15 - 自業自得
誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。
連続更新するといっておきながら昨日の晩は申し訳ないです。
リアルのほうでごたごたがありましてPCに触れませんでしたorz
あらためて先輩から事情を聞いた。
依頼した相手は俺が勧めた《北条》一族。
でもって、その日のうちに関東に到着し、魔祓いをしてくれたという。
だが、魔祓いしている最中にいきなり血を噴き倒れたというらしい。
流石に冗談だろうと思ったのだが、どうにも本当の事らしい。
「……」
もう絶句して何も言えんわ。
そもそも北条が正式に依頼を受けた以上、半端な術者を寄越すとも思えない。
そして送られた術者が血を噴いて倒れたのだ。
……。
既に詰んでいるとしか思えんのだがね……。
早足でタクシー乗り場に急ぐ。
安物スーツに身を包み、手にはビジネスバック。
だが、繋いだ携帯からは深刻極まる情報が随時流されてきた。
『今朝な、依頼で来ていた人が血を噴くのを見てようやく観念したらしくてな。いままで黙っていた情報を軒並み吐かせたよ』
その声には侮蔑と嘲笑、そして哀れみが篭っていた。
滅多に負の感情をいだかない先輩にしては、と珍しく思う。
だが続きに耳を傾けた。
『奏夜はイジメという問題を知っているかね、昨今話題になっている問題なのだが』
イジメ? よく報道される学校内イジメの事だろうか。
『どうにもね、今、その、なんだ、呪いを受けている少年ね、どうにもイジメの主格犯だったらしいんだよ。で呪っているのは、これまた、多分だけどイジメられた少年らしいんだよね』
……。
無言、というか言葉もねえよ。
『でいま、ちょっとごうも…………とと、失礼。今ちょっと尋問して吐かせたんだけどね――』
俺としては一瞬先輩が言いかけた言葉に何やら黒いものを感じたのだが、続いて成された報告に正真正銘絶句した。
曰く、暴行や恐喝なんてのは日常茶飯事。そこに加えて陰口からはじまり、持ち物を隠す、捨てる、ライターで指を炙る、自殺の練習、万引きの強要、階段から突き落とす、鞄や机をカッターや彫刻刀で滅茶苦茶にする。中には生爪も面白半分に剥いだと言うのだ。さらには家の中まで乗り込んで部屋を荒らし、中のものを持っていったり破壊したり。酷い時は女子と共謀して、痴漢をしたと学校に訴えた事もあったという。
そこまで行くと警察沙汰じゃないのか、と思うのだがこれがまた難しいのだ。
本人達が「俺達はいじめなんてしていない、やっていない」、そういってしまえばそれまでなのだ。
そして、こういう人間達は辞書で知っただけの単語を繰り返すのだ「自意識過剰」とか「被害妄想」とか……。
こうなると被害者しか証言するモノがおらず、また犯行に及んだ者達の親御さんまで出張ってきて、「うちの子がそんな事をするはずがない!」と騒ぎだす。
曰く悪魔の証明。
そして面倒ごとを避けたかった教師や学校側も見て見ぬふりをした。付け加えて、どうにもそのいじめられていた少年は両親と仲が悪かったらしい。
「……」
言葉も無い。
と、今度は先輩が話題を変えてきた。
『奏夜、君は最近横浜とその周辺で起きる、連続自殺事件を知っているか?』
それは知っている。
「真夜中に高い場所から飛び降り自殺をする高校生達、ですね。以前ニュースで特集をやっていましたから知っています」
そこそこな人数が自殺をしていて、結構話題になっていた。
だが次いで放たれた言葉に絶句した。
『その自殺をしている少年少女達な、件の少年をイジメていたグループのメンバーなんだよ……。しかもつい先日も一人の少年が自殺したようだけどね、この少年が死ぬ前に電話で言ったらしいんだ。殺される、ってね。あんなことしなければよかった、ともね』
世の中には後悔先に立たず、という言葉が存在する。
さて、先にたつ後悔というものなど存在するのだろうか? などと哲学的に考えてしまうものの、どうしても気分が乗らない。
言ってしまえば、今回の事は完全に自業自得である。
いじめっ子が調子に乗りすぎラリッてヒャッハーッ! でもって気付いたらいじめられっ子が復讐を開始。ラリッた仲間が絶賛復讐されるのを尻目に、いじめっ子が現在進行形でガクブル真っ青と、今ここである。
関わり合いになりたくねぇ……。
何も聞かなかったことにして帰りたくなってきた。
「……こいつが件の自業自得馬鹿、か」
タクシーを乗り継ぎ、やってきた横浜の一軒屋。
その二階で、頭を抱えて蹲っている少年を見下ろす。
顔は土気色をしてやせこけ、体は哀れなほどに震えている。
周囲を見れば賞状や記念写真なんかも飾ってある。それらは殆どがサッカーに類する物だったが、たまに兄と両親の四人でとったであろう家族写真もある。
賞状やトロフィーなんかを見るに、さぞや優秀なスポーツ少年だったのだろう。
写真の中の彼は爽やかな汗を流しながら歯を出し、仲間とスクラムして笑っている。
尤も、今の眼下の彼から欠片もその名残を感じないが。
「自業自得、此処に極まれり、だな」
俺の呟きを受けて、少年がびくりと震える。
と、少年のそばにいた少女がヒステリックに喚く。
「そんな言い方ないじゃない!」
チラリと見れば、中々な美少女だ。
尤も欠片も惹かれないが。
ついでに視線をずらして見れば、片手で顔を覆ってため息の先輩。
ああ、そういう事か……。
すげぇ、げんなりした。
長男は――変人だけど――優秀、でも長女はプリン脳、なのね。
俺もため息をつきつつ、ちゃっちゃと事を進める事にした。
「で、俺は何をすればいいんです? 言っときますが、《北条》の人間がどうにも出来なかった以上、俺では100%無理に近いですよ」
はぁ、と深いため息を再三にわたり吐く。
「で、そのお前さんがイジメ倒した少年は?」
蹲っていた少年の震えが激しくなる。
「はぁ、行方不明、だそうだ。凡そ半年前からな」
答えたのは先輩。
「行方不明? 警察は?」
「探したが見つからず、ご両親は再度の捜索依頼を出さなかったらしい」
何とも言えない。
やれやれ、とため息をついた瞬間だった。
反応は限りなく早かったと思う。
懐から携帯電話を取り出すと、ストラップとしてついていた小さな結晶体――俺が実家にいた頃に作った非常手段の魔力結晶体――を口に放り込むと噛み砕く。
そのまま、結晶体から漏れ出た魔力を体内に取り込んだ。
俺自身の魔力ゆえに、間をおかず魔力が体内に充填される。
そのまま。
「火行をもって陰陽五行の理を示す! ――【炎纏紅針】」
素早く印を組み、ある一点に目掛けて炎の針を撃ち込んだ。
ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!
耳障りな悲鳴が響き渡る。
だが、それを無視してさらに印を組み、詠唱を完了させると両手を床に押し付けた。
「【祓魔結界・白陽】!」
俺が両手をついた場所から白い光の円が広がる。
言っておくが俺の知っている対魔結界はこれしかない。
だが、結界が広がると同時に、ジジジッとまるで電光が奔るような音が響き、部屋の一角から暗い影がにじみ出てきた。
滲み出した影は一つの形を作る。
小柄な学生服を着た少年だ。
だが、その少年の目は真紅に染まり、血の涙を流していた。
明らかに常世の存在ではない。
――殺してやる。
口から瘴気を纏った言葉が放たれる。
物理的な言葉ではない。
魂と精神に響く、魔力の篭った言葉だ。
同時に不穏な気配が広がり俺の全身を圧迫しだす。
まずい!
明らかに予想していたより遥かにタチの悪い相手に、俺の六感が警鐘を鳴らす。
そして、その警鐘を裏付けるかのように――
ビキッ!
嫌な音を立てて結界に亀裂がはしった。
目の前の影が大きく深呼吸するかのような動作を取った。
ぐっ。
俺の背につめたいモノがはしる。
素早く印を組み上げ詠唱。
間に合うか!?
「【防御結界・金剛晶壁】!!」
一瞬早く、俺の前に水晶色の盾が現れる。
そして。
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!
背筋を冷たくするような声を放ち、少年の影が爆発したかのように形を崩すと祓魔結界を突き破り濁流のように迫ってきた。
ジュッ。
そんな軽い音を立てて俺の腕が焼ける。
だが、水晶のような壁は辛うじて破れることなく影の濁流を受け流してくれた。
そのまま影は未練がましく、啼いていたがやがては薄くなり、この場を去っていった。
ツツッ。
怪異が去った事で気が抜けたのか、影が掠った左腕に激痛がはしる。
盾で逸らし損ねたホンの一部が俺の腕に当たったのだ。
別に呪われた、というわけではない。
ただ、余りにも濃密な瘴気で肌が焼けたのだ。
やれやれ。
思わずため息をつきつつ、背後を見ればこの場にいる他の三人がまるで地獄の縁を覗き込んだかのような顔をしているのが印象的だった。
ご感想・ご意見・各種批評・間違いの御指摘などをお待ちしております。




