第45話 明音編 4
Vチューバーと一言に言っても正直触れた事の無い文化だし、良く解らないのが実際の所だ。
機材の扱い方にしたってわからないしこのLive2Dモデルってのがどう言う原理で動いてるのかも解らない。
元々1枚の絵だったものが私の動きに連動して動くのだから凄いモノだ。
このモデルに私が声をあて、配信する事でパソコンを介して、いろんな人から見てもらえる。
それは私の承認欲求を満たすのに最適だ。
私に与えられたモデルは所謂体育会系の美人ギャル女子高生なデザインのキャラクターだった。
浅黒い日焼けした肌を持つ少女で、背が高くて、いろんな運動系の部活を掛け持ちしている。
胸が兎に角大きくて私が動けば連動してモデルも動く。
モデルが動けば、またそれも連動して今度はデカい胸もブルンとよく動く。
この見た目で運動が得意とか普通に無理があるだろと思いつつも既視感のある設定に頭を捻っているとモデルが自分に似通った特徴を持っている事に気づいたのだ。
運動が得意で背が高く胸が大きい。
唯一異なるのはもうリアル女子高生ではない事と褐色と言える程に肌が焼けていない事くらいか…。
まぁ…ここ最近は引き籠もる事が多かったから褐色とは程遠い話だけどね…。
これなら変に演じなくても素のままで良いし、とても楽だ…。
ただVチューバーとしての活動にはセオリーがあって、それを守らないと立ち所に炎上する事となる。
面倒くさいけど、これが当たれば私は外に顔を晒さなくても生きていける。
これから私は一生外なんかに出なくても良くなるかもしれないんだ、そう思うとやる気も出てくるってモノだ。
活動に当たっては、あの男…三浦啓太…三浦先輩は四人の先輩Vチューバーがいる事務所への参加を義務付けなかった。
つまりは個人勢として活動するか、事務所タレントとして活動するかを選ばせてくれた。
私は当然個人勢としての活動を選んだ。
当たり前だ。
稼いだお金…。
同接やスパチャ額、それ全部私が独り占めできるのに企業所属になったら貰える額が減るんだから迷うまでもない、なにより個人勢としてスタートしても三浦先輩はフォローする事を約束してくれたのだ。
活動をフォローしてもらえて稼いだお金も総取り出来るのに企業所属とか馬鹿げてるよね!
そんな考えの元に私は企業所属を断り、個人勢としてVチューバーを始めた。
三浦先輩がどんな考えの元に私に企業か個人かを問うてきたかを良く考えもせずに…。
配信を始めた最初の頃は人なんて全く集まらなかった。
こう言うのを見るオタクは基本ゲーム配信やオタクトークを求めて見に来る。
しかし私はそのどちらも解らない。
ゲームなんてやらないしアニメも見ない。
何を話したら良いか解らないし最近面白い出来事とかもコレと言ってない。
と言うより最近は引き籠もってばかりでネタもないので、配信で話す内容は取り留めも無い物ばかり…。
同接数は1から5人くらいを行ったり来たりしているだけだった。
「ああ〜あの内容じゃ同接なんて稼げる訳無いよ、僕が良いなと思ったのは、あんな自信の無さそうなトークじゃないからね!」
「そんな事を言われても…」
配信後…反省会として私は三浦先輩に電話をしていた。
配信者達はディスコードと呼ばれるサーバー内でやり取りをしているらしいが私はいずれのサーバーにも所属していない。
というよりディスコード内では既にそこの住人達で輪が出来てるし新参者を快く迎えてくれる保証などない。
それに私は知らない内に他者に対して臆病になっていた。
見ず知らずの他人が怖いのだ。
結果、彼に直接電話するのが一番手っ取り早いのだ。
「君に与えたVチューバー"暁サーヤ”は体育会系褐色ギャルなんだよ?その特色を活かさないとね、ぶっちゃけた話がさ、男ってのはありふれたオタクトークやゲーム配信より生のギャルトークを聞いて見たいと思ってるんだよ…君にはそこを愛のある毒をもってサドっ気溢れるギャルトークに花を咲かせる感じで言って欲しいね!」
「そんな事で人気者に成れたら苦労しないわよ…それにオタクが聞いて楽しい話だとは思わないけどね…ギャルトークなんて」
「無論、ただ闇雲に話しても飽きられるし誰も付いてこないさ…トークデッキを作り、自分のなかで順序立てて話すんだ、あとキャラを作るのも忘れてはならない、君は夏芽明音ではなく暁サーヤとしてデビューする訳だからね」
「わかってるわよ…」
私の高校時代が所謂ギャルに該当していると言っても、そこまで間違ってはいない。
スポーツや体を動かすのは好きだったし、胸もデカい。
サーヤに近い部分は多い。
まぁ…私は日焼けギャルではないけども。
それでもキャラに合わせた話運びに気を使わないと人なんて来ない。
私はあれ程遠ざけていたSNSで暁サーヤの個人ツィ◯ター(✗)を作りそこで宣伝活動を開始した。
勿論新人Vチューバーが開設したページに人が直ぐ集まる理由わけが無かったが、それでも無いよりはマシなようで一回目の配信の視聴数が微妙に変動していた。
まぁ…あくまで微妙な数だけだけど…。
それからも私はちょくちょく配信しては実りのない話をネットの海に垂れ流していた。
大した数では無かったけどチャンネル登録してくれる人が増えると嬉しかったし、同接が増えると心が踊ったし、コメントが来ると必死に読もうとした。
正直に言うと普通に楽しかった。
友達と話してた頃はその友達の気を遣って話を合わさなきゃいけなかったけど配信は私のペースで私の話したい内容を話せる。
視聴者はそんな私の話を聞いてコメントをしてくれる。
もう無理してリアルで人と話す必要なんてない。
ここが私の居場所だと私は強く思った。
「私さぁ〜他の子より背が高いじゃん?だからバスケとかバレーとかやったら他の子から王子様扱いされた事があるのよ〜いやね〜私普通に男好きだから同性からそういう目で見られても何とも思わないと思ってたんだけどね〜女の子は手とかスベスベだし〜ほっぺふみふみであれはあれでいいよね〜♪」
まーちゃ [サーヤ嬢は男好きw]
ヤムハン [スベスベふみふみ…けしからん!]
聖剣アロンダイト [その話くわしく!]
「そそ!マジでふみふみ!いっぺんあんたらもさわってみ?マジでさわり心地神だよ?あっ!無理か〜みんな童貞だかんね〜」
聖剣アロンダイト [どっ…童貞ちゃうわ!(汗)]
ヤムハン [DTナメんなこらw]
まーちゃ [サーヤで童貞卒業したい人生だった!]
「え〜きも〜い♪でも私童貞は食った事ないし、みんなを卒業させてあげるのも悪くないんだけど何せ私ぶぁーちゃるだから無理なんよね〜ゴメンね〜♪」
ヤムハン [くっ…この身がヴァーチャルだったら…]
まーちゃ[このメスガキをわからせたい!]
聖剣アロンダイト [非処女ムーブ助かる]
こんな感じで配信してるけど普通に楽しいしオタクと話すのも悪くない。
ここで満足してたら良かったんだろうけど私はもっと見て欲しかった。
もっとチヤホヤして欲しかった。
もっと構って欲しかった。
だからこれは必然だったのかもしれない…。
ある日、私はなんとなく三浦先輩が運営として管理している四人のVチューバーの配信を見た。
見てしまった…。
そこには私のチャンネルなんかでは比較にならない程の同接の数、次々と流れるコメント、そしてチャンネル登録者数があった…。
数の圧倒的な暴力、それはただ私を惨めにするだけだった…。
何を浮かれていたのか…アレだけの数で…あの程度の数で…。
「個人勢だと最初はそんなモノだよ…むしろ僕は初動の同接数だとかなり健闘してる方だと思うよ?」
「な…何が健闘よ!あの子達と私…始めた時期もそこまで開いて無いじゃない!それでこんな差をつけられるとかおかしいじゃない!」
「Vチューバーの配信では一ヶ月の期間でも視聴数の数には大きな差が生まれるし、その認識は間違ってるよ?僕は今の結果は無難どころか割と上手く言ってる方だと思うけど?」
「……でも…こんなに差が開くのは…おかしいじゃない…まさかアンタ!私に何か隠してるんじゃないの!?ねえ?」
「はぁ…そんなわけないだろ?強いて言うなら、個人勢と企業勢の差かな?」
「はあ?」
「個人と企業所属では受けられる恩恵が桁違いなんだ…まぁ…ウチは駆け出しだからそんな大した事は出来ないけどね…」
要約するとそういう事らしい。
つまり個人では出来る事には限度が有るが、企業所属…とゆーよりも同じ所属のVチューバー同士だと所属V通しでリスナーをトレード出来るのだ。
どういう事かと言うと、コラボなど二人のVチューバーが一つの配信で絡むと、その二人に付いてるリスナーがコラボ相手の配信に興味を持ち、リスナーを増やす事が出来るのだ。
彼女達はコレを定期的に繰り返してリスナーをトレードしているのだ。
コレが企業という名の箱所属Vチューバーの強みだと言えるが、所属V同士が交流し情報をやり取りする事で界隈の雑談ネタを取り込む事も出来る。
それにもっと売れてる事務所ならば、この他にも事務所側から予算が許す範囲の恩恵が受けられる。
例えばLive2Dモデルのアップデートや配信環境の改善、Live2Dモデルの上位互換とも言える3Dモデルの制作や、そのモデルを生かしたトラッキング技術によるモデルのスムーズな稼働もろもろ、他にも個人ではほぼ全てが自腹だが、グッズの販売なんかもある。
流石にこの辺りはまだ三浦の力ではどうにも出来ないため、彼に付いてる四人のVチューバーの頑張り次第となるのだが、そんな事は明音には関係無かった。
「だったら…だったら私もアンタの箱に入る!それなら問題無いでしょ?」
「いや、無理だよ」
「なっ?なんでよ!」
「君は下品を売りにしてるだろ?僕は清楚を売りにしてるんだ、君が入って来ると品位が下がってリスナーが減る…いや、最悪炎上しかねない。」
「はぁ!?何よそれ!アンタ私の事馬鹿にしてるの!」
「違う違う…君もオタクが処女厨なのは知ってるだろ?男なんて知らない…エッチな事とは無縁な清楚な娘にこそオタクは群がるんだ、でもこれには明確なデメリットがある。」
「な…何よ…デメリットって…」
「オタクは処女…つまり清楚な美少女を神聖視しているんだ…。そんな娘が淫らにエロネタ話したり男と匂わせなんてしたら一気に炎上するんだよ…デビュー前なら兎も角、今の君は下品ネタでやってるんだから、あの四人とは相性最悪だよ?仮にコラボとかやった所で少ない客を取られるどころか彼女達が抱えてる厄介リスナーから攻撃される未来しか見えない。」
「そ…そんな…」
今のキャラ付けが間違っていた…?
でも清楚キャラなんて私のガラじゃない…やった所で絶対に無理があるのが自分でもわかる…。
どうしたら良いのか私は解らないまま配信を続けたのが仇となった。
マハノン [どしたの…?はなし聞くが?]
ヤムハン [サーヤ今日元気ないな?]
聖剣アロンダイト [サーヤたんのゲキエグトークが聞きたいお!]
「ねえねえ?私今から清楚売りとか無理かな?」
ヤムハン[へ?清楚売り?]
マハノン[いやいや無理でしょw今更ww]
聖剣アロンダイト [つか何で清楚?]
まーちゃ [今北産業]
「私もっと有名になりたいんよ、そのためには清楚キャラがいいって話を聞いてさ?でも今更じゃん?どーにか出来ないかな〜って?」
聖剣アロンダイト [サーヤたんは今のままのギャルムーブこそが至高]
マハノン [無理に清楚とかいらなくね?]
ヤムハン [つか今更清楚に拘るのが謎]
「いやでも清楚のがウケがいいんでしょ?やっぱり清楚ねらってこーかな?」
ヤムハン [いやいやw清楚とか求めてない]
マハノン [量産清楚に価値なし!]
まーちゃ [どうせ直ぐに化けの皮剥がれるから止めるべき]
「な…何よ!アンタ達まで私を馬鹿にして!どいつもコイツも私を馬鹿にして!
私の事誰も解ってくれないくせに!笑い者にして!」
ヤムハン [うわっ!?いきなりヘラりだした!?]
マハノン [餅付け!]
聖剣アロンダイト [俺等はサーヤの方向性的に清楚は向いてないって話してるだけで馬鹿にはしてないよ?]
「黙れ黙れ!!そうだ!アンタ等がもっと私の事を宣伝しないから駄目なんじゃない!もっと私の事を拡散してよ!もっと広めなさいよ!アンタ等私のガチ恋なんでしょ?私の望んでる事も出来ないとかアンタ等価値ないのよ?理解出来る?」
ヤムハン [コイツいきなり本性曝け出し始めたww]
マハノン [うわっ、キッツ]
聖剣アロンダイト [サーヤ落ち着けマジで]
「クソが!役に立たない無能はいらないのよ!消えろよカス!」
マハノン [興冷め]
まーちゃ [これだからVは]
聖剣アロンダイト [とりま落ちるけどもう少し頭冷やそ]
それからは早かった、コメントをくれていた3〜4人の内の2人は配信どころかツィ◯ターでもブロックされ、ロム専と思われるリスナーもどんどんと数を減らして一気に過疎チャンネルとなっていった。
冗談みたいな話だが私はコレが自身の最下層、Vチューバーの底辺に堕ちた…一番の失敗だとこの時は本気で思っていた。
しかし違った…いや、失敗である事は間違ってない。
このやらかしが過去の黒歴史まで引っ張ってくるなんて思いもよらなかった…。
あの騒動からしばらくして私のVチューバー個人ツィ◯ターにある動画が貼り付けられた。
所謂アラシ行為に当てはまるだろう行為。
でもそんなアラシ行為程度に私の心臓を鷲掴みされたかのような衝撃をうけてしまった。
じゃ何故そこまで私が動揺してるのかって……?
だってこれは…私の一番触れられたくない恥部だもの…。
だからそんなモノ…見なくても分かる…それは私の黒歴史…私の恥部…私の忌まわしき過去だった…。
「どうして…」
サーヤチャンネルとサーヤのツィ◯ターは大盛りあがりだった。
過去にこれだけの人が来た事は無い。
それだけの人がこぞってあつまっていた。
あの三浦先輩が世話してる四人の動画視聴履歴数を大きく上回る視聴履歴がついていた。
動画の下にあるコメント欄には
この声って、やっぱりあのAVの人で間違いなくね?
アニマルVだったか…
特定班乙
まぁ性欲強そうだったしそれ程ダメージないな、むしろ解釈一致で推せるね
つかリアルサーヤ超美人でπデカくね?解釈一致過ぎてツライ
とか勝手な事が書かれていた。
何故こんな事になる…
どうして…
私はただ配信者として楽しくやっていきたいだけなのに…
全部が邪魔をする…
過去が…私の黒歴史が邪魔をする….




