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チョコレート・ハウス 死  作者: 猫又


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パパ

「パパ」

 とエイミが言った。

 美里が男からエイミに視線を移した。


「パパ……ですって?」

「ええ。パパですわ」

「パパ? どういうパパなの?」


 エイミはまたうふふと笑って、

「パパはパパだわ。ああ、今時の娘が金銭を援助してもらってるような薄汚いパパじゃありませんのよ? 正真正銘の血の繋がった生物学的上のパパですのよ」

「でも、あなた……孤児院で育ったって山田が言ってたわ」

「ええ、そうですの。孤児院から織田家に貰われてきましたわ。幸い織田家は金持ちでしたから本当のパパを探す事が出来たんですの」

「あなたを孤児院に捨てた父親を?! わざわざ探して側に置いてるの?」

 

 美里は男を見た。

 驚愕はそれだけではない。

 自分を捨てた父親でも、エイミが満足ならそれでいい。

だが美里の知っている限り男はアキラの父親でもあった。

 確か名前は聡と美里は記憶していた。


「ええ、だってエイミはパパに会いたかったんですもの。お姉様、エイミはママにだって会ってみたかったんですのよ? 酷いわぁ。私達のママを殺してしまうなんてぇ」 


「……」

 

 アキラの父親、聡が新しいカップに紅茶を注いで美里に差し出した。


「アキラの父親が……エイミのパパなの?」

「そうなの。お姉様、アキラとエイミはぁ双子の兄妹なのぉ」


 美里ははーっと息を吐いて、ソファに深くもたれかかった。

「確かにアキラがあなたを殺せないはずね……でも、私は母親さえ殺したわよ? あなたが妹でもその男がアキラの父親でも殺せるわ」

 と言って美里は聡を睨んだ。

「お姉様ったら、本当に物騒なんだからぁ。せっかくの姉妹のご対面ですのにぃ」


「久しぶりだ。君は羽津子によく似てきたねぇ」

 聡がエイミの隣にどすんと座った。

 アキラが歳を重ねたら、こんな風になるのだろうと思わせる風貌だった。

 甘いマスクに、視線。寂しい女を食い物にしてきた男だと一目瞭然だった。

「勝ち気な目がそっくりだ」


「よして胸糞悪い。あんな女に似てるなんて」

「死んだんだってね」

「ええ、私が殺した。生きたまま火をつけて泣き叫びながら消し炭になったわ」

「へえ」

「何故、あの女はアキラだけをうちに連れてきたの? エイミは生まれてすぐに捨てたの?」

「……羽津子がアキラだけを欲しがったからね」


 その理由は聞かなくても美里は承知していた。

 アキラが聡に似て成長するのを期待したからだった。

 美里の母親はアキラの父親、聡に心から惚れていた。


 美里はエイミを見て、哀れむな、と自分に言い聞かせた。

 彼女を哀れむな、狂った悲しい妹を哀れむな、と強く自分に言い聞かせた。



「それで、今は捨てた娘に寄生して生きてるの?」

 聡ははっはっはと笑って、

「その通りさ」 

 と言った。 

「織田家の方もずいぶんと心が広いのね、娘を捨てた男の面倒見てやるなんて? そういうのって普通、汚点じゃないの?」

 美里はエイミにそう言った。


「織田家は普通じゃないからね。僕だって、実は世話になんかならなけりゃよかったと思うほどさ。金持ちと何とかは紙一重でね。財閥でもあり、政界にも顔が利き、世界有数の金持ちでもあり、日本で一番古く、由緒有り、そしてやばいお家柄さ」

 聡が両手を広げて肩をすくめながら言った。


「織田家には優秀で正式な子供がたくさんいる。政治、医療、福祉、警察。全ての世界に顔が利く代表がいる。そしてエイミはやばい世界代表なのさ」


「そう……それは大任ね。エイミ」

「ええ、お姉様、エイミはとってもうまくやってるわ。途中でアキラとも会えたし。でもね、お姉様にも力を貸してもらって一緒にやりたいの」


「アキラがやりたいならやればいいけど、私は出来ないわ。組織とか向いてないし」

「あん、お姉様は組織の歯車じゃないわ。トップにすえさせていただいてもよくってよ? エイミとアキラのお姉様ですもの。その価値はあるわ」


 美里はエイミの顔をじっと見つめた。

 エイミは微笑みを絶やさず、ピンク色の頬、そして柔らかそうな唇。

  

 哀れな妹を哀れむな、と美里はもう一度心の中で呟いた。



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― 新着の感想 ―
[一言] エイミが何を言っても狂気のかたまりって感じでたまりません
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