前ら7人は半年、ふたりは20年ってとこだ」
「あ、それでお願いします」
「え! 何それ ヒドイ!」
「だってそっちの失敗でしょ?」
騒ぎ出したがギルドから職員を3名つけて鉱山へ出発させた。ちなみに歩きだ。
鉱山までは街道があり、それほど危険はないと思うが念のため職員3名と馬3頭だ。
馬には往復の食料などが積まれ、彼女らを送った帰りは馬に乗って戻ってくる。
日本の商社の事務作業、9時5時のデスクワークさえ碌にやってこなかった9人だ。
開拓村の作業などもほとんどやっていなかった。だが鉱山はそれらと比べ物にならないくらい厳しかった。
外に比べてかなり冷えた鉱山の洞窟は深く、休む事も許されず碌に水も貰えずひたすら働かされる。
手で掘った石を外に運び出す。トロトロ歩いていると怒鳴られる。座って休むと鞭で打たれる。
親にさえ殴られた事のない彼女らに鞭で叩かれる痛みは強烈だった。手も足も顔も土と血で汚れ、着ていた服もボロボロ、履いていた事務サンダルはバックルが千切れてしまいもはや裸足になっていた。
少量の水と硬いパンが夜に一回配られる。それを食べたら、洞窟の入り口付近の地面に直に寝る。
3日もすると誰も喋らなくなり、ただ虚ろに石運びを繰り返す。
ある日、寝転がっていた小川の近くから1係の誰かの小さい声が耳に入った。
「ねぇ うちら、半年でよかったね」
「うん。きつくてツラいけど、でも半年我慢すれば…」
小川は真っ暗な空間を見つめながら自分の中も真っ黒な空洞になっていく感じがした。
20年……。
洞窟の中を移動している。今いるところは鉱石を掘り尽くしたようだ。
「暗いから足場に気をつけろ!」
現場監督のような大男が叫ぶ。左側の壁沿いに細い足場を一列に並んで進んでいく。
右側は崖のような穴が空いていてうっかり足を踏み外すと大変なことになる。
自分の前は1係の女性が3人、縦にピッタリとくっついて進んでいた。
20年。
小川はウッカリ、そう、うっかり躓いたように前の人の背を押した。
「きゃああ」
「いやあああ」
「やあああ」
くっついて歩いていた3人が右の崖下に落ちていった。
「ちっ! 気をつけろと言ったのに! ほらさっさと進め!」
男は助けには行かないようだ。鉱山ではよくある事らしい。
1係が3人減ったので残りの4人の鉱山刑期が1年に延びたらしい。
夜、寝ていた時に隣にいた中野が小さな声で話しかけてきた。
「私、見てた」
「うっかりだよ。わざとじゃないよ」
「そうだね、よくある事だよね」
「うん。よくあるから気をつけないとね」
その後も“よくある事故”は続いた。1係が最後のひとりなったとき、小川達は彼女に選ばせた。
「うっかり事故に会うか、うちらの刑期を均等に背負うか、どっちがいい?」
小川と中野は20年ずつで合計40年、それと1係の分を入れても3人で割ればひとり15年に縮むはず。
受け入れた彼女を連れて監督のところに行った。
ある日の朝、小川と中野は頭を潰されて息絶えていた。
近くには血塗れの大きな石と、刑期を延ばされた1係の女性が宙を見つめて座り込んでいた。
鉱山では、よくある事。




