113話 社員の身の振り方 借家組
実は土屋達借家組も神殿に呼び出されていたらしく、今、別室にいるそうだ。
俺たちは会いたくないので教会の小部屋に戻った。状況は念話で知らせてもらうことにした。
神殿の小部屋には3係の土屋、中倉、上戸、飯星、神島、上野、田畑、立山。5係の北本、上尾、6係は男性の渡辺、大山。
それと今回の救出劇に参加したキックとナオリンもそこにいた。
キックと一緒にギルドの仕事をしていた押尾さん、ナオリンと行動を共にしていた西野さんも同行していた。
山さんはそこでも同じ話をした。今後の各人の生き方、動向をしっかりと決めてほしい、と。
しかし土屋たちは何も考えたりはしないようだった。借家の家賃が切れるがどうするのか。毎日の食費をどうするのか。
今回“親切な俺たち”はそこにいない。誰も助言はしない。
「今後の生活はどうするんだ?」
答えない土屋達を前にして山さんが再度問うた。
「ねぇ」「うん」
お互い顔を見合わせて訳の分からない相槌を打ち合っている。
答えない彼らに山さんは業を煮やした。
「君らは一応ギルド登録もしているし、まぁ問題はないか。今後もうやまと商事は存在しないし私も部長ではなくなるので、後は好きに元気に生きてくれ」
山さんにしては珍しく突き放した言い方だ。これ以上ないくらい呆れているのだろう。実はさっきから念話であっちゃんが激しい。
『ばぁーか、ばぁーか、金返せ! ドロボー』
あっちゃん、胎教に悪いから落ち着いて。いや、俺も言いたいよ?
山さんが出て行こうとした時、慌てたように大山さんが動き出した。
大山さんと渡辺さんは借家組の中で唯一(唯二?)の男性陣だ。
「あの…あの! 俺ら、開拓村に行きたいんですけど!」
「俺ら村に行きたいです!」
まぁ住みづらいよな。土屋達婆ア10人の中に男ふたりだからな。
よくあそこに居るな、と感心していたんだが、やはり出る事を考えていたか。
「開拓村は容易くないぞ。今回の脱走でもわかるとおり、家を建てたり農作業をしたり、体力勝負の毎日になる。だから島くんらは脱走した。そして51人が命を落とした」
「……街でも同じです。ギルドでもらう仕事も荷運びや作業がほとんどだから」
「同じ力仕事なら…あそこには…いたくない」
だんだん小さくなった渡辺さんの声に被せるように土屋さんが焦ったように怒鳴り出した。
「何よ! 私達と居たくないっていうの!」
「そうよ! せっかく一緒に住まわせてやってるのに!」
中倉さんも怒鳴った。
だがいつもならそれで黙る渡辺さんだが今回は違った。
「でも…でも…住まわせるって言ってもリビングの床じゃないか!」
「そうだよ! 自分達は盗んだお金でたっぷり食べたり買い物したり
でも俺たちにはくれないじゃないか! 犬にやるみたいに固いパンを一個床に投げてきて」
うっわぁ…………ヒデェ
『最低ですね、土バア』
『最低だな土屋達』
『ありえない』
「知ってるんだからな。今後も俺と大山さんに働かせて自分らは働かないって、話してるの聞いたぞ」
「え…ちが…誰よ、そ、そんな事、言ってないわよ」
慌てたように土屋がシラを切る。
「とにかく俺らはあそこを出る。もし開拓村がダメでもどこかで寝泊まりして俺たちだけで生活する」
「うん。そうしなさい」
山さんがふたりに向かって言った。
「今回は各人が自分で決めた道を行ってほしいというものだ。渡辺くんと大山くんは自分で決めてそれを進みなさい」
「でも、だけど、そしたらお金が…」
「ちょっと、どーする? 働き手がいなくなる…」
土屋達はまだブツブツ言っていたが山さんはバッサリ切った。
「あなた方はあなた方の生きたいように生きなさい。それは自分で決めたのだから何かが起こっても自分で責任を取る事になる」
「あの!部長! 私、開拓村に行きたいです!」
今度は3係の立山さんが思い切った顔で大きな声を出した。
「私、開拓村で作業とかしたいです。実家が農家だったから子供の頃は手伝っていたし、職場では言えない雰囲気だから言った事なかったけど…。家庭菜園とかDIYとか趣味だけどやってたし、開拓村に参加させてください!」
「そうなのか?もちろんかまわないよ。どちらかというと歓迎するよ、みんな素人だからね」
「ちょっ、何!」
「ズルい」
「立山、裏切り者ぉ!」
土屋達が何かギャンギャンと騒いでいたが山さんは無視をして立山さんを連れてその部屋を出た。
キックやナオリン達も山さんについてきた。
渡辺さんと大山さんはどうやらスラムに家を探すようだ。




