第拾壱話 新規客様の場合
胡蝶の夢は別に一見様お断りって訳じゃない。
「三枚花弁」以上だけを揃えたそういう箱もありはするが、胡蝶の夢は「花弁なし」から「五枚花弁」まで取り揃え、幅広いお客様のニーズに応えている……つもりじゃいる。
王都グレンカイナで売り上げトップ、つまりはこの世界で最も売れている娼館となっているため、全体的に胡蝶の夢の値付けは強気ではある。
それでも市井の方々がたまに遊んでくださることは十分に可能だし、時に無理して「一枚花弁」や「二枚花弁」の嬢で遊んでくださる事もある。
稀にはまっちまって身を持ち崩す方も居られるのが、娼館って商いの頭の痛い所じゃあるが。
もっとも「登城行列」で俺にクソ頭の悪い野次を飛ばしてくるようなお客様はどうしても少数派で、どっちかってえと肩の凝るお偉方――支配階級の方々が多数派なのも事実だ。
――「登城行列」では頭に血がのぼって馬鹿やった。
まあ知った顔のお客様方も、奥様方に胡蝶の夢通いがばれてえらい目に遭ったと聞いているので良しとするが。
あれだけの観衆の前で、俺とあんな馬鹿な掛け合いやったんじゃそりゃばれるわな。
いや胡蝶の夢の支配人としちゃ、一時的とはいえお客様が減ることを喜んでいる場合でもないか。
連中のお気に入りの嬢たちには、何らかのフォローも入れとかねえとな。
あれは支配人としては失態だった。
色と艶売るトップ娼館が、街の方々に笑いを届けてどうするって話だ。
胡蝶の夢の品位に関わる、品位に。
娼館の品位ってなんだよ、という話は置くとして。
何故か行列に参加した嬢たちの評判がいいのが解せないが、それはまあいい。
とにかく胡蝶の夢は「登城行列」で野次飛ばしてきたような連中から、「五枚花弁」に魂抜かれている王族の方まで、お客様の幅はこれ以上ないくらいに広い。
そう広くもない胡蝶の夢の建物の中で、市井の方々からお貴族様、大商人様からはては王族まで、揃って腰振ってると思えば乾いた笑いが漏れようってもんだが、男ってのはお偉かろうがそうでなかろうが、本質は似たようなもんって事で安心もする。
他に似ている点と言えば、どなたさまも胡蝶の夢にとって常連様って事だ。
「四枚花弁」以上の高級娼婦の御贔屓筋は基本その嬢固定、「三枚花弁」以下で遊ばれる方にはいろんな嬢を渡る方もおられるが、多くはやはり嬢を固定されるお客様が多い。
そう大きい箱でもない胡蝶の夢の事だから、どうしてもそういう常連様で夜が回ってしまう。
お断りって訳じゃないにもかかわらず、一見様にふらりと遊んでもらうには合わない店になってしまっているのが現状だ。
――一期一会でふらりふらりと店を渡る。
個人的にはそういう遊び方も粋だと思いはするが、嬢たちに取っちゃ常連様で回った方が安心感があるのも確かだろう。
とはいえ新規のお客様を得る手段が、既存のお客様によるご紹介だけってのは店としても心許なくもある。
だがまあそこらへんはたいしたもんで、上を目指す嬢たちの中にはわざとフリーの日をつくって一見様を釣り上げる努力を怠らない兵もいる。
そういう時には店の格ってのが、いい仕事をしてくれる。
王都グレンカイナの夜街で遊ぼうってなお客様が、胡蝶の夢の名を知らないなんてことはまずあり得ない。
一山当ててたまにはいい女買おうってなお兄さんも、たまには河岸変えてみるかってな大旦那も、胡蝶の夢がどういう店かご理解の上でお越し下さるっていうのは有り難い。
一階のバーでお酌してくれた「三枚花弁」あたりの嬢を気に入ったお客様が、値付け聞いた瞬間蒼くなられるのはあんまり気持ちのいいもんでもないし、店員たちのストレスにもなる。
お客様に恥かかせる気は毛頭ないが、嬢たちの値付けを店内に張り出すわけにもいかんし頭の痛いところだ。
まあ言葉は悪いが、優良な一見様をきっちり御新規様に出来た嬢が、一気に売り上げ伸ばしたりするもんだ。
そういう意味では今夜の一見様は優良であることは間違いない。
というか頭に超が付く。
――その分厄介な方でもあるのだが。
「スヴァール伯爵家の若様にふらりと来られましても、お相手できるような「花弁付」は空いちゃおりませんよ、この時間。そんなことは充分ご承知でしょうに……夜街の王」
イザナ・ラクト・スヴァール。
大貴族スヴァール伯爵家の嫡男であり、その膨大な資産を夜の街で惜しげもなく使う放蕩息子。
にも拘らずスヴァール家の現当主もグレン傭兵王も全くそれを咎めようとはしない、王都グレンカイナの夜街ではある意味一番有名なお方だ。
俺とはお客様と娼館の支配人の立場で知り合った訳ではなく、王宮の夜会で王陛下に紹介されて知り合った。
なぜだかはよくわからんが、それ以来気に入られているようだ。
胡蝶の夢へ来られたのは今回が初めてだが、幾度か酒席に招待されている。
俺もこの方と呑む酒は嫌いじゃあない。
登城行列で野次飛ばしてきた連中とは全く違うが、ちゃんと楽しい時間を持てるお方だと思ってる。
主に砂糖菓子頭女の件でおもちゃにされるのには少々辟易しているが。
金髪碧眼の優しげな整った顔とは裏腹に、強い意志を宿した視線は鋭い。
間違いなく男の声であるにもかかわらず、澄んだ響きのその声で愛を囁かれたらどんな娼婦でも夢見心地になるのはないかと言われている。
楽器全般を演奏家顔負けに使いこなし、歌はその声もあって王宮の夜会で披露したことが何度もある。
文学、歴史にも通じ学者との議論を愉しむ。
商才もあり、イザナ様が関わってからスヴァール領の経済はかなり好転したと聞いちゃいる。
何よりも軍才に長け、戦略戦術における天才……らしい。
俺にはそのあたりよくわからんが、有事の際のその才が在るからこそ平時は遊びまわっていても誰からも文句が出ないと言う訳だ。
――敵対する国家の思惑を正確に見抜き、最も効果的な対策を取る。
王が存在するとはいえ、数多の思惑の集合体である国家のそれを見抜けるというのは尋常な能力じゃないってことは、その方面には疎い俺にだってわかる。
そんな能力を持っておられたら、一個人の思惑なんざ精神感応能力でも持っているかのごとく筒抜けなのかもしれねえな。
だからこそいっそ割り切った夜の街の女たちと遊ぶのが気楽なのかもしれない……というのはさすがにうがち過ぎか。
大貴族の嫡男で才もあり、金払いもいいとなればそりゃあもてる。
実際イザナ様に気に入られて、一気に売り上げ上位に躍り出た嬢は何人もいる。
俺がそうお呼びかけしたように、夜街の王なんぞという知らぬ者が聞けば魔族の王様かと思うような通名も持っておられるしな。
「その通名は止めてくれないかな、支配人。君の立場ならその通名に込められた嘲笑は理解できているだろ?」
「そんなことは無いと思いますが。――ですが、お気に召さないのであれば失礼いたしました、今後は控えます、イザナ様」
「すまないね」
夜街の王。
高級娼婦相手でも全く問題にならない財力と、国からも認められている才能。
紳士的で優しく、夜の街で上手に遊ばれるこの方の「通名」として、相応しいと俺は思うし、俺と同じ意見の人間は多いはずだ。
だが確かにイザナ様が仰ったように、嘲笑を込めてそう呼ぶ連中がいることも確かだ。
イザナ様は、丸くて小さい。
目鼻口といった各パーツは間違いなく貴公子のそれなのに、身体は丸く、背が低いのだ。
住む世界がまるっきり違う俺なんかに言わせりゃ、そのほうが親しみやすくていいと思うんだがな。
これだけの才能と家柄で、見た目も完璧貴公子だと本能的に距離取っちまいそうだ。
御本人もそんなことは本気で気にしちゃおられないが、やっかみだのなんだのそういった負の感情を込めて呼ばれる通名に煩わしさを覚えるっていうのは、理解できなくもない。
イザナ様のような能力をお持ちであれば、なおの事そういった負の感情は鬱陶しいだろう。
何が厄介かって、そういう感情を持ってしまうことも、それをわかりやすい短所――でも無いと思うんだが――をあげつらう事で晴らそうとしてしまう事もまた、ある程度理解してしまえる事だ。
「とはいえ、本当にイザナ様のお相手を出来るような嬢は今空いていないのですが……」
「……いいんだ。なんなら今宵はここで酒を飲んで寝て帰るだけでもいい。可愛い嬢たちではなくとも、支配人、君が酒の相手をしてくれるのであれば、僕はそれでいいよ」
勘弁してくれ。
何が悲しくて「大陸の性都」にその名を轟かせる遊び人の酌を、男の俺がせにゃならんのだ。
招かれての酒宴の席ならまだしも、ここは娼館で俺はそこの支配人だぞ。
「胡蝶の夢は娼館ですので、そういう訳にも参りません。今しばらくお待ちいただければ「三枚花弁」の嬢であれば何人かご用意できます。日を変えていただけるのであれば「五枚花弁」の予定も調整いたしますが……」
イザナ様であればルナマリア、リスティア嬢、ローラ嬢を相手するにも充分な財力をお持ちだし、お望みであればそういう方向での調整も必要だろう。
「いや、支配人のところの「五枚花弁」の娘たちは遠慮しておこうかな」
なにやら含みのある視線で一瞥された。
なんだ、胡蝶の夢の「五枚花弁」に何の不満があるってんだ。
まさか夜街に妙な噂でも流れてるんじゃあるまいな。
「理由をお聞きしても?」
「支配人が心配するような理由じゃないよ」
顔に出したつもりは無いんだが、一瞬で思惑を見抜かれた。
くっくと笑いながら教えてくださったが、こんな風に相手の考えがわかるのはそれはそれでしんどいんじゃなかろうかと毎回思う。
「ただ彼女らのお客になってしまうと、君との今の距離感が失われてしまう気がしてね」
「……そんなことはございませんが」
前にも似たようなことを言われたな。
俺はそんなことに、私情を差し挟む人間のつもりはねえんだが。
「君は支配人だからね、確かにそうなんだろう。僕が気にするのは支配人じゃない君との距離感なんだけどね。――まあ戯言だ、忘れてくれたらありがたい。……それに彼女らのご贔屓筋と恋敵になるのはぞっとしないよ。知ってるかい、ガイウス様はああ見えて本当に大人気ないんだよ」
――知ってる。
この前の花冠式の夜会以降、何かとかまわれて辟易している。
嫉妬と言うにはあっけらかんとしたものではあるのだが、興味を持った相手にはかまわずにはいられないんだろう。
とはいえそういう、酒席でよく絡まれる話題をここでも出す訳かこの方は。
ふうん。
そういう話題がありならば、こっちも出させてもらおうかな。
「イザナ様が突然胡蝶の夢で遊ぼうと思われた理由をお聞きしても?」
「特に無いよ? 僕がいろんなお店をふらふらしているのは君も知っているだろう?」
それは確かにそうだ。
この方は気に入った嬢に醒めると、店を変えて遊ばれるのが常だ。
醒めた理由は「飽きた」に統一しておられて、だからこそ「夜街の王」などという通名もつくのだが、本当の理由はあまり聞きたいと思わない。
相手の心を知りたいと思う人間はこの世にごまんといるだろう。
だが気に入っていた相手の心が変わってしまう瞬間を見抜ける能力なんてのは、俺は欲しいとは思わない。
嘘をつかれた瞬間をわかってしまうなんて、正直ぞっとする。
相手の心なんてわからないからこそ、信じる。
それすらも許されないなんて、生き難いにも程がある。
「黄金の林檎のリルカ嬢も御飽きになられたのですか? 失礼ながらイザナ様にしては御珍しく、ここ数ヶ月間はお一人に絞って遊ばれていたようでございますが」
「黄金の林檎」のリルカ嬢。
この国で五人しか居ない「五枚花弁」の一人。
胡蝶の夢に次ぐナンバー2娼館である「黄金の林檎」の看板嬢だ。
白に近い銀色の髪と目をした、触れたら溶けちまいそうな儚げな美女。
この世界に妖精はいねえが、もしいたら妖精の女王ってなあんな感じだろうと思える。
俺がしらねえだけで、本当は妖精もいるのかも知れねえけどな。
「五枚花弁」だけあって、御贔屓筋には大層な方々が名を連ねている。
それこそ余程の方からの紹介か、御本人の立場や財力がなければ新規で客になることもできゃしないだろう。
「四枚花弁」以上は、嬢がうんと言わなきゃどんな立場の方でも客にはなれないっていう権利を国から与えられている。
実際はお偉方なんかに恥をかかすわけにゃいかねえから有名無実化している権利だが、リルカ嬢は「黄金の林檎」の格もあって、袖にされたお客様も多い。
数年前、某遠国の大臣が袖にされた時にゃ、ちょっとした国際問題に発展しそうにもなったこともある。
その騒ぎのときに、胡蝶の夢の所有者が関わった際、俺もちょっとした面識を持っている。
俺にとっちゃリルカ嬢よりも、「黄金の林檎」の女支配人の方が強烈な印象だったがな。
そのリルカ嬢に、ここのところ「夜街の王」がはまっているってな、夜街の連中の間じゃ有名な話だ。
「――嫌なこと訊くなあ、支配人」
呑み掛けていたグラスを机に戻し、ため息をつきながら答えて下さった。
嫌なこと、か。
「醒めた」際は少々寂しそうな顔をされるだけで、今みたいに苛立ちを含んだ表情をされることは無いんだが。
「これは失礼を」
「いや、最初にお店で私事は話さないと言うルールを破ったのは僕だからね。――飽きてなんかいないよ、ただ……」
この方がこういう表情をなさるのは珍しい。
その後は聞かされた話は珍しいなんてもんじゃなかったが。
なんだって中学生の恋愛相談みたいな事を、百選錬魔の遊び人から聞かされてんだ俺は。
――正気か。
「……子供じゃないんですから」
要約すれば以下の通り。
なぜか最近リルカ嬢が考えている事が正確に読めなくなった。
いつも通り優しく接してくれるが、そんな状況がすごく落ち着かない。
落ち着かないのは居心地が悪いから、とりあえず他所の店で遊んでみよう。
――うわあ。
初恋を持て余してる小学生高学年の戯言のようだ。
「失礼ながら普通はそういうものなんですよ。相手の気持ちなんてわからない。保障なんて無い。それでものた打ち回りながら告白したりするそうです。……惚れたほうが負けってのは真理なんですなあ。今日のイザナ様見てよく理解できましたよ」
「――ああ、僕は惚れているのか。リルカに」
朴念仁ってのはこういうのを言うのかね?
相手の気持ちがわかって当然で育ってくると、自分の気持ちに疎くなってしまうんだろうか。
要は今まで常に冷静でいれたから、遺憾なく己の能力を発揮できたいたと言う訳だ。
俺のユニーク魔法も、冷静じゃないと発動できないしな。
魔法であろうがそうじゃなかろうが、その辺は同じなのかもしれない。
「惚れているかどうかは私にはわかりませんがね。「気に入った」というレベルとは違うのは確かなんでしょう。相手の心を見抜く自分の心を奪われたから、イザナ様はいつものように相手の心がわからない。そういうことでは?」
俺のらしくない言葉を聞いて、イザナ様が目をぱちくりさせている。
俺だって夜街の王と呼ばれるようなお方とこんな話するはめになるなんて思いもしませんでしたがね。
こういう言い回しがさらっと出てくるのは、最近ルナマリア、リスティア嬢、ローラ嬢と飲む機会が多くなってるからなのかね。
特にリスティア嬢の影響が強い気がする。
「まああれですよ。相手の気持ちがわからなくなったと仰るのであれば、自分の気持ちに従えばいいのではありませんか? その気になればリルカ嬢を落籍させることも可能なお立場なんです、自分で決めてください」
イザナ様級の太客取ったの取られたので、「黄金の林檎」みたいな老舗の大箱と揉めたか無いんだよ、胡蝶の夢も。
あそこのクソババア、もとい女支配人は厄介だしな。
いつものようにイザナ様の興味が完全に別の嬢へ移るってんなら大歓迎だが、リルカ嬢への当て馬に胡蝶の夢の嬢を使われたんじゃたまったものじゃねえ。
イザナ様本人にそういう自覚が無いから、なおさら性質が悪い。
「……勝敗がわからない勝負に挑むのは、怖いものだね」
戦場でも夜街でも、常勝不敗のお方にしてみたらそういうもんですか。
だからこそ面白い、っていうのが男の見せ所でもあると思うんですが。
いや偉そうに言っておいてなんですが、負けたら泣くんですけどね。
「ですから普通はそういうものらしいですよ。中には何度敗戦しても再戦を挑む方も居られますしね」
泣くどころか、不屈の精神で再戦に挑む方も居る。
それをみっともなく見せないってのはたいしたもんだと思う。
ルナマリアも嫌っている訳では無いんだろうし。
……。
「ああ、ガイウス王弟殿下が連戦連敗なんて、ちょっと信じられないよね」
「勝者に言わせれば、戦場とベッドの上は似て非なるものらしいですよ。まあイザナ様の此度の戦は勝っても負けても得るものは同じっぽいので、とりあえず突撃されてはいかがですか?」
そりゃ勝敗はどうなるかなんて俺にもわからない。
だけどイザナ様が最初に「気に入った」リルカ嬢が相手なんだし、つまらん決着は無いだろう。
ははは、「黄金の林檎」のくそばああ、看板嬢を失って涙目になるがいいわ。
……うちもヴェロニカ嬢抜けたから笑ってる場合じゃねえな。
「言ってくれるね……今日はお暇するよ」
「またのご来店をお待ちしております」
ため息を一つついて、イザナ様が席をお立ちになる。
新規客を掴み損ねた間抜けな支配人にも見えるだろうが、この方は義理堅い。
こっちから言わなくても今日の一件の返礼に、家の方か王宮での部下を幾人か、胡蝶の夢の中堅級のお客様としてつけてくださるのは疑い得ない。
胡蝶の夢の嬢達がその好機を逃すとは、支配人の俺は思っちゃいないしな。
今日の落とし所としては上々といっていいだろう。
「君との今日の会話に感謝しているからこそ、余計な事を一つだけ言わせてもらおうかな」
俺を相手に数杯の酒を呑んだにしちゃ過ぎたお支払いをされながら、人の悪い顔で振り返られる。
これはあれだ、いつもの調子に戻って確実に勝てる相手に勝負をかけるときの顔だ。
「他人事なら冷静になれるという事は、我が身を持ってよく理解できたよ。――だがそれは君もだな、支配人。――僕の勝負がついたらまた酒席に誘わせてもらうよ。その時は胡蝶の夢の支配人としてではなく、君の本音を聞きたいものだ」
そう言って、ハハハと笑いながら颯爽と大扉から出て行かれる。
何を仰っているのかわかりませんな。
まあ今日の件も含めて、素の俺で呑める機会を作ってくださるのであれば望むところだ。
「大陸の性都」と呼称される王都グレンカイナの夜に君臨した、夜街の王の瀟洒な遊びが見れなくなるのは少々残念ではあるのだが。
胡蝶の夢の嬢じゃないとはいえ、夜街の女が一人幸せになるのであれば祝福するべきだろう。
それができるイザナの旦那は羨ましい限りだ。
さてと仕事に戻りますか。
そろそろ俺の「魔法」が必要な頃合だ。
常連様も御新規様も、胡蝶の夢の嬢達が元気で清潔じゃねえとはじまらねえ。
イザナの旦那は大勝負に赴き、俺はいつもの通り仕事に精を出す。
王都グレンカイナの夜は、今日も通常運転だ。
次話 落籍客様の場合
近日投稿予定です。
読んで下さったら嬉しいです。
「いずれ不敗の魔法遣い」の新章を来週中に投稿開始します。
「異世界娼館の支配人」ものんびりではありますが投稿していきますので、よろしくお願いいたします。




