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11 - 何気ない日常

誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。


一応のコンセプトとして、主人公のイメージは口の悪いけど情に厚いあんちゃんですwww


 ――今日の授業はこれで終わります。


 そんな教授の声が響き、教室に弛緩した空気が広がった。

 後輩に依頼されてのマクロ経済学の代筆である。

 報酬は学食で昼飯を二回分。

 まぁ、俺自身今日のところは暇だったので受けたのだ。

 苦学生にとっちゃあ昼飯代も馬鹿にならないのである。

 ちなみにご本人はお気に入りのAV女優の新作を買いに逝く、と叫んで日本最大のサブカルチャーの聖地に走っていった。

 ……いや、知らんけどよ。

 ともあれ、偽装用として机の上に広げていたノートと筆箱を鞄に入れそれを背負う。

「……うぅ、眠みぃ」

 このマクロ経済学は午後一番の授業である。

 いわゆる体内の血糖値が上がり、尤も眠くなる時間帯。

しかも教室にきいている暖房がより眠気を強くするのだ。

 どうにか教室を出れば肌に涼しい風が吹きつけ、眠気を散らしていく。

「どうするかなぁ」

 大きく伸びをし、体の各部をストレッチさせながらぼやく。

 ちなみに俺自身、この後は完全にフリーだ。

 せいぜいやることと言ったら、近場の本屋巡りか、ゲームショップ巡り、そうでなければ帰ってSPIや面接の対策といった所だろう。

 携帯をカチカチといじって就活用に作ったアドレスに飛んできているメールを確認する。

 別段代わり映えの無いうたい文句に目を通した後、携帯を畳んでポケットに入れる。

 もう直ぐ11月。

 仰ぎ見ればまさに冬空といった感じを漂わせ始めた青空が映る。

 予定では来年の今頃は住居を引き払い、この東京を離れるつもりだ。まさに大学生活も後一年程度しかないだろう。

 知り合いと飲んで騒ぎ、リア充爆発しろ、などと呪い放っていたクリスマスも今年で最後のはずだ。

 楽しかったのか、それともつまらなかったのか……。

 ……。

「いや、俺はこの生活が楽しかったんだろうなぁ」

 深い苦笑をし、校門に向かって歩みを進める。

 今日はなんとなく本屋やゲームショップに行くような気分でもない。

 帰りに文具屋で履歴書でも補充して、SPIの対策でもするとしよう。

 一つ頷くと、駅に向かってゆったりと歩き始めた。




 ……。


『…………て……さい』

 どこかから優しげな声が聞こえる。

 何処だろうか?

 響いてくるのは俺の内側。

 もし、心というモノがあるなら、そんなとこからだろうか。

 覚醒しない頭でぼんやりと思考を続ける。

 そして、再び俺に届く声。

『奏夜、起きて下さい』

 声と同時に今度は俺の脳裏に美しい女性の姿浮かんだ。

 上質の黄金を溶かしたかの様な艶やかな金の髪、まるで夜空の満月を写したかのような淡い金の瞳。

 身に纏うのは一見巫女装束と似通った形の東洋風装束。

 そして尤も目を引くのは背に見える純白の翼。

 本人の美貌とその神秘的な雰囲気がまるで一種の雄大な光景を見ている気持ちにさせる。

 ぼんやりと彼女――カルラ――の姿を見つめていると、三度声が響く。

『奏夜、もう少しで駅ですよ。起きて下さい』

「………………あ」

 半覚醒の頭がその言葉をおぼろげに理解すると、一気に頭が覚醒に向かって動き始めた。


 ピッ。

 改札機のパネルにPASMOを当てると軽快な電子音が響き、改札機が開く。

 それを尻目に改札機を潜り、大きな欠伸をする。

 涙で滲む視界の中には、駅の大型ディスプレイが移り最近のニュースを流している。今も「真夜中に高い場所から飛び降り自殺をする高校生達」なんてモノを流していた。

 最近は夜遅くまでいろいろと作業をしていたし、若干以上の寝不足だったようである。

 二度目の欠伸を噛み殺しつつ小声で礼を言う。

「ありがと、カルラ」

『ふふ、どういたしました』

 俺の謝礼に、俺の内から優しげな声が返ってきた。

『……ですが、奏夜。貴方は最近居眠りが多い気がします、もう少し睡眠の時間をとったほうがいいですよ』

「……分かってはいるんだけどねぇ」

 心配そうに聞こえた声に、苦笑気味の返事を返した。


 ――夜が遅い。

 分かってはいるのだが、これが中々に変えられないのだ。

 最近は就活事情も厳しい。

 入念な準備と対策をとっても、それでもやはり望みのところに行けるかと問われれば、自信が無い。

 そして俺の第一志望は警察官か市役所の一般事務。安定の代名詞である。

 競争率もさぞや高かろうと思う。

 故に、準備や対策はあってもありすぎるという事は無いのだ。

 それに俺には就活対策に予備校に通うなんて金も無い。

 だからそこ、自力で一つずつこなして行くしかないのだ。

「まぁ、気をつけるようにはする」

 しかし、だからと言ってカルラの言に感謝を感じないわけではない。

 カルラは俺のことを慮って言ってくれているのだ。

 こほん、と咳払いをしてから言う。

「今日のところはテキストも予定のページまではいってるしね……。カルラの言うとおり早めに寝ることにするよ」

『はい』

 カルラの嬉しそうな声が聞こえる。

 いい神様だ。

 思わず頬が緩んでしまいそうになる。

 出会った時と言い、俺を助けてくれた時といい、そして俺の生活のことを気にかけてくれている事といい、本当に優しい神様である。

「じゃあ、まぁ、今日は寄り道なんかしないでさっさと帰りますか」


 一つ頷くと、寮に向けて真っ直ぐに歩き始めた。




 □□□□□□




 ――憎い。


 心の底から湧き上がった感情。

 どす黒いまでの思念が心と思考を焦がす。

 憎い。

 再び放たれた呪いが宙に漂う。

 子供ゆえの純粋さと、不条理の末に形作られた、憎悪。

 魂の奥底から放たれた呪いはゆっくりと宙に漂いながらも、徐々に黒い瘴気を纏い始める。


 なぜ自分なのか!?

 いったい自分になんの咎があるのか!?

 どうしてお前らはそんな事が出来るのか!?

 お前らには人の気持ちがないのか!?

 なぜそんな事をして笑っていられる!?

 なぜ誰も助けてくれない!?


 ………………憎い。

 …………憎い。

 ……憎い。

 憎い!

 ああ、自分に人を呪い殺す力があったなら、あいつらを全員殺してやるのに!

 その腕をねじり切り、足を叩き折、腹を抉りとり、咽を掻っ切って、顔面をぐちゃぐちゃに潰してやるのに。

 ああ、殺してやりたい。

 これが敵意、これが憎悪、これが憤怒。

 そして、これこそが殺意。

 殺意に支配された思考は理解する。

 己が今吐いているのは呪い。人をやめてまで人を呪う究極。

 即ち、呪詛だと。


 頭の上には夜の帳。

 遥か足元には岩に覆われた無骨な大地。

 ここは寂れた、今は使われていない展望台。

 地元の人しか知らず、観光案内にも乗らない秘密の場所。

 地上から何十メートルと離れた山中の崖の上。

 ゴウッ!

 風が吹く。

 吹きすさぶ山間特有の冷たい風がボクの体を蝕んでいく。

 だが構わない。

 なぜならボクは今から身を投げる。

 そして苦痛と理不尽に満ちたこの世から去っていく。

 ボクという名の命は此処で潰えて消えてしまうだろう。

 そして、誰の記憶に残らずボクという名の人生は幕を閉じるだろう。


 ――だが、遺そう。


 ボクを虐めた奴。ボクを嗤った奴。ボクに暴力をふるった奴。

 その全てへの憎悪と憤怒、そして呪詛をこの世界に遺そう。

 遺書は遺さない。遺言も遺さない。

 代わりに唯一つ、己の命を費やした呪詛だけを遺していく。


 ――苦痛在れ。


 ――恐怖在れ。


 ――絶望在れ。


 ボクの受けた全ての仕打ちを返そう!


 ――呪い在れ。


 ――この理不尽な世界に呪い在れ!


 ハハッ。


 ハハハハハハハハハッ。




 ある春の日のこと、有名進学校の男子生徒が一人行方不明になった。

 男子生徒は母親が再婚した時の連れ子であり、今の両親とは仲が良くなかったという。

 捜索願は出されたが結局は見つからず1週間の後に、捜索は打ち切られた。

 両親もまた警察の応答に迷惑そうに顔を顰め、捜索願を再度出すことはなかったという。

 ローカルニュースで行方不明が報道されたが、結局はそれだけだった。




 そしてその半年後に、行方不明になった男子生徒の同級生が連続して自殺するという事件が発生した。

ご感想・ご意見・各種批評・間違いの御指摘などをお待ちしております。


ちなみにカルラの翼の色は赤ではないのか? という質問がありました。


白色なのは作者の趣味です。


ただネタバレをしてしまうと、完全に白色というわけではありません。


物語が進み、5章か6章まで続けば理由も判明します。


ではでは、ノシ

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