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感情のソーサラー  作者: よるのとびうお
第一章 魔法の発現
10/26

貿易都市サンティオーネ


 ──水平線が赤色に(にじ)み出し、太陽が顔を出す。船員たちが(いかり)を上げる準備をし始めた。


「リーネおはよう。今日はいよいよだね」


 マザーが残した手掛かりを頼りに、一日掛けて海を渡った。タンジがデッキに出ると船員に指示を飛ばし出す。ぼく達は昨日と同じ、端っこの樽に腰掛けてその様子を眺めた。


「さぁ入港だ! 錨を上げろ!」


 船中に縄を巻き取る音が響く。船員たちは慌ただしく動き回ると、甲板がまた騒がしくなった。次第に、張られた帆が風を掴むと、海面では飛沫(しぶき)が上がって行く。


 昨日まではっきりと見えなかった目的地も、みるみる内に近づいてきた。大きな貿易都市の入り口には、大小様々な船が桟橋に(なら)って停泊している。街の中央には一際大きな建物が(そび)え立ち、それに向かって真っ直ぐな道が続く。太陽がまだ真上に至ってないと言うのに、多くの人で賑わっているのが見える。


「すごい……人がたくさんいる……」


 その活気はだんだんと近づいてくると、今やもう目の前に広がっている。道に沿って並ぶ店頭では食料や雑貨、武器や防具まで、ありとあらゆるものが売られているみたいだ。船の上からでも行き交う人の姿が見える。ポートタウンでは、もっとのどかでゆったりとしているが……ここの雰囲気は比べ物にならない。


 そうこうしていると、船から桟橋へロープが投げられた。ゆっくりと波浪(はろう)をかき分けて進む船は、次第に速度を緩め、散らばる飛沫が落ち着いていく。再び錨を下す音も響いてきた。

 ソラ達はついに、貿易都市サンティオーネの港に辿り着いた。


 大きな都市の迫力に圧倒されていると、一息ついたタンジが声をかけにきた。


「長旅よく頑張ったな! 二人ともフロディア? を探しに行くんだろ? これから、この街の領主様に挨拶をしに行くが……一緒にくるか?」


 マザーの元で育ち、他の街にはまだ行ったことがない。ついに、新しいに土地に降り立つ。


「うん! 元のリーネを取り戻さないといけないんだ。ぼく達も一緒につれて行って!」


「マザーが言っていたんだもの。わたしも行くわ」


 ソラの熱い眼差しがタンジに向けられる。リーネの体調も問題なさそうだ。タンジは、ニカッと笑うと後ろで作業をこなす二人に声をかける。


「よし、そうと決まれば船を降りるぞ! ダイ! バツバ! ちょっと行ってくるわ。船を頼んだぞ!」


 向こうから二人の元気な声が返ってくる。彼らに船番を任せると、タンジと子供達の三人は船を降りた。


「あの一番高い建物が見えるか? あそこがこの街の領主、シュレイロード様がいるところだ」


 タンジが街の中央を指差し、歩き出す。話す事がよほど好きなのか、向かいながらこの街について教えてくれた。


 サンティオーネは正面に海、背後は山に囲まれた天然の要塞都市でもあるんだ。だから今回も海路で来たんだが、理由はそれだけじゃねえ。

 この街の海は穏やかで資源がすげぇ豊富だ。その資源を求めて色々な所から船が集まる。ついでに、運んできた荷を売れば儲かるってもんでこの賑わいよ!

 だがな、豊富な資源に集まるのは人だけじゃない……サンティオーネを守る天然の要塞も、そこに住む魔物にとっては最高の住処なんだ! 魔物たちは豊かな資源を求めて、頻繁に街に降りてくるが……


 ──カンカンカンカンッ!! タンジの饒舌(じょうぜつ)な話しを遮り、街中に警告を知らせる鐘の音が響く。


「ええ!? この音は何!? タンジさんこれ大丈夫!?」


 ソラは慌ててタンジとリーネの手を引き、逃げようとする。……でも逃げるってどこに行けば!?


「大丈夫だソラ。よく見てておけ。おー! 今回は怪鳥ロックロックの群れだぞ!」


 人程の大きさの魔物が空を飛び交う。タンジは、まるで見せ物を見ているかの様だ。

 その時、頭上でぐるりと旋回した一羽が、地上に向かって降下を始めた。


「ひ、人を襲おうとしている!? 早く逃げないと!!」


 地上の獲物めがけて、凄まじい速さで降りてくる。それを見物する大勢の人達。


「逃げないと、タンジさん! タンジさん!!」


 瞬間、どこからか刹那の光が放たれたと思うと、下降してくるロックロックを撃ち抜く……!!

 急所を撃ち抜かれた魔物は、力無くそのまま落下して行き、激しい音が街に響く。


 途端に沸き上がる歓声。何処からか笛の音までも鳴り響く。警告の鐘を合図に、さっきまでの賑わい以上のお祭り騒ぎが街を包む。


「うおー!! みたか!? 一撃だ!!」


「きゃー! 流石はエルビス様!」


 頭上の魔物達も仲間を落とされ、騒がしく鳴き始める。もう一度ぐるりと旋回したロックロック達は、狙いを定めると急降下を始める。今度は三羽が地上を襲う……!!


 どこからか再び光が放たれると、迫り来る怪鳥の急所を貫く。意識が途切れ落下する二羽。しかし、一羽はまだ意識を保ち、高度を下げて…………こちらに向かってくる!!


「え、え、え!? ぶつかる! ぶつかっちゃうって!!」


 ソラはどうして良いか分からず、タンジにしがみつく。


「あ、ぶつかるわね」


 リーネもタンジの手を握ったまま迫り来る魔物を見つめる。

 余裕で観戦していたタンジも、流石に今回は二人を抱えて走り出す。それでも魔物の方が速い。みるみるうちに距離が縮まっていく……!!


「タ、タンジさん! もっと早く! ぶつかる……!!」


 タンジに抱えられながら、近づく魔物と目が合ったその瞬間……視線の間に人影が立ち塞がる!


「……女神(フロディア)の加護(・プロテクション)!!」


 優しい光が放たれたと思うと、魔物の前に魔法の壁が現れる。突然現れたそれを避けられる訳もなく、ロックロックはそのまま衝突し、辺りに砂埃が舞い上がる。


 強い衝撃に走るのを止め、二人を抱えて座り込むタンジだったが、恐る恐る後ろを振り返る。視線の先は砂埃に阻まれよく見えない。何とか目を凝らすと、その中から人影が近づいてくる……


「あなた達もう大丈夫! さ! 立ち上がる元気はまだ残ってる?」



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― 新着の感想 ―
[良い点] 会話文など、登場人物の感情がダイナミックに表現されていて読んでいて飲み込まれそうでした!
2023/05/19 19:20 退会済み
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