第39話 愛莉編 3
私が児童更生施設を出てしばらくしてからある事を知った。
それはあの馬鹿女…愛莉についてだ。
アイツの過去についてはアイツ本人から聞いていたのである程度は知っていたがまさかこんな事になっていたとは…。
あたしがこの事…アイツの過去について気づけたのは単なる偶然だ。
施設の卒業後あたしは間もなくして仕事に付いた。
もし施設送りになってなくても高校卒業後は一人暮らしして働くつもりだったからじいちゃん達に引き取られてそこから働きに行く事になる事に問題はない。
むしろ僥倖だったとすら思ってる。
成人前の小娘にいきなり独り立ちなんて出来る訳が無いし、かと言って頼れる人なんていなかったからホントに助かってる。
爺ちゃん達には感謝してもしきれない。
そんでなんとか勤め先を見つけてそこで働き始めてそろそろ3ヶ月、仕事は思ってる程しんどいもんでもなかった。
あたしがやってる仕事は本来なら女がやる様な内容じゃない…男ばかりのむさ苦しい現場仕事だ。
でもみんな親切で丁寧に教えてくれるし気のいい奴等ばかりだ、まぁ…ヘマして怒らせたらクソこえーけど。
んで男があつまると当然話の内容はシモに傾く。
別にそんな事にわざわざ赤面したり破廉恥だ何だと騒ぐ程あたしは乙女じゃないし一定の理解は示してるからどうとも思わなかった。
アレを見るまでは…。
「ちょ…これ…」
「わわっ?紗月ちゃん!?」
「ちょっと見せて!」
「え?やっ、ちょっ!紗月ちゃん」
「いや、これはだね!えっとね…」
流石の男共も女であるあたしにAV見てるのを嗅ぎつけられたら同様するのか声が裏返ってて超キョドってやがる、普段ならからかってやるところだが今のあたしにはそんな余裕は無かった。
「別にAV程度で引いたりしないからそこまでキョドらなくていいっすよ先輩方」
「あっ…そう…?」
「はは…!流石紗月ちゃん…」
「…これは…やっぱり…」
先輩達が休憩時間に最近お気に入りのAVの話をしていたのが耳に入ってきたのだ。
この女優がかわいいだとかこの女優は乳がデカいだとかそんな話だ。
よくもまぁあたしのいる前でと思うけど下手に気を使われるのも嫌だし男所帯に入っていったのもあたしの方だしいちいち文句を言うのもお門違いだと黙っていたのだが
「このアイリって子かわいいなぁ!」
って声が聞こえてきたのだ。
まさかな…そう思ったけどあの馬鹿女の話を思い出したあたしはどうしても気になって確かめる事にした。
結果は当たって欲しくない想像がドンピシャだった。
「どしたの?紗月ちゃん…?」
「先輩…この動画…どこで?」
「あぁ…このサイトに…」
「このサイトにあったんすか?」
「てゆーよりいろんなエロ動画サイトに拡散されてるみたいよ?」
「なんか素人の個人撮影っぽいよねこれ、」
「どこが拡散元かとかは解るんすか?」
「いや、さすがにそこまではわからんよ…」
「俺も最近見つけただけだし、動画の出所まではわからないよ。」
「そっすか…」
動画の中にいるのは間違いなく愛莉本人だ。
あたしが見てきた愛莉は施設の決まりで髪は全部剃らなくちゃいけない、だから髪の毛のある愛莉を見るのは初めてで新鮮で一瞬誰か解らなかった。
それに多分だけど撮影されたのはもう約3年以上も前の映像のハズだ…
愛莉の顔つきも今じゃこの動画とかなり変わって来てる、だから元々愛莉の事を知ってる奴じゃないと特定は難しい……と思う。
それでも…それでもだ。
こんなもんが…こんなもんが…あって良い訳ない。
これは…人権の侵害だ…。
そんなのは…許されることじゃない。
これでは愛莉は外の世界にせっかく出てきてもあの施設なんか比べ物にならない地獄が待ってるだけだ。
これを家族ぐるみでやってたってんだから連中の頭のネジは外れてやがる…。
いや、外れてる、なんて生易しいもんで済まないだろう。
異常だ…。
「先輩達はこの女の動画見るの今日から禁止っすよ」
「え?なんで!?」
「え?アイリちゃん推しなのにひどっ!」
「あぁん!!?なんか言いましたかぁ!?」
「ひぃっ!?」
「何も言ってません!」
「もう見ません!イエス!マム!!」
「ならばよし…あ…いえ…ならいいんすよ…はは…」
ヤバイヤバイ…ここはあたしの縄張りじゃなくて職場であたしはここでは一番下っ端だ…
つい昔の癖が出てしまったと反省する紗月だった…
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場所は変わりとある薄暗い個室のなかでパソコンから灯る明かりだけが室内を不気味に照らしていた。
パソコンに向かう男は一心不乱に画面を凝視している、髪の毛はボサボサで無精髭はそのまま放置。
目の下にはクマの跡がびっしりで目玉が浮き出ている様に見えてゾンビを連想する程で不気味この上ない。
何日も着回して服はヨレヨレのボロボロ。
かつての彼を知るものならその落ちぶれ様に愕然とするだろう。
かつては学園の王子様と呼ばれた男の成れの果て。
右腕はせわしなくある物を握って動きその右腕の動きに合わせて息も粗くなる。
息が上がればそれに連動するように手の動きもまた早くなる。
男がパソコンである映像を垂れ流しにして目を血走らせ必死の形相で右腕を動かし自身の下半身のあるモノをシゴイている。
ハァハァハァハァと息は尚粗くなる。
しかしついには限界が来たのか男はうぅ〜と唸り声の様な声を上げそれからしばらくして男の右手の平は白いドロドロの液体がいっぱいだった…。
男はそれをつまらなそうに見つめながらボソリとつぶやいた。
「ハァハァハァ……あ…愛莉…もうすぐ…会える…へへ…ふへへ…」
と…、
彼の名前は中岸蓮司。
両親がそろって逮捕され行く宛の無くなった彼は突き放される様に施設送りとなった。
しかし彼は施設の中でも問題行為を繰り返し今は施設が用意したこの部屋に半ば追いやられている。
無論既に成人している彼に手間をかけるほど施設も余裕はない、この部屋は施設が彼に紹介した格安賃貸で月の家賃を払わなければ追い出される。
詰まる所彼は生まれて初めてのバイトをしているのだがそこは地獄だ。
むさ苦しい男ばかりの環境で力仕事を強要される。
少し間違えただけで馬鹿みたいに怒鳴りつけてくる。
しかしここを追い出されてしまえばいよいよ住む場所もなくなる。
彼は追い込まれていた。
そんな彼にとっての心の支えがかつての義妹。
愛莉だった。
あの頃の自分を殴り飛ばしたい。
何故あれ程の女を手にしながら俺はそれ以上を求めていたんだと…。
手が届かなくなって初めてその大事さに気づけたのだ。
ああ…ああ…愛莉…。
でももう少しだ…もう少しで…
愛莉は戻って来る。
愛莉が施設から出てくるのは3年後…
そしてその3年ももう少しで終わる…。
愛莉…ああ…。




