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14 - 嫌な予感

誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。

「……疲れたな」

 合コンが終わり、駅のホームに備え付けの喫煙室でタバコをふかす。

 電車が来るまで後五分ほどあるのだ。

 どうにも遠くから此方に向かう途中で人身事故が会ったらしい。

 やれやれ、自殺じゃなければいいんだが、なんて思いながら携帯でニュースサイトを巡る。

 昨今の面接では時事問題とかも聞かれる事があるのだ、知らないより僅かでも情報は備えていたほうがいいだろう。

 と、いきなり携帯がブルブルと震えて画面が切り替わる。

 電話だ。

 画面に表示された名前を確認してから応じる。

「はい、桔梗ですが」

『奏夜か! 御堂だ! すまない、今何処に居る!?』

 おや? 先輩にしては随分と焦っているな。

「新宿駅のホームですけど」

『例の件だ! まずいことになった!』

 例の件?

 ……。

 ……おお! あの呪いの件だな。

『今から会えるか!? 相談したい! ちょっと緊急で!』


 出来れば避けたいところでもある。

 明日は、滑り込みで申し込んだ就職説明会があるのだ。

 だが、先輩には世話になっているのもまた事実だ。

 金が無い時に飯を奢ってもらったり、困窮しているときに飯を差し入れてもらったり、おすそ分けと言って高級食材を分けてもらったりと。

 ……大分借りがあるような気が。

 ……。

「わ、分かりました。俺の寮の近くにマックがありましたけど覚えてますか?」

『ああ、大丈夫だ』

「あそこでいいなら、大丈夫ですが……」

『分かった今から向かう!』

「えっと、まだ新宿駅なんで、大体30分ぐらい後に来ていただけると助かるかと」

『分かった!』

 それだけ言うと、ブツッと電話が切れた。

「……」

 無言のまま考え込む。

 いつも落ち着いてる先輩なのにあの焦りよう。

 いい予感がしないなぁ。

「世は全て事も無し、とはいかんかなぁ」

 あはは、というカルラの苦笑が聞こえた気がした。




 件のマックで先輩と向かい合う。

「これを見てくれ」

 そういって先輩が取り出したもの。

 それを見て呻いた。

「……………………げっ」

 と。

 俺と先輩の間にあるテーブル。

 そこに乗せられているのは昨日先輩に渡した3枚の呪符。

 だが、その呪符はまるで熱に炙られたかのように焦げ、真ん中に穴が開いていた。


「「……」」

 まるで地獄の最下層(コキュートス)の如く沈黙が満ちる。

 俺は絶句で、先輩は思案で。

「先輩、これはマジでやばいです。というかこれは危険すぎです、この件からは手を引いた方が……」

 3枚の結界符が一晩で破られるとか、尋常の相手とは思えない。

 幾ら結界術が苦手な俺が作ったとはいえ、正真正銘の退魔の結界が破られたのだ。

 ぶっちゃけ関わり合いにもなりたくないのが本音だ。

 というか、呪符の状況を見るに力押しで破られたのだろう。

 結界符が破損しているという事は、そういう事だ。

 だが、三重の結界を力づくで破るなんてどれほどの化け物か、考えたくも無い。

「俺としても出来れば関わり合いにはなりたくないんだけどな」

 先輩が珍しい事に、本当に珍しい事に苦々しく言う。

「……俺の妹がな。助けてやって欲しいって泣きついてきてるんだ」

「……」

 なるほど、と思う反面、それでも先輩の手を引かせたほうがいいとも思う。

「どこかに依頼は出しましたか?」

「今のところまだだよ、料金のことで揉めていてな」

「まぁ、安くは無いですからね」

 こういった術師に依頼を出すと普通は最低でも何百万ととられてしまいかねない。下手に値切ろうものなら三流の術師が回されてくる恐れすらあるのだ。

 だが、次いで放たれた先輩の言葉に驚く。

「いや、揉めているのは誰が払うか、さ」

 その言い回しの意味を考え、そして目が点になる。

 誰が払うか? 常識的に考えるなら揉めるまでもない。

 だが……。

「は? まさか、先輩の家が払うんですか!?」

 思わず聞き返してしまった。

 普通なら、その呪われている少年の家が払うのが常識。

 先輩も苦々しさを滲ませた声で応じた。

「ああ。妹が親父とお袋に泣きついて直談判している。俺としては反対なんだけどな……。親父とお袋は妹に甘いからな……」

「……」

 その妹、馬鹿なんですか? と咽の奥からでかかった言葉をどうにか飲み込んだ。


 いろいろと思うところもあるが、今は置いておこう。

「じゃあまだ、依頼は……」

「ああ、どこにも出せていない。流石に妹の頼みでも一夕一朝で何百万という金を使うのは両親でも考えるらしい」

 いや断われよ、と思うところなのだが……。

「どちらにしろ、今晩は無理だ」

「……」

 先輩の声に篭る苦々しさが、増す。

 妹は大切だ、だがそれは愚行である。

 いろいろと納得しにくいものがあるのだろう。

「その呪いを受けた少年の両親は?」

「いや、そちらはそもそも息子が呪われているなんて欠片も信じていない。恐らく、その少年が死ぬその時まで関わってこないだろう。精々、病院の精神科に連れて行くかどうかを悩むぐらいだ」

「……」

 正直頭を抱えた。

 たしかに、八方手詰まりだ。

 ここで俺が手を出さなければ、自体はより悪い方向に流れるのも明白。

 出来れば関わり合いになりたくないが、先輩には大恩がある。

 暫く頭を悩ませて。

「先輩、こんど飯を奢ってくださいね! 豪華なのを! いや、満漢全席でも!」

 と、自分を無理やり納得させた。


「作れてこれが最後の一枚です」

 そういうと、懐から一枚の呪符を取り出した。

 俺が作った呪符は全部で五枚。

 俺との親和性を高める為に常に持ち歩いていたのだ。

 で、先日3枚使ったから残り2枚。

 流石に最低1枚は使う予定があるから出せないが、それでも後1枚なら工面できる。

 机の上に置くと、両手で印を組んだ。

 この席はどこからも死角になっているし、ぱっとみ天井には監視カメラの類もない。多分大丈夫だろう。

「――陰陽を束ね、天地に影に光明在れ、汝はいと高き空に在り」

 符に白い燐光が纏わり付く。

「――夜の帳を裂きて、東の空から巡れ、汝幾度巡るとも翳らぬ、白の斜陽」

 やがて呪符の周りに小さな円が浮かび上がる。

「【祓魔結界・白陽(びゃくよう)】」

 円が収縮し、呪符に吸い込まれた。

 俺の中でようやく僅かにでもたまり始めた魔力がまたもすっからかんになる。

 思わず深いため息をつきつつ、呪符を手に取り先輩に渡した。




「すまない。この礼は必ず!」

 そういって先輩はバイクで走り去っていった。

 というか、あの先輩二輪の免許なんてもってたのか。

 しかも見事な運転。排気量も恐らく大型。

 いや、きっとレーシングにでもはまった時期があったのだろう。

 その辺りは深く考えないようにする。

 ともあれ。

「これが最後であればいいんだが」

 明日、どこかに依頼が成され、結果解決する。

 これが一番被害の少ない決着の付き方だ。

 だが、俺の脳裏には焼き切れた3枚の呪符。

 嫌な予感が止まらない。

 というか、最近嫌な予感ばっかりで未来に対して欝になりそうである。


 はぁ、とため息をつく。

 魔力欠乏のためか先ほどから眠気が止まらない。

 カルラの維持に魔力の殆をもっていかれるため、回復に専念してもなかなか貯まらないのだ。

 と、いきなり視界が揺れる。

 疲労と眠気が加味され、思わずフラついてしまったのだ。

「……うー」

 明日も早いしさっさと寝よう。そうしよう。


 フラフラの足取りで寮に向かって歩き出した。




 □□□□□□




 嫌な予感というのは基本的には外れないモノである。


 説明会で渡されたエントリーシートをクリアファイルに挟み、就活用のビジネスバックに丁寧に入れる。

 一応公務員志望とはいえ、出来るなら他の会社も受けておきたい。

 撃つ数は多いほうがいいのだ。

 そのまま机の上のノートと渡された資料、その他筆記用具もしまっていく。

 しかし、と考えた。

 俺も国立大学。悪くは無いはずなんだが、と思うものの、周囲には有名な某早稲田や某早慶の大学生。

 ……きっついなぁ。

 とため息をつきつつ頭をかいた。


 憂鬱な気分で玄関から駅へと続くアーケードへと向かう。

 外は雨だ。

 俺の憂鬱な気分を映し出しているかのようだ。

 都会の熱気と雨のせいで、咽るような湿気が辺りをうめつくし、スーツの中で汗が滲む。

「本日は、これで終りかな?」

 頭の中で今週の予定を考えながらも、携帯の電源を入れメールを確認しようとした。

 だが、その瞬間に先輩から電話が掛かってきた。




 曰く、依頼した術者が大怪我をして再起不能になった、と。

ご感想・ご意見・各種批評・間違いの御指摘などをお待ちしております。


カイザー妹に関しましては、機会があれば一編書くつもりです。


まぁ、そのうちですねw

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