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僕だけ居場所のない家から逃げ出した先で見つけた僕の本当の居場所  作者: ムラタカ
愛梨編

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第40話    愛莉編 4

あたしがここで働き始めてそろそろ半年となる、仕事にも慣れて来て一つの持ち場を任される様になっていてやり甲斐を感じている今日この頃だ。


なんの気づかいか知らないが中学時代につるんでた不良仲間の女共もここに就職して来て事務やら仕分けや検品とかの軽作業者になっている。


なんでも






「姉さんの役に立ちたいんっすあたし等!」




「姉さんのお陰で私勇気貰えたんです!ですから姉さんの側で働きたくて!」




「姉さん水臭いっすよ!どこまでもこき使って下さい!」






と、何処で嗅ぎつけたのかあたしの仕事場にわざわざ就職してくるかつての不良仲間達。


どうやらあたしは自分で思ってるよりコイツ等に懐かれていたらしい。


全くヤレヤレだ。


先輩達やあたしの後で入って来た男の新人なんかはむさ苦しい男所帯の仕事場に意外にも女が大量に入って来て毎日笑顔が耐えない。


全く…現金な奴等だ。


そしてある意味で悪目立ちしている男のバイトがいる。


未だ初歩的な仕事しか任せて貰えないらしくそのへりくだった態度から新しく入って来た新人だと思われがちだが奴はあたしよりも前にここで働いていた先輩だ。


名前を中岸蓮司というらしい。




時折ねとっとしたエロい視線を送って来ていて不愉快だったが今は若い女の社員が増えて奴のセクハラ的な視線は女社員にまばらに注がれている。


物凄い不愉快でダチの女共もアイツに対して不快感を強く感じてるらしい。




まぁ誰も奴には必要最低限にしか絡まないし他の男社員も女社員と奴が近づかない様に気を使ってくれている。


さっさと辞めれば良いのにと思う反面他人に対してそんなマイナスな事を考えては駄目だと自分のネジ曲がった性根に辟易とする。


座禅を組んで気持ちを落ち着かせたい気持ちになってしまう。


とそんな事を考えていると昔馴染の女バイトが何かを深く考え込んでいる様な顔をしていた。






「どうしたんだ?難しい顔して?」




「え…?あっ、いえ…アイツの名前どっかで聞いた様な気がして…」




「アイツって中岸先輩か?」




「はい…どっかで聞いたんですけど…誰だったかなぁ?」




「思い出せないなら大した事じゃないんだろ?」




「それもそうですね。」




「下んねー事考えてね〜で仕事すっぞ!」




「了〜解〜」






あたしはこの件の話を大した事の無い雑談として流したが後からもっと詳しく聞いておくべきだったと後悔する事になる。


愛莉同様寺で過ごしていたあたしはここ3年の事には疎い。


中岸の家名が3年前にしでかした事はこの辺じゃ有名だ。


しかしそんな事あたしは知らないのだ。


いや、厳密には噂として聞いた事はある。


噂好きの女友達共からは聞いていたけどあくまで噂の範疇で詳しい内容までは知らない。


実際にその時にリアルタイムで見聞きしてきた奴等と後から又聞きで仕入れた情報ではどうしても齟齬が生まれる。


あたしは知らないのだ。


愛莉と肉体関係にあった義理の兄の事を。


そいつと半年も知らず同じ環境で働いてたなんて事も。








___________________________________________________________








「今までお世話になりました…先生…皆…本当に…ぐす…ありがとうございました…、」




「おめでとう…立儀さん…此処から先は貴方が自分の意思で道を進んでいくんです。


これから辛いことや悲しい事…沢山あると思います…でも挫けずどんな事があっても前向きに生きていきなさい。」




「はい…先生…今まで…ぐす…本当に…。ぼんどうにありがどうございばじだぁ!」






立儀愛莉は今日更生施設を卒業した。


かつて天使なんて呼ばれた面影はその容姿には無い。


化粧や着飾る事とは無縁の隔絶された世界に3年閉じ込められて来た彼女は今時の少女にはあるまじき飾り気の無さだ。


しかし愛莉はそんな事は毛ほども気にしていない。


今彼女の胸中にあるのはお寺で過ごした先生や仲間達との思い出…そして数々の教えでいっぱいである。


この3年間で彼女は自らの犯した罪を自覚しそれら行為を改めて恥じた。


だからこそ彼女の口からは自然とこんな言葉が発せられた。






「おじいちゃん…おばぁちゃん…ただいま…それと今まで心配かけて…迷惑かけて…ごめんなさい…私は…わだぁしは…愛莉はぁ……」




「今までよく頑張った…おかえり…愛莉」




「おかえりなさい…愛莉ちゃん」






祖父母と抱きしめ合う愛莉


祖父母は愛莉が入学した寺施設に毎日顔を出していた。


祖父が仕事やらで行けない時は祖母が、


逆に祖母が行けない時は祖父が、


しかし彼等は基本毎日祖父母夫婦二人で愛莉を見護るために施設に通い続けた。


幼い孫を更生させる為とはいえ、施設に入れる判断を決断した事に対する責任あっての行動だ、孫を見守りたい、信じたいという希望、それでも意味はなく無駄に終わるかもしれないと言う不安。


様々な気持ちが綯い交ぜになっていたが彼女が限界を迎えれば祖父母は施設から引き取り、実家で面倒を見るつもりでもいた。




しかし面談で幾度か彼女に問いかけた事がある質問に対して彼女の堪えは変わらなかった。






「辛ければ帰って来ても良い。」






という言葉に対して彼女は






「愛莉はここで頑張る…お兄ちゃんと約束したから…」






そう言って逃げ出さず投げ出さず最後まで耐えきったのだ。


目を見れば解る。


今の彼女には芯が通っている、昔の…3年前の甘えた、自分に都合良く考える悪癖は改善されていた。




孫の成長に目頭が熱くなると同時に何もしてやれなかった…施設に丸投げし希望に縋り賭けることしかできなかった自分達の行動を祖父母は恥じた。






「これからは愛莉の望む道を進んで行きなさい…おじいちゃん達はそれを応援する…それとすまなかった…愛莉よ…」




「どうしておじいちゃんがあやまるの?」




「わし等は何処かでお前を見捨てていたのかもしれん…もう駄目だと…更生など無意味だと…お前の未来を諦めていた。」




「おじいちゃん…」




「しかしお前は見事にこの3年間を乗り越え成長した…わし等はお前をみくびっていた…その事を謝りたかった…。」




「謝らないで…おじいちゃん、愛莉に機会を与えてくれたのはおじいちゃんとおばぁちゃん…そして琢兄だよ…私はあのままだときっと駄目になってた、それくらい私にもわかってる…だから私はおじいちゃんおばぁちゃんに感謝してる…恨むなんてそんな事絶対にない…それに友達も出来たんだ…あ…」






愛莉の視線のさきには件の友達、霧山紗月がいた。


彼女は無事に卒業し外に出てきた愛莉に話かけた。






「よっ!愛莉…久しぶりだな!」




「紗月ちゃん!うん!久しぶり!私ちゃんと卒業できたよ!」




「おう!まっ、お前なら何も問題無いと思ってたよ」




「へへ、ありがとう。」




「おう!」






昔からの仲かの様に接する紗月に元気に答える愛莉。


老夫婦は孫に屈託なく接する事の出来る友達が出来た事が純粋に嬉しくて目頭を熱くする。


彼女との出会いが愛莉を更生させ前に進む道を見つける事が出来るきっかけになったのだとしたら彼女には感謝してもしきれないのだ。






「ありがとうね、紗月ちゃん…孫の…愛莉の事…迎えに来てくれて…」




「へっ?あっ…いや…あたしはダチとして普通の事をしてるだけっすからそんな気にしないで下さいっすよ!」




「それでもだよ、その普通の事が出来る事がどれだけ大変な事か…だから本当にありがとうね…紗月ちゃん…」




「いや…そんな大した事じゃ…」




「もぉ~おばあちゃんやめてよ!恥ずかしい!」




「ふふ、」




「あはは…」






一同は和やかな空気に包まれる


そこに更にある二人組がやってくる。


愛莉と祖父母はその二人組に視線をやる。


祖父母はその二人組の男女を暖かく迎え入れる。


愛莉はあっと声を漏らし生唾を飲み下した。


彼女が緊張しているのがその態度や仕草から読み取れたから紗月がどうしたと声をかけようとしたが祖母がそれを手でそれとなく止める。


それで紗月はある程度察する事が出来た。






(アイツが…愛莉の…)






愛莉と対面したのは彼女の実兄


立儀琢磨だった。






「その…久しぶりだな…愛莉…。」




「うん…ただいま…琢兄…」






琢磨はこれまで一度も愛莉とは顔を会わしていない。


3年間の間、祖父母と一緒に面会に行く事も出来たが彼は一度も面会にはいかなかった。




正直琢磨にとって愛莉は負の記憶の象徴だ。


彼女の顔を見ればあの忌まわしい日々の記憶力がフラッシュバックする。


家族から、実の母親からいないモノかの様に扱われ妹からは汚い言葉で詰られ小馬鹿にされ、貶された。


実の妹が義理の兄弟親子とやっている所を何度も見せられ強い拒絶反応から気持ち悪さと吐き気を感じた事もあった。


だから当時はあの場所から逃げ出した。


それでも兄として最後に手を差し伸べた。


琢磨にとってはあの行動が愛莉に向ける最後の情けだった。




正直関わりたくなかったというのもある。


人は無責任にもこんな事を言うのだろう…。


だらし無いと…兄妹なら…兄ならもっと手をかけてやるべきだと非難するだろう。


しかし当時の琢磨が愛莉にしてやれるのはあれが限界だった。


どうせ直ぐ投げ出して、約束も投げ出して逃げて出てくる。


琢磨が愛莉に課した約束、3年間頑張れって言葉も無視し、忘れて出てくる…そう思っていた。






しかし彼女は見事に3年間耐えきりこうして今日無事に卒業という形で寺から出てきたのだ。


それは…


その事実は認めてやらないといけない。


彼女は約束を違える事無くやりきったのだ。


愛莉の幼い精神性を考えるなら生半可な決意では叶わなかったろう事は容易に考えうる。


彼女の成果を…成長を、


彼女の努力を彼女の変わりたいという気持ちを琢磨は理解してやらなければならない。


そして琢磨はそれを痛く理解した。






「正直本当に3年間耐えてちゃんと卒業出来るとは思ってなかったよ…」




「それがお兄ちゃ…琢兄との約束だったからね…」




「なんつーか、おまえ…かわったな…その…良い意味でさ…大人っぽくなったよ…」




「あはは…愛莉も18…もうすぐ19だしね…」




「ははは…そうだな…」






愛莉に昔の様な幼さはなかった…


見た目的にも昔のオモカゲは無い…


すっぴんで化粧なんてしてないし、髪の毛も短髪で…所謂スポーツ刈りでこんなヘアスタイルなら外に出るなんて死んでも嫌って言いそうなモノだが愛莉にそんな事を言う感じはない。


身体つきも何処かガッシリしていて筋肉がついているように見える…昔はムネがデカいだけで筋肉なんてついてない細い身体だったのに…。


コイツは寺の中で今までの自分を捨てて今の自分に頑張ってなれたんだろう。


それは祝福されて然るべきだ。


そしてそれは兄である俺がコイツに言わなければならない、いや…言う言葉なんだ。






「改めて…その、愛莉…おかえり…。」




「うん…ただいま…琢兄」






こうして愛莉は琢磨とも和解し無事に立儀家の人間としてある意味では人生の再スタートを切った。


元々卒業したら働くつもりだった愛莉はそのまま紗月の紹介で彼女と同じ職場に就職する事となった。


しかしそこで愛莉は彼と再会する事となる。


愛莉にとっては忌むべき思い出の象徴。






中岸蓮司と再会する事となるのだ。



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