第29話 祖父母との再会
祖父母の家は中岸家から電車数駅の距離にある。
そこまで遠い訳ではないが子供の頃はその距離がとても遠く感じられた。
よく死んだ親父と母さん、そして妹と遊びに行っていたが親父が死んでからは俺以外誰も近づかなくなって久しい。
よく愛莉ちゃんは今日も来てないのか…と寂しそうにしている祖母の顔を思い出してしまう。
俺は今秋菜さんを伴いその祖父母の家へと向かっていた。
学校が終わった後直接向かっているので既に日は傾き空は茜色に変わって来ている。
祖父母の家と言えば古びた和風の家を連想するかも知れないが今日日そんな事は無い。
閑静な住宅街の中に祖父母の家はある。
俺は立儀の表札のある家のインターホンを押すと間もなくして【はい、どなた?】と祖母の声が聞こえたのでこんばんは、ばあちゃん、俺、琢磨だよと返すと【え?琢磨!?ちょっと待ってな!】と返され間もなくして家のドアが開かれる。
すると中からはばあちゃんとじいさんが出できた。
「どうしたんだい琢磨、こんな時間に?」
「まぁいい、取り敢えず上がりなさい。」
そうして俺と秋菜さんは祖父母の家へと上がった。
「それでどうしたんだい?…ていうかその子は誰だい?もしかして琢磨の恋人かい?」
「ふん随分とキレイな娘じゃないか!それでいて知的で品もある、流石ワシの孫といった所かな!」
「あんた何いってんだいもぉ!恥ずかしいねぇ!ごめんねこのジジィが!」
「ちょっと…じいさん…彼女は俺の恋人とかじゃないよ…今は…まだ……。」
「今はまだって事はその内になるんだろ?女を待たせるもんじゃないぞ琢磨!いつの日も男が女を引っ張ってやるもんだ!なぁ嬢ちゃん?」
「はい、いつかは琢磨君とそう言う関係になれたらと夢を膨らませています。その為の精進と努力は惜しんでいません。」
「ひぇ!?秋菜さん!?」
「はははっ!綺麗で品のある女なだけでなく度胸まであるか!大したもんだ!君名前は?」
「はい、沙流秋菜といいます。が、ご両親にはどうか季空秋菜と認知して貰えたなら幸いです。」
「それは何故だい?」
秋菜の言葉に今度は祖母が質問する。
「私の母は再婚し現在の形式的な名字は沙流となっております、しかし私は亡くなった父を尊敬していました、私は父の姓である季空を名乗って生きていきたいのです」
「成る程…色々とあるのだろうね、いいさ秋菜ちゃん、自分の家だと思って寛いででいきな?」
「ありがとうございます。」
粛々と頭を下げる秋菜に祖父母はニコッと温かい笑顔を向ける。
どうやら秋菜は祖父母に気に入られたらしい。
「しかし私はてっきり琢磨はあの隣の家の子とくっつくと思ってたからおばぁちゃん驚いちゃったよ」
「あ……、いや、ばあちゃん…それにじいさん!その事で話があるんだ…とっても大事な話が…!」
「琢磨…?」
「改まっていったい何の話だ、琢磨?」
「まず最初に…今まで黙っててごめん…、こんな話、じいさん達に聞かせられないし、聞かせたく無かったから…」
「……?」
その後俺は淡々とこれまでの事を祖父母に話していった。
親父が死んだ後の事を。
育児に疲れた母が再婚し中岸という姓になった後の事を。
中岸家の連中は頭の中が性欲で支配された猿だった事、
その猿に母親も妹も幼馴染みの元カノもみんな、みんなおかしくされた事、あいつ等に都合のいい性欲処理の道具になる様に書き換えられた事。
俺だけ無視され除け者にされていた事、邪魔者扱いされいない者として扱われていた事。
でも今にして思えばそれで良かったと思ってる事。
だってあいつ等の仲間だったら今の俺は無かった。
秋菜さんには出会えて無かったから…。
そして家出同然に家を出て一人暮らしをはじめてそこで秋菜さんに出会った事。
秋菜さんと過ごす毎日は俺の荒んだ心を解し癒やしてくれた。
彼女と過ごす内に彼女の強さに触れて俺も変わりたいと心から思えた事を語った。
そして義弟が学校で女生徒に性的乱暴を働き学校を退学になった事と義兄が一千万の借金を作ってる事を俺は祖父母に話した。
「これが俺の今話せる事の「この馬鹿者がぁ!!!」全てだっうわぁ!!?」
長いこれまでの出来事を纏めた俺の語りを締めくくろうとした所で祖父がいきなり大声で叫んできた。
「琢磨!ワシ等が前にお前に言った事を覚えておらんのか?」
「え?前に言った事…?」
「ワシ等は前にお前に言ったよのお?辛くなったら頼れ!お前に頼られる事こそわし等の喜びだと…!何故何もいわん!そんなに…そんなに辛い思いをして…何故自分で抱え込もうとする!そんなにワシ等は頼りないか!え?琢磨!!」
「じいさん…」
「琢磨…あんたはね、私達の一人息子…誠太が残してくれた忘れ形見なんだよ、幸せになって欲しいんだ…だから辛い事があるなら相談してほしい。苦しい事があるなら言ってほしいんだよ…。」
「ばあちゃん…」
「しかし…そんな事になっていたとは…琢磨…辛かったな…。」
「俺は…別に…その…秋菜さんがずっと一緒にいてくれたから…」
「……、秋菜ちゃん、ありがとうね…琢磨のそばにいてくれて…本当にありがとうね。」
「お祖母様…それは違います、私は感謝される様な事は何もしていません、私は私自身が琢磨と一緒にいたいから一緒にいただけです、私も彼に助けられました、私はそんな彼の力になりたい…それだけなんです。」
「なっ、なんて謙虚な子なんだい、琢磨!この子はちゃんと大切にしてあげなきゃ駄目だよ!」
「今時こんなに出来た娘は珍しい、さぞかし立派な両親に育てられたのだろう。」
「……」
秋菜は寂しそうに俯いて黙ってしまう。
それをみた祖父はハッ、と自分の軽率な発言に気付き居た堪れない顔になる、祖母がもーっあんたは!と祖父の肩をバシンっ!と叩き秋菜に言った。
「秋菜ちゃん!私達は今日会ったばかりだ、でもね秋菜ちゃんが琢磨を大事に思ってくれてるのは痛い程分かったよ?良かったら秋菜ちゃんも堅苦しいのは抜きにして私達を本当のおばぁちゃんおじいちゃんと想ってくれたら良い!甘えてくれたら良いさ!なんせ秋菜ちゃんは琢磨の未来のお嫁さんだからね!」
「え?お嫁さん…」
「ちょっ!?ばあちゃん!?何を何を…」
「秋菜ちゃんは嫌かい?」
「いっ…嫌じゃないです…なりたいです…琢磨のお嫁さん…」
ふふ、なら名実共に私等は秋菜ちゃんのおばあちゃんおじいちゃんだ!
そう言って祖父母は笑っていた。
秋菜もまたそんな祖父母につられ笑顔をみせる。
その笑顔は穏やかで彼女の素の美しさを体現しているようだった。
その日秋菜を交え祖父母宅で温かい鍋を四人で笑いながら食べた。
秋菜の手料理も美味しいがこうして親の出してくれた食べ物というのはどうしてこんなにも温かいのかと琢磨は不思議に思う。
そして秋菜も琢磨も決して他人には見せない…いや見せる事の出来なくなった子供らしい笑顔を当人達は気付かない内に出せていた。
琢磨も秋菜もその日は祖父母宅に厄介になり夜を過ごした。
そして次の日には自分達が暮らすアパートへと帰って行った。
祖父母は決意する。
あの子達を助ける事こそが残り短い自分達の人生を賭ける最後の大仕事なのだと。




