141話 お裾分け
弁当屋は何となく波に乗って来た。
が、まだ様子見段階なのでそこまで大量に作ってはいない。第一目標は「安定した業務」なので、このまま頑張ればクリア出来そうだ。
第二目標は「弁当屋の安定した運営と人材育成」だ。
生活を安定させつつ皆んなの冒険者レベルも上げていきたい。この世界、何があるかわからない。
先日のゴブリンの氾濫の様な事が起こった時に生き残るためにも、各人のレベルを少しでも上げた方がいいと思っている。結局いざという時に自分を守れるのは自分だ。
なので弁当屋の儲けが出るようになったら人を増やして、俺らの時間を確保するつもりだ。
そう言えば、キック達はどうしてるかな。
POTとスクを渡したあとバタバタと開店準備に掛かり切りになってたからな。
まぁ、渡した物だからあとは開拓村で好きに使ってくれればいいか。
とは言え、街より開拓村の方が危険度は高いよな。POTとスクしか渡してなかったけど、倉庫にあった武器と防具も少し渡しておくか。
ゲームの低レベルモンスターからのドロップ品なのでショボイものばっかだけど無いよりはマシだろう。
俺は長谷川さん、キック、ナオリンの3人とうちのメンバー5人にメールを送った。
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やまと屋会議 開催のお知らせ
関係者各位
本日夕方6時より、やまと屋の一階リビングにて会議を行う旨お知らせいたします。
夕食込みですので空腹のままご参加ください。
諸事情により参加が不可能な方は返信いただけると幸いです。
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「何だよ、カオッチぃ。俺らここに居るんだから口で言えよぉ」
すぐ隣で昼飯を食ってたヨッシーがこっち向かって口からメシを飛ばしてきた。
そう、昼飯を食いながらメールをしたのだ。
「え、だって、同じ用件だしメールだと一回で済むだろ」
「今日は子供達に早めに夕飯食べさせますね」
ユイちゃんは気の利く良い子だ。
その後、不参加メールは来なかったのでどうやら開拓村の3人も来れるようだ。
今日は男子風呂の日だ。男どもと子供達が風呂に入り、若干早めに子供たちに食事を取らせていると裏庭のイッヌが吠えた。
と、言ってもボワゥと一回だけ鳴いた。裏門から客が来た時の鳴き方だ。
うちのイッヌは利口なので知り合いに吠えかかったりはしない。いつかの土屋達のときは吠えまくったらしいがな。ふふ、賢いやつらめ。
リビングに長谷川さん達が入って来た。
「どうも、先日は回復薬とスクロールをありがとう」
「おう、らっしゃい」
「いらっしゃあい。長谷川さんキック、あれ? ナオリンは?」
「どもです。お邪魔します」
「新田さんは庭の犬に抱きついてましたよ。あれはセントバーナードですか?」
「そうそう、うちの番犬ちゃん。大きいけど人なつこいでしょ」
「あ、アリサ、あとはこっちで用意するからもう2階に上がっても大丈夫だよ」
お茶を淹れようとしていたアリサをユイちゃんが止めた。ご飯を食べ終わった子供らが次々とリビングを出て行った。手の空いた者でテーブルに夕飯を並べていった。
「食べながらお互いの近況報告しよか」
「村はどうなの?」
山さんがスープを飲みながら長谷川さんの方を向いた。
「お陰様で順調です。村の人ともうまくいっていますし、皆んなで頑張ってます」
「家があってベッドがあって食事も出来る。それだけでもみんなイキイキしてるよね」
「あっちの世界じゃ当たり前の事だったんですが、その当たり前な事がどんなに大事な事か、無くして初めて気がつくんですね」
ちょっとしんみりしてしまった空気を破るように山さんがまた話題を振った。
「畑は順調?」
「いや、どうだろ? まだ植えたばかりで…。今はまだ食料は菊田くんと新田さんの狩りに頼り切りってとこですね」
「でも、みんなも、村の人も頑張ってるよ」
うん。そっか。順調そうで何よりだ。
食事を食べ終わっていた俺は用件を切り出した。
「でだな、いきなり呼び出したのは、武器と防具を少し渡そうと思ったんだ。ほら、倉庫から色々出てきたって話しただろ? この間は取り急ぎPOTとスクだけ渡したけれど、武器と防具があった方が狩りの危険度も減るからな」
「それはありがたい…です。新田さんは拳士だから基本彼女自身の腕が武器だし、自分の初心者装備もワンセットだから…他の人に貸し出せない…」
そうだな。開拓村でのゲーム経験者はキックとナオリンだけだからな。他の人に貸せる余剰装備はなかっただろう。
飯を食い終わった者からポツポツとリビングへ移動した。
俺はアイテムボックスから出した武器をリビングのマットの上に並べていった。
「ショートソードとシルバーソード」
素朴な感じの短い剣と、それに似た感じだが刃が銀で出来た剣を置いた。
食事を終えた面々がマットに置かれた剣を恐々と覗き込んでいた。
「SLSも、あるにはあるが…」
「エスエルエス?」
長谷川さんが何だろうと言う顔をした。長谷川さんはオンラインゲームは全くやった事がないらしく、その手の用語の知識は無いそうで戸惑う事が多いらしい。
もっとも開拓村にいる元やまと社員はほとんどがゲーム素人だ。安田さんなんかゴブリンの事をカッパって言ってたくらいだからな。いや、まぁ、似てるけどね。
「SLSはシルバーロングソードの略。長い剣は初心者には扱いも難しいだろう。それに数が少なくて渡せるほどはなぁ」
実際、倉庫(今はアイテムボックスだが)にSLSは9本あったが、今後はこっちのメンバーで使用していく予定だ。
俺は自分専用があるが、ヨッシー達や店の警備員用で使いたいと思っている。
「シルバーソードの長いバージョン?」
「そう。シルバー…銀武器は対アンデッド用だ。持っていた方が何かの時に役立つ。普段はショートソードでいいが、万が一の時用にアンデッド武器はあった方が良い。俺は魔法使いで普段は杖だがSLSは必ず携帯してた」
「この辺ってアンデッドの魔物も出るんですか?」
「俺らが落ちたのが死霊の森だろ?絶対いる。見てないけどいる。名前が死霊の森だし」
「いますね。死霊の森ですから。見てないですけど」
「見てないけど、いるんだ…」
「ぞ…ゾンビ?……いるんだ」
ショートソードを8本とシルバーソードを5本渡した。
「全員分無くて悪いな」
「いや、これだけでも、十分助かります」
ボソボソとした喋りだがキックはゲームの記憶を掘り起こしているようだった。
低レベル者で混み合ってた『荒れた地』、キックも行ってたのかな?あそこ、ゾンビ湧き湧きだったからな。
でもお金がドロップするから稼ぎ場として結構流行ってたな。
「そうですね。今はまだ村で武器なんてとても買う余裕はないですから」
「そうだね、ありがたいね」
「カオさんありがとうございます」
「いやいや…」
次に弓と矢をマットの上に出した。
「それと、ショートボウ。こっちのが開拓村では必要だろ? ただな、矢がそんなにないんだよ。俺は無限の矢筒使ってたから、矢は倉庫にかろうじて千本だけあった」
「何?無限の矢筒って! 名前聞いただけでズルそうなんだけど」
「あはは、まぁその名の通り? 無限に矢が湧く矢筒」
「そんなのがあったんだ…あのゲーム」
「実際、本当に湧くんですか?」
「うん。試した。見た目5本しか入ってないけど1本使っても5本入ってた」
「何かそんな歌なかったか?ポケットのビスケットが無限に湧く歌」
「ああ、あったなー。うちの子も歌ってた」
「とりあえず千本のうち半分を村に渡していいかな。俺らは街で矢を入手しやすいだろうし」
「村ではどうしてるんだろう? 手作りの弓を使ってたけど、矢も手作り出来るなら自分達で作っていいし」
「じゃ、とりあえず500本だけ渡しておく。こっちで手に入ったらまた渡すわ」
「うおう、500本!」
「どもです」
ショートボウ12と矢を500本(10本ずつの束になってた)を渡した。
「あと防具なぁ…。皮シリーズが結構な量あるからサイズはわからんが持っていってくれ」
そう言ってまたマット上に置いた。
レザーキャップ
レザーアーマー
レザーブーツ
レザーサンダル
レザーグローブ
レザーシールド
「えええ!いいなぁ、私達も欲しい」
「サンダル欲しいですー」
「はいはい。みんなの分もあるよ」
そこにいた皆がそれぞれ手にとって試着し始めた。
「これ、アーマー? どうやって付けるんだ?」
山さんが皮の胸当てから伸びたいくつかの皮の紐を首やら身体に巻き付けてこんがらがった状態になっていた。
「キック、アーマーを一回アイテムボックスに入れて瞬間装備して」
キックが俺から渡されたレザーアーマーをボックスに収納した直後、レザーアーマーを装備した状態になった。
「はぁい、皆さん。キックのこれ見本に装備してみてくださぁい」
「おおぅ」
「なるほど」
「ちょっとちょっと、菊田くん後ろ向いて」
「あ、首からの後ろクロスで固定して腰に持ってくる感じか」
アイテムボックス持ちは瞬間装備出来るから楽だな。無い人は着脱が大変そうだ。
皮アーマーは倉庫に山ほど入ってたのでとりあえず50個出した。開拓村の全員分には足りないけど、あとはそちらで頑張ってくれ。
そこにいた全員がアーマーを装着出来たようだ。
真っ先に装備したナオリンとあっちゃんがレザーキャップを被っていた。
「え、これ可愛いくない?」
「カワイー! 帽子チョー可愛い!」
「え?どれですか? 帽子」
革製の帽子が気に入ったようだ。女子組はお互いがお互いの姿を見て褒めあっていた。
長谷川さんと山さんはレザーグローブを付けてみていた。
「おっ、いいな、これ」
「そうですね。グローブしていると剣や弓もしっかり握れる感じですね」
見るとユースケはアーマー、キャップ、ブーツを付けて、レザーグローブをはめた後、レザーシールドを左手に持っていた。
「あ、思ったより重くない。剣を素手で持ったら結構重く感じたけど、グローブをすると軽く感じますね。持ちやすくなったのもあるのかな?」
「ああ、おそらくだが、レザーシリーズのセットボーナスだな。ゲームだと数値化されてたが、ここじゃ数字が全くわからんけど、皮シリーズの頭、胴、手、足、盾の5つで何かしらの恩恵があったはず」
「どんな?」
「わからん。すまん…忘れた」
「初心者が最初に簡単に揃えられるシリーズでしたね」
「あ、キックも持ってた?」
「あ、いえ、俺はDE専用初心者セットなので…」
「DEは共通装備じゃないんだ?」
「ええ。DEのみが入れるエリアで初回クエストでドロップする装備でしたね」
「へぇぇ、そうなんだ」
「え!ちょっ、何だ? え? え? ええええ」
「ヨッシー?」
「どした?」
「なに?」
「サンダルがああああ! 脱げねえええええ」
「はあ?」
「何言ってるの」
「小さいサイズを無理に履いたんですか?」
「ちがああう! 履くときは普通に履けたんだよ! ブーツにしようと思って脱ごうとしたけど、脱げねええええ」
「ああ、それ、呪われたサンダルだ。たぶんな」
「え?」
「えええええ」
「呪われたサンダル?」
「うん。たまにあるんだよ。ドロップした物の中に呪われたやつ」
「言えよ! 言ってくれよ! 呪われてるって! てか、呪われたの出さないでぇ!」
「あ、いや、ドロップ品をいちいち鑑定しないから…」
「え…じゃ、俺、一生呪われたまま…?」
「いや、だいじょうぶ。解呪出来るから。解呪スクあったはず…。あった、これこれ」
アイテムボックスから解呪スクを取り出してヨッシーに渡した。
「スクロールを開けば自動的に解呪されるから」
ヨッシーが丸められたスクロールをクルクルと広げた途端、ヨッシーの足元がパァンと光り、スクロールは消えた。
ヨッシーは一瞬自分の足を見つめたあと、慌ててサンダルを脱いだ。
「脱げたああああああ、よがったあああ」
泣くほどの事かい。
「サンダルは解呪されたから、もう脱げなくなる事はないぞ」
「いや、それはもう履かん」
「ダイジョブだって」
「履かん」
そのサンダルを手に取ってキックが履いて見せた。そして脱いで見せた。
「カオさん、呪われてるのってサンダルだけですか?」
「いや、ドロップ品はランダムに呪われているはず」
そう言ったら、皆んなが慌てて帽子やら手袋を外し始めた。
「まぁ、呪われてると言っても外せなくなるだけだし、解呪ですぐ普通のになるから」
解呪スクも渡そうと思ったが倉庫にあったスクは100枚だけだった。今1枚使ったからあと99枚か。とりあえず5枚だけ渡した。
それ以上は呪われた時に連絡をしてもらう事にした。
「キックさぁ、DEの初心者セット持ってるなら、骨セットいらないか」
骨セットとは、ボーンヘルム、ボーンアーマー、ボーンシールドの3点セットなのだが、防御力がすごかった(はず)。
骨の頭、胴、盾の3点だけでも防御力がかなり良かった上に手と足に別な装備を着けられるので防御がさらにアップする。ゲームでは初心者に人気のセットだった。
ただ、問題は、骨セットは魔物からドロップしない。材料を集めて作成する、いわば初心者向けのクエストのような物だ。
材料集めにかなりの時間がかかり、かつ一部は初心者には厳しい狩場のモンスターを倒さなければならない。単騎のプレイヤーには入手困難なセットだ。
だいたいが血盟内で協力しあうか、骨セットを卒業したプレイヤーが売りに出すのを待つか、そのどちらかだ。
ただ血盟内で協力して苦労して作った思い出の装備で記念に持っている者も多く、中々売りに出ないのだった。
DEやDKNは、ゲームの序盤からのキャラではない。ゲームでのちに追加されたキャラだ。
なのでDEやDKNは専用エリアのクエストで初心者装備をもらえる仕様なんだな。
そう言えば俺のDKNも、なんとなくクエストを進めていたら初期装備を貰えていたので骨セットは使わなかった。
「骨セットって何です?」
「名前から呪われてそうだな」
「いや、呪われてないって。俺のやってたゲームの初心者に人気の装備だよ。一応プラス6までは強化してある。けど、DEの初心者装備の方が上かなぁ。DKNも骨は着なかったし…」
「着てみたいなぁ」
ユースケは優男に見えて結構チャレンジャーだな。とりあえずボックスから出した。
流石に材料の基本が骨なので見た目がゴッツイ。
「アーマーと帽子と盾ですか。アーマーは…こことここをはめる感じかな」
ブツブツ言いながらもユースケはボーンアーマーをサクサクと装着していった。
ボーンヘルムは骨のツノが2本生えたバイキングのような結構ゴツい帽子だった。ボーンシールドはレザーシールドに比べて倍以上の大きさのガッツリした盾だ。
ゲーム画面だと小さすぎてほぼ見えなかったが、やはり実物大になると迫力が違うな。
ボーンセットを身につけたユースケはかなり強そうな戦士に見えた。
ん?
キックがダークエルフの初心者セットを装備した。
ナオリンが拳士の初心者装備になった。
山さんが剣士の装備になった。
あっちゃんが騎士の装備になった。
ユースケはもちろん骨セットだ。
何?……このファッションショー?いや、コスプレショー?
レザーブーツを履いて皮シリーズに身を包んだヨッシーが5人の横に立った。
ユイちゃんも皮シリーズの5点セットを身につけた。長谷川さんも身につけた。
並んだ8人が俺を見る。早く着替えろと無言の圧がかかる。
いや、着替えるけどさぁ……。って、なんのため?
俺もWIZセットを身につけた…よ。
「すげぇな」
「何だよ、ここんちのやつら」
「カッコいいー!」
「すげぇえええ」
リビングの入り口から顔がいくつか覗いていた!
見られた…!夜間警備のガイ、ワイズ、それとダンとロム。
コスプレショー、見られたからにはもうアレしか無い。仲間に引き込む。
4人に皮シリーズを着せた。
「何だ! これすげぇ軽いな!」
「動きやすいのに結構しっかりしてるな」
「カッケェ! 俺、カッケェ」
「ふわああ、何だコレ、何だコレ!」
「や、君ら静かにしてね。皆んな起きちゃうから!」
これ以上目撃者が増えたら恥ずかしすぎる。
「ほら、持ってっていいから。ダン、ロム、部屋帰って寝な! ガイとワイズも警備に戻って」
ヨッシーやあっちゃん達はちゃっかりスマホでの撮影会をしていた。
スマホはアンテナが立たないから電話やネットは出来ないけど、カメラは生きてる。
ちなみに充電は俺の防災グッズの中にあった手回し式の充電器だ。みんなこまめに充電しているらしい。




