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チョコレート・ハウス 死  作者: 猫又


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殺人女王のお部屋

「ねえ、お姉様、不毛な事だと思いません?」

「何が?」

「エイミとお姉様で殺し合うだなんて事ですわ。お姉様はご自分で身を守らなければなりませんけど、エイミには千人も万人も護衛がいますの。お姉様が破壊願望のある方なのは知ってますけど。一つしかない命、そうそう無駄に死ななくてもよろしくてよ?」

「エイミ……それは」

 エイミは大きく手を振って、美里の言葉を遮った。

「街から街へ旅をして、どれだけのお楽しみに出会いますの? エイミならとびっきりのクズを今すぐご用意できますわ」

 そう言ってからエイミはぱんっと手を叩いた。


 扉が開き入って来たのはエイミのお気に入りの等身大おしゃべり人形の美貴だった。

 車椅子を押すのはジョニーだった。

 二人ともふっくらとし血色も良い。


「こ、こんにちは」

 と等身大おしゃべり人形の美貴が言った。

 ジョニーは美里を見てオドオドとした顔をした。

美里は二人をしばらく眺めていた。

 アキラとエイミの父親はにやっとした顔で優雅に紅茶を飲んでいる。


「ここのアトリエにはお気に入りばかりを置いてるんですのよ。作品も人間も。ここでお姉様と暮らせたら幸せだわぁ。アキラだってきっとそうよ」


「アキラを……」

「何ですの? お姉様」

「アキラを今すぐにここに呼べる?」

「ええ、よろしくてよ」


 エイミの側にはいつの間にかボディガードの老人が立っていた。

 小柄だが恐ろしく強いこの老人は少しも気配を感じさせる事無く、エイミを護衛している。アキラでさえ歯が立たない相手に、美里はナイフを突きつける気もなかった。

 その老人がうやうやうしくうなずいて、部屋を出て行った。

 今の所は美里にエイミへの殺意がない事を感じ取ったようだ。



 アキラはすぐにエイミのアトリエへとやってきた。

 不機嫌そうな顔を隠しもせずに、部屋に入ってくるなり、

「どこへ行くとか言ってけよ。エイミの刺客に襲われてるじゃねえか、とか思うだろうが」

 と美里に言いながら、どすんとその横に座った。

「エイミの刺客? 黒羽以外にもいるの?」

 美里がエイミを見ると、

「そうね、おりますわ。でも、そういうのはお姉様には使いませんわ」

「そういうの?」

「うふふ」

 とエイミが笑った。


「ねえ、エイミ。私は私が選別した相手を殺すのがモットーなの。あなたがどこかで誰かに依頼されたような人殺しはしたくないわ。私は私がクズと認めた相手しか手をかけないの。あなたはビジネスなんでしょ? 金銭さえ積めば誰でも殺すんでしょう?」


「お姉様ったらなんてセンチメンタルな方なの!」

 エイミはワオと口先で言い、手を叩いた。

「お姉様の心に触れた相手だけがお姉様の手にかかって死ねるのね? 素敵」

 美里ははぁとため息をついた。

「お姉様、こういうのご存じ?」

 とエイミが言い、また姿を現した老人執事がノートパソコンを美里の前に置いた。

「何?」

 美里はその画面を覗き込み、目を見開いた。

「ぷ」

 すぐ隣で噴き出したのはアキラだった。

「何よ、これ」

「素敵でしょう?」

 美里がエイミを睨みつけた。

 パソコンの画面は黒く、赤く歪んだ書体で「殺人女王のお部屋」とタイトルがついており、画面は黒赤の薔薇の模様で縁取りされていた。

 美里のすぐ側に執事が跪きマウスを動かしてエンターの文字をクリックすると、パスワードを入力するページだった。

 執事がいくつかの数文字を入れるとまたページが動き、次の画面には顔写真が一枚映し出された。目、鼻、口の部分にモザイクがかかっているが、美里には誰だか分かった。

 毎朝、自分鏡で見る自分の顔だった。

「な、何なの、これ」


「お姉様のHPよ。素敵でしょう?」

「は?」

「大丈夫。絶対機密の会員制だから。お姉様のファンは全国にいるわ。お姉様、知らなかったでしょう? エイミはお姉様の活動はずいぶん前から知ってましたの。お姉様、危機感ゼロですもの。人知れず、エイミがお役に立ててた件もありますのよ。それをデータ化してたんですけど、エイミ一人で楽しみのももったいないなぁと思って、お遊びでサイトを作ってみましたの。高額会員制なんですけれどね、すでにお姉様を慕う会員が一万人もおりますのよ?」


「ば、馬鹿じゃないの? 顔をさらしてどうすんのよ!」

 

 さすがに美里も驚愕を隠しきれず、声を出す喉の奥が詰まった。 

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