第37話 愛莉編 1
あたしの名前は霧山紗月。高1だ。
故有って今は〇〇総合児童保護更生施設って所の世話になってる。
あたしをここにぶち込んだのは祖父母共だ。
あたしはここに来るまではこの辺りをシメるレディースの総長だった。
調子に乗ってるクソ男がいればシメたしナマイキいってくるメスガキがいたらこれもシメた。
そうしてあたしは力で全てを従えこの辺りでは女番長なんて言われて怖がられていた。
暴力はシンプルでいい。単純だし分かり易い。
舐められたらシメてわからせてやればいいしそのための力は自分で磨けば良い。
そう言う意味ではここはあたしの性にあってる。
座禅は好きだ。
無駄な事を考えず雑念を払い自分だけを見つめていればそれで良い。
手下の女共はあたしがここに来る前にこう言っていた。
姉さん御勤めご苦労さまです!と…。
違う…。あたしにとってこれは勤めじゃない。
修行だ。
自分を見つめ直す修行だ。
そう考えるようになってからは背中を叩かれる事もなくなり褒められる事も増えた。
自分がまた一歩理想とする強い自分に近づけた気がして嬉しかった。
やり甲斐を感じていたんだ。
ここでの生活は確かに辛いがそれでも荒んだ自分を見つめ直すのに最適だった、祖父母のジジババ共もあたしにソレを理解させたかったのだろう、まったくいいお世話だぜ。
そんなこんなでここでの生活が始まりあっという間に半年が過ぎた。
ある日ここのセンコー共からこんな事を言われた。
明日からこの学校に新しい仲間が1人加わる。
「皆さん助け合い共に人としての高みを目指しあう良い仲間、ライバル、そして友人になって下さい。」
ここにはこうして定期的に新入生がやって来る。
曰く付きの問題児だったり、社会性のないクソガキだったり、自分の殻に閉じこもった臆病者だったり、まぁ色々な奴がやってくる。
そして今日やってきたのは世間知らずのメスガキだった。
「愛莉はなかぎ……立儀愛莉っていいます…愛莉と仲良くしてね?」
目をウルウルさせて媚を売ってきているのが直ぐに解った。
多分無意識でやってるんだろうな…こいつの処世術かなんかだろう。 第一印象でハッキリした。
コイツはあたしの嫌いなタイプだと。
バシーン、
今日も小気味よく快活な音が空に木霊する。
「いだあぁぁーぃ!いだいよぉ!!どうしてこんな事するのぉぉぉ〜〜!!?愛莉痛いっていってるでしょょぉぉ!!」
あのムカつく媚女はああして叩かれる度に騒ぎ立てて自分が可哀想だとアピールしてセンコー共を困らせている、実にムカつく奴だ。
「黙って目を閉じ座禅に集中しなさい、叩かれないように努力する事を…」
「いやだ!どうして愛莉何も悪い事してないのに叩くの?おかしいよ?そんなの?謝って!ねぇ?謝って!?」
「……立儀さん?これは座禅といって精神を統一する修行なんです、姿勢良く座り、自身の心を落ち着け自分を見つめ直す為の試練で…」
「はあ!?何言ってるの?こんな事に何の意味があるの?馬鹿じゃないの?試練とか修行とかバッカみたい!そんな事よりもっと愛莉は意味のある事がしたいの!だから愛莉はここにきたんだよ!?愛莉は早く昔の自分を取り戻してお兄ちゃんに認められなきゃいけないの!こんな事してる程暇じゃないの!だからあい……」
「立儀さん!!!」
「ひゅっ!?」
「……立儀さん貴方は今のままでは何も変わりませんよ?そうやって駄々を捏ねて物事の本質を見ず、見ようともしない。お兄さんはそんな貴方に会ってくれますか?」
「うぅ…」
「座禅は自分の本質を見るための修行です。精神を統一して素の中のもう一人の自分と向き合うのです。」
「意味わかんない…」
そうして立儀愛莉は座禅を再開するが奴の集中力は小学生以下だ、直ぐに意識は集中から外れ別の所に向う。
その度にアイツは叩かれていた。
そして
「謝って!愛莉動いて無かった!ねぇ謝って!!」
「愛莉さん!動いてなかったら叩いたりしません、貴方は全く自分と向き合えてない、そんな事では前に進む事な到底無理ですよ!」
「いけず!先生のいじわるー」
と言うやり取りを繰り返してる…。
愛莉…アイツは体のデカい子供だ。
到底自分と同じ年齢の奴には見えない。
我慢を知らず噛みついてばかりだ。
ああいう奴をみてるとイライラしてくる。
バシーン
「つっ…」
「精神が乱れてますよ、気を集中なさい。」
久しぶりに叩かれてしまった…。
視線を感じたので薄目で確認すると立儀愛莉がニヤニヤとこっちを見ていた。
腹立たしい奴だ。
立儀愛莉の身勝手はその後も留まる事を知らない。
「まっず!?何これ!?味無いじゃん!味付け濃くしてよ!」
「愛莉さん?健全な体に過剰な味付けは毒なんですよ、素材の味を生かした料理こそし…」
「はあ!?何が素材よ!こんなのただの身の無い皮じゃん!愛莉は育ちざかりなの!いっぱい食べたいの!」
「栄養価の高いものですし野菜を残してはいけません!ここの野菜は全て自給自足で賄われているんです、粗末にしてはなりません!」
「やだやだ!愛莉お肉食べたいの!お肉お肉!!」
ワガママ放題言いたい放題、何故あんなやつがこんな所にきたのか理解に苦しむ。
ここは非行に走った不良や過ちを犯した子供が辿り着く更生施設だ、あんなワガママ娘を匿う場所じゃない…
その後の彼女は何日経過しても大きく変わること無くぶつぶつ文句をいったり周りに噛みついたりしていた。
しばらくは彼女…立儀愛莉を遠巻きに見ていたがどうしても知りたい事があり紗月は直接彼女に問い掛ける事にした。
寺子屋で授業を受けてる時の彼女は一応静かだ、多分地頭は悪く無いんだろう、不良のあたしなんかよりも頭は良いみたいだし育ちは良いんだろう…だからこそこんな奴がここに来るのが不思議でならない、あたしは寺子屋が終わった後コイツの部屋に思い切って行ってみる事にした。
「邪魔するぜ」
「わわっなっ何?」
「ちょっとツラ貸せ、どうせ暇だろ?」
「愛莉別に暇じゃない、お洗濯溜まってるのやらないといけないし掃除も…」
「あーもー!後で手伝ってやるからツラ貸せってんだよ!」
「え?あっちょ!?」
あたしは強引に愛莉を部屋からつまみ出し境内の広場
に連れてきた。
「何よいきなり…もしかして愛莉をイジメにきたの?」
「アホか!そんなつまんねー事しねーよ」
「じゃ何よ?」
「お前さぁ、どうしてこんなトコにいんの?」
「え?何よ、どうしてそんな事貴方に話さなきゃならないの?」
「だってお前自分がこんな所に来た意味とかわかりませぇ〜んって感じじゃねーか?愛莉何も悪い事してないのにどうしてこぉーんなヒドイ所にいなきゃ駄目なの〜ってさ?」
「あっ…愛莉は…」
「逃げ出したいなら手伝ってやろうか?出たいんだろお前?」
「あっ…愛莉は…ココに…いる…。」
「はぁ?」
「愛莉はここにいる、いなきゃ駄目だから」
「だからなんでさ?お前クソ不真面目だしセンコー達の言う事聞く気ねーしいる意味無いじゃん?前に自分で言ってたろ?意味無いってさ?」
「意味無いよ…こんな所にいても…じっと座ってるだけで何が解るの?動いただけでどうして叩かれなきゃ駄目なの?あんな事に意味なんかある訳ないじゃん、ご飯はクソ不味いし洗濯や掃除も自分でやらなきゃ駄目だし、…でも…でも愛莉はここで反省しないと駄目なの…」
「…はぁ……お前さぁ?舐めてんの?」
「え?」
「反省って何か知ってる?あたし的にお前全然反省とかしてね〜じゃん、何やらかしたか知らね〜けどさ、毎日文句とワガママ言いたい放題で言われた事もろくに出来ねーで何が反省だよ?舐め過ぎだろお前?」
「なっどうして貴方なんかにそんな事言われなきゃならないの、?関係無いクセに愛莉の事何も知らないクセに!!」
「知る理由ね〜だろお前の事なんて!悲劇のヒロインぶっててムカつくんだよお前」
「あ…愛莉は…そんなんじゃないもん…」
「なんか知らねーけどやる気無いなら出てけよ、アタシが手伝ってやるからさ、な?出たいんだろ…ここからさ?」
「出ない…お兄ちゃんと約束したから…三年間頑張るって…」
「……、ふん、どうせ直ぐに投げ出すんだろ?まぁ精々頑張れよ?無駄にならないようにさ?」
「ぐぅ…」
アタシは話はもう終わりだとその場を立ち去ろうとする、しかし
「手伝ってよ?」
「はっ?」
「洗濯…手伝ってくれるって言ったよ?」
「っあ!…たく…わーたっよ!」
フワフワした見た目に反して案外図太い性格してやがる、それに舐めた態度とは裏腹にスジも通ってる…
コイツの事は嫌いだけど投げ出さない所は見直してやっても良いかもしれないな。
そうしてあたしはコイツの洗濯を言った通り手伝ってやったのだが手が荒れる悴むとか言ってまともに揉み解しもしないで水をバシャバシャしているだけだ。
ここでの洗濯は精神修行の一環で手揉み洗いが主だ。
寺子屋とか言われてるだけあって何もかも昭和どころか大正時代なんじゃねーかと言いたくなる程で家電に頼らない変なこだわりがある。
正直時代錯誤も甚だしいのはその通りで愛莉みたいな現代っ子にはキツイだろう。
まぁアタシも現代っ子でここに初めて来たときはきつかったがそれまで族のリーダーやってたプライドがアタシにはあったし絶対に弱音はこぼさない様に意識していた。
まぁ…半年もここで生活してればその内に慣れるもので人間の適応力の凄さってのを実感させられた。
相変わらずぶつぶつと文句を言っていたが何処となく楽しそうに見えるコイツの顔を見てるとなんか少しムカついたのでバーカといったらバーカと言い返して来やがった。
本当にムカつく奴だ。




