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僕だけ居場所のない家から逃げ出した先で見つけた僕の本当の居場所  作者: ムラタカ
本編

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第31話  悪い知らせ


祖父母宅に行った日から何日かの時間が経過した。

俺達の身の回りで色々な事が動き出している、そんな確証はないけど予感とか感覚はあった。


まず最初の違和感は学校の教室の中で聞いた雑談からだった。


友人のタケルと複数人の友人達と雑談している時にふと出た話がそれだった。



「そう言えばさぁ、〇〇区のこの辺、近所にヤバい家があるんだってさ」


「ヤバい家って?」


「いやいや、朝昼夜お構い無しで盛りまくってる家があるんだってさ、噂になってる!」


「ああ!それって元王子様の家だろ?」


「あ?やっぱりそうなの?」


「王子様のとこ一家揃ってヤバいらしいぜ?家族全員で一日中ヤッてるって!」


「マジかよ~じゃ天使ちゃんもそん中に?」


「天使ちゃんも実際はクソビッチの小悪メスガキだったんだとか?」


「俺好きだったのにショックだわ〜」



こいつ等の言う元王子様は多分蓮司…そして天使ちゃんとは恐らく俺の妹…愛莉の事だ…

ならあの家の噂は既にこんな所にまで?



「……悪い…ちょっとトイレ、」



俺はそう言ってその一団から抜けてトイレに行く事にした。

そこにタケルが慌ててついてくる。

タケルは心配そうに俺の顔を覗き見ていた。



突然友人の輪から抜けた二人を遠巻きにみるクラスメイト達はなお声を潜めて話す。



「どしたんだ?アイツ」


「お前知らないのか?」


「え?何が?」


「ヤリチン王子と天使ちゃんの兄貴らしいぜアイツ」


「え?マジで?じゃ…」


「この話はアイツの前では禁止だ、分かるだろ?」


「あ…ああ…」




クラスメイト達の中ではそんなやり取りがなされていた。



一方琢磨とタケルは実際にトイレに行く訳ではなく人気の少ない廊下の突き当りに来ていた。



「…大丈夫か…お前」


「大丈夫だよ…いつかこんな日が来るとは思ってたから…」


「……その…あんま気にすんな…っていっても無理かもしんねーけどお前はお前なんだしさ!」


「ああ…ありがと…」



心配気に琢磨の事を見るタケル。

彼はこの学校で唯一琢磨の家の事情を知る数少ない人物だ、高校生にとって他人の不幸話などは格好のネタとなってしまう。

どれだけ喋るなよと念を押した所で我慢できずに話してしまうものだ。 

しかし彼は誰にもこの事を話したりはしていない。

だからこそ琢磨も彼を信じる事が出来たのだ。



「なぁ…タケル教えて欲しい」


「?…何だよ?」


「知ってる範囲で良い…あいつ等の…中岸家の奴等の事を教えてくれ、どのくらい噂は漏れてるんだ…?」


「話すのは良いんだけどお前大丈夫なのか?無理はしてないよな?」


「大丈夫…もうそんな事でいちいち動揺したりしない。」


「そっか…なら俺が聞いた話を掻い摘んで話すけどまず最初に一つ、動揺は絶対すると思うから覚悟して聞いてくれ」


「ああ…」


「まずお前の家族、中岸家の事はさっきのあいつ等を見てれば分かると思うけどこの学校の中でポツポツとだけど広まり始めてる…」


「ああ…」


「原因は元王子様や天使ちゃんなんて呼ばれてるお前の妹を敬愛する一部の取り巻きが広めてるって言われてる…」


「どうしてそんな奴等が?あいつ等…周りにバレるのには凄い気を使ってたのに…?」


「なんだかんだアンチに反転したって言っても推してた王子様の現状が気になるんだろ…退学してから学校内で見ることは出来ないからな。家に様子を見に行ったりしてそこで見ちまったんじゃねーか?知らんけど。」


「なるほど…」


「あと芋づる式に解った事なんだけどその王子様、中岸蓮司は家族から虐待を受けてるんだってさ」


「ぎゃ虐待!?」


「ああ、まぁ実際はわからんけど元王子様の取り巻きはそんな事を言ってるらしい」


「………。」



虐待…

あの連中ならやってても不思議じゃないかも知れない。

自分達の意思にそぐわないならその相手に攻撃的な態度を取っても問題無いなんて考えを持ってる奴等だからな。

蓮司はかわいそうな立場なのかもしれないが俺はアイツに対して全く同情は出来ない、正直自業自得も良い所だ。



「………。」


「どうした…?」


「後もう一つある…これは正直お前に話すかどうか俺は迷ってる…」


「な…なんだよ?」


「……」


「良いから言えよ…そんな事言われると気になる」


「まぁ…そうだな…黙っててもどうせいつかはお前の耳に入るだろうし…でもこれはこれまでの比じゃないくらい酷いから聞くなら覚悟しておけよ?」


「……ああ…。」



「………、学校に広まってるんだ……いつからか知らないけど…とあるクラスのグループラインにある動画が流れているんだ…このクラスに流れて来るのも時間の問題だ…」


「な…何だよ…その動画って…?」


「……………、ハメ撮り動画だよ…」


「は…?ハメ…どり…ハメ鳥?」


「アホか!ボケてる場合じゃないだろ?……分かるだろ?お前の家族だよ…」


「はぁ!?待てよ!ちょ……そんな…」


「お前の妹…清楚で可愛く皆から妹みたいな存在ってアイドル視されてた天使なんて呼ばれてる子が突然ビッチなんて言われ出した大元の原因はその動画だ。」


「ちょ…待ってくれよ…冗談…だよな…?」


「冗談ならこんな趣味の悪い事は言わねーよ、全て真実だ…」


「あ……あっ…」



俺は力が抜けてそのまま壁にもたれ掛かる。

家族のハメ撮り…あるのか?そんなモノが…?

有るだろ…普通にあり得る。

家族ってことは妹、母さん…そして明音…この3人は確実か…

動画をネットに晒した奴…そんなの考えるまでもない…

智也…アイツしか考えられない…


義父はあれで大人だ、やって良い事と悪い事の分別はつくしそもそもやるメリットがない。


蓮司も違う…アイツはハメ撮りとかにそもそも興味がない…目の前にオナホがあるのに映像に頼る意味がないって考えるタイプだ。

今は虐待で情緒がおかしくなってるから正直わからないが蓮司より智也の方が可能性は高い。


智也はハメ撮りを一つの高揚感に変換出来るタイプの変態だった、俺がまだ明音を好きだった頃によくハメ撮り動画を無理矢理見させられていたからもう…間違い無いだろう…なによりアイツは借金を抱えている…それの返済に動画を利用するのは十分に考えられた…


くそ…ここまで頭のネジが外れていたなんて…



「琢磨……その…スマン…」


「なんで…お前が謝んだよ…」


「……俺はお前に何もしてやれない…友達…失格だ…」


「馬鹿いってんじゃねーよ…俺はお前を無二の親友だって思ってる…」


「琢磨……ああ…ありがとう。」


「こっちこそ…ありがとう、嫌な役をやらせて…」



兎に角このままじゃヤバい。

昼に秋菜さんに相談しないと…それに場合によっちゃ学校にも悠長に来てる暇も無くなるかも知れない…



そして時間は過ぎて昼休み。

俺は早速秋菜さんにタケルから聞いた事を話していた。



「ええ…その事は私も聞いてたけど動画の件は知らなかったわ…ごめんなさい…私が軽率な事をしたばかりに…」


「秋菜さんは関係ないよ…秋菜さんは俺の事を思ってしてくれたんだし…それに動画はもっと前からネットに流れてたんだと思う…」


「?」


「早すぎるんだよ…智也の奴がネットに借金の返済で動画を流したんなら学校の連中の目に映るのが早すぎるんだ…多分もっと前から流してたんだと思う…多分起業とかを考えてた時からアイツは…」


「そんなに前から…………身の毛がよだつわね…同じ人間である事すら嫌悪するレベルだわ…」


「舐めてた…アイツはこんな事すら平気で出来てしまうんだ…そう言う化け物なんだ…」


「琢磨…」


「え…?」


「いい加減縁を切るべきだわ…中岸家から…」


「……」


「中岸姓である限りいつ貴方に厄災が降りかかるかわからない…縁を切るべきよ」


「縁を切れって言われても俺みたいな子供じゃ…」


「おばあちゃんとおじいさんを頼ればいい、あの人達なら琢磨を救ってくれる…言われたじゃない!自分で抱え込むなって!頼れって!それも一つの強さよ!」


「秋菜…さん…」



がらら…


俺と秋菜さんが話していると旧文芸部室の扉がゆっくりと開かれた…

そこに立っていたのは俺の妹。

愛莉だった。



「愛莉…」


「琢兄……」


「…」



無言で愛莉を睨みつける秋菜。

しかし愛莉はそれを気にせず琢磨に向かって目元に涙をためながら床に膝をついて頭を垂れた。


 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!許してください許してください許してください!琢兄助けて助けて助けてよぉ!!」



顔を茹でタコの様に真っ赤にして涙と鼻水で濡らし髪を振り乱しながら愛莉は土下座をして来た。

コイツのあられも無い姿は既にネットに晒されている。

妹系アイドルだとか天使様だとかそんな幻想はとっくに崩れ去り現実だけが浮き彫りに晒された。

今のコイツには今まで培って来たものはもはや何も無い、まさにハリボテだった。



「何しに来たの貴方?」


「ゆ…許してください…」


「許す許さないじゃない…もうそんな段階じゃないの、わかるでしょ?」


「あ…愛莉は…愛莉はお兄ちゃんといられればそれでいいんです…だから見捨てないで…見捨てないでぇ…あぁうわあぁぁあ……」


「泣けば許されると思ってるの?言っておくけど今の現状を招いたのは全て貴方の選んだ事、全て自業自得なのよ?」


「そんな事言われたって…言われたってぇ…愛莉わからないよぉ!!助けてよぉ!!」


「哀れね…もう出ていきなさい…私達に貴方を助ける義理は無いわ…そのままみんなの慰み者として一生を生きていきなさい…」


「まって!待ってよぉ!お願いじばずぅ!許してください!!許じでくだざいぃぃー!」 


「秋菜さん。」




愛莉の髪を乱暴に掴み文芸部室から追い出そうとした秋菜さんに俺は待ったをかけた。



「何かしら琢磨?」


「少し待って欲しい…」


「貴方…まさかこの娘に温情をかける気?」


「お…お兄ちゃん…」


「愛莉…勘違いするな…俺はお前にもう妹としての愛情は無い…かつてお前が俺を理想のお兄ちゃんではないと切り捨てた様に俺もお前を妹ではないと切り捨てる!」


「まってよ!謝るから!愛莉沢山謝るから!」


「お前の謝罪なんて求めてない、俺はお前に対して一ミリの愛情も無い…でも…でもお前に…お前みたいなどうしようもないクズに愛情を向けてる人達がいる…」


「え…?」


「お前みたいな馬鹿を見捨てずに救おうとしてくれてる人達がいる。」


「愛莉を救ってくれる…人達?」


「わからないか…?」


「お……おじいちゃん達…」


「そうだ……あの人達は今でもお前を心配してくれている…俺がお前の兄に戻れるきっかけがあるなら、それはおじいちゃんとおばぁちゃんの気持ちにちゃんと真面目に向き合えた時だ…ちゃんと現実に立ち向かえ…出来ないなら俺はお前と縁を切る」


「ひっ…ひぐ…頑張る…愛莉頑張る…から…だから…お兄ちゃんをやめないでぇ…」







俺達はまたしても放課後に祖父母宅に寄る約束をした。

今度は愛莉を伴って。


秋菜は言った…甘いわねと…

しかしこうも言った。

やっぱり貴方は強いわ…

一度切り捨てた家族を許せてしまえるんだもの…

と…俺はこんなものは強さじゃないと思ってる。

しかし彼女は言った。



「甘いのは確かにそうね、でもそれは私にとって強さよ。人は憎い相手にとことん非情になれるわ、でも貴方はそうではない、貴方は人を許せる強さを持ってる。それを非難する人もいるかも知れない…でも、それでも私はそんな貴方の強さに惹かれた…惚れたのよ。」



彼女の思いに寄り添えているのかわからない。

それでも…彼女の…彼女の気高い心に寄り添える人間になりたいと俺は思った。



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