姉兄妹
「あらぁ、お姉様ったら本気ですの? でもまあ、しょうがないですわね。お姉様、もちろんパパを殺してもかまいませんけど、エイミもアキラもさみしがり屋なんですもの。これからはパパの代わりにお姉様がずっと側にいて下さるって事でOKなのね??」
とエイミが嬉しそうに言った。
アキラがクスっと笑い、美里は少しだけ眉をしかめた。
「何で僕が殺されなくちゃならないんだ!」
と聡は叫び、テーブルの上のナイフを手にした。
「まあ、パパ、お姉様とやりあうつもりなの? よした方がいいと思うわぁ。お姉様はあの黒羽さえも倒したんですのよ? 黒羽の最後はご存じでしょう? お姉様が殺して、アキラが考えた処刑道具に、エイミが綺麗に創作してさしあげますわ。私達は最高に素晴らしい姉兄妹でしょう?」
「え」
聡の顔色が赤黒くなり、大量の汗をかいている。
女を欺して贅沢するしか能のない男なので、例え相手が小柄で非力な女でも殺人鬼として名を馳せた美里には敵うわけがないと本能で知っている。
人に媚びて飼ってもらう技しかない聡にはとうてい太刀打ち出来ない相手だった。
聡はカランとナイフを落として、
「頼む……殺さないでくれ……死にたくない……」
と言った。
「ママを殺し、岩本と山吹を殺したんですもの。お姉様はきっとパパだけを見逃すはずはないと思ってましたの」
とエイミが言った。
美里はエイミを見て、
「私の為に役者を揃えてくれたってわけ? この男が美貴ちゃんのろくでなしの最初の彼氏だって事も? 彼女の腕を切断ショーに出して、八百万手にして逃げたろくでなしってこの男なんでしょ?」
と言った。
「ええ、そうですわ。お姉様の殺戮には理由がいるんでしょう? パパを殺す理由も集めてみましたの。お礼なんて不要ですわ。エイミがお姉様にしてさし上げられることなんてこれくらいですもの」
と言ってエイミが笑った。
「そ、そんな……」
聡は床に膝をつき、頭を抱えた。
すすり泣きの声がして、聡は美里の方へ這い寄っていきその前で床の頭をこすりつけた。
「お願いだ……死にたくない……んだ……」
美里は美貴を見た。
美貴は真っ青で、ジョニーもスプーンを持ったまま動きが止まっている。
「今すぐ死ぬか、ジョニー君にここで美貴ちゃんと一緒にお世話をされるか。どっちがいい?」
と美里が言った。
一瞬、誰もがは? と美里の言葉を考える瞬間があり、エイミは「まあ」と言い、アキラは「食い扶持が増えるのかよ」と言った。
「え? え?」
聡はその意味が分かっていないようだが、「こ、ここでお世話になります」と震える声で言った。
「ならそれでいいわ。私は力がないから肉体労働はしないわ。エイミにお任せするわ」
と美里が言い、エイミは嬉しそうにうなずいた。
「お姉様、本当に素敵な案をありがとう。腕によりをかけて作らせていただきますわ」
「まあ、年をとってもイケメンだし、女性に対してお口は上手なんだから、どこかのセレブな有閑マダムがおしゃべり機能付きイケメン着せ替え人形を高く買ってくださるかもしれないわね。きっと可愛がられるでしょう」
と美里が言い、エイミと顔を見合わせて笑った。
「お帰り」
と言う藤堂に美里は酷く疲れたような笑顔を見せた。
「ただいま、ごめんなさいね、夕食も作らずに」
「いや、笹本さんのとこのコース料理の出前が届いたよ。君、大丈夫?」
美里はリビングのソファにどさっと座り込んだ。
「ええ、お風呂に入ってくるから、あなた先に休んでくださいね」
「ああ」
と返事をする藤堂へ美里は、
「竜也さん……エイミは私の妹だったわ」
と言った。
「え?!」
「アキラと双子の妹なんですって」
藤堂は口を開いたまましばらく美里を見ていた。
「そうか、アキラ君が殺せないはずだな」
「ええ」
「じゃあ、君も彼女を殺せないな」
「そう思う?」
美里はじっと藤堂を見た。
「ああ、彼女がアキラ君や君に向けたのは悪意じゃなく、ただの甘えたいって気持ちだったってわけか」
「そう? 私、黒羽に殺されかけたのよ?」
「君は十分に立ち向かって返り討ちにしたんだろ?」
「まあそうだけど……」
「エイミを殺したい?」
と藤堂に聞かれて美里は口をへの字にした。
「殺したいってわけじゃないけど、あの子の組織に取り込まれるのは嫌なの」
「そんなに急がなくていいんじゃないか? 血の繋がった妹だろ?」
ああ、と美里は思った。
藤堂は妹をならず者に殺されている。
彼は妹に二度と会えないのだ、と美里は思った。
「そうね、しばらく考えてみる」
と美里は笑い、藤堂は美里を愛しそうに抱き寄せてキスをした。
了




