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140話 日常

 弁当屋の朝は早い。


 西門にテレポした俺とダンは弁当の入った木箱を門の近くに置いた。

小さな警備小屋のすぐ横だ。



「おはよっざいます」

「おはよおございます!」


「おう 早いな」



 門前に立っていた門衛に声をかけるとすぐさま挨拶が帰ってきた。



「今日も2個くれ」



 門衛はギルドから話を聞いていたのか毎日弁当を買ってくれる。



「あざまあす。シールド! シールド!」



 弁当を渡してふたりの門衛にシールド魔法をかけた。5、6時間は保つはずだ。


 近くに腰掛けていた冒険者も寄ってきた。



「待ってたぞ、4つくれ」


「はい。ありがとうございます」



 ダンが木箱から弁当を4つ出して渡していた。弁当はひとりのバッグに4つとも仕舞い込まれたが、剣や槍をぶら下げた3人も近寄ってきた。



「防御魔法をかけるぞ。シールド、シールド、シールド、シールド」



 4人の冒険者の身体が一瞬青白く光った。



「おう ありがてぇ」

「すまねぇな」


「まいどぉ。気をつけてな」



 門を出て行った4人の冒険者を見送った。



「カオさん、次は後ろの3人さんです」



 振り返ると次の冒険者が並んで待っていた。ダンの前にも数人が弁当を買うのにたむろしていた。



 早朝に街を出て狩りに行く冒険者は結構いる。

 初日は20個持ってきた弁当も1時間ほどではけてしまい、翌日から40個に増やした。


 今のところ売れ残りを出す日はない。

 どうも防御魔法の事が翌日以降にギルドで話題になったらしく、西門を利用する者が増えているそうだ


 初日にあっという間に売れてしまったのを残念がった門衛を見て、翌日からは先に門衛に弁当を売るようにしている。

 この街の入り口を守ってくれてる人たちだからな。




 場所は変わり、ギルド。


 ギルド入口の横に長机を出して弁当を売っているのは、山さん、ヨッシー、ロム、タビーの4人だ。


 ちなみに、長机はやまとビルの会議室から失敬してきたものだ。その机の上に弁当を並べて売っている。



 朝のギルドは依頼を受ける冒険者でごった返している。なのでギルドの外、入口の横で販売をすることになった。


 依頼を受けた冒険者が扉を出た後に弁当を買って行ってくれる。朝飯として食べる者、昼に食べる者とそれぞれだ。

 また、近所の一般の人も通りがかりに買って行ってくれたりした。


 門前の販売はシールド魔法のオマケが付くのに、ここで同じ弁当を買っても付かないのはおかしいと初日にクレームがついた。

 そもそも、門なり、ギルドなりの1ヶ所の販売で良いのでは?と初日のやまと屋反省会議でも意見があがった。



 ギルドは依頼を受けても即日即時出発するとは限らない。

 ギルドでシールドをかけても街を出る前に効果が終了してしまう事もあるだろう。


 なら販売を西門前のみにするのはどうか?という意見が出た。

 俺は、弁当は冒険者以外にも広がってほしいと思っている。街の人がわざわざ西門まで弁当を買いに来るのは大変だ。


 なので、西門前は『これから狩りに出る冒険者』にシールドのオマケ付きの弁当を。


 街人は大通りの中央に近い位置のギルド前で購入してくれれば、と考えた。

 まだ実施していないが、作業場などへの注文配達も今後展開していく予定だ。



「いらっしゃーい」


「弁当5つくれ」


「はい。5つですね」



 ロムが机の上に並んだ弁当を5つ取り男に渡した。男が渡したお金を受け取ったのはタビーだ。料金早見表を見てすばやくお釣りを渡していた。


『料金早見表』には、弁当の数とその金額や、どの通貨で出された時のお釣り、などが一目で解るように書かれた物だ。


 ここだけでなく、もちろん店舗でも使用している。計算が苦手な子供達でも素早く処理出来るように絵で描くなどの工夫をしてある。



「防御魔法の札を貰えると聞いたんだが…」


「はい、ご入用の方にお渡ししています」



 ロムは机の下に置いた小さい木箱から、小さな木札を5枚、その男に渡した。



「西門で朝五の刻から札を渡せば受けられます。えぇと、八の刻には終わっちゃいますので気をつけてください」


「へぇぇ。この札か。期限はあるのか?」


「えと、あの、ええと、ヤマさん! すみません!」



 知らない事を聞かれてロムは慌てて山さんに助けを求めた。



「はい。えぇと期限ですか? ヨッシー、この札って期限決めたっけ?」


「いや、無期限っしょ」


「だよねぇ、えぇと期限はないので時間内ならいつでも使えます。ただ、うちの魔法使いもたまに休むので前もってうちの店に来てもらえれば助かります」


「そだなぁ。いついつの西門って言ってくれればその日は休まないからな。カオっちが」


「へぇ、そりゃ便利だな。店はどこなんだ?」


「あ、この先2軒ほど行ったとこです」


「ああ、あの大きな商家があったとこか。どっかに行ったって聞いたな」


「はい、そこです。そこでうちが店を出したので」


「店でも弁当は売ってますよ」


「じゃあ出発の前に寄らせてもらうわ」



 そう。ギルドで弁当を買った冒険者へは希望者のみに札を配布するようにした。後日シールド魔法を受けられる札だ。


 ギルドで依頼を受け、普通に食事として弁当を買う冒険者も多い。

 受けた依頼の内容によって街で色々と準備が必要になり、翌日もしくは数日後に出発なども普通にあるからだ。


 弁当を買うとタダで防御魔法をかけてもらえる札が付くと冒険者の間で瞬く間に噂が広まった。

 おかげでギルド前の弁当も売り切れだ。




 その頃の店舗。


 朝食を食べ終えたユースケ、ジェシカ、エルダ、ジョンの4人が店舗部分にいた。

 ユースケは釣銭の準備、ジェシカとエルダが棚に弁当を並べていた。ジョンは店の入り口である板戸の鍵を開けて板戸を外していく。



「あ、ジョン、それ重たいでしょ? 待っててください、今手伝います」


「大丈夫です! ひとりで出来ます」


「ではお願いします」



 にっこり笑ってユースケは手元の小銭に目を戻した。ユイちゃんはイートイン用のお茶の準備をしている。



「開店しまぁーす」



 ジョンが店内に向かって声を上げた。


「今日も元気にお願いします。いらっしゃいませー」

「「「「いらっしゃいませー」」」



 その声をくぐる様に店内に数人が入って来た。



「いらっしゃいませー」


「おう、元気いいな。今日のは何だ?」


「今日はハムを挟んだガッツリパンと、えと…」

「刻んだ干し肉サンドです!」



 言い淀んだジェシカにエルダが助けに入った。



「細く刻んだ干し肉と葉っぱを挟んで甘辛のタレをかけたやつです。美味しいですよ!」


「ハムも! 分厚いハムにピリっとしたタレで美味いです」



 朝食を食べたばかりのはずのジョンがヨダレを垂らさんばかりの顔をした。ふたりとも味見がよっぽど美味かったようだ。



「ハハハ、じゃあ干し肉の方をくれ」


「はい! ありがとうございます。店内で食べていかれますか?」


「おう、食ってくよ」


「じゃあ、お茶淹れますね」



 ジェシカがカウンターを出てお茶を木のカップに入れていた。



「今日は干し肉とハムかぁ。どっちにすっかな。昨日のも美味かったな」



 他の客も棚で悩んでいるようだった。店内では2種類から選べる。

 ギルドや西門へは一種類しか持って行っていない。


 店内でもお持ち帰りの人には希望者のみにシールド魔法の札を付けている。イートインはお茶のみのサービスだ。そのうち、スープも付けようという話も出ている。


 ギルドや西門ほどではないが、ぼちぼちと客は来ていた。


 8時をすぎるとギルドから山さん達が、そのすぐ後に俺とダンが西門から戻ってくる。



「腹へったぁぁぁ」

「お腹すいたね」


「手を洗ってきてね」



 あっちゃんのひと声でみんなが裏庭の井戸へ向かった。


 いろいろあったがようやくこの世界、この街で落ち着いた日常がスタートしたのであった。

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