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第36話 最後だから、きっとパパッと倒していけということじゃない?

 光君から、異世界へ戻るのは来週の火曜日にしたと聞いた。

 彼らが異世界へ戻った後、ゴブリンキングのような強敵が現れた時、どうすればいいのだと言うと、ゼノン君は冷ややかに、それはそちらの問題で、もうヒカルには関係ないことだと答えた。

 光君は私がそう言うと、すごく悩んでいた。

 彼には悪いと思ったけれど、現世に残る聖女の私は、これからも発生するであろう湧き場所や、ゴブリンキング以上の強敵の出現は頭が痛い問題だった。それをどうにかしてから異世界へ戻ってほしいくらいだ。


 そう言い張る私に対して、ゼノン君はため息をついて、何か考えておくと言った。

 光君がこの世界に思いを残さないように、ゼノン君は考えると言っているのだ。

 ゼノン君にとって、光君が全てで、彼のためにだけ、ゼノン君は行動する。


 郁夫おじさまは、光君とゼノン君が異世界へ戻るという話を聞いて、驚いたけれど、「そうした方がいいだろう」と言った。

 ゼノン君が話した「光君が勇者である限り、ずっと見張られ、つきまとわれる」ということは、確かにその通りだからだ。


「麗子は、僕が守ろうと思えば守れるしね。それに君は、今まであまり目立たなかったから良かった」


 湧き場所の浄化という力は確かに凄いものだけど、まだ権力を使って手を回し、ごまかすようにできる。

 光君ほど露出していなかったのがよかった、と。



 

 そして、とうとうお別れの火曜日がやってきた。


 光君は最後の日も普通に学校へ来ていた。

 学校から帰宅した後に、異世界へ戻るという。

 ご両親と妹さんには手紙を書いて、置いてきたらしい。


「麗子、君が心配していた件だけど」


 ゼノン君は言った。


「まず、湧き場所だけど、秋元さんが神様と交渉して、現世の道具……たとえば聖水とかお神酒を使えば穢れが払えるようにするという話だ。あと、ゴブリンキング以上の強敵だけど、それは今の現世にある武器で対応することが可能という話を聞いている」


 何気にすごいこと言ってない?

 え、魔法使いの秋元さんて、神様と交渉できるの?

 どういうこと?


 ゼノン君は苦笑いしていた。


「あの人にはちょっと謎が多いよね。まぁ、そうなるらしいから、君が現世に一人で残ったとしても大丈夫だよ」


「……そっか、ありがとう」


 ほっとした。


 でも、急速に寂しさがこみあげる。


 もう、この二人とは会えないのかと思うと、ひどく寂しい。

 どつきどつかれの二人で、その様子は腐女子の私を楽しませてくれたのはもちろんだけど、彼らを戦う仲間として信頼していたのは確かだった。

 二人が、大好きだった。

 それなのに、もう会えなくなるのだ。


 ぽろりと涙がこぼれる。


「あ……れ」


 ごしごしと手で拭うと、ゼノン君がハンカチを取り出して渡してくれた。


「手で擦ると、傷になるから」


「ありがとう」


 光君は泣いた私の顔を見て、彼はがばっと私に抱きついてきた。


「聖女ちゃんが大好きだ!!」


「うん、私も大好きよ、光君」


「……聖女ちゃんも異世界へ来るといいのに」


「そんなわけには行かないわよ」


 泣き笑いの顔で言う。


「私はここで、ずっとあなた達を応援している。ずっと応援しているわ」


「俺も、ずっと向こうから、聖女ちゃんのことを思ってる。忘れないから」


「うん」


 抱き合っている私と勇者君を見て、ゼノン君が怒りのオーラを少し出し始めているのに苦笑した。


 きっと彼らもあちらで、相変わらずの様子で過ごすのだと思うと、少し嬉しかった。






 そして放課後になった。

 光君は一度家に帰り、着替えて、用意していた荷物を背負っていた。

 異世界へ持っていく荷物をいろいろと用意していたのが彼らしい。


 そして、いよいよ異世界へ戻ろうとしたその時に、まるでタイミングを計ったかのように湧き場所が発生したと彼の聖剣が、彼に告げた。


「最後だから、ちゃんとそこを止めてから異世界へ行こうぜ」


 光君は珍しくキリリとした表情で言う。

 ゼノン君はため息混じりに仕方ないといった様子。もうゼノン君は早く異世界へ戻りたくてしょうがない感じだ。


「場所はどこ?」


「東京の新橋駅だ。もうゴブリンが発生しているらしい」


「早く行こう」


 私達は電車に乗ると、すぐさま新橋駅を目指して進んだ。

 スマホでニュースを見ると、ゴブリンの他に、ゴブリンキングがまた発生しているらしい。それも一体ではなく二体。


「俺達がここを去ることを知って、随分景気よく出してくれてるね」


 動画でアップされているそのゴブリンキング達の様子を見ながら光君が言う。

 

「そうだね。最後だから、きっとパパッと倒していけということじゃない?」


 私がそう言うと、光君は笑った。


「そうだな。最後だしな。ゼノン、お前はいつも通り聖女ちゃんを守ってやってくれ」


「わかった」


 電車は新橋駅まで行かず、手前の駅で折り返し運転になっていた。

 かなりゴブリンキングが暴れ回っている様子があり、道路を警察車両が何台も通り過ぎている。

 手前の駅も混雑していて、私達はとりあえず、駅の改札を出て、走っていった。


 光君は荷物をすべて収納庫に入れていた。

 走りながら、目出し帽を被ると、ゼノン君に行った。


「もう被れよ。ビルをまた飛ぶぞ」


「わかった」


 私達は三人とも目出し帽を被った。

 街が混乱しているせいか、私達を制止する人もいない。

 何よりも、私達が飛ぶように速く走っているからだ。ゼノン君に私はもう背負われているのだけどね。


「行くぞ」


 光君が、足に力を込め、地面を蹴った。

 途端、ぐんと大きく跳躍してビルの窓の出っ張りに一度足をつき、そして更に跳躍する。


 私は悲鳴をあげて、ゼノン君にしがみついた。


「大丈夫だよ、絶対に落とさないから」


 そして私達は宙に浮いた。


「きゃあああああああああぁ」


 その悲鳴に何事かと人々は視線を上げ、そこで、ビルの間を飛ぶ私達に気が付いて、急いでスマホで撮影し始めている。


「……聖女ちゃんが悲鳴あげなければ、見つからなかったんじゃない?」


 ゼノン君の言葉に、私はうつむいてうなずいた。


「ごめんなさい」





 新橋駅に到着し、駅前のビルの上から見下ろすと、二体のゴブリンキングは咆哮しては人々が倒れるのを楽しんでいる様子があった。

 時々、倒れた人々を踏み潰していたりする。


「……死者が出ているな」


 光君が眉根を寄せて呟く。

 後方から警察の装甲車が複数台現れ、放水をしてゴブリンキングの足を止めようとしているが、ゴブリンキングが咆哮して装甲車の中にいた警官達が倒れている様子がある。


「だめじゃん。なんで自衛隊が出てこないの?」


「そうだよね。ゴブリンキングが出たら即、ミサイルかなにか打ち込めばいいのに」


 当時の私達は、自衛隊が様々制約により、即攻撃に移ることができないことを知らなかった。

 こうした衆人環視の中では、特に規定にのっとった行動が必要だったのだ。

 

「じゃあ、行くか」


 光君は立ち上がる。

 軽く、ゼノン君と拳を合わせた。


 そして、いともあっさりとビルから飛び降りたのだった。


「あああぁぁぁぁぁぁ、だから突然飛び降りないでー」


 私は絶叫していた。

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