101話 開拓村脱走【第一係】契約社員(若手)
-------開拓村にいった1係のとある契約社員視点-------
やまと商事で契約社員として働き始めて少しした頃、突然謎の現象で見知らぬ土地にいた。
職場のみんなと見知らぬ土地、どう言ったらいいんだろう?
とにかく日本じゃない場所、と言っても海外とかでもないそんな場所にいた。
そう。“いた”としか表現のしようがない。
行ったつもりはないけど、とにかくそこに居たのよ。私達。
そこは道路もビルも車も飛行機も無いようなところ。
発展途上のアジア圏の国…いえ、もっと未開のアフリカのジャングルの中とか、そんな感じ場所だった。
職場だったビルのフロアから連れ出されて街についたと思ったらすぐに未開の村へ移動した。
あまりにわからない事だらけでとにかくみんなとはぐれないよう必死に着いて行った。
みんな……というか、同じ職場の同じチーム(第一係)の中でも年齢の近い者でかたまってたグループ。
というのも、同じチーム内の年齢が高い人達って何か感じ悪いのよね。
旦那がやまと商事の福岡営業所勤務だったのだけど今回関東(都内)に異動になり、私も地元の会社を退職して夫婦でこっちに引っ越してきたの。
こっちに友人はいないし暇だったので“契約社員”に応募してみたら、本社で採用されたの。
契約社員とは言え本社勤務ってカッコイイと喜んだけど、私が配属された部署は、残念な感じの人が多すぎる。
特に年齢がいくほどクセが強いし常識もなくて、同僚としても友人としても勘弁してって感じの人達だった。
働かない人が大半もいて、私達若手で仕事のほとんどを回してた。ちなみに若手と言っても20代はいない。そんな酷い部署だった。
旦那にも「辞めようかな」って話をしていたとこ。
その矢先に、変な場所に飛ばされた。
もう、ホント、どうなってるのよ。旦那どこ? 保育園にいる健太どうしてるだろ?
てか、ホント、ここ、どこよ?グスン。
この村に来て3週間くらいたったかな?
ある日、6係の係長の島さんが私達のグループを訪ねてきた。
正直、私、この人好きじゃなのよね。
なんだろう?胡散臭い?宗教の勧誘のような詐欺っぽい笑顔を浮かべて、いつも誰かとヒソヒソ話をしている。
いい歳をした大人の男性のとる行動じゃないよね。お前は女子中学生かっての。そんなあの嘘くさい笑顔で島さんが話しかけてきた。
「あのさー、ちょっといい話があって、皆さんに聞いてほしいんだよね」
うわぁ。『いい話』とか!マジ怪しい。皆さん聞いてほしいと言いながらも顔を近づけて声をひそめてるって、怪しい話以外にない気がするんだけど。
近くにいた10人ちょいを集めて木陰へ移動して話し始めた。
「実はさ、やまとのビルに帰る計画があるんだよね」
みんなが一瞬にして島係長の話に聴き入った。もちろん私も。
「急に出発したから皆さん荷物はフロアへ置いてきてるでしょ? 歯ブラシとか靴とかタオルとかジャケットとか。あそこに戻れば皆さん自分の荷物あるでしょ?あと、やまとのビルは災害用に各フロアに防災グッズとかもあるんよ」
胡散臭いと思っても島係長から目も耳も逸らすことが出来なかった。
「ミネラルウォーターとか災害用の食糧とか毛布とかいろいろね。それに事務フロアならちゃんと床があるし、水出るかわからんけどトイレもあるし、あっちで生活したない?」
その時はもう島係長の京訛りの関西弁に聞き入ってしまっていた。
確かにあそこに戻りたい。
どうせ生活するならあそこで生活出来たら…。
元の日本に帰るのが無理ならせめてあそこで救助を待ちたい。皆も同じ気持ちみたいだった。
私は島係長の胡散臭い笑顔に危険ランプがピコピコと反応していたけど、結局ひとりになるのが怖くて皆と行動を共にする事にした。
脱出の予定がハッキリ決まるまでは秘密にするように約束させられた。
周りを見ると皆んな口には出さないけれど、事務フロアに思いを馳せているようだった。
平らな床、
雨の心配がない天井、
虫や獣に怯えない夜、
お腹いっぱい食べられる毎日、
痒さに悩まされない清潔な身体
戻れるならあそこに戻りたい。日本に戻るのが無理ならせめてあそこ、“やまとビルの22階の事務フロア”に戻りたい。
あ…ジャングルでは一階だったけどね。
それから程なくして、島係長から脱出の決行日時が知らされた。
島係長の怪しい話にのり“開拓村脱出計画”が実行された。
脱出当日の早朝、まだ辺りが薄暗い時間に静かに門に集合した。村人や残留組に気が付かれないように、皆、口を閉じて静かに集まった。
パッと見た感じA班 B班 C班とお局三人衆かな。
来てないのは副部長のチームと4係のチームの計12人か。という事は、80人中68人が今ここにいるのね。
そんな事を考えていると先頭が門から出て移動を開始した。
先頭は島係長、そのすぐ後ろに高齢者、失礼、B班や大倉さん達が密集して歩いてた。少し間を開けてA班の総合職の人や6係の安田さん達。
そしてその後ろを私達C班。C班の中でも私は一番後ろを歩いていた。
開拓村がかなり遠くに見えるあたりまで来て、ようやく皆が口を開き始めた。
やまとの事務室に戻れる嬉しさからか、足取りも軽やかで皆楽しそうに喋りながら歩いていた。
村の方を振り返ると門からかなり離れたようだ。実は私は不安がどんどん押し寄せて来ていた。
島係長を信じて付いて来たけど、本当に良かったのかな。
事務室には戻りたいよ?でも、それを仕切っているのが島係長ってのが引っかかってる。
私は何度も振り返りながら遠くなった村の門を見て、今言わないと後悔する気がしてやっと口を開く事が出来た。
「ねえ……やっぱり、行くのやめない?」
「え? 何で?」
「事務室だよ? 戻りたくないの?」
「そうだよ! フロアの綺麗な場所で寝れるんだよ?」
「そうなんだけどさぁ……」
「なに? 何か気になってるの?」
「だってさ、こっちに来た時1日以上かかったでしょ? 途中で野宿もしたし……」
「うん、でもさあの時はダラダラ歩いたからだって、島係長が言ってたよ。サクサク歩けば今日中に着くって」
「このスピードなら行けるんじゃない?」
「それは、今は歩き始めだからサクサク行けるけど、すぐ疲れてダラダラになるよ」
「そうかもしれないけどぉ」
「う〜ん…」
「それに島係長って本当に道知ってるの? あの人嘘くさくて、私怖いんだけど」
「………」
「…」
最後尾で私と一緒にいたふたりは黙ってしまった。
振り返ると開拓村はもう、見えなくなっていた。
開拓村からは”道“と呼べるような道ではないが、馬車が通った轍の跡を辿って歩いていた。
街から開拓村へは定期的に物資を乗せた馬車が来ると聞いた事がある。多分轍の跡を辿ってこのまま進むと街に着くのだろう。
轍の跡を歩いて30分も超えると元気いっぱいだったみんなの足取りは重くなった。
喋る者は減り、ただ歩いていた。
2時間も経つ頃にはかなりダラダラ歩きになり、列も伸び切った。
村を出て3時間が経つ。
このスピードではとても今日中に事務室に着けるとは思えない。これ以上ないくらいの危険信号が自分の中で鳴り響いていた。
もう一度、戻る提案をしようと思った時、目の前の人が止まった。
見ると伸びた列の全員が止まっていた。
「一旦休憩だって」
前方から伝言がきた。
「15分休憩したら出発だってー」
「なんか、ここから草原を突っ切って行くから離れず着いてきてって」
「蛇行してる道より真っ直ぐ行った方が近道だから草原を通るみたい」
つまり、馬車の轍の跡から離れるって事?道はない草原を突っ切って……。方向合ってるの?本当に事務室がある方に進めるの?
15分の休憩中そればかりをぐるぐると考えてた。
道から外れて草原に入ると帰る道がわからなくなる。
…………やっぱり、戻ろう。
事務室でなく、開拓村へ。
ちょうど出発の声がかかった時、近くにいた同僚に言った。
「やっぱり、私、戻る」
「え? どこに…」
「開拓村に戻る! これ以上進んだらもう戻る道わからなくなるし、今ならまだ戻れる。ごめん、私は村に戻る。今更だけど島係長の事信じきれない。事務室への道知ってると思えないし、今日中につけるとも思えない。一緒に行きたくない」
一気に畳み掛けた。
「え、でも、事務室に戻りたくないの?」
「戻りたいけど! 戻りたいけど今じゃなくていい。副部長に相談して、街にいる部長にも相談してちゃんと準備してから行きたい。地図とか馬車とか食糧とか手に入れて無事に、確実に、事務室に着きたい」
今まではひとりが怖くて皆と合わせた行動をしてきた。
けど、やっぱりちゃんと自分の意見は言いたい。
責任を取れないから、取りたくないから、今まで言わないで過ごしてきたけど、それは違うと思った。
ひとりでもいいや。村へ戻ろう。それで副部長に謝って、ちゃんと畑とか作業にも参加しよう。
心の中でそう決めたら気持ちが軽くなった。
来た道を戻ろうと立ち上がった。見ると島係長達は草原の中へと進み始めていた。
皆が草原に入るのを見送っていると、ふたりが私の横に残った。いつも一緒にいた加藤さんと山田さんだった。
「私も一緒に村に戻る」
「私も戻る。正直、あの人らは嫌いだったし」
「加藤ちゃん…山ちゃん…」
涙が出てきた。同僚から友人になった瞬間だった。
「じゃ、うちらはあっちへGO!」
「ほら、サトー、行くよ」
3人で腕を組んで来た道を戻り始めた。
歩いていたら後ろから声が聞こえた。
「おーい、待ってぇ」
「私達も一緒に戻るー」
見るとふたり、草原の中から走って出てきた。
同じ1係の若者チームの原田さんと門井さんだった。
5人で開拓村に向かって歩き出した直後、悲鳴が聞こえた?
背後の草原から悲鳴が上がった?
距離が遠かったけど、今のって悲鳴だよね?
気のせいじゃない。
それも、ひとりじゃない!複数の悲鳴が聞こえる。
草原は草の背が高く、その中を進んでいったようなので皆の姿は見えない。
私達は草原の外にいたので、何が起こっているのかわからなかった。
足を止めて草原を見つめた。
「……何?」
「誰か叫んだよね? ほらまた!」
「え、どうする」
「どうするってどうにも…」
「助けるとか無理だよ。武器も何もないのに」
「ね、逃げた方がよくない?」
5人で抱き合ってガタガタ震えてたら、突然草原から何かが飛び出してきた。
「「「「「ギャアアアアア」」」」」」
驚いた私達は抱き合ったまま飛び上がった。
「ヤバイヤバイヤバイ」
「逃げて逃げて」
飛び出して来たのは同じチームの人ふたりだった。私達5人を見つけると飛びつきながら叫んできた。
「ヤバイって! 早く逃げないと!」
「何で! 何があったの」
「わかんないけど! 先頭の方から悲鳴が上がって」
「何かに襲われてるみたいだった!」
「みんな散り散りに逃げた」
「ここから離れよう!」
「こっちに来たら怖い」
「なな何が来るの」
「わかんないけど早く!」
私達7人は来た道に向かって大急ぎで走り始めた。
村の方へ。
無我夢中で逃げた。




