111話 やまと社員達の身の振り方
開拓村の人達が避難してきている神殿へ、部長はひとりで向かうつもりのようだったが俺たちも同席する事にした。
山さんは俺らの仲間だ。彼がひとりで何かを背負ったりしないようになるべく近くで力になれたらと思った。
神殿のその部屋に入ると右手側の壁には見た事のない人達が座っていた。
子供や年配の人や女性もいた。おそらく開拓村に元から居た人達だろう。
反対側、壁の左側にはやまとの社員だろう。薄汚れて疲れ切った感じで床にペタリと座り込んでいたり壁に寄りかかっていたりしていた。
助け出した脱走者達も同じ部屋にきていた。
確か…80人が開拓村に行ったはず。
だがそこには、ザッと数えてみると29人。そっか、ダメだったのが51人とか言ってたな。
見るといくつかのグループに分かれているようだ。
壁に寄りかかっていて顔を上げている男性のグループは4係5係の男性7人だそうだ。
それと4係の女性4人、あと副部長の長谷川さんは座っているのも辛そうで横になっていた。長谷川さん、元の世界だったら即入院案件だよな。
あの12人が脱走せずに開拓村に残ったメンバーか。
その向こう側で壁に寄りかかり俯いているのは、開拓民から顔を背けている事からも、脱走グループだな。
安田さんと2係のふたり。1係でも若いパートさんら5人。そこから少しだけ離れて座っているのは1係でも中堅あたりの7人。
それとうちの係にいた小川さんと中野さん。俺が運んだ17人か。
観察をしていたら山さんが開拓民の方へ歩いて行くのが目の端に映った。
山さんは開拓民のすぐそばまで行くと突然その前でガバっと土下座をした。
「本当に申し訳ない。開拓村へ預けた者達の長として あなた方にはお詫びの言葉もありません」
頭を石の床に擦り付け謝る姿を開拓民たちはポカンと見ていた。
すると向こう側の壁から長谷川さんが身体を起こし、這いずるように山さんの方へと必至に近づいて行った。
「すみません、すみません、すび、ま、ぜん……。わ、わたしの、ヒクっ、私の指導が、わる…ぐて、ヒクッ、すびばせん。ぶちょう、は 悪くない…です…わだしの力が」
「長谷川くんは悪くない。全て押し付けて任せきりにしていた私の責任だ。長谷川くん、すまん、申し訳ない。開拓村の皆さんも、大変、申し訳ありませんでした」
「ぶ…ぶちょぉ、すみませんすみません、ううう……村のみなさん、も すみません」
ふたりは泣きながら並んで床に頭を押しつけて開拓村の人達に詫びていた。
うおおおおおお見ていた俺も涙が滂沱のように流れた。
ズズズ
ヒックヒック
鼻を啜る音が聞こえ横を見るとヨッシーやユースケ、あっちゃん達も泣いていた。
向こうの壁に座っていた安田さんらも泣いていた。安田さん近くにいた1係の5人も泣いていた。脱走しなかったグループも鼻をすすっていた。
ん?
少し離れたとこの1係中堅グループは顔を背けているのでよく見えないが、泣いてはいない…。
あと、三好今日香は……怖!何か目が死んでる?見てはいけないものを見てしまった。慌てて目を逸らした。
中野、小川は何かシラけたような顔で、自分の爪をいじっていた。
同じ係で一緒に働いていたときからクールだなと思っていたけど、うん、クールとは違うな。自分以外に興味がない人…かな?
そんな事を考えていたら開拓民の方に動きがあった。
まず小さな男の子、5、6歳だろうか?その子がトコトコと歩いて長谷川さんに近づき、頭を撫でた。
それを見た開拓村の女性、子供の母親か?が、しょうがないなと言った感じの苦笑いの顔になった。
口を一文字に結んでいた男らも、ふぅっと息を吐き出して怒りを解いたようだった。
「まぁアンタらには言いたい事も山ほどあるが、勝手な想像で舞い上がってた俺たちにも非はある」
「だな。説明が全くなく、ただ開拓村の民が増えるって喜んじまったからな」
「聞いたらアンタらのいた国には開拓村がないってな。開拓村の事を一から教えなアカンかったのにほっといた俺らも悪かった」
「すみません、もっと早くに、キチンと聞けば良かったです。自分らで何とかしようとせず」
「んでもアンタら最近は畑の事とか聞きにきてたべ?これからうまくいくかって話してたとこだよ」
「そうそう」
「そんな時になぁ、ホレ」
開拓民の爺さんが顎をしゃくった先は脱走グループがいた。
一緒に顔を向けた山さんは開拓民へと顔を向き直した。
「今回の脱走の件でもうちの者がご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
ハッキリと謝ってからまた話を始めた。
「私達は、よくわからない状態でこの国に来ました。この領地に拾ってもらい、開拓村と街でお世話になる事になりました。が、私達は理解しないまま無駄に時間をすごしてしまった。この街、この村に馴染むためにせっかくいただいたひと月も無駄にしてしまった。神殿長か司祭殿に聞いているかも知れませんが、今回の脱走で……51名が、不明となりました。奇しくもゴブリンの氾濫が起きている中、おそらく生きてはいないでしょう。それもすべて本人たちが自分で決めて行動した結果であると、私は思っています」
山さんの話を皆静かに聞いていた。
「開拓村の皆さんにお願いがあります。迷惑をかけた上のお願いでおこがましいとは思いますが、ぜひお願いしたい」
「……何だ?」
恐る恐る返事をしたのは開拓村のリーダーのような男だ。
「これからの事を、過去と同じ過ちを起こさないための、これからの開拓村の事を相談したいのです」
「どういう事だ?」
「開拓村のメンバーの見直しをしたい。なんとなく来た、言われたから来た、ではなく、開拓村で開拓に参加したいメンバーを募り、開拓民とさせていただきたいのです。もちろん、神殿長やギルド長にも相談をさせていただきます。ただ、あなた方がもう我らを信頼出来ず、嫌だと言うのなら仕方がないです」
どう答えるべきか悩んでいるのか開拓村のリーダーは押し黙った。
だがその沈黙を破った者がいた。
「いいよ、僕」
さっき長谷川さんの頭を撫でた子だ。
「だってさ、一緒にお野菜、育ててるよ? 今回の怖いやつ終わったらまた一緒にする」
「うぅ、ありがと……タルタ、ありが…と」
長谷川さんがまた泣きだした。男の子の名前はタルタなのか。
山さんは立ち上がり、社員達の方へ歩いて行った。
「これが僕が、やまと商事事務統括本部の部長としての最後の仕事です。皆さんの今後について本音で話をしたい。各人が自分の意思で決めて下さい」
山さんは今まで見たことがないくらい真剣な顔をしていた。
「まず、今後、開拓村で、自分達の手で開拓をしていこうと思う者はこっちに集まってくれ」
「はい!」
真っ先に返事をしたのは何と2係の総合職の大塚さんだった。
2係といえば、“総合職を鼻にかけていた2係”という印象だったので驚いた。
「はい! 私も」
次に上がったのは俺と同じ6係だった安田さん。2係と仲が良かったからな。
大塚さんと一緒にいたいという理由で手を挙げたとしたら、開拓村での仕事は続かないんじゃないか?そう言おうと思ったら。
「ツカちゃんズルい、私より先にあげるなんて」
「チャコも村希望だった?」
その会話を聞いてちょっと安心した。
「あの、私も開拓村希望します。大塚達と一緒にいたいとかじゃなくてちゃんと開拓の作業をしたいと思ってます」
もうひとりの2係の女性…ええと、ああ、大久保さん。大久保さんも開拓村参加に挙手した。
「ハイ」「ハイ」「ハイ」「ハイ」
あちこちから声が上がり、見てみると結構な数の手が上がっていた。
脱走組からは、大塚、大久保、安田、1係の若手組5名。
居残り組からは、男性7名と4係の女性3名。
4係の三好今日香は手を上げなかった。
何かホッとした。いや、俺は街組だけどね。
長谷川さんも希望したがとりあえず教会で養生してからの参加となった。




