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父の転移が多すぎて、友達ができない

父の転移が多すぎて、友達ができない

 


「召喚状が届いたから、今日中に支度を済ませておいてくれ」

「ああー、やっぱり来たかぁ」

 朝食の席で父の宣告を聞き、私は天を仰ぐ。結局は強制的にどこかへ転移されるのだが、最近は何の配慮か一日前に召喚状が届くらしい。でもこれ、どこから来ているのだろう?


「ごめんね。受験も近いのに」

 母は私の進学について、ずっと心を痛めていた。

 ああ、これでまた穏やかな学校生活ともお別れし、明日から殺伐とした異世界なのだろう。


 私の名は松丘絵里。来春の高校受験を控えた、ごく普通の中学三年生だ。普通じゃないのは、私の両親である。


 日本へ戻って二か月半。そろそろお呼びがかかるのでは、と怯えていたところに召喚状が届いた。今度は、どのくらいの時間がかかるのだろう?

「念のため、教科書や参考書を全部持って行きなさいね」

「うん、そうする」



 私は物心ついた時から一か所に落ち着いて暮らした記憶がなく、両親と一緒に三人揃って諸世界を転々としていた。

 父の職業は勇者で、母は聖女。アラフォーの両親と私の三人セットで勇者パーティとして召喚され、あちこちの世界を救ってきた。

 でも子供の私は何の能力も持たない普通の人間で、お家でおとなしく留守番をしているだけなのだ。


 一家三人が呼ばれて行く先々で、世界は様々な顔を見せる。

 両親と敵対する勢力も、魔王であったり邪神であったり、悪の秘密結社であったり異世界から襲来する怪物であったり、一度は宇宙からの侵略者であったりもした。

 どんな世界での闘いの日々も、その世界の歴史に刻まれる栄光に満ちた英雄譚であっただろう。そんな日常を、私は生まれた時から続けている。



 凶悪な相手を前に勇者である父は怯むことなく立ち向かい、早ければ数か月、長くても二年ほどの期間でサクッと勝利して、家族は元の世界へと帰還する。

 日本の自宅へ戻って三か月もすればすぐにまたどこかへ召喚されるので、結構な人気者なのだろう。だから私は長くても三か月ほど通学すると、再び新たな別世界へ向かうのだ。


 ただ、異世界とこの世界とでは時間の流れが違うようで、戻ってみると概ね異世界に滞在した期間の半分から三分の一程度しか時間が経過していない。

 父も母も特別周囲に比べて老けたように見えないので、肉体の変化はこちらの時間軸に沿っているのかもしれない。


 中学までの義務教育のうちは学校を長期欠席しても退学にはならないが、高校へ進学すればそうもいかないだろう。


 しかし勇者召喚は、必ず聖女である母と一般人の私も含まれている。分割不可能なパッケージ販売なのだ。これは両親にも、どうにもならないらしい。これから私はどうなるのだろうか。そんな岐路に立っている。



 それほど何度も異世界に召喚されている私たちだが、そもそも勇者召喚など、おいそれとできるような儀式ではない。いや、そうらしいですよ。


 勇者を召喚する場合、多くは王城や大神殿など国の中枢を担う重厚な建築物の最奥部で儀式を執り行う。外の世界が危機に瀕している割には、案外安全な場所なのだ。

 時々は、召喚の儀を阻止しようとする輩との間でいきなり修羅場になっていたりもするけど、そこは私の両親が現れるとサクッと処理してしまうので。


 あと、何度かは本当に滅亡寸前のヤバいところへ召喚されたこともあったけど、母が聖女の力をフル稼働して清浄化し、怒った父が全力を出して討伐を開始したので、史上最短で敵が殲滅された。

 いつもより早く帰れて私は喜んだけど、両親はしばらく動けないほど疲れきっていたなぁ。


 勇者と聖女の子ですから期待されますが、そもそも私は異世界に関心がない。そりゃ両親のこんな悲惨な姿をずっと見ているもので、悲劇としか思えませんよ。



 小さいころから日本では同じ家に住んでいるのだけれど、この家にいるのは平均すると年に三か月ほどでしょうか。学校の休みとも重なるので、通学している期間はもっと短い。


 両親は基本的にこちらにいる間は休養に充てていて、特に仕事をしているようには見えない。逆に異世界へ召喚されれば、ほぼ私の知らぬ場所で戦闘に明け暮れているようなので顔を合わせる機会は少ない。


 ただどこからか自宅へ送付されて来る召喚状の件もあるので、私の知らぬところで何かしているのかもしれない。

 どちらにしても近所に私の年ごろの子供は少なく、幼馴染どころか普通に話す友人すら私にはいない。


 父の仕事で海外へ行くと言いつつも住所は教えられず、転移先の異世界にメッセージや写真が届く筈もないし、返信もできない。そんな薄情な人間とは、誰も繋がろうとはしないのだ。

 だから、明日からの不在を告げるべき友人は誰もいない。

 きっと我が家は、どこかの政府の特殊なエージェントだと思われているのだろうなぁ。


 いや、それで両親が逮捕されないのは、我が国に身分を保証されているから?

 だとすれば、我が家は政府から厳重に監視されているよね。今は怖いけど、次の転移先ではこっそりと聞いてみようかな。



 ということで翌日、私たち一家三人は新たな異世界へ召喚された。もう慣れたもので、事前に居間に集まりのんびりしていると、「あ、来た」という感じで瞬時に周囲の景色が変わった。乗り換えもなく交通費もかからないので、楽なものだ。


「おお、勇者様」

 アーチ形の高い天井を見上げる石造りの広間に描かれた魔法陣の中心に、我らは出現する。数人の男女が、私たちを囲むように待っていた。後方には剣や槍で武装した兵士が控えている。


「今回はド定番の、中世魔法世界かなぁ」

 剣と魔法のファンタジー世界特有の、圧倒的な魔力の匂いに満ちている。これがマナとかいうものなのだろうか。私でも感じられるほどの濃厚さだった。

「どうやら、そのようだ」

 父が落ち着いた声で答える。


 部屋の装飾と現地人の服装を見れば、概ねどんな世界にやって来たのか予想できる。予想不能な状況は、はっきりと身の危険を感じることになる。

 両親はきっと、もっと深く彼らのステータスなども見ているのだろう。現地人も好意的で、今回は安全な転移だったようだ。


 さて、今度は何年かかるのやら。半年後の高校受験に間に合うには、一年くらいでちゃっちゃと攻略してほしいなぁ。でも、無理して両親の身に何かあっても困るし。

 どちらにしても、無力な私はこの石の城から出ることなく一人で過ごすことになるのだ。



「おお、勇者様がパーティで召喚されるとは、頼もしい」

 現地人代表が感極まって畏まるのに合わせ、他の男女も正面に集まり片膝をつく。浅黒い肌にゆったりとした衣服を見ると、砂漠のような乾燥地にある王国なのかもしれない。全員が、ヒューマンだった。


 私は何の力も持たないので、パーティと言われても困るんだよ。そこは、父が上手く伝えてくれるだろう。いつものことさ。


「召喚に応じていただき、恐悦至極に存じます。私はこの地を統べる十四代王朝の筆頭魔術師でございます。今王朝が危機に瀕し、勇者様の召喚に最後の望みを託しました。どうかこの国を救っていただきたい、それだけが望みでございます」

 まぁ、大体いつもこんな感じだ。召喚の儀を司った魔術師を恨んでも仕方がないのだけれど、心の狭い私はどうしてもその白髪頭を睨みつけてしまう。


「あらあら、来たばかりなのに悲観的なお話ですね。私たちが来たから大丈夫とは言い切れませんが、先ずはこの世界のことを知り、それから大急ぎで一緒に国を救いましょうね」

 母が明るく言うので、場の空気が少しは軽くなった。



 私たちはそのまま広間を出て謁見の間にて第十四代王朝のなんたらキングにお目通りした後に、用意された私室へ案内された。

 どうも今回の召喚は勇者一人を見込んでいたようだ。それなのに、妻子がおまけについて来たので大慌てで別の広い部屋を用意したらしい。


 なんたらキングとの面会にやたらと時間がかかったのも、そのせいだとか。私の両親は異常に能力値が高いので、周囲の内緒話も筒抜けなのである。


 父によれば、召喚された瞬間から闘いはもう始まっているのだそうな。先ずは味方の信頼を得ることと、潜入している敵や裏切り者を発見すること。それが毎回のスタートなのだった。嫌な世界だよね。まぁ、そんなだから滅亡に瀕しているのだろう。



 勇者一人だと思ったら聖女様のおまけつき。しかも人質にぴったりのメスガキまでいるのだから、超お得な召喚である。これを喜ばないわけがない。

 翌日から両親は朝から晩まで精力的に動き、私は基本的に母の張った結界の中でのみ生活をすることになる。


 この地で本当に信頼できる仲間を得るまでは、私に自由はない。というか、その後もきっとこの城塞の奥から出ることは、かなり難しいのだろうけどね。

 石造りの部屋に窓はなく、光と空調は魔法で管理されている。


 だから私は母親が次元魔法により何もない空間から取り出した高校受験の参考書や問題集を開き、お昼は以前に近所の弁当屋で買っておいた焼肉弁当を食べて一日を過ごす。

 飲み水や果実は部屋に運ばれていたものを口に入れるが、どれも母の聖魔法により完全浄化済みだ。


 食後は暇なので、ポケットからスマホを出してダウンロードしておいた映画を見たり、音楽を聴いていた。ソーラーパネル付きのモバイルバッテリーは、直接太陽に当てなくても両親の使う光魔法で充電が可能だ。どういう仕組みなのか、充電は瞬時に終わる。それなら直接スマホを充電してほしいけど、そうするとスマホが壊れる恐れがあるらしい。うーん、光魔法ってところがキーなのかな?



 こうして、新たな異世界転移生活が始まった。ほぼ少女監禁状態だけどね。美少女と言いたいところだが、自信がない。

 今のところ両親が遠征する計画はなく、毎日夕方になると部屋へ戻って来る。だがこの先はわからない。


 もっとオープンな場所に転移していれば外の世界も見られたのに、今回はやや残念だ。運が良ければ、そのうちに両親と外出する日もあるだろう。この破滅に瀕した世界では、私にできることは何もない。あとは黙って待つのみである。



 〇◇△〇◇△〇◇△



 父は大学進学が決まった十八歳の冬に突然一人で異世界に召喚され、勇者となった。その世界で同じく初召喚で聖女となっていた母と出会ったらしい。


 二人は力を合わせてその世界を救い、無事に現代日本へと帰還した。初めての召喚では、約五年の歳月を費やし魔物を操る邪悪な帝国軍を破ったということだ。


 帰還した際には、現実世界では三年の年月が流れていたという。

 その後二人は結婚して子をなし、そして今に至る。


 アラフォーの両親だが、初見ではずっと若く見える。ただどうしても、この世界に戻ると戦いに疲れ切ったボロボロの姿を晒すので、割と年相応に見えたりもする。


 謎多き多忙な人生であるが、あまりにも多くの年月を殺伐とした戦闘に明け暮れているため、現実世界での記憶が曖昧らしい。お願いだから、私のことを幻だとか言わないでね、お父さん。



 今回転移した世界で人類が追い詰められているのは、カエル型の魔物が支配する帝国だ。カエル以外の魔物は、知性もなく力も弱いらしい。でもそれでいいのか、異世界の魔物たちよ。君たちの奮起を期待するぞ。


 こちらの世界でも気候の温暖化が進んでいるようで、その原因は魔力の大量使用により大気に放出された、魔力の残滓による影響だとされている。


 うん、きっと魔力の残滓による温室効果でしょう。でも魔力の残滓って、何だろう。母なる地球に戻った時に役立つよう、二酸化炭素と魔力の残滓の共通点を研究してみたいものだ……ごめんなさい、私には何もできません。言ってみただけです。



 この町の周辺では、徐々に砂漠化が進行しているらしい。でも逆に大雨が降り続く地域もあって、そこを中心にカエルが異常繁殖した結果こうなっていると聞いた。いやいや、その前に何とかできなかったのか?


 カエルの魔物は乾燥に弱く、この国への進攻速度が遅い。だからこの町を中心にして、人類は抵抗を続けているのだった。


 人間以外の亜人種は、存在していない。それならば単純で、対立する構図は中学生にも分かりやすい。複雑怪奇な政治的駆け引きが無ければ、当然力押しの闘いとなる。



 勇者が召喚される世界は、様々だ。ある時は倒すべき魔王が実は善良で、召喚した人間どもが悪行の限りを尽くしていた。その時私たちは結局人間に追われて魔王側へ寝返り、人間の王侯貴族を根絶やしにしたのであった……勇者業もなかなか難しい。


 だが今回は、言葉も通じない両生類から一方的に人類が攻められている。そうなると、うちの両親は手強いぞ。こりゃ攻略に一年もかからないかもしれないな。

 それにしても、カエルに滅ぼされそうな国って……もう少し頑張れ人類。受験が近いのだから、気軽に勇者を召喚しないでねっっっ。



結果として、私たちは危機に瀕していた第十四代なんたら王朝から大歓迎されることとなった。転移からほんの数日後に都の西にある町で散発的な魔物の襲撃があり、近くを視察していた両親がこれを軽く一蹴した。


 それが瞬く間に周囲に広がり、世間は英雄の登場に沸いた。これを機に私たちへの期待値は一気に高まり、私の周囲の警戒もやや落ち着いていった。



「今後は、どういう形で戦線を押し返すかという議論になる。その時にはもう一度、国内が乱れるだろう。絵里は、まだ安心しないように」

 誰だって、自分の領地を先に救ってほしいと考えるものだ。だから、そこに混乱が生まれる。どんなに立派な王様が統治していても、起こり得ることだ。


 そんなものに大切な家族を利用されるのは、まっぴら御免だ。父も母も、私を心配する。でも私たち一家は、そういうことを何度も経験済みである。

「娘のエリの安全が、絶対条件である」

 両親は、最初にそう宣言している。


 私の身には何重にも両親の加護がかけられているし、私たち家族は遠隔でも念話が通じるので、身体的な危険はほぼない。その加護は私の意志に反することを拒絶するし、私の身に何かあれば両親は戦闘を放棄して即座に私の元へと戻ることに決めている。



 私は人質というよりも、いつ爆発するかわからぬ不可触の機雷、或いは実質的な王様のような存在かもしれない。

 こんなんじゃ、異世界でも友達なんてできるわけがないよね。


 ということで、大量に持ち込んだ学習教材が私の前に積まれている。これが本当に役に立つのか、不安になるけれど。



 そして、三か月が経過。

 私は週に一度か二度は、現地の服を着て護衛付きで町へ出ることが可能となっていた。

 国内は母の張った結界で魔物の侵入を抑えつつ、順調に戦線を押し返している。ちょうど車のワイパーのように、人間の領地を取り戻しつつ結界を拡大している。


 時々母の感覚共有で最前線の様子を見せてもらうが、巨大な毒ガエルの群れが引き裂かれる場面とか、見たくないよ。そもそもカエルは苦手なので、神経が削られる。勘弁してくださいよ、お母様。

「大丈夫、絵里もすぐに慣れるから」

 いやぁー、慣れたくない~



 奪還した領地の中では比較的人間が自由に行き来できるようになり、国は活気を取り戻しつつある。

 しかし魔物の繁殖力は異常に強く、野山を魔物ごと焼き払って全て荒野にするわけにもいかない。今後の作戦を再考しないと、もう一息押し切れない状況に陥りつつあった。


「国土を守ると言うが、奪還するのが先決なのでは?」

 父は苛立ち、欲を出し始めた地方の領主と対立する場面が多くなっている。

 そこでキングなんたらが仲裁に入り一時休戦というか、両親はしばしの休暇を取ることになった。私はずっと休暇のようなものですけどね。



 ちょうど私の誕生日らしき適当な日を設定し、家族三人で祝うことになった。どうせもう、本当の誕生日前に日本へ帰ることは無理だろうし。


「お嬢様は今宵、十五歳を迎えたと聞きました。我が国では、その歳になれば誰もが神より職業の告知を受けます。我が神の声によれば、お嬢様は既に賢者の職を得ております。さすが勇者様と聖女様のお子」

 怪しい神官のお世辞に乗るほど、私は暇ではない。いや、暇だけど。


 私が本当に賢者であれば、これ以上受験勉強などする必要もないか。

 ところで賢者って何だ?


「あらゆる魔法に精通した魔法使いの上級職が、賢者だね」

 父は簡単に言うが、魔法を使ったこともない私が賢者のわけがない。いい加減なことを言いおって。神官よ、そちには豚の姿になってもらおうか。


 戯れに指を差すと、漫画のような白煙とともに目の前の神官が豚になってしまった。

 驚いたのは、私だけではない。



「「えっ?」」

 両親が、同時に私の顔を見る。こんな娘に育てた覚えはありませんよ、的な視線である。


 お願い、元の人間に戻って!

 私がそう念じて指差すと、再び白煙が生じて残念系神官の彼は無事生還した。ああ、よかった。

 しかしこれ、マジで私が魔法を使ったの?


「賢者の石というものがあり、これはただの土を金に変えたり、不老不死の薬になったりもする。つまり賢者とは魔法を使うだけではなく、錬金術師でもあるのだ」

 父の説明を聞き、私は目の前の水差しを指差した。


「この水をカエルの魔物だけに効く毒薬に変えて、あの魔物を根絶やしにする! あと、白煙の演出は無しでね」

 長年溜まりに溜まった私の一念に今のささやかな希望を添えてそう呟くと、透明なガラスの器に入った水が禍々しくも美しいピンク色の液体に変わった。



「「「えっ?」」」

 親子三人の疑惑の声が広がる。


「おおおお、これぞまさしく賢者様の聖水。これひと瓶で全ての魔蛙を殲滅できるとは!」

 鑑定スキルを使用した神官が、スキップをしながら両手に水差しを抱えて部屋を出て行った。


「もしかして、これでこの世界の攻略は終わりかもね」

 私は不思議と、確信めいた胸騒ぎを覚えていた。


「もしかして、あの神官って、本当にすごい人だった?」

「まぁ、あれでも王朝の神官長だからな」


「あら、本当に絵里のステータスが賢者になっていて……」

 母がそう呟くので振り向くと、その頭上へ見事に聖女のステータスが開いているのが見えた。

 そして父の頭上にも、勇者のステータスが。


「あ、本当に二人は勇者と聖女だったんだ……」

「あ、本当に絵里は賢者になっていたんだ……」

 私と父の言葉が重なった。



 気を取り直して、自分のステータスも見る。

 それ、ステータス、オープン!

 ん、何だ。この異常な数字は。


 エリ・マツオカ 職業:賢者 レベル:893。〇クザじゃない、添え物の薬味と呼んで。

でも、無敵の両親がレベル1000を少し超えた辺りなのに、私もそれにかなり近い。一般的な世界の勇者レベルが80程度だと聞いているので、何もしていない私のレベルが異常値すぎる。


「ああ、きっと家族三人パーティで様々な世界を攻略した経験値が、絵里にも入っていたのね。良かったわぁ」

 母がなぜか安心しているけど、少しも良くないよ。未成年者に変なものを流入させないでほしい。薬事法違反だ。

 ああ、恐らく私は、あらゆる世界で一番頭の悪い賢者だろう。



 それから僅か一週間後に、私たちは日本へ帰国した。

 たった一瓶の魔法薬で瞬時に蛙の魔物を根絶やしにしたことにより、私のレベルは10も上がってしまった。レベル900越えの化け物だよぉ。


 でも私の誕生日前に自宅に戻れて、もう一度お祝いをしてもらえることになったのは素直にうれしい。

 でもそれはつまり、私のこの覚醒は別に十五歳になったからというわけでもなかったのだ。

 では何でしょうね、これは?



「あら、絵里の受験までまだ時間がたっぷりあるじゃないの。今回は早く帰りすぎたわね」

 母が悲鳴に近い声を上げる。

「駄目よ。このままだと、あなたの受験前にもう一度召喚されてしまうわ!」


「ははは、それは困ったな」

 父がなぜか笑っている。

「もう、笑ってる場合じゃないよぅ」


 しかしこんなに早く帰って来た理由は、絶対にあの薬だよなぁ……

 責任は、私自身にある。

 それなら次も、大急ぎで戻ってくればいいかぁ。



 終







 



 


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