因縁
「夕食までに着替えていらしゃいな。お姉様とのお食事よ。綺麗にね」
とエイミに言われて、美貴はジョニーに車椅子を押されて自室まで戻った。
ジョニーがクローゼットを開き、どの洋服を出せば良いのか、と美貴を振り返った。
女性の服や靴などのお洒落な品はジョニーには分からない。
エイミに引き取られるまで、ふたりともに暗黒街のビルで美貴は四肢欠損娘を買いに来る客を相手にし、ジョニーはそんな美貴の世話係だった。空や太陽を見る事も無く、音楽や映画を観る事もないような生活をしていたのだから、何が流行で何がお洒落なのか、何が楽しくて、何が正義なのかすら分からない日々を送っていた。
エイミに引き取られ、等身大のおしゃべり機能付人形だと連れて行かれる先々でそう見世物になっても、昔の生活に比べると天国も同然の暮らしだった。
コンコンと部屋がノックされ、開いた扉から顔を覗かせたのは美里だった。
「あ……」とジョニーが言い、美貴は少し驚いたような顔をした。
「ちょっとお邪魔するわね」
「はい……」
「ああ、構わずにお着替えしてちょうだいね」
「は、はい」
ジョニーは改まった会食用と指示されているワンピースをクロゼットから取り出した。
「まあ、たくさんお洋服を持ってらっしゃるのね、いいわねえ」
と美里がジョニーの背後からクローゼットを覗いてから言った。
ジョニーはワンピースを持ったままがばっと振り返った。
恐ろしい気配がしたからだ。
美里がエイミと同じような人間で、自分達を殺すのに何の躊躇もない種類の人間だ、という事をその一瞬で実感した。
「あなた方、ここで長いの?」
美里はすぐに場所を変え、部屋の中をきょろきょろと見渡しながら聞いた。
「いいえ、そうでもありません」
「そう、ねえ、美貴ちゃんでしたっけ、あなた、あのエイミのパパと言う男と何かわけありなの?」
「え?」
と美里に聞かれて美貴は一瞬、狼狽えた。
「あ、あの……はい、多分」
「多分、何なの?」
「あたし……一番始めになくしたのは左腕なんですけど」
「お金の為だと聞いたわ」
「はい、ショーで切断して見せたらお金になるって頼まれて」
「それで?」
「その時の彼氏……」
「あの男が?」
「多分……なんですけど、似てるなぁと思ってて……」
「まあ、あの男ならやりそうだけど。あなたの左腕いくらになったの?」
「彼氏は八百万貰えるって言ってましたけど……」
「あなたの取り分は?」
美貴はえへへと笑って首を振った。
「一円も貰ってないの?」
「はい。お金、入ったら南の島へでも行こうって言ってたんですけど」
「それっきりってわけ?」
美貴はまたえへへと笑った。




