第23話 現世でもまた見られて幸せだけどね
「な、なんでそんなことするんだよ!!」
「それは、私が……」
なぜか頬を赤く染めて恥ずかしそうにしている。
「やっぱり、言えない。そんなこと」
「なんだよ、ここまで言ったなら、言えよ」
なんとなくイラっとして言うと、麗子ちゃんはこう言った。
「私が腐女子だからよ」
「なにそれ。婦女子?」
「……漢字違いだね、それ。えーと、スマホで検索してみて」
「どれどれ」
スマホで検索すると。
【腐女子とは、やおいやボーイズラブ(BL)と呼ばれる男性同士の恋愛を扱った小説や漫画などを好む女性のことである。】 ウィキペディアより引用
「ウィキペディア先生にも載っているのよ。あなた、そんなことも知らないの」
「知るかよ!! ってことは麗子ちゃんは男性同士の恋愛を扱った小説や漫画が好きなわけ?」
うんうんと麗子ちゃんはうなずいている。
「だから、異世界へ行った時、嬉しかったわぁ。毎日毎日、勇者君にせまるハンサムな竜騎士のゼノン君を見られて。もう毎日が楽しかった」
そう目をキラキラさせて言う麗子ちゃん。ちょっと……こいつおかしい。
あの過酷な魔王を倒す旅の間、聖女の麗子ちゃんはそんなことを考えながら毎日旅してきたのか。
「勇者君はゼノン君のことを嫌って、いつも結界とかトラップしかけていたけど……。いっそ結界なんぞ私が解除してあげようかと思ったくらい」
ゾクリと背筋が凍る。
身内の中の敵ほど恐ろしいものはない。
「まぁ、現世でもまた見られて幸せだけどね」
とニッコリと笑う麗子ちゃんの美しい微笑みが、とても恐ろしいものに見えた。
学校の帰り道、俺とゼノンと麗子ちゃんは仲良く三人で歩いていた。
俺は帰宅部だった。そう、家でゲームをするためには帰宅部最高だ!!
(ちなみに親友の田辺啓介はバスケ部だ)
「昨日の、あのゴブリンキングの件、まったくニュースに流れなかったね」
ゼノンがそう言うと、麗子もうなずいた。
「うん。テレビはもちろんのこと、ネットニュースにもなかった。光君が倒したゴブリンキングは自衛隊が回収してどこかに運んだんだろうね」
「まぁ、死体回収して始末してくれるのは有難いんじゃない? あんなの放置してたら、大変だし」
「でも全部ああいう風に隠されるとちょっと大変よ。また同じようなことが起きるでしょ? 今回みたいに湧き場所を隠していたら、汚染がひどくなってまた大型魔獣が出てきて手に負えなくなる。今回だって光君がいなかったらひどいことになっていたと思う」
「じゃあどうするんだよ」
「湧き場所を見つけたらすぐに浄化するべきだということを、知らせないとだめだと思う」
「どうやって?」
麗子ちゃんは考え込んでいた。
「郁夫おじさまと相談してみるわ」
後日、麗子ちゃんは少ししおれた様子で俺達に報告した。
「郁夫おじさまは、実際にヒドイ目に遭わないと、理解できないだろうと言っていた」
また三人で学校の人気のない踊り場に集まっている。
ゼノンは肩をすくめる。
「そうだろうね。あと、浄化手段をこちらの人間は持っていないよね? どちらにしろ見つかったら聖女である麗子が浄化するしかないだろう。湧き場所が見つかったことをきちんと何かの形で知らせてもらわないと、こちらとしても動きようがないね」
正論である。
「自衛隊の人達も、誰かがゴブリンキングを倒したことも、あそこの湧き場所を封じたこともわかっているはず。本当は、うまく共闘できるといいんだけどね」
ゼノンはそう言う。
けれど、共闘ってなかなか難しそうだ。
俺は呟いた。
「こっちのことを詮索しないで、浄化させてくれるのが一番いいんだけどなー。そんなうまい風にはいかないか」




