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感情のソーサラー  作者: よるのとびうお
第一章 魔法の発現
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この先は通さない



 ──住民達は街の中央へと避難し、港では護衛団が魔物と衝突。アクアリザードは大群で港に押し寄せると次々に飛び出してくる! 人より一回り大きいそれらは四足で陸を駆けると、その低い姿勢のまま突っ込んでくる。それを最前線で食い止める彼らは、余りにも重いその衝撃に次々と吹き飛ばされた。しかし、彼らは数多(あまた)の戦いを乗り越えている猛者達。体当たりをした事でアクアリザードの勢いが止まるこの好機は逃さない。後続が次々に剣を振り下ろすと、硬い鱗は少しずつ剥がれ落ち、露出した皮膚には血が滲み出す。

 魔物は堪らず体を旋回させ長い尻尾を鞭のようにしならせ薙ぎ払う。その強力な一撃は斬りかかった数人を同時に吹き飛ばした。纏わりつく者がいなくなると鋭い牙と爪を剥き出しにし、アクアリザードは再び前進を始める!


「この先は死んでも行かせんんんん!!」


 アクアリザードの側面目掛けてアルタが勢い良く駆け出して行く。その勢いのまま横腹の露出した皮膚に剣を突き立て必死にしがみつくと、魔物は再度、旋回をして振り落とそうとする。だが、突き立てた剣は意地でも離さない。そこに他の二人が畳み掛ける。


「俺は尻尾を切り落とす! ガンタは頭を狙え!!」


「任せてよ! 俺たち三人の連携は世界一さ!!」


 ベータはしなる尻尾を一度剣で受け止めると、裏側の鱗のない皮膚を狙い剣を食い込ませる。

 尻尾を襲う強烈な痛みにアクアリザードは背後を向こうとしたその時、ガンタは大きく振りかぶった大鎚を頭目掛けて叩き落とした!! 不意に襲う強烈な一撃に魔物は声を荒らげ動きが鈍る。怯んだその隙を逃さず、しがみついていたアルタが剣を引き抜き勢いをつけると再び同じ箇所に剣を()じ込んでいく!


「「「うおおおおおお!!!」」」


 アルタはそのまま横に腹を割き、ベータは食い込ませた剣を背負い投げるように尻尾を切り上げ、ガンタは頭部を叩き潰す!!


 勇ましい雄叫びと共にそれぞれが武器を振り抜き、アクアリザードは悲痛の叫びを上げて倒れ込む! アルタ、ベータ、ガンタの三人の連携で魔物は倒れ、それがきっかけとなって護衛団の士気は上がっていく。


「怯むな! 複数で挑むんだ、決して一人で立ち向かうなよ!!」




 ──時を同じくしてフィリアは、街の中央へと続く道に立ち塞がると、迫り来る群れに単騎で立ち向かう!!


親愛なる私の体(ディア・マイセルフ)!!」


 フィリアは体中に光を纏うと、体当たりをしてくるアクアリザードに正面から当たり返す。小さなフィリアの体と一回り大きい魔物、両者が鈍い音を立ててぶつかると、一方をその場に残して弾け飛ぶ!! 弾き返されたものは停泊している船のマストを次々と薙ぎ倒すと、飛沫(しぶき)と共に海に叩きつけられた。

 最初の衝突の勝者──フィリアはその場で高々と片腕を掲げる。


「愛するこの街を守るため……この道は絶対に通さない!! 皆んな吹き飛ばしてあげる!!」


 後に続いて次から次へと海から押し寄せる魔物達。真っ直ぐに駆け出してくる彼らをフィリアは拳を振りかぶっては吹き飛ばす。硬い鱗は一瞬で砕け、後ろで海から這い上がろうとしている魔物もそれに巻き込まれて沈んでゆく。しかし、それで行進が止まる程の事態ではなかった。

 今度はフィリア目掛けて同時に三体が突っ込んで来た。一体は頭部を横から思いっきり殴り付け吹き飛ばし、そのままの勢いで回転をつけて跳躍すると魔物の側面に回し蹴りを見舞う! だが、どんなに強くても手数には限界があった。フィリアの横を残る一体が抜け出し街に入って行く。

 この先には皆んなが……でも、もう間に合わない!!


「エルビス!! おねが──」


 ──その声を待たずに空から光の矢が飛んでくると、アクアリザードは凄まじい衝撃と共に地面に叩きつけられる!! 地面は割れ、直撃した魔物は声を漏らす事なく絶命する。


「流石エルビス! 頼りになるんだから!」


 エルビスの援護があると心置きなく戦える。そうしてまたフィリアは押し寄せる群れに向かって突き進んで行く。





 ──エルビスは高台から全体を見渡し、包囲を突破した魔物へと次々に魔法を打ち込んでいく。団員達は吹き飛ばされながらも何とか持ち堪え、再び立ち向かっては港で食い止めている。皆が気力の限り立ち向かうその精神力と、フィリアの魔法が守ってくれている事も起因して未だ街の中央へは到達させていない。が、それでも、彼らの疲労は蓄積し包囲の間を抜ける魔物が増えてきていた。ここを外せば街が危ない。エルビスは鋭い眼光で状況を見極めると突破する魔物を一体たりとも逃さない!


「希望の魔法……!!」


「閃光のラスター・ランツァ!!」


 エルビスの魔法は(まばゆ)い光を放ちながらアクアリザードを撃ち抜いてゆく。一体、また一体と魔物は倒れ、その威力は、弾け飛び地形が変わっている地面から見て取れた。


「中央へは行かせない……この街は俺達が護る……!!」


 エルビスはそう呟くと休む事なく魔法を放ち続ける。海から這い出る魔物へ、団員目掛けて突き進む魔物へ、包囲を突破し街へ入ろうとする魔物へと、鋭い眼光で狙いを定めて打ち砕く。

 自分の心がこの街の未来を諦めない限り、俺の魔法は輝き続ける……!!



 ──激しい音が鳴り響く。避難している住民達からは港の様子が分からない。しかし、止むことのない激しい衝突音が住民の不安を掻き立てていく。そんな中、避難所から見える高台からエルビスが魔法を繰り出す度に眩い光が放たれる。海から大型の魔物が現れる非日常的な状況、恐怖や不安が渦巻く住人達にとってそれはまさに、サンティオーネを護る希望の光であった。



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― 新着の感想 ―
[良い点]  ハイファンタジーとして、恐らく誰しも書くであろう魔法を感情と繋げて書かれているお話は大変面白いです! 魔法って現実世界ではあり得ないですが、楽しいとか怒りとかの感情は誰しもが持っているモ…
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