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128話 土屋襲来

 それから1週間ほど、毎日街の外へ馬車の練習に行った。



 一頭立ての4人乗りの馬車(小)と二頭立ての6人以上乗りの馬車(中)を持って行った。(馬屋場からきた先生ふたりが馬車を移動させた)


 まず子供達が小さい方の扱いを覚えた。大人は馬車よりもまず馬に慣れるために、二頭立てから馬を外して“馬を引いて歩かせる、止まらせる”などから教えてもらった。

 馬が思ってたより大きくて少し、いや、メチャクチャ怖えぇぇよぉぉ。


 子供らは3日目には二頭立ての操作を、先生として来てもらっていた御者さんに教わっていた。

 大人はようやく小さい馬車をゆっくり歩かせる事ができるようになった。


 7日目にはロム、タビー、ダン、アリサ、エルダの5人が二頭立ての馬車(中)をうまく操れるようになっていた。

 いいなぁ、羨ましいぞ。


 ジョン、シュロ、キール、ジェシカ、あっちゃん、ユイちゃん、ヨッシー、ユースケ、山さんの9人は一頭立ての馬車(小)をそれなりに操作出来るようになった。


 うわ、何あれ、S字カーブさせるとか!ロムは車庫入れも覚えてた。



 俺は…なんとかゆっくりなら、あと、直線なら!馬のやつめ、案外気難しいぞ。


 そんな感じで7日の間、昼間に家を留守にしていた俺たちだった。


 だが実はさっそく2日目の午前に俺らが馬車を引いて家を出た直後に土屋の襲来があったそうだ。


 その日の夕方バズッドから報告を受けた。



「裏庭で犬が吠えたから行ってみたら、裏門を開けようとして犬に吠えられている婆さんがいたんだよ。そこは入れないぞ、と声をかけたら、この家に住んでる人の仲間だから犬を退けるように言ってきてな

聞いてないと断ったらキーキー叫んでた。で、一応名前を聞いた

何だっけな…もちゃあとした名前…モチャ、餅屋?モチャモチャ…ムチャぁ」


「つちや?」


「おう、それだ」



 やはり土屋め、来たか!ある意味予想通りとも言えるが、危なかったな。

 警備を雇うのが遅かったら入り込まれていた。



「家に入れろと喚いたので警備に突き出すぞ。と言ったらその場は去ったんだが。その後何度も犬が吠えてたから、どうも裏の塀の周りをチョロチョロしてどっかから忍びこもうとしてたみたいだな。その都度吠えられてたけどな」



 ドーベルマンとシェパードとセントバーナードに吠えられたら、そりゃ入れないだろう。

 しかも日本のよりデカいからな。


 翌日の昼間は大通り側の閉まっている店の扉をガンガン叩いてきたそうだ。



「アンタらが出たのを見計らったようにやってきた」



 ああ、隠れて見てたんだろうな。俺らがいなくなったら入り込むつもりで。



〜〜〜〜〜

「ちょっとお! 誰かいないの! ここ開けなさいよ! 私はここに住むべき人間なのよ! 開けないと警察呼ぶわよ!」

〜〜〜〜〜


「いやぁ、もう、キィキィ五月蝿いの何の。叩き出していいと言われてたから、首根っこ掴んで大通りにぶん投げといたわ」



「うわぁ、やっぱ怖えな土屋さん」


「警備雇って正解でしたね。僕なら首掴んで持ち上げるのは無理です」


「土屋さん、こっちに来て多少は痩せたけどもともと体格良かったからね」


「ありがとう。バズッド」



 いやもう本当にありがとうございます、バズッドさん!バズッドの両手をガシっ握り感謝を伝えた。



「いや、それが仕事だからな」


「夜、来そうだな」

「来そうですね」

「来るな」

「来ますね」


「あぁ…トリュー達には引き継いでから帰る。ところで、けいさつって何だ?」


「ああ、こっちで言うと警備の詰所みたいなとこかな?」


「この街って牢屋とかあるんですか?捕まえた悪者を入れておくところ」


「ああ あるぜ」



 その日の夜、というにはまだ早い時間。


 今日は”男風呂の日”なので夕食が終わった後、交代で入っていた。

 俺がマルクを連れて風呂から上がりちょうどリビングへ戻った時、表通りの店舗の方からガイの怒鳴り声が聞こえてきた。



「てめぇら! 盗人かぁ!」



 通りに面した店の部分は横開きの板戸なのだが、簡単なつっかえ棒で横に開かないようにしていた。

 まだ店を始めていないし商品などもないので簡易な戸締りだった。


 どうやら土屋は板戸自体を外して侵入を試みたようだった。板を外して中に忍び込んだところにガイが待ち構えていた。


 ガイの声に反応してリビングにいた数人が店舗へ向かった。

 俺は抱いていたマルクをアリサに預けて二階に行くように伝えすぐに店舗に向かった。


 そこにはガイに睨まれて腰を抜かしている土屋、の他にもうふたりいた。たしか、田畑と北本だったか。

 ガイの声でトリューもやってきた。


 ガイとトリューに囲まれて、店の土間に座り込んだ土屋達3人は震えながらも山さんをめざとく見つけて叫んだ。



「ぶちょお! ぶちょお! この野蛮な人どおにかして!」

「部長! 助けて!」

「こいつらヤクザよ! 昼も暴力を振るったのよ!」

「部長! 私達何もしてないのに酷いことされたんですよ! 部長として私達を守る義務があるでしょお!」


「無いですよ」

「無いよな?」

「あるわけねぇだろ!」

「何様!」



 土屋達の傍若無人な自己中発言に俺たちは皆んな切れていた。山さんも彼女らに向けた声は低く冷たい響きの声だった。



「僕はもう部長じゃないからね。そもそも株式会社やまと商事なんてこの世界のどこにも無いんだよ。いつまで勘違いしているんだ」



 元の世界ではいつでも何をやっても苦笑いで許してくれた部長が、今は庇ってくれない事に土屋達は愕然としていた。



「無責任な! 部長のくせに!」

「そうよ!」


「部長のくせに?の意味わかんねぇ」



 俺がボソっと言った声に3人が顔を俺に向けた。



「ハケン! ハケンがいるくらいなんだから! 私達の方がここに住むべきでしょう」



 俺を見つけた土屋はマウントが取れると勘違いしたのか嬉々として喚き出した。



「部長! ハケン追い出して! 私達がここに住むから」

「そうよ! 図々しいハケンより社員の私たちを優先すべきでしょお!」



 ハケンハケン五月蝿いな。毎度毎度同じ事しか言えんのかよ、と俺は呆れていた。

 あと、お前らだって正社員じゃなかったからな。契約社員、一年更新の契約社員だ。


 派遣は三ヶ月更新だったから大して違わないと思ったのだが。

 契約社員を斡旋している会社も俺が登録していた派遣会社も、どちらもやまと商事の子会社だったから、ホント、立場的には大差ないと思うのだ。



「社員とか派遣とか関係ないでしょう? そもそも会社自体がもう無いんだから! だいたいそういう差別発言がどうかと思いますよ!」



 ユースケがいつもの優しげな物言いでなく珍しく尖った声で俺を庇ってくれた。


 が、まぁ、俺のステータスの職業欄にはHKN(ハケン)の文字がある。俺、現在も派遣?

 しかも“派遣魔法”まであったな。あ、まだ使った事ないけど、派遣魔法ってどんなだ?



「とにかく!!! そいつ追い出してよ! 私達がここに住むから!」


「そうよね!」


 うわぁ、本当に言葉が通じないな。何でこんなに頭が硬く育ったかね。



「バカじゃないの? アフォですか?」



 あっちゃんのキツいツッコミきた。そしてあっちゃんのクールな指示でた。



「あ、ガイさん、トリューさん。こいつら、叩き出してください」


「お、おう」



 ニッコリと笑う美人なあっちゃんの凍りつくような冷たい物言いにガイ達も思わず従っていた。3人は本当に“叩き”出されていた。


 元いた世界では、たぶん、親にも叩かれた事のない人達だろう。痛みを知らないから誰彼構わず噛み付けたのだ。

 ほんの二、三発とは言え、叩かれ蹴飛ばされたのは人生で初めてだったはずだ。


 日が暮れ真っ暗な大通りの中央に転がって呻いたまま動かない。


 俺たちは外された店の板戸を戻して中に入った。



「キチンと施錠しておくぞ」



 トリューさんの言葉に、つっかえ棒以外に鍵があった事に気がついた俺たちだった。

 そうだよな。もともとかなりの大店の商会だったのだから鍵が無い方がおかしい。



 と言う事件があったのが、馬車練2日目だった。翌日(馬車練3日目)には、上野、上尾の2人が襲来。

 その翌日(馬車練4日目)には中倉もきたそうだ。


 土屋達から叩き出された事を聞いたのか見ていたのかは不明だが、上野、上尾、中倉はソフトな感じの訪問だったそうだ。キッパリ追い返してくれたそうだが。


 その後、馬車練5、6、7日目にも昼間に中倉が来たそうだ。しかも夜間は店の軒先でごろ寝をしているらしい。

 俺たちは裏門から出入りしていたので気が付かなかった。



 彼女らのしつこさには辟易とした。どうしたもんかなぁ。

 しばらくはバズッドさん達に頑張ってもらって、折を見てゴルダにまた相談に行くか。



 せっかく大きな家を購入して家族も増えて、やる気満々だったのに、

水をさされた感じでちょっとガックリな俺たちだった。

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