魔族の解放 2
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ユリアが囚われていたと聞いて、わたしたちは急ぎシュタウピッツ公爵邸へと向かった。
邸の使用人や護衛たちは全員捕縛され一つの部屋に押し込められている。
地下に閉じ込められている魔族たちも全員助け出されて、けれども衰弱しているものが多かったので、別室で食事を摂らせて休ませているという。彼らは騎士たちを警戒していたのでバルドゥルたちがそばについていてくれているそうだ。
そして問題のユリアだが、彼女はシュタウピッツ公爵邸のダイニングにいた。
というのも、ユリアは処刑されているはずの罪人ではあるが、囚われていたという点でシュタウピッツ公爵家の使用人たちとまとめるのもどうかと考えたが、けれども地下に囚われていた魔族たちと一緒にするのも違う気がして、扱いに困った挙句にとりあえずダイニングに連れてきたそうだ。
「……ええっと」
わたしはダイニングの部屋の隅で膝を抱えて震えているユリアを見て戸惑った。
あの勝ち気で我儘な異母妹が、まるで子ウサギのように震えている。
しかもユリアは自分の体にシーツを巻き付けていた。これは一体どういうことだろう。
理由を求めるように騎士に視線を向けると、彼はとてもいいにくそうに口を開いた。
「その……クラッセン伯爵令嬢は地下に閉じ込められていたのですが、ほとんど裸に近いような状態で……ええっと、ベッドの上に両手を縛り付けられておりまして……」
「は?」
どういうことだとわたしが目を点にしていると、別室に捕らえている使用人たちの尋問をしていた騎士がやって来て、ディートリヒにそっと耳打ちした。
ディートリヒがぎゅっと眉を寄せて、気の毒なものを見るような目でユリアを見た後でわたしに向き直る。
「ええっと、ちょっと」
こっちに来てと手招きされて、わたしは部屋の隅に移動する。
ディートリヒは声を落として、先ほど騎士から聞いた話をかいつまんで説明してくれた。
曰く――
地下に閉じ込められていた魔族たちは、シュタウピッツ公爵邸の人間に子孫を残すことも強要されていたそうだ。
けれども長い年月の間よその血が入らなかったせいで、彼らの血は非常に濃くなっているという。
つまるところ近親で子を作っていたせいで、出生率が下がり、何かしらの障害を持って生まれたり、短命であったりするものが増えたらしい。
……だから、ユリアを使って血を薄めようと考え、彼女を新たな魔族の「母体」として連れてきた、と。
いったいこの家の人間は、人を、魔族を何だと思っているのだろうか。
わたしはぎゅっと拳を握り締める。
そうしていないと、怒りで頭がおかしくなりそうだった。
ユリアは嫌いだ。けれども、さすがにこれはない。これでは家畜も同然だ。……いや、シュタウピッツ公爵家の人間にとって、魔族は家畜と同じだったのだろう。そうでなければこのような残酷なことが行えるはずがない。
……落ち着け、落ち着け、わたし。
怒りで魔力がすごい勢いで体内を駆け巡る。
ユリアが今後どうなるかはわからなくても、ひとまず彼女には心のケアが必要だろう。
ディートリヒによると、幸いにしてユリアが連れてこられたのは最近であり、地下には閉じ込められはしたが、魔族たちは人間であるユリアを警戒して近づこうとはしなかったそうだ。
ただ、見つけられた時の格好が格好だから、「魔族」以外がユリアを弄んだ可能性は否定できない。
ディートリヒはユリアを医者に診せるように騎士に指示を出したが、男の顔を見ると甲高い悲鳴を上げて逃げようとしたので、邸の中の捜索を行っていた女性騎士の一人が連れてこられた。彼女に連れられてユリアがよろよろとダイニングから出て行く。
ユリアは最後までわたしの方を見なかった。
ユリアが連れていかれると、ディートリヒが騎士たちと今後のことを話しあうと言って部屋を出て行く。
わたしはダイニングの椅子に腰を下ろした。
腹の底ではまだ怒りがくすぶっているが、無事に囚われていた魔族たちが助け出されたのだとわかってホッとする。
もちろんこれからどうするのか、課題は多いだろう。
もし彼らが魔族の生き残りだと知られたらどうなるだろうか。
これからのことを考えると不安も大きいが、けれどもディートリヒがいるという安心感もある。
ひとまず、これからのことはこの後考えよう。
わたしは天井に向かって、ふう、と息を吐き出した。
――ディートリヒが数人の騎士と、捕縛した使用人たちを連れて王都に説明へ向かうと言ったのは、それから三日後のことだった。




